永久時間(コード継承シリーズ)
この世界に俺はいない。それでいいんだ。
ルルーシュは目を開けた。
見慣れた天井が視界に入る。
夢を見ていた。ゼロレクイエムの夢を。
「起きたのか」
C.C.が、隣のベッドから静かに声をかけてくる。
「ああ。夢を見ていた」
「どんな」
「昔の・・・・そう、ゼロレクイエムの夢を」
「懐かしいな」
C.C.はカーテンを開け放った。朝を過ぎて昼に近い太陽の光が零れ落ちて、床を照らす。
もう、この家に住みはじめて何年になるだろうか。
数えていないので分からないが、十年以上にはなるだろう。
「今日は、ナナリーの皇帝即位記念祭だそうだ。行くんだろう?」
「ああ」
ルルーシュはパジャマを脱ぐと、私服に着替えた。
魔女は、そのまま家に残るようだった。
「C.C.はいかないのか」
どうせ質問しても、答えはNOだろうけれど。
「行かない。見たくないから」
見たくないから。
世界を。
優しくなった世界。でも、二人には厳しい現実。
愛した人が、家族が、友人が年老いていく。
ナナリーが病に倒れ、一時は危篤状態にまで陥ったがなんとかもちなおし、療養を続けながら皇帝として未だに即位し続けている。
もう、彼女は死んでもおかしくない年。
シャルルのコードを継承したルルーシュは、ゼロレクイエムから復活し、同じ魔女であるC.C.と世界を旅して、最後はブリタニアのナナリーの住む宮殿のある首都に家を構えた。
もう、自分が何歳であるのかも分からない。
友人の多くは死んだ。
それが自然の摂理なのだ。逆らっていきているのはルルーシュとC.C.だけ。
ゼロであったスザクも死んだ。
皇族は、孫の世代へと移り変わっている。
ナナリーは皇帝であり続けているが、いつ死去してもおかしくはない年だ。
ルルーシュは、外に出た。
皇帝即位記念祭。
毎年やってくる。
いつものように。
そして、いつものように皇帝ナナリーは亡き兄の墓に花束を捧げ、祈るのだ。
その姿を遠くから見つめるようになって、もう十年以上が経過した。
もう、いいかもしれない。
許されても。
ナナリーは、新しいナイトオブラウンズをつれていなかった。
車椅子で、騎士に守られてルルーシュの墓に花を捧げている。
この丘から、その姿を見るのはもう何千回目だろうか。
「誰ですか。誰か、いるのですか」
ふいに、ナナリーがこちらに声をかけてきた。
もう、許されてもいいのかもしれない。
この世界に俺はいない。俺はもう死んでいる。
「・・・・・・・るよ」
「え?」
「愛してるよ」
「お兄・・・・・様?」
ナナリーは目を見開く。側にいた騎士が、こちらに向かってやってくる少年を見つめる。
「そこで止まれ!この方は皇帝であらせられる」
「いいのです。いいのです・・・近くへ」
「皇帝陛下。どうぞ、いつまでもお元気で」
「あなたも、お元気で。あなたは私の死んだ愛しい兄にとてもよく似ていらっしゃる。何度か、丘の上でお見かけしました。二人にしてください」
騎士はその言葉に敬礼すると、足早に去っていく。
「やはり、生きていらしたのですね。どうして、もっと早く、現れてくれなかったのですか。なぜ、何も言わず姿を消したのかは問いません。でも、何故帰ってきてくれなかったのですか。コード継承者の保護を、このブリタニアはしています。なのに、あなたは帰ってこなかった」
「この世界では、俺は死んでいるから」
「・・・・C.C.さんもご一緒なのですか?」
「ああ。一緒に暮らしている。おれたちはコードを継承して、年老いることもなければ死ぬこともない。世界の倫理から外れた魔王と魔女」
「魔王でも、私はあなたを愛しています」
「ありがとう。ナナリー。俺も、愛しているよ」
ナナリーは、涙を零すこともなかった。悟っていたのだ。この世界のどこかで兄は生きていると。だって、棺の中に兄の死体はなかったのだから。空の棺が埋葬された。
ナナリーの目の前で、C.C.の手によってルルーシュは蘇り、数年間ではあるが、少年皇帝の双子の弟して、皇族の一人としてナナリーとスザクたちと一緒にブリタニアで住んでいたのだ。
そして、僅か数年の幸せを残してルルーシュとC.C.は忽然と姿を消した。
ナナリーは探さなかった。
何故なら、 兄がそれを望んでいたから。20代を終えようとしているのに、ルルーシュは18のまま年老いない。流石に世話をする家臣や女官たちも気味悪がった。
やがて、コード継承者ということを世界に発表したが、遅かった。兄は帰ってくれなかった。
コード継承者を保護することに成功したが、その中にルルーシュとC.C.はいなかった。世界には、二人以外にもコード継承者が三人いた。
世界から逃げるように隠れて生きていた人たち。
皆、目が死んでいた。
ルルーシュのアメジストの目も、いつの間にかそんな光を灯すようになっていると気づいた時には、もう兄の姿はなく、ナナリーは探すこともしなかった。
世界のどこかで生きている。でも、それは死んだのと同じ。ナナリーはルルーシュを死んだ者とみなして、墓参りをかかさなくなった。
会えないなんて、死んだのも同じ。
「やっと。許される。私の、罪」
「罪?」
「お兄様を見殺しにした、罪を。気づかなかった罪を。世界のために、あなたは死んだ。生きているお兄様はまるで幻。あなたは、ゼロレクイエムの時に死んでしまったのですね」
「そう。俺は死んだ。もう、いないんだ」
「私は、世界を憎みました。お兄様を奪ったこの世界を。でもお兄様はコードを継承して生きていた。でも、また世界を憎みました。コードのある世界を。でも、もう許されるのですね」
「罪なんて、ナナリーには最初からなかったよ」
老婆の皇帝は、にこりと微笑んだ。
そして、目を瞑る。
「許される・・・・私もお兄様も・・・・・」
「おやすみ・・・・」
ルルーシュは、眠りについたナナリーを抱きしめる。
もう、会うこともないだろう。
永遠に。
ナナリーの死が近づいているとC.C.から聞いたとき、動揺はしなかった。いつか、絶対に死に別れる運命なのだ。コードを継承したときから知っていた。
「世界に、許される。許されたい、俺は」
もう目を開けることのない最愛の妹を抱きしめて、ルルーシュは涙を零した。
「おやすみ・・・・ナナリー」
おやすみ。
最期だから、会いにきた。
ずっと会いにこなくてごめん。帰ってこなくてごめん。
ルルーシュは、ナナリーの車椅子に、自分の墓に添えられていた花束を乗せた。
「愛してるよ」
その言葉だけが、世界に残る。
こうして、100代目皇帝ナナリー・ヴィ・ブリタニアは97歳の生涯を終えた。
それは、ある秋の出来事。
皇帝が死去した時、一人だったことから暗殺疑惑が浮かんだが、老衰であったことがはっきりと判明する。
皇帝と一緒にいた少年は、ようとして行方は知れなかった。
魔女と魔王は、また旅に出た。
死ぬことのできぬ呪われた体で。
もう、世界には二人きりだけ。
「なぁ。お前は死ぬなよ」
「お前こそ死ぬなよ」
ルルーシュとC.C.は馬車の荷物の上で、風に髪を揺らしながら互いの手を繋ぎあう。
もう、この世界に俺はいない。
いるのは、魔王となった少年と魔女の少女だけ。
永久時間。
凍結した二人の肉体は、永遠にその姿を世界に刻み続ける。
「お前は・・・・泣き叫ぶのかと、思っていた」
「もう、失いすぎて泣き叫ぶのも疲れた」
空を見上げる。
C.C.はナナリーのことを言っているのだが、ルルーシュはナナリーの死を看取って、そして静かに泣いただけだった。いつかくるともう覚悟していた。
いつか、C.C.とも別れるのだろうか。
それだけは嫌だ。
「なぁ。世界に俺はいない。いるのは魔王のルルーシュと魔女のC.C.。死ぬなよ、お前は。俺を残していくな」
「それはこっちの台詞だ」
二人はキスをした。
なんの味もしない。
あまりにあっけなくて、二人はまた空を見上げた。
次は、誰が死ぬのだろうか。
二人でない誰かが。
二人を残して。
空は蒼すぎて、綺麗すぎて寂しかった。
ルルーシュは目を開けた。
見慣れた天井が視界に入る。
夢を見ていた。ゼロレクイエムの夢を。
「起きたのか」
C.C.が、隣のベッドから静かに声をかけてくる。
「ああ。夢を見ていた」
「どんな」
「昔の・・・・そう、ゼロレクイエムの夢を」
「懐かしいな」
C.C.はカーテンを開け放った。朝を過ぎて昼に近い太陽の光が零れ落ちて、床を照らす。
もう、この家に住みはじめて何年になるだろうか。
数えていないので分からないが、十年以上にはなるだろう。
「今日は、ナナリーの皇帝即位記念祭だそうだ。行くんだろう?」
「ああ」
ルルーシュはパジャマを脱ぐと、私服に着替えた。
魔女は、そのまま家に残るようだった。
「C.C.はいかないのか」
どうせ質問しても、答えはNOだろうけれど。
「行かない。見たくないから」
見たくないから。
世界を。
優しくなった世界。でも、二人には厳しい現実。
愛した人が、家族が、友人が年老いていく。
ナナリーが病に倒れ、一時は危篤状態にまで陥ったがなんとかもちなおし、療養を続けながら皇帝として未だに即位し続けている。
もう、彼女は死んでもおかしくない年。
シャルルのコードを継承したルルーシュは、ゼロレクイエムから復活し、同じ魔女であるC.C.と世界を旅して、最後はブリタニアのナナリーの住む宮殿のある首都に家を構えた。
もう、自分が何歳であるのかも分からない。
友人の多くは死んだ。
それが自然の摂理なのだ。逆らっていきているのはルルーシュとC.C.だけ。
ゼロであったスザクも死んだ。
皇族は、孫の世代へと移り変わっている。
ナナリーは皇帝であり続けているが、いつ死去してもおかしくはない年だ。
ルルーシュは、外に出た。
皇帝即位記念祭。
毎年やってくる。
いつものように。
そして、いつものように皇帝ナナリーは亡き兄の墓に花束を捧げ、祈るのだ。
その姿を遠くから見つめるようになって、もう十年以上が経過した。
もう、いいかもしれない。
許されても。
ナナリーは、新しいナイトオブラウンズをつれていなかった。
車椅子で、騎士に守られてルルーシュの墓に花を捧げている。
この丘から、その姿を見るのはもう何千回目だろうか。
「誰ですか。誰か、いるのですか」
ふいに、ナナリーがこちらに声をかけてきた。
もう、許されてもいいのかもしれない。
この世界に俺はいない。俺はもう死んでいる。
「・・・・・・・るよ」
「え?」
「愛してるよ」
「お兄・・・・・様?」
ナナリーは目を見開く。側にいた騎士が、こちらに向かってやってくる少年を見つめる。
「そこで止まれ!この方は皇帝であらせられる」
「いいのです。いいのです・・・近くへ」
「皇帝陛下。どうぞ、いつまでもお元気で」
「あなたも、お元気で。あなたは私の死んだ愛しい兄にとてもよく似ていらっしゃる。何度か、丘の上でお見かけしました。二人にしてください」
騎士はその言葉に敬礼すると、足早に去っていく。
「やはり、生きていらしたのですね。どうして、もっと早く、現れてくれなかったのですか。なぜ、何も言わず姿を消したのかは問いません。でも、何故帰ってきてくれなかったのですか。コード継承者の保護を、このブリタニアはしています。なのに、あなたは帰ってこなかった」
「この世界では、俺は死んでいるから」
「・・・・C.C.さんもご一緒なのですか?」
「ああ。一緒に暮らしている。おれたちはコードを継承して、年老いることもなければ死ぬこともない。世界の倫理から外れた魔王と魔女」
「魔王でも、私はあなたを愛しています」
「ありがとう。ナナリー。俺も、愛しているよ」
ナナリーは、涙を零すこともなかった。悟っていたのだ。この世界のどこかで兄は生きていると。だって、棺の中に兄の死体はなかったのだから。空の棺が埋葬された。
ナナリーの目の前で、C.C.の手によってルルーシュは蘇り、数年間ではあるが、少年皇帝の双子の弟して、皇族の一人としてナナリーとスザクたちと一緒にブリタニアで住んでいたのだ。
そして、僅か数年の幸せを残してルルーシュとC.C.は忽然と姿を消した。
ナナリーは探さなかった。
何故なら、 兄がそれを望んでいたから。20代を終えようとしているのに、ルルーシュは18のまま年老いない。流石に世話をする家臣や女官たちも気味悪がった。
やがて、コード継承者ということを世界に発表したが、遅かった。兄は帰ってくれなかった。
コード継承者を保護することに成功したが、その中にルルーシュとC.C.はいなかった。世界には、二人以外にもコード継承者が三人いた。
世界から逃げるように隠れて生きていた人たち。
皆、目が死んでいた。
ルルーシュのアメジストの目も、いつの間にかそんな光を灯すようになっていると気づいた時には、もう兄の姿はなく、ナナリーは探すこともしなかった。
世界のどこかで生きている。でも、それは死んだのと同じ。ナナリーはルルーシュを死んだ者とみなして、墓参りをかかさなくなった。
会えないなんて、死んだのも同じ。
「やっと。許される。私の、罪」
「罪?」
「お兄様を見殺しにした、罪を。気づかなかった罪を。世界のために、あなたは死んだ。生きているお兄様はまるで幻。あなたは、ゼロレクイエムの時に死んでしまったのですね」
「そう。俺は死んだ。もう、いないんだ」
「私は、世界を憎みました。お兄様を奪ったこの世界を。でもお兄様はコードを継承して生きていた。でも、また世界を憎みました。コードのある世界を。でも、もう許されるのですね」
「罪なんて、ナナリーには最初からなかったよ」
老婆の皇帝は、にこりと微笑んだ。
そして、目を瞑る。
「許される・・・・私もお兄様も・・・・・」
「おやすみ・・・・」
ルルーシュは、眠りについたナナリーを抱きしめる。
もう、会うこともないだろう。
永遠に。
ナナリーの死が近づいているとC.C.から聞いたとき、動揺はしなかった。いつか、絶対に死に別れる運命なのだ。コードを継承したときから知っていた。
「世界に、許される。許されたい、俺は」
もう目を開けることのない最愛の妹を抱きしめて、ルルーシュは涙を零した。
「おやすみ・・・・ナナリー」
おやすみ。
最期だから、会いにきた。
ずっと会いにこなくてごめん。帰ってこなくてごめん。
ルルーシュは、ナナリーの車椅子に、自分の墓に添えられていた花束を乗せた。
「愛してるよ」
その言葉だけが、世界に残る。
こうして、100代目皇帝ナナリー・ヴィ・ブリタニアは97歳の生涯を終えた。
それは、ある秋の出来事。
皇帝が死去した時、一人だったことから暗殺疑惑が浮かんだが、老衰であったことがはっきりと判明する。
皇帝と一緒にいた少年は、ようとして行方は知れなかった。
魔女と魔王は、また旅に出た。
死ぬことのできぬ呪われた体で。
もう、世界には二人きりだけ。
「なぁ。お前は死ぬなよ」
「お前こそ死ぬなよ」
ルルーシュとC.C.は馬車の荷物の上で、風に髪を揺らしながら互いの手を繋ぎあう。
もう、この世界に俺はいない。
いるのは、魔王となった少年と魔女の少女だけ。
永久時間。
凍結した二人の肉体は、永遠にその姿を世界に刻み続ける。
「お前は・・・・泣き叫ぶのかと、思っていた」
「もう、失いすぎて泣き叫ぶのも疲れた」
空を見上げる。
C.C.はナナリーのことを言っているのだが、ルルーシュはナナリーの死を看取って、そして静かに泣いただけだった。いつかくるともう覚悟していた。
いつか、C.C.とも別れるのだろうか。
それだけは嫌だ。
「なぁ。世界に俺はいない。いるのは魔王のルルーシュと魔女のC.C.。死ぬなよ、お前は。俺を残していくな」
「それはこっちの台詞だ」
二人はキスをした。
なんの味もしない。
あまりにあっけなくて、二人はまた空を見上げた。
次は、誰が死ぬのだろうか。
二人でない誰かが。
二人を残して。
空は蒼すぎて、綺麗すぎて寂しかった。
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