マリアの微笑み
ジブリール設定シリーズ。ジブリールという天使が、たくさん紡がれていくニールとティエリアの物語を本として読んでいる世界。
「夜明けの祈り」http://lira.nobody.jp/001172.htmlなど参照。
他長編は幾つかジブリール設定があります。
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彼は、宇宙で散ってしまった。
僅か24歳の人生。
宇宙で彼は死んだ。確かに心臓の鼓動は止まり、瞳孔は開き、そして静かに目を瞑って、最後まで地球を目に焼き付けながら、彼は宇宙の流れに身を任せ、そのまま沈んでいった。
その時、マリアは微笑んだ。
彼らが信仰する宗教の聖母マリアではない。
ジブリールという、4大天使の一人がマリアと名づけた天使。ジブリールはこれまでたくさんのティエリアとニールの物語を見てきた。また、その図書館に新しい一つの本が加わろうとしていた。
いくつもストーリー。悲恋からハッピーエンドまで。
マリアと呼ばれた彼女は、たくさんの同胞を異世界に転移される過程で、彼の意識に触れた。それは、彼が死んで200年もたった宇宙でだった。
白い海に、彼は横たわっていた。
マリアは、やがてくるだろう彼を見つけた世界への同胞の転移を着々と進めていた。
「あなたの名前は?」
彼は、白い海に横たわりながら、名を聞かれて答えた。
「ロックオン・ストラトス・・・・なんだ、おれ夢を見てるのか。ティエリア・・・・お前は、生きてくれよな」
マリアの肉体は、彼が愛した人にそっくりだった。ただ、髪と瞳の色が違う。アルビノだった、オリジナルマリアは。マリアはただ静かに微笑んで、彼の記憶を再生させる。
そして、彼を包み込み、マリアは彼をそっと元の世界へと押し戻した。
彼はまどろんでいた。
ティエリアに抱かれて、海を漂う夢を。
「全てを忘れ、眠りなさい」
耳元で、静かな声が聞こえる。彼は、全てを忘れようとしたが、できなかった。
そのまま、時は逆流する。
あの世界では、彼が死んでもう200年が経っていた。
そこから遥かに時間を逆流し、気づけば彼が死んで10年後の世界にきていた。
マリアは微笑んで、彼の肉体と魂を手放した。
「愛する人に、言ってあげられなかった言葉。言ってあげなさい」
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アロウズとの戦争も終わり、ソレスタルビーイングはトレミーで地球の空を旋回しながら、争いがおきればガンダムでの武力介入を続けていた。
ティエリアはトレミーから降りて、ソレスタルビーイングのマイスターであり続けると同時に、地上で生活を送っていた。武力介入がない限り、アイルランドに住んでいた。
トレミーに乗るのは稀だ。いつもはマイスターの刹那、ライル、アレルヤが交代で遊びにきてくれる。
世界も随分と平和になったものだ。
その日、ティエリアは、いつものように彼の墓に墓参りにきていた。
黒のスーツに身を包み、真っ白な薔薇の花束を2つ抱えて。
1つは彼の墓に、そしてもう1つはディランディ家の隣にライルがつくったアニューの墓に。
そして、静かに祈り黙祷を捧げる。
「見てください。綺麗な空ですね。今日も、僕は元気です」
昔のように、彼の墓にくるたびに涙を流すことはもうなくなっていた。
たくさんの仲間がティエリアを支えてくれる。
そう、刹那、ライル、アレルヤそれにフェルトやミレイナ。
一度は肉体をなくし、ヴェーダと同一化したティエリアであったが、スペアに肉体に精神を宿らせ、研究所地下にあるナンバリングの違うティエリアに魂と心を宿して、この世界でまた目覚めた。
まだ、なすべきことはたくさんある。
一度はヴェーダと一緒に眠り続けることを選択したティエリアであったが、刹那の度重なるヴェーダへのアクセスと戻って来いというみんなの声に目覚め、もう一度彼らと歩く道を選んだ。
ティエリアの中で、彼は生きている。
もう、涙を零すことは、ないかもしれない。
たくさん泣いたんだ。
もう、彼のことは受け入れよう。目の前に墓がある、これがティエリアにとっての、彼との結末であるのだから。
目の前にあることだけが事実だ。
でも、ほらマリアは微笑んでいた。
「目の前にあることだけが、事実ですか?」
ティエリアが振り返った時、真っ白な翼をもつマリアはすーっと、ティエリアの中に溶け込んでいった。
「な・・・に」
鼓動する胸を押さえる。
そして、すーっとマリアはこの世界から消えていった。
元の世界に戻ったのだ。
ティエリアはわけも分からずに、目を何度もこすった。
「なんだ・・・・夢?」
首を傾げるティエリアの上に、何かが降ってきた。
「ぶ!」
ティエリアはその重みに、地面にぺしゃんこになりそうになっていた。
「なんだ!」
自分をおしつぶす何かをどかして、そこから這い出す。
「なんなんだ!!」
叫ぶけど、答えはなかった。
ふと、自分の周囲をエメラルドの蝶が舞っているのに気づく。
いつか、何度か見た彼の姿の周囲にはいつもエメラルド色の蝶がいた。そう、彼の瞳と同じ色の蝶。
花の周りを舞い踊るように、ロンドを踊るようにヒラヒラと。
緑色の燐粉はまるでGN粒子の光のように、薄く淡い色を兼ね備えていた。
「なんなんだ・・・・」
ティエリアは、自分を押しつぶしていたのがノーマルスーツを着た彼であるのだと気づいて、言葉を失った。
隻眼の瞳。黒い眼帯。
アイリッシュ系の顔立ち。白い肌。緩やかにウェーブを描く少し長い茶色の髪。
その髪に手をからませて、ティエリアは空を仰いだ。
心がチクリと痛んだ。
自分の中に浸透していった僅かばかりの「マリア」の意識の欠片が、ティエリアに教えてくれる。
これは夢ではなく、現実であるのだと。
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その頃、カウチに寝そべった落ちた天使ジブリールは勝手に自分の図書館に新しい本が追加されて驚いていた。
「マリアの微笑み?」
新しく追加されてしまった本を手にとって、開いてみる。
それは、この物語。
天界に残してきたマリアが勝手に「彼」の魂に触れ、そしてティエリアと邂逅を促した、ありきたりの。
中身は白紙だった。
そこに文字が浮かんでくる。
ジブリールは、カウチに戻ってそれを読み始めた。
2章「刹那」
「んあ?」
彼、ロックオンが目覚めるとそこは見たこともない部屋だった。
ノーマルスーツは脱がされ、傷口は見当たらなかった。
サイズのあわないパジャマを着ていた。
「どこだ、ここ。天国?」
そう、俺は宇宙でアリーに向けて銃を放って、そのまま死んだはず。
自分は死んでいくのだなと、遠くなっていく意識の縁でそう思ったことを覚えている。あの重症で助かるはずがない。
「天国にしてはしけてるなぁ」
モノクロの天井を見上げて、ロックオンは起き上がった。
目の眼帯に手をやる。視界は片目分しかない。右目の視力は失われたままだ。
そのまま起き上がると、ちょうどカチャリと扉が開いて誰かが入ってきた。
そちらの方を向く。
「刹那?」
入ってきた人物は、刹那だった。
「なんだこれ。夢?随分と背が伸びたなぁ。あ、でもまだ俺のほうが高い」
ロックオンは笑って、ベッドの上に正座する。
刹那はロックオンに水の入ったペットボトルを渡した。喉が渇いていたので、ロックオンはそれを全て飲み干してしまった。
「あんた、変わってないな」
「そういうお前は変わったな」
「どうして、ここにいる?」
「さぁ。俺にも、分からない」
確か、宇宙で眠りについたはずだった。
それは、人間でいう死の世界。
そこからいきなり引きずり出されて、ロックオンは地球の、それもティエリアが墓参りしている上に落っこちてきたのだ。
まさに、落下。
「んー。なんで俺、いるんだろう?死んだ。確かに、俺は」
断言できた。
実は助かってました~とか、そんなオチはない。
「そうだ。あんたは、死んだ。10年前に」
「ちょ。も、もっかいいってくれない?」
「10年前に。ライルがガンダムマイスターとしてロックオンの名を継いだ。でも、俺の中で「ロックオン」は、やっぱりあんただけだ」
真紅の瞳が、ロックオンを見下ろす。
「ライルが・・・・いや、それより10年って」
「言っての通りだ。俺は、あんたの意思を継いで変わった。そう、あんたが望んだ戦争のない世界に、この世界はなっている。少なくとも今は、戦争はおきていない」
「そっか」
まだ頭はこんがらがっていたけれど、刹那の前に現れて、「俺の意思を継いで世界を変えろ」といった記憶があった、ロックオンには。
「あんなガキンチョだったお前がなぁ。いやぁ、兄さんびっくり」
「びっくりなのはこっちのほうだ。墓参りにいったティエリアが、猫か犬みたいに、あんたを拾ってきたんだから」
目の前の刹那は、まだどこか幼さを残した二十歳前後の年齢に見えた。身長は175センチ前後。
昔記憶していた、16歳の頃の刹那が成人すれば、きっとこんな姿になるだろうという予想の姿そのままの形。
「俺は」
刹那は、ロックオンの手からからっぽになったペットボトルを受け取って、そのままややきつい眼差しでロックオンを射抜く。
「今更だ。こんなの、今更だ。俺はあんたに、渡さない」
何を?
そう問おうとして、ロックオンはその答えにすぐにぶちあたって、黙り込んだ。
「あんたに、連れていかせない。あんたはもう・・・・この世界では、死んだ、人間なんだから」
ゆっくりと告げる刹那。
懐かしみのこもった視線の中に、でも明らかな拒絶が含まれていた。
刹那は、イノベイターとして目覚めたのだという。そのでせいで不老不死、外見が変わらないのだそうだ。
同じように、一度は死にそして肉体を得てまた目覚めたティエリアも、不老不死。
そこに、突然、ロックオンの墓参りをしているティエリアの上から降ってきたロックオン。
昔の刹那なら、腕を広げて抱きついただろう。そう、戦争が終わった直後あたりまでなら、ロックオンがどんな形であれ、どんな理由があれ、世界にもう一度現れてくれたことに天に感謝さえしただろう。
でも、今はできない理由がある。
だって、ロックオンは。
「あんたは、連れ戻しにきたんだろう?自分が愛した人を」
刹那は、目を閉じるロックオンに続ける。
「・・・・・」
ロックオンは無言だった。
「あれから、もう10年だ、ロックオン。人間関係だって変わる。俺は、あんたが死んでそれからずっとティエリアを支え続けた。ティエリアと籍も入れた。子供だっている」
ロックオンはゆっくりと瞳を開いた。
「結婚、したのか」
「ああ」
刹那はどこまでも静かだった。
「ティエリアは中性だったんじゃないのか?子供って」
「性別が固定されたんだ。女性に。俺は、ティエリアを守る義務がある。たとえ・・・大好きな、あんたであっても」
蘇ったよ、やったハッピーエンド。
そんな風にはなりそうにもない重い雰囲気。
そう、何故ならロックオンは、ここに存在してはいけない存在だったのだから。
3章「10年という歳月」
「愛する人に、言ってあげられなかった言葉。言ってあげなさい」
今でも耳に残っている言葉。
でも、今更伝えてどうなる?
この世界で俺は死んで10年も経っている。そりゃ、人間関係が大きく変わって当たり前だ。
かつてはあんなに愛し合ったのに。
ティエリアは俺だけのものだって、信じてた。
俺だけを愛してくれるって。
でも、現実ってしょせんこんなものなのだろうか。
そう、伝えられなかった言葉。
何度でも大好きっていったけど、ティエリアにまだ言っていなかった。
ロックオンは、ティエリアに「愛している」と、その一言をただの一度きりも言わずに逝ってしまった。
「何のために、俺ここにいるんだろうな?」
「それは、俺も知らない」
刹那は、部屋を出て行った。
入れ替わりで、ドタバタと、廊下を走る大きな音がした。
「起きた?パパの、昔の恋人の人!」
9歳くらいだろうか。
あどけない、ティエリアそっくりの顔をした少年が、ロックオンいる部屋に入ってくると、ロックオンの着ているパジャマをひっぱった。
「あててて・・・・なんだ?」
「僕、マリア!」
耳の奥で、マリアという言葉を反芻させる。
ああ、そっか。
この子は。
刹那の瞳のように赤い、真紅の瞳。
髪は茶色だ。
この子は、きっとティエリアと刹那の間にできたという子供だ。
くりくりした目は刹那に似ている。容姿はティエリアそっくりだけど。少女のように見えるが、元気のいい少年だ。
まだ幼すぎて、まるで小さいティエリアを見ている気分になってくる。
「その、パパの昔の恋人の人って?」
聞き返してみると、マリアと名乗った少年は、ベッドにぽすっと座ると教えてくれた。
「刹那パパの昔の恋人。ママがいってた。ロックオンと刹那パパは爛れた関係だったんだって。爛れた関係って何?」
聞き返されて、ロックオンも聞き返した。
「爛れた関係ってなんじゃーー!!」
刹那のことは弟のように大好きだった。愛情を持って接していたけれど、この子供が指差す「爛れた」つまりは肉体関係とかを伴った恋人同士になったことは一度もない。
そりゃ、トレミーにいた頃は年少組のティエリアと刹那を見ては何度も鼻血をふくような、変態と言われるような存在であったけれど。
はっきりと、清い関係であったとは断言できる。多分。
ちょっと構いすぎな感じではあったかもしれないけれど。
「なぁ、マリアだっけ。お父さんの名前は?」
「刹那!」
「じゃあ、お母さんの名前は?」
「ティエリア!」
元気よくはきはき答える子供に、ロックオンは頭を抱え込んだ。
ああ、やっぱり。
この世界で、俺はただのお荷物でしかない。
平和になった世界で、なるべくしてたどり着いた二人の恋人の間をかき回す、うるさいだけの存在。
マリアは一頻り興味深そうにロックオンと話をした後、廊下を音をたてて走り去っていった。
マリア。
そう、覚えている。
「愛する人に、言ってあげられなかった言葉。言ってあげなさい」
そう言って、宇宙で眠っていたロックオンを起こしたのもマリアという名前だった。存在は全く違うけれど。
何かが、まるでパズルのピースのように繋がっている気がする。
ふと、自分の手足を見る。
本当に、昔と変わっていない。
出撃する前の、いつもの衣服がベッドの横に折りたたまれて置いてあった。
「なっつかしいなー、この服」
いつもの私服に着替え、そして皮の手袋をはめた。
ロックオンの指には、ティエリアとお揃いのペアリングがはめられたままだった。
それに気づいて、ロックオンはペアリングを外した。
もう、こんなものに意味はない。
指輪を外すと、ズボンのポケットにしまいこみ、そして部屋の外に出た。
わりと広い家だった。リビングルームでは刹那が新聞を読み、マリアの話し相手をしていた。
「その、わるいな。服まで・・・・」
「その服は、ティエリアがあんたの形見としてずっと持っていたものだ」
「え」
小さな沈黙が落ちる。
確か、俺が死んでから10年。
10年もの間、この服を持っていてくれていた。その心だけでも、ロックオンは満足だった。
「は、やべ・・・・俺ってこんなに涙腺脆かったかなぁ」
零れそうになる涙を我慢する。
もう、戻れないんだ。
あの頃には。
ティエリアを愛し、愛されていたあの頃には。
「あ、ママだ」
いつものように、昔とあまり変わらない服装のティエリアが2Fから降りてきた。
泣きながら抱きついてくるのでもなく、ただ静かにロックオンを懐かしそうに見つめる。
「その服、とっておいてよかったです」
ソファーに座ったロックオンに、ティエリアは紅茶をいれて持ってきた。
そう、昔からティエリアは紅茶のアッサムが大好きだった。
「アッサム・・・懐かしい味だなぁ」
じんわりと広がる暖かさとは裏腹に、ロックオンを包む空気はどこか寒々しい。
「ごめんな?その、夫婦水入らずのとこ邪魔しちまって」
チクリと、心が疼いた。
「いいえ・・・・」
ティエリアは長く伸びた髪を耳にかけ、俯いていた。
その手には、やはりロックオンとのペアリングは光っていなかった。
「吃驚、したんです。墓参りにいったら、いきなりあなたが降ってきて。ふふ、なんの悪戯でしょうかね?」
どこか哀しそうだった。
「探したけど、あなたの背中に翼はなくて。重くて。呼吸をしていて、そして心臓は鼓動していた。昔の僕なら、声をあげて泣いてあなたに抱きついたでしょうね」
ほら。
10年という月日は、人の心さえも変えてしまう。
あんなに、永久に続くと思っていた恋人の時間さえも、たやすく変えてしまうんだ。
「ごめんなー。今、俺いくあてなくって。ちょっとしばらく厄介になるから」
ほんとは、このままティエリアと刹那の家を飛び出して消えてしまいたかった。
このまま消えてしまいたい。
これ以上、惨めになる前に。
でも、ロックオンの体は願っても消えてくれなかった。
そのまま、刹那はトレミーに戻り、家にはティエリアとロックオン、それに息子であるマリアだけが残された。
マリアと一緒に、ロックオンは懐かしいアイルランドの町を散歩する。
そして、先にマリアを帰らせて、自分が降ってきたのだという墓地にやってきた。
墓には、ニール・ディランディと名前が刻まれて、綺麗に手入れされていて、白い薔薇の花が捧げられていた。
ロックオンは、人の気配を感じて木の陰に隠れる。
すると、もう習慣になっていたティエリアは、ニールと名の刻まれた墓の前にくると、新しい白い薔薇の花を捧げて、黙祷し、祈った。
「あなたが、この世界に居るのに。僕は、刹那を選んでしまった。あなたが、また僕の目の前に現れるなんて思わなかった。願うなら」
その先を聞きたくなくて、ロックオンはその場から逃げていた。
そのまま消えてくれ。
そう、風に乗って言葉が耳に届いた、気がした。
逃げ去っていったから、正確な言葉は分からなかったけれど。ただ、そんな言葉を続けられる気がして、聞きたくなくて逃げ出していた。
そのままいく宛てもなくぶらぶらと、アイルランドの町を散歩して、気づくとティエリアと刹那の家に戻っていた。
「お帰り、もう一人のパパ!」
中に入ると、マリアが出迎えてくれた。
「ああ、ありがとうな」
マリアを抱き締める。
ティエリアが幸せなら、それでいい。
俺がいなくても、ほら、大地を力強く歩んでいっている。
未来へ向けて。
今のロックオンは、過去の思い出。切り捨てられた、記憶の残骸。
ロックオンは、自分に与えられた寝室に戻ると、食事もせずただ眠った。
もう、二度と目覚めたくない。このまま、この世界から消え去ってしまいたい。
でも、朝がくるとロックオンは目覚めた。
そして、朝食の支度をしてくれたティエリアと、マリアと一緒に食事をとる。
マリアはそのまま小学校へ登校してしまった。
家に残されたティエリアは、コンピューターのある部屋で難しいプログラミングをしていた。それで生計をたてているらしい。
ロックオンは、することもなくてごろごろしていたけれど、勇気を振り絞ってティエリアのいる部屋の扉を開けた。
「入るときは、ノックくらいしてください」
「ああ、ごめん」
そのまま、プログラミングを続けるティエリア。
重い空気が流れる。
「あのな・・・・返して、くれないか。もしも、持ってるなら」
「何を?」
「お前にあげた、俺とお揃いのペアリング。もう必要ないだろう?俺も、必要ないから」
「ああ・・・・・少し、待っていてください」
ほんとは、心のどこかで期待していた。
あれは僕のあなたとの思いでなのだから、とりあげないでくれと非難されることを。
でも、ことはそう上手く運ばない。
ティエリアは、違う部屋にいき、テーブルの引き出しの奥から、大切にしまってあったロックオンにもらったペアリングを取り出すと、顔色一つ変えず、ロックオンにそれを渡した。
「サンキュ」
「それを、どうするつもりですか」
「もともと俺の金で買ったもんだ。どうしようと、俺の勝手だろ!!」
叫んだロックオンに、ティエリアはびくりと体を強張らせる。
「こんな現実、くそくらえだ!!」
ロックオンは、ティエリアを突き飛ばすと、部屋を出て、それから外にいくと、適当にぶらついて、公園の池に向かって二つのペアリングを投げ捨てた。
キラリと銀の軌跡を描いて、ポチャンと池の中に、愛の結晶でもあったペアリングは沈んで見えなくなった。
こんな現実、くそくらえだ。
この世界から今すぐ消えたい。
もう、これ以上俺に惨めな思いをさせないでくれ。
5章「ペアリング」
結局、行く宛てもなく、そのまままたティエリアの家に戻った。
マリアは学校から帰ってきたようで、そのままマリアの遊び相手をした。荒んでいる心が癒されるのが分かる。もう、受け入れよう。現実は現実なんだ。
プログラミングを終えて、リビングルームに入ってきたティエリアが叫んだ。
「ロックオン!」
「んあ?」
気づくと、体の線が薄くなっていた。
周囲をエメラルド色の蝶が舞っている。
「あー。もうすぐ、時間切れなのかね?」
でも、別にいいやと思った。
この世界からさよならできるなら。ティエリアの顔も見れたし、ちゃんと未来を歩んでいってくれてることも分かったし。
「デート、しませんか?昔のように」
「ああ、いいね」
ロックオンははにかんだ。
最後に、昔の思い出に浸るのもいい。
ティエリアは着替えて、外行きの服になると、マリアを連れて三人で公園に出かけた。
そう、二人のペアリングを投げた池のある公園だった。
「ここに、お前とのペアリング、投げ入れたんだ」
「そうですか」
さして、顔色も変えずにティエリアは納得する。
マリアと公園で遊び、デートというデートにはならなかったけれど、ティエリアとロックオンは静かな時間を過ごした。
「お前さんも、強くなったんだな」
「あなたが、いてくれたから」
「過去形か」
「ええ」
「そうだなぁ。俺はもう、死んでるんだから」
なんだか不思議だった。
死んでるはずなのに、こうしてティエリアと会話ができる。
「俺、嬉しいわ」
「ロックオン?」
「もしかしたら、ティエリアずっと泣いてばっかで、今も泣いてるのかと思ってた」
「それは」
「刹那もいるし、子供もいるし。愛に包まれて、お前は幸せだな」
「・・・・・ええ」
幾分の沈黙のあと、ティエリアは肯定した。
そのまま、夕方になったので家に戻ると、ティエリアは用があるといって、夕飯だけを作ってどこかに行ってしまった。
「ママ、どこにいったのかなぁ?」
「さぁ?」
ロックオンは、もうすぐこの世界から消えるだろう。
もう、どうでもいい。
早くいなくなりたい。
「ママ、でかける時泣いてたよ。大切なものを、池に投げ捨てられたって」
その言葉に、ロックオンは眉を顰める。
「嘘だろ?だって、もういらないから俺に返してくれたんだろ?」
「ママ、ほんとに泣いてたんだから!」
マリアは怒ってしまった。
ロックオンは、動悸が早くなるのに気づいていた。
そのままマリアを家に残して、家を飛び出して夕暮れまでデートといって出かけた公園にやってくる。真っ暗な中、薄暗い街灯だけが頼りだった。
池のところにくると、水音が聞こえた。
ティエリアだった。
ずぶ濡れになって、池の底を手探りで探している。
「何してるんだ、ティエリア!!」
ティエリアを止めると、ティエリアは呟いた。
「あなたに返して、あなたがそれで納得するならいいと思った。でも、あれは僕のものでもあるんだ!僕の思い出を、捨てないで!!!」
涙が浮かんだ瞳で睨みつけられた。
「あなたは、いつだってそうだ!いつだって、いつだって。僕を最後は一人にして、いなくなってしまうんだ!」
「ティエ・・・・リア」
「あなたは卑怯だ!どうして・・・・僕はやっと乗り越えたのに!どうして、僕をまた!あなたがいなくても生きていけると思ったのに!!」
ティエリアは、泣き叫んだ。
暗い公園で、ずぶぬれになったままティエリアは、ペアリングを探し続ける。
ふと、池に沈んでいたペアリングがエメラルド色の光を放った。
「あった・・・・・僕と、あなたの、思い出の、つまった・・・・」
そのまま、ティエリアは泣き崩れた。
嗚咽するティエリアを抱き抱えて、ロックオンはティエリアの家に戻った。
6章「あなたがいたから」
18R
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夜も大分暗くなっていた。
マリアはもう明日に備えて眠ってしまった後のようだ。
「とりあえず、服着替えよう」
ずぶ濡れになった二人は、互いにバスタオルで髪や衣服を拭いあって、新しい服に着替える。
そのまま、ティエリアは首にかけていたネックレスのチェーンにロックオンからもらったペアリングを通すと、大切そうに照明に透かせてみせる。
「いつもは、こうして身につけてるんです。たまたま、外していました」
「そっか」
しばらくの沈黙の後、ティエリアからロックオンの背中に張り付いて、その体温を確かめる。
「忘れたままでいたかった。あなたのことを」
「俺も、忘れたままでいたかった。お前のことを」
背後のティエリアに手を回し、前にもってくると、ロックオンは片手でティエリアの桜色の唇に触れた。
白い頬に、睫が影を落とす。
ティエリアは、自分から目を閉じた。
「好きなんです・・・・今でも」
「知ってる。なんで、消えたいって思ったんだろう。お前が、この世界にはいるのに」
唇を重ね合わせる。
そのまま、体温を共有しあって、互いを抱き締めあう。
ベッドに押し倒されて、ティエリアは照明を消した。
「マリアは・・・・あの子は、刹那との間の子供ではありません。あなたとの、子供です」
「え・・・・・」
「DNA鑑定でも立証済みです。あなたが、出撃していった最後の夜・・・・僕は、中性でありながら、あなたの遺伝子を残すために子供を宿した。そして女性になった。一人では大変だからと、刹那が父になってくれたのです」
「そっか・・・・ごめんな。置いていっちまって」
「いいんです。あなたと、たくさんの思い出を築けたから。あなたのお陰で、僕は人間になった」
また唇を重ね合わせた。
そのまま、ゆっくりとティエリアの衣服を脱がせていく。
「いいのか?刹那がいるだろう・・・・」
「刹那のことは愛しています。背徳だとは分かっています。でも、今だけは・・・・・あなたを、感じていたい」
たとえ、これが刹那に対して背くことであっても。
今だけは。
許してほしい、刹那。
きっと、彼は、もうすぐ・・・・。
ゆっくりと愛撫されて、ティエリアの喉がなる。
「ん・・っく・・・」
全身のラインをなぞるようにロックオンの唇が動く。
そのまま、秘所に指を埋め込まれたが、愛液さえ出てこない。
「どうする?やめとく?」
「だめ。きて・・・」
淫らに誘われて、誘われるようにロックオンはティエリアの内部に入る。
そのまま、固く閉ざされた秘所を貫かれて、激痛が体中を走ったけれど、ティエリアはロックオンを受け入れた。
「つあっ・・・・」
この体の痛みさえ、一滴も零さないように。
ロックオンからは、やっぱり昔のようにお日様の匂いがした。
血が滲んで、太ももを伝う。
刹那と体を繋げていない証拠だろうか。
ティエリアの内部は狭くて、ロックオンはすぐに果てそうになったけれど、そのまま奥に進み、ティエリアを突き上げた。
「うあっ」
耳に残響する声は、艶かしい。
「う・・・ああああ」
体ごと揺さぶると、ティエリアの紫紺の髪が宙を舞った。
そのまま、何度もティエリアの体を抱き締める。
ギシギシとベッドのスプリングが二人分の体重を受けて、軋む。
その音さえも、記憶するようにと。
「ん・・・・もっと、ください。もっと、あなたを・・・ください」
求めてくるティエリアの中で放ち、またティエリアの秘所を熱で引き裂いていく。
「痛い?」
「痛くてもいいんです」
「血が出てる。刹那とは?」
「ありません。肉体関係は・・・うあ!」
ティエリアを突き上げると、ひくりとティエリアの全身が痙攣した。
「感じる場所、変わってない」
「だめ、そこはっ」
首を弱弱しく振るティエリアの首筋を吸い上げて、そのまま体を進めては引く。
何度も律動を繰り返していると、二人の体液が混じったものがシーツに大きな染みを作った。
「これで子供できたりしたら、俺責任もてるかな?俺、きっともうすぐ・・・・」
「言わないで」
ティエリアが、自分からロックオンの唇を塞いだ。
もしも、これでティエリアにまた子供ができたとしても。その父親は、きっと刹那だろう。
法律上も、立場上も。
「もっと・・・もっと・・・」
熱に魘されるように、ティエリアは甘く何度もロックオンにねだる。
そう、もう10年以上ぶりになる彼の熱を、永遠にその体に刻み付けるように。この瞬間が永遠であればと、二人は願う。
でも、一刻一刻と時間は過ぎていく。
「やぁん」
ティエリアが啼いた。
真っ白なオーガズムの波に襲われる。
角度を変えて何度も中を抉って、それからまた中に欲望を吐き出した。
ああ、ここはあの白い海に似ている。
ティエリアと二人だけで、漂えたらいいのにな。
そう、それこそ永遠という時間をティエリアと共有できればいいのに。もう、手放したくない。もう二度と、ティエリアを一人にしたくない。泣かせたくない。
7章「あなたがいたから」
「ロックオン・・・・」
ガーネットの瞳に中に、エメラルドの瞳が映る。
そう、昔のように。
こうやって、何度も見詰め合って、睦言を囁いてそして体を重ねたあの日。
たくさんの思い出が、二人を包み込んでいく。
好きだと告白したあの日。
ケンカして一日中口を聞かなかったあの日。
戦闘で重症を負った彼の元で泣き続けたあの日。
彼に、自分はもう人間だと言われて喜んだあの日。
いつものように好きだと囁きあって眠ったあの日。
そして、彼のもとにいきたいと、願ったあの日。
ロックオンを失ってからのたくさんの記憶。
ハロに託された遺言を聞いて、絶叫したあの日。
宇宙に花束とメッセージカードを添えて流したあの日。
墓参りをしては、挫折しそうになった心を強くもちなおしたあの日。
思いでも記憶も、全部全部、ロックオンがいたから。
ロックオンがいてくれたから、今のティエリアがいる。
今の幸せともいえる生活がある。
ティエリアが、人生の中で最も愛した、最愛の人。
ロックオン・ストラトス。本名はニール・ディランディ。
二人は、互いに甘い息を吐いて、そして眠りに落ちた。
ロックオンの輪郭が薄くなっていくのを、ティエリアは哀しい気持ちで見つめ、そして目を閉じた。
願うことならば、もう少しだけ、時間を下さい。
もう少しだけ。
ロックオンも、眠りに落ちながらまどろむ。
まだ、言っていないんだ。
言わなければならないことがあるんだ。
でも、ロックオンは気づくと真っ白な海に沈んでいた。
「お願いだ、もう少しだけ!」
そこは、ロックオンが沈んでいた宇宙の闇の彼方。ロックオンの魂が最初に目覚めた場所。
そのひたむきなまでに真っ直ぐな願いに、天使のマリアは微笑んだ。ふわりと12枚の翼が広がり、ロックオンは純白の翼に抱かれる。
このマリアは、なんてティエリアに似ているんだろう。俺たちの息子のマリアに。
きっと、成長すればこんなかんじになるだろう。
そんなことを考えているうちに、ロックオンの意識は浮上する。
ゆっくりと、泡沫になりながら。
「ありがとう・・・・もう少しだけで、いいんだ」
マリアは微笑む。聖母マリアのように、慈愛に満ちた眼差しで、何も言わず。
マリアが指差す先に、元の世界が広がっていた。
ロックオンは、そこに戻っていく。
10年という時間は、確かにティエリアとロックオンの間に溝を作っていた。でも、それは埋められたいと願う溝だ。ティエリアがどんなに望んでも手に入らないもの。
ロックオン・ストラトスともう一度この世界で歩いていくこと。
「ママー、朝だよ!ご飯つくって!」
マリアの声に、ティエリアは目覚めて急いで衣服を身につけると、そのままベッドから起き上がって朝食を作ったりと大忙しだった。
一人、ロックオンは上半身裸で、ティエリアの寝室でタバコを吸ってぼーっとしている。
「ロックオン!ぼーっとしてないで、一緒にマリアを学校まで送り届けてください」
「あいあいさー」
服を着替えて、それから朝食をとって、三人で歩いてマリアの通う学校の前までくる。
「また後でね、僕の本当のパパ!」
走り去っていくマリアを見送って、二人はなんともいえない気持ちになっていた。
「あの子、気づいてたんだ」
「子供は敏感だからなぁ・・・・」
刹那はいい父親であるし、夫としても申し分ない。ティエリアも刹那を愛しているし、刹那はマリアのことも愛してくれる。それは十分すぎるくらいに。
その愛が痛いくらいに。
「帰りましょうか」
「ああ」
二人は手を繋いで歩きだす。
見上げると、青空はとても綺麗に晴れ渡っていた。
ちらちらと、ロックオンの周囲をエメラルドの蝶が舞う。それを目の端に見やりながら、ティエリアは歩く。
家でも公園でもなく、ロックオンの墓がある墓地に向けて。
そして途中で白い薔薇の花束を購入して、二人はニール・ディランディと刻まれた墓の前にまでくると、ティエリアはその花を捧げた。
そして、木のある木陰にまでくると、最後のキスをした。
「ん・・・・」
「ティエリア・・・・」
「ロックオン・・・・」
小鳥が囀る声さえ、邪魔だった。
ロックオンの言葉だけを聞いていたい。もっと、もっと。
もっと一緒に語りたい。笑顔が見たい。愛されたい。
でも、もう終わり。
天使が見る夢の終わりだ。
足元から、まるでGN粒子の光のようにエメラルドの色に包まれて、蝶を纏わせながらロックオンは意識とともに光の泡沫になっていく。
8章 終章「これが伝えたかった言葉」
透けていく体に精一杯しがみついて、ティエリアは涙を零す。
「僕は、僕はあなたと出会えたこと、後悔してませんから!またもう一度こうして出会えたことも、後悔しませんから!!」
「うん・・・・」
「お願い、もう少しだけ、一緒にいてください!いかないで!!」
「ごめんな。俺は、この世界にいてはいけない存在なんだよ」
「それでも・・・・僕は、あなたを愛してる!!」
ロックオンの中で、何かが弾けた。
そうだ。
俺は、この言葉を言うために、ここにいるんだ。
「ずっと言ってなかったよな。お前さんに。俺も、お前さんのことが大好きで、愛してるよ、ティエリア」
「ロックオン・・・・・」
「愛してる。過去も現在も、そしてこれからも。幸せになれよ」
ぐしゃりと頭を撫でられて、ティエリアはたくさんの涙を大きなガーネット色の瞳から零しながら頷いた。
「あなたが、いてくれたから、幸せになれた。ロックオン」
ふわふわと、風に靡くロックオンの髪にティエリアは指を通す。
その髪の先まで、エメラルド色の光にロックオンは包まれていた。
ティエリアに、愛していると伝えたかった。それが、ロックオンがずっと思い残していたもの。愛していると伝えることができなかった。だから、今伝える。
ティエリアは、服の袖で涙を拭ってから、大きく深呼吸した。
そして、微笑んだ。
マリアの微笑みのように、優しく。
「ありがとう。僕を愛してくれて、ありがとう。ずっと、忘れませんあなたのことを」
「俺も、ありがとう。俺を愛してくれてありがとう。お前のことは、何があっても忘れない」
もう、ロックオンの足は完全にこの世界から消えていた。
残る上半身も薄くなって、ついには肩から上だけしか見えなくなっていた。
エメラルド色の光を頬に浴びながら、精一杯ティエリアは微笑んだ。涙を零すのを拳を握り締めて我慢する。ここで泣いちゃだめだ。
「また、会おうな!」
ロックオンは、まるで風のように突然現れて、そしてまた完全にこの世界から消えてしまった。
「また、いつか会いましょう。何処かで。だから、さよならは、言いません」
さわさわと風に揺れる緑に耳を傾けながら、ティエリアは微笑んだ。
ありがとう。
また、いつか何処かで。
また、会いましょう。
どんなに時間がかかるか分からない。でも、さよならはしません。
きっと、また出会えると信じて。
「ティエリア」
「刹那」
ずっと、影から見守ってくれていた刹那が、車から降りてきた。
「大丈夫なのか?」
「ん・・・平気」
二人で、空を見上げる。
「本当に・・・・変わってなかったな。まるで台風みたいに、通り過ぎていった」
「変わらないよ。あの人は」
刹那とティエリアは手を握り締めあう。
「僕たちも、変わらなくては。刹那、一緒に最後まで歩んでくれるか?」
「無論だ」
ロックオンが残していったマリアのためにも。
そして、ティエリア自身のためにも。
過去を振り返る時もある。でも、そこで立ち止まらずに歩き出せ。
そう、いつでも彼がそうしていたように。
涙を流すときもある。でも、次の日は笑ってお日様を見上げよう。
そう、まるで太陽の存在であったロックオンに見守れながら。
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ジブリールは、本を読み終わり静かに閉じた。
「ありきたりな、でも美しい音色だ」
ありきたりな物語。でも、どこか儚く幻想的な音色を奏でている、その本は。ジブリールは、マリアという存在が微笑んでいるのを感じ取って、同じように微笑んだ。
「マリアの微笑み」か・・・。閉じられた本を、膨大な図書館になっている本棚の一つに直すと、ジブリールはまたカウチに寝そべった。
また、今度自分で紡ごう。
ティエリアとニールの、愛の物語を。昔のように。
「おやすみ・・・・」
パチンと、照明が消えた。
ジブリールもマリアも、ティエリアも刹那もニールも誰もいなくなった空間で、キラリとティエリアとニールのペアリングだけが美しく耀いていた。
The End
4月執筆、書庫に移動中のものをUP
4月ログにもありますけどね。
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