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紫薔薇姫

その日、朽木白哉は趣味の夜の散歩に出ていた。

月が綺麗な夜だった。

「お、白哉じゃないか」

向こう側からやってくるのは、浮竹だった。

「どうした浮竹。こんな時間に」:

「いや、最近臥せって運動不足だったから、運動とあとはずっと寝ていたせいで眠れなくてな」

そういう浮竹の額に、白哉は手を当てた。

「熱は、もうないようだな」

「そうじゃないと、外出なぞせん。隣いいか?」

「好きにするがよい」

浮竹は、白哉の隣に並んで歩きだす。

「月が綺麗だな」

「今宵の月は格別だ」

月光の中を、二人で他愛もない昔話をしながら歩く。

「母上は、かなり美人で、俺は母上似なのだ」

「・・・・母親が生きているだけいいではないか。私は、最愛の妻とも死別してしまった」

「やっぱり、再婚する気はないのか?」

「緋真以外に、娶りたい女性などおらぬ」

「朽木の妹は妹だしな・・・・・」

「そういう兄こそ、所帯はもたぬのか」

「こんな病弱なのに、結婚なんてできない。それに、俺には京楽がいるからな」

何気にのろけられた。

「はっくしょん」

「今宵は冷えるな。これでも被っていろ」

そう言って、銀白風花紗を浮竹の首に巻いた。

「お前、これめっちゃ高いやつ・・・・」

「心配無用だ。すでに1つ、この間兄が血を吐いた時に、つかいものにならなくなったものがある」

「うわあ、弁償したいけどできない・・・・・・・・」

浮竹は頭を抱えた。

「兄に弁償しろなどとは言わぬ。それに、発作は仕方のないことだ。兄に近づかなければ銀白風花紗は汚れなかった。だが、倒れた兄を放置しておくわけにもいかぬだろう」

「ありがたいけど、そのシーンを京楽に見られたら、あいつのことだから絶対嫉妬しそう」

「京楽隊長は、兄のことになると性格が変わる。あれは独占欲の塊だ」

「まぁ、そう言わないでやってくれ。あれでも、とても優しいんだ」

「それは兄にだけであろう」

「ああ、うん、そうかも・・・・・」

「そろそろ私は帰る。その銀白風花紗は今度会う時に返してくれればいい」

「あ、待て白哉!」

白哉は、瞬歩で消えてしまった。

「これをもって帰れと?」

仕方なく、浮竹も瞬歩で雨乾堂に帰った。次の日、天日に干していた銀白風花紗を見て、京楽がにっこりと笑んだ。

「あれは何かな?」

「あれは、昨日夜の散歩をしていたら白哉に会って、くしゃみをしたら首に巻かれて、そのまま今度返せばいいと言われて・・・・・・・」

「へえ。病み上がりなのに、夜に散歩に。朽木隊長に・・・・・・・」

「京楽、勘違いするなよ、何もなかったからな!」

「何もなくてもね・・・・・・」

ちりっとした感覚を、首に感じた。、

キスマークを残された。

「こら、京楽!」

「大人しくしてないと、またキスマーク残すよ」

びくりと、浮竹の動きが止まる。

「ほんとにこの子は・・・・・・」

抱き締められて、何度もキスされた。

「ふあっ・・・」

服の上から体の輪郭をなぞられる。

「あ・・・・・・」

「99本の紫の薔薇をもってきたのに」

薔薇の花束。99本の意味は永遠の愛。

「紫の薔薇の花言葉は「誇り」「気品」「尊敬」だよ」

「白哉に合いそうだな・・・・・・・」

「まぁそうだね。朽木隊長にぴったりの花言葉だろうねぇ」

薔薇を一本手折って、いつものように浮竹の髪に飾る。

「僕だけの紫薔薇姫。せめて、一緒にいる間はあまり他の男のことを考えないで」

「そんな無理なことを・・・・・・」

「浮竹は今、この薔薇の花を朽木隊長に渡してみたいって思ってるでしょ」

「なんで分かるんだ?」

「花言葉がぴったりだから、でしょ」

「それもあるが、
銀白風花紗を返したい」

「あれは、僕が責任をもって朽木隊長に渡しておくから」

「そうか?すまないな・・・んっ」

口づけられて、押し倒される。

「最近臥せっていて、お預け食らってた分、もらってもいいよね?」

「好きにしろ・・・・・・・・」

浮竹は、全身から力を抜いた。

「愛してるよ、十四郎」

「俺も愛してる、春水・・・・」

交じりあいながら、愛を囁く。

紫の薔薇も、ドライフラワーにされて、蒼薔薇の隣にかざられるのであった。

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