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院生時代の部屋31

「はいあーん」

「・・・・・・あーん」

朝っぱらから何をしているかというと、風邪をひいて熱を出した浮竹の世話を、京楽がしていた。

卵粥をもってきてくれたのはいいが、一人で食べられるというのに、あーんをさせられていた。

「やっぱり一人で食べられる」

「だめだよ!無理しちゃいけない」

熱でくらくらするが、一人で食べれないわけではない。

「はいあーん」

「・・・・・あーん」

なんかこんなやりとりをしていると、余計に熱があがってきた。

「だめだ、これ以上起きてられない。寝る」

ベッドに横になる。

京楽が、残りの卵粥をたべて、スプーンをぺろぺろなめている変態行為をしているが、つっこむ元気もなかった。

「水を・・・・・」

オレンジの果汁をいれた天然水のペットボトルを渡されて、半身だけなんとか起き上がらせた数口飲むと、少し熱がひいたような気がした。

解熱剤を多めに、いつもの薬を飲む。

10分もたたないうちに、意識は闇の中へと落ちていった。

「ん・・・・・・」

起きると、日付が変わっていた。

「まだ夜か・・・・って、京楽・・・・・・」

同じベッドで、京楽は眠っていた。

額には、濡れたタオル。椅子の上には、水の入った洗面器。

ああ、看病してくれていたのかと思うと、蹴り落とすのもまだ体力的につらいし、仕方ないのでそのままにしておいた。

「うふふふ浮竹のハーレム・・・・・うふふふ」

「なんの夢をみているんだが・・・・・・」

きっと、いかがわしい夢でも見ているんだろう。

熱は大分下がり、身動きがとれそうだったので、ベッドからおりた。

冷蔵庫から、天然水をとりだして飲むと、今度は桃の味がした。天然水シリーズといって、瀞霊廷ではやいっている、果実の味をした透明な飲み物である。

「柿か・・・・」

冷蔵庫を見ると、柿が冷やしてあった。

おさな心に、柿の木の実を妹や弟たちが、よその家の柿の木によじ登ってはとっていたのを思い出す。

あの頃は、浮竹の薬代のせいで、借金をしていたせいで、貧しいともいえなくはなかった。幸いなことに、借金のかたにと、妹や弟が売られていくまではいかなかったが。

両親を失えば、きっと浮竹もどこかに売られていただろう。見た目がよいから、薬の借金を重ねながら色子でもさせられていたかもしれない。

柿をあらって、皮ごと食べてみる。

懐かしい味がした。

「浮竹、もう起きて大丈夫なのかい」

京楽が起きてきた。

「柿、よければむくよ」

「いや、このままでいい。皮つきのほうが好きなんだ」

「へえ、変わってるね。それより、ベッドに戻って。まだ熱あるでしょ」

下がったとはいえ、微熱よりまだ少し体温は高かった。

ベッドに横になりながら、柿を食べた。

「もう1個食べる?」

「ああ・・・・・」

考えてみれば、朝に少し卵粥を食べただけで、それ以外水分しか口にしていないのだ。お腹がすいているわけだ。

京楽から、冷えた柿をもらって、しゃくりと皮つきのままかじれば、また懐かしい味がした。柔らかいよく熟したものよりも、少し硬い色づいたばかりの柿の方が好きだった。

そういえば、同じ柿でも干し柿は最近食べていないなと思う。

あれはまたあれで、美味いのだが。でも、普通の柿の方が好きだった。

「この時期だけど、知り合いがビニールハウスで苺を栽培しているんだ。熱がさがったら今度の
休日にでも苺狩りにでもいかないかい」

苺は大好物だった。

「ああ、いいぞ」

「約束だからね」

翌日には熱も下がり、いつも通りの毎日が訪れる。毎日学校にいって、座学の他に鬼道に剣の腕を磨いた。

やがて、休日になった。

「さぁ、いこうか」

「どこへ」

「え、覚えてないの。苺狩りにいこうって約束したじゃない」

「そういえば、そんなこといっていたな。忘れてた」

「そんな、ひどい!僕とのことは遊びだったのね!」

「あのなぁ。ああ、でもなんとなく覚えている。熱があったせいで、はっきり記憶できていなかった。水筒に薬に弁当。こんなもので荷物はいいか?」

水筒はすでに二人分用意されてあったし、弁当は食堂で買ったものが2つ用意されてあった。浮竹がもっていくとしたら、薬くらいだ。

「うん、荷物はそれくらいだね」

二人で、瞬歩はまだ使えないので、人力車で移動した。

流魂街に近い瀞霊廷に、畑が広がっていた。ビニールハウスもある。

「おーい、おじさん」

「おう、これは京楽の坊ちゃん」

「苺狩りにきたよ」

「そっちの別嬪さんは、京楽の坊ちゃんのいってた、いい人かい?」

「お前は、何を吹き込んでいるんだ」

京楽の頭をはたいた。

「ははは。照れてるんだよ」

「一度灰にしてやろうか・・・・・・・」

「・・・・・・・( ゚Д゚)」

「今日はお世話になります」

浮竹は、ぺこりと頭を下げた。

「いいってことですよ。うちは、京楽家に金をだしてもらって栽培してますから。京楽家を中心に苺を卸していますから、坊ちゃんの友人は歓迎します。いい人ならもっと歓迎です」

「この駄犬とは、ただの親友です」

「僕って犬だったのか・・・・・」

ビニールハウスの中は、少し暑かった。

苺を食べる分だけとって、外にでて涼みながら食べた。

「とれたてはまた味が濃いな。すごく甘い」

「きてよかったでしょ」

「そうだな」

持って帰る分の苺ももらった。しばらく苺はみたくないってくらいに食べたので、満足だった。

「では、ありがとうございました」

「いえいえこちらこそ。坊ちゃん頑張ってくださいね」

「おじさんもありがとね。これ、臨時収入に」

金の塊をぽいっと放り投げる京楽。

相変わらず、金銭感覚は狂っている。

「浮竹、はいあーん」

「自分で食える」

苺を食べていると、キスされた。

「ふふ、苺の味がする」

口の中の果実をもっていかれた。

「このばか!」

帰りは、のんびりと歩いて帰っていた。

人前でキスしたことになる。少しだけ視線を感じて、浮竹は京楽の手をとって走った。

「学院内ならともかく、外でキスはするな」

「学院内なら、いつしてもいいの?」

「時と場所をわきまえられないなら、ハグとキスを永久禁止にしてもいいんだぞ」

「京楽春水、言われたことは守ります!」

また、並んで歩きだす。

寮につくころには、日が暮れていた。急いで食堂にいって夕食を食べた。

苺を、冷凍室にいれておいて、シャーベットにしておいた。それを食後に食べて、浮竹は幸せそうな顔をしていた。

「よければ、また苺狩りにいこう。蜜柑狩りもできるよ。あとは葡萄と・・・」

「一気に行かなくてもいいだろう。あと3年もあるんだ」

「そうだね。でも逆を考えてごらん。千年はある生きる時間のうち、あと3年しか、一緒にいられないんだよ」

「ばか、一緒に死神になると誓っただろう。一緒に護廷13隊に入るんだ」

一緒にという言葉を強調したら、京楽は笑顔になった。

「そうだね。大人になっても一緒にいようね」

「ああ」

二人で、シャーベットにした苺を食べた。

とても甘い味がした。










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