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500年に一度の世界

カリンはまだ15歳、ユリエスは16歳だったが、カリンをサーラの世界に迎えに行くまでに誕生日がきて、17歳になっていた。

冒険者ギルドにカリン、ユリエスだけでなくアルザ、マリアードも所属していた。

イブル・イフリエータを退治したので、ランクはSS。

最高ランクだった。

今日も、ユリエスは生活のためにモンスター退治をしていた。まだ銀行の口座に、王族とて名を連ねていたときにふりこまれた金があったが、できるだけ自分たちで金を稼ぎ、その金で生きていきたかった。

今回の討伐の対象は、ボーンドラゴン。元々SS級のダークドラゴンが死んで、その後アンデット化したのだ。

何度かAランクの冒険者が退治にでかけたが、大けがをして帰ってくるか、返り討ちにあって死んでしまうかだった。

聖戦を経験した勇者と、銀のメシア、黒き神の聖女と名高い4人のパーティーは、名前を「金のカッシーニャ」と名付け、行動していた。

冒険ギルドの、お偉いさんから直々に、金のカッシーニャのリーダーであるユリエスに、打診がきた。

「ボーンドラゴンに、期待のAランクの新人たちがやれて大けがを負ったのだ。リトリア王国の外れにいる存在であるし、生まれ故郷であるリトリア王国を守るためにも、どうかボーンドラゴンを退治してくれないだろうか」

報奨金はかなりの額だった。

カリンとユリエスの二人暮らしなら、贅沢をしても10年は食っていけるだろう。

「引き受けてくれるかね?」

「一応、皆で検討してみる。答えはそれからでいいか?」

「勿論だとも」

ギルドのお偉いさんは、サブギルドマスターだった。60代の禿げ上がった頭をしているが、精霊魔法のスペシャリストだ。

「あなたの魔法でも、ボーンドラゴン退治は難しいのか?」

ユリエスが、疑問に思ってそう口にすると、サブギルドマスターは禿げ上がった頭に手を当てた。

「私の得意とするのは闇の精霊魔法。ボーンドラゴンはアンデッド、闇属性なんだ。私の魔法では、力を強めるだけで、退治には向いていない」

「ふーん」

ユリエスは思う。闇の精霊魔法は珍しい。命を奪ったり、削ったり、即死させたりする魔法がほとんどなので、すでに死者となっているボーンドラゴンとは相性が合わないのだろう。

ユリエスは、一度自宅に帰って、カリンを呼んだ。そしてお隣さんである、アルザとマリアードを呼ぶ。

「リトリア王国の外れにいる、ボーンドラゴンの退治を頼まれた。報奨金は金貨700枚。俺は引き受けてもいいと思う。お前たちはどうだ?」

「私はいいよー」

カリンは、元からユリエスの意思に賛同している。

「ボーンドラゴンかぁ。剣でいけるかなぁ?」

アルザは、ある程度は魔法を使えるが、職業は剣士だ。

「神聖魔法付与(ホーリーエンチャン)すれば、剣でも火力になる」

「ふむ。じゃあ僕は賛同だね」

「マリアードは?」

「わたくしは、クノイチですわ。アンデット相手にあまり火力になりそうもありませんけれど、ユリエスが引き受けるのでしたら、賛同いたしますわ」

「じゃあ、今回の討伐は引き受けるということで」

カリンは、最近ドラゴニックスペルマスターの力を取り戻している。理由は分からないけれど、今までのように命をけずって召喚することがなくなった。

それはユリエスも同じで、天界に帰ったカッシーニャの残滓で、相銀のフェンリルになることが、命を削らなくても可能になっていた。

世界が、音をたてて軋んでいた。最近、モンスターの活動が活発化している。サーラの世界は、500年に一度の、世界の成熟期を迎えようとしていた。

モンスターだけでなく、動植物から人にいたるまで、存在が色濃くなる。ユリエスとカリンにとっては、とてもありがたいことであるが、モンスターの活発化には問題があるなと思った。

ふと、気が高ぶると、ユリエスは水色の瞳を真紅にさせて、カッシーニャの残滓を漂わせる。そんなユリエスを、カリンは心配そうに見ていたが、緑のグリーンウッドを召喚してユリエスに沈静の魔法をかけると、ユリエスの中のカッシーニャの残滓は、大人しくなった。

「ユリエス、大丈夫?昨日、外でカッシーニャになったでしょ」

カリンの言葉に、ぎくりと身を強張らせるユリエス。

昨日は、冒険者ギルドで適当にうけた退治で、エンシェントウルフの群れの討伐があった。他の3人は街に買い物にでかけていたので、討伐はユリエスのみがおこなった。エンシェントウルフの群れは、切っても切っても、古代魔法で傷を癒して襲い掛かってくるので、業を煮やしたユリエスは、相銀のフェンリルになるとエンシェントウルフたちを食い荒らした。

真紅の瞳で、自宅に帰宅したのを覚えている。

「大丈夫だ。自我を飲み込まれることもない。カッシーニャになっても、暴力的になることもない。ただ、カッシーニャの存続には血肉がいるから、モンスターを食った。それだけのことだ」

かつて、リトリア王家で第2王子でありながら、銀のメシアの呪いがかかっているせいで、幽閉され虐待を受けていた頃、時折ユリエスの中に潜むカッシーニャが切れて、人を食い殺したことがあった。
あの甘美な味を、ユリエスはいまだに忘れられないでいる。

ゴブリンなどの亜人の、Eランクくらいの討伐に名乗りをあげて、その血肉を口にしているのは内緒だった。オークは、特に人間の肉に味が近い。ユリエスは、好んでオークを殺し食べた。
カッシーニャの姿で。

「ユリエス、たまに血の匂いをさせて帰ってくるから・・・私、気づいてるよ?」

「止められないんだ。やめたら、人を襲ってしまいそうで—―—それが怖い」

ユリエスは、カリンを抱き締めた。

ユリエスからは、金木犀の匂いがした。リトリア王家に血に連なる者だけがもつ、特別な香り。

「大丈夫。カッシーニャ本体はもういないから」

ユリエスの波打つ蒼銀の髪は、今日も綺麗に結い上げられて、エメラルドの髪飾りをつけていた。カリンとお揃いだ。

リトリア王国の者は、美しければ少年青年でも、髪飾りをつけたり髪を結い上げたり、花を髪にかざったりして、美しさを人に見せる。

ユリエスは、性別をこえるほどに美しい。カリンは、今までユリエスほど美しい人間を見たことがなかった。

「じゃあ、ボーンドラゴンは退治するということで、ギルドに報告しておく」

シルフの精霊に頼んで、言伝をギルドまで送ってもらった。ギルドからも言伝があり、明後日の昼にはたって欲しいとのことだった。

皆、思い思いの夜を過ごす。

カリンは、契約した精霊ドラゴンの召喚を確認したりしていた。ひとしきりの精霊を召喚したが、現れなかった者もいる。風の上位精霊ジルフェだ。彼はもともと異世界からの来訪者で、精霊になって日が浅い。気まぐれで、召喚に答えてくれないことが多々あった。
後は、特に問題はない。月の精霊ドラゴンは女神リトリアであったから、存在しないし、闇のラグドエルは精霊ドラゴンを見に宿した黒き聖女、カリン自信だ。
光の精霊ドラゴン、レイシャとも聖戦後に正式な契約を交わしたので、呼べないのは、太陽の精霊ドラゴンであったカッシーニャに、月のムーンストリア、闇のラグドエルくらいか。



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