ナイトクロス「あの人の写真」
「よお、ティエリア」
「ライル」
「元気にしてっか？」
「はい。どうぞ、部屋の中へ。紅茶を入れますね」
刹那が去った後、ライルがティエリアの部屋を訪ねてきた。
ティエリアは、柔らかな笑顔でライルを迎える。
最高級のマイセンの対になったカップにアッサムの紅茶をいれたティーポットで、コポコポと紅茶を入れていく。甘い香りが漂う。ティエリアが好む紅茶はアッサムの中でも高級品でとても高い。味も素晴らしい。
「俺はティエリアがいれてくれる紅茶が好きだ」
「ありがとうございます」
それぞれ、椅子に座りながら、紅茶を飲んでいく。
「甘いな」
「少し、僕好みに味を調整していますので。普通の紅茶より甘めかもしれません。お口にあうかどか分からないのですが」
「いや、美味しいぜ？」
「そう言っていただけると、僕も嬉しいです」
「その、お口に合うのか分からないのですが・・・・僕が焼いたクッキーです」
テーブルの中央に置かれた、いびつな形をしたクッキーを、ライルに勧める。
「へぇ、お菓子なんて作れるのか」
「昔、ニールに教わりました」
「兄さんは、料理が得意だったからなぁ。家事の全部を簡単にこなしてた」
「あの人は、とても器用だから」
ふと、懐かしむように思いを馳せる。
料理の腕が壊滅的なティエリアに、根気よくニールは料理を教えてくれた。
何度も何度も失敗した。そのたびに笑って、ニールはティエリアを励ましてくれた。
サクリ。
ライルが、こげたクッキーを食べる。
「うん、意外といける」
「本当ですか！？」
ぱぁぁぁぁあと、花が満開ような笑みが、ティエリアの顔からこぼれる。
「お前さんも食べてみろよ」
クッキーを手に、ライルがティエリアの目の前にもってくる。
それを、ティエリアは口にする。
「・・・・・失敗だと思ってたんです。僕は不器用だから」
「そんなことないぜ？ジャボテンダー抱き枕だって自分で一人で繕えるようになったじゃないか。刹那の話だと、昔は兄さんに繕って貰ってたらしいけど。成長したんだな」
頭を撫でられる。
懐かしいその感触。
「ライル」
「俺は料理なんて全くむりだぜ・・・・・やっぱり、兄さんにはかなわないな」
「そんなことありません。ライルはライルで素敵です」
ライルのことを、好きだと思う。
とても優しいライル。
「そうだ。いいものやるよ」
「？」
ごそごそと、ライルがポケットから大切そうに一枚の写真を取り出す。
「これは・・・」
まだ幼いニールとライルが並んで、やんちゃそうな笑顔で肩を組み合っている写真だった。
「この前のミッションで地上に降りたじゃないか。そのとき、アイルランドの生家に寄ったんだ。兄さんは家族の写真を処分しちまってて・・・俺の部屋に隠してたそれしか、見つからなかった。ほんとはアルバムごとあげたかったけど、ごめんな」
「いいえ、いいえ！」
そっと、大切に写真を受け取る。
サラサラと、首を振ると髪が逃げるように音をたてる。紫紺の髪が、動きにあわせて揺れる。
「わざわざこんな大切なものを・・・僕のためなんかに」
じんと、胸に熱くくるものがあった。
「あんた、沙慈・クロスロードとかいうあいつに、大切にしていた兄さんと映ったたった一つの写真のデータを消されちまったんだろう？バックアップとってなかったっていうし・・・・兄さんの写真、それしかなかった。ごめんな。ほんとは、あんたが愛した兄さんの姿が映った写真をあげたかったけど、兄さんは写真が嫌いで・・・テロで家族を失ってから、俺とも別々に暮らしてたし。兄さんが映ってた写真は、そんな少年時代のものしかなかった。俺の宝物なんだ。大切にしてくれよ？」
「こんな大事なもの・・・・・もらってもいいのですか？」
「俺が持ってるより、あんたが持ってるほうが、絶対兄さんが喜ぶに決まってるから」
ライルは、ニールと同じエメラルドの瞳で、優しくティエリアを見つめる。
「あなたは・・・・優しすぎる」
「そりゃ、惚れた相手には優しくするのが筋ってもんだろうが」
「僕は・・・・・・」
ティエリアは、目を伏せた。長い睫が白い頬に影を落とす。
「愛されなくてもいい。愛している、ティエリア」
椅子から立ち上がったライルが、椅子に座ったままのティエリアの背後から、ティエリアを抱きしめる。
ぎゅっと、抱きしめられる。
「僕はニールのことを・・・・刹那のことを・・・・」
「分かってる。それでも、愛している」
報われないライルの愛。
一途にティエリアを愛するライル。
「ラ、イル・・・・・」
揺れる。
心が、揺れる。
「愛してくれなくてもいいから。今みたいに、傍にいさせてくれ」
「あなたは優しすぎる」
ライルの手を、そっと撫でる。
ナイトクロスが、そんな二人を見つめていた。
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沙慈が消した写真のデータ。映った写真は長編「ラブファントム」で写真を写す文章があります。
そして、写真を消すお話は読みきり短編の「ＬＯＳＴ ＤＡＴＥ」
どこかで、いろいろと連鎖をしています。それが、冬葉の書き方。
「ライル」
「元気にしてっか？」
「はい。どうぞ、部屋の中へ。紅茶を入れますね」
刹那が去った後、ライルがティエリアの部屋を訪ねてきた。
ティエリアは、柔らかな笑顔でライルを迎える。
最高級のマイセンの対になったカップにアッサムの紅茶をいれたティーポットで、コポコポと紅茶を入れていく。甘い香りが漂う。ティエリアが好む紅茶はアッサムの中でも高級品でとても高い。味も素晴らしい。
「俺はティエリアがいれてくれる紅茶が好きだ」
「ありがとうございます」
それぞれ、椅子に座りながら、紅茶を飲んでいく。
「甘いな」
「少し、僕好みに味を調整していますので。普通の紅茶より甘めかもしれません。お口にあうかどか分からないのですが」
「いや、美味しいぜ？」
「そう言っていただけると、僕も嬉しいです」
「その、お口に合うのか分からないのですが・・・・僕が焼いたクッキーです」
テーブルの中央に置かれた、いびつな形をしたクッキーを、ライルに勧める。
「へぇ、お菓子なんて作れるのか」
「昔、ニールに教わりました」
「兄さんは、料理が得意だったからなぁ。家事の全部を簡単にこなしてた」
「あの人は、とても器用だから」
ふと、懐かしむように思いを馳せる。
料理の腕が壊滅的なティエリアに、根気よくニールは料理を教えてくれた。
何度も何度も失敗した。そのたびに笑って、ニールはティエリアを励ましてくれた。
サクリ。
ライルが、こげたクッキーを食べる。
「うん、意外といける」
「本当ですか！？」
ぱぁぁぁぁあと、花が満開ような笑みが、ティエリアの顔からこぼれる。
「お前さんも食べてみろよ」
クッキーを手に、ライルがティエリアの目の前にもってくる。
それを、ティエリアは口にする。
「・・・・・失敗だと思ってたんです。僕は不器用だから」
「そんなことないぜ？ジャボテンダー抱き枕だって自分で一人で繕えるようになったじゃないか。刹那の話だと、昔は兄さんに繕って貰ってたらしいけど。成長したんだな」
頭を撫でられる。
懐かしいその感触。
「ライル」
「俺は料理なんて全くむりだぜ・・・・・やっぱり、兄さんにはかなわないな」
「そんなことありません。ライルはライルで素敵です」
ライルのことを、好きだと思う。
とても優しいライル。
「そうだ。いいものやるよ」
「？」
ごそごそと、ライルがポケットから大切そうに一枚の写真を取り出す。
「これは・・・」
まだ幼いニールとライルが並んで、やんちゃそうな笑顔で肩を組み合っている写真だった。
「この前のミッションで地上に降りたじゃないか。そのとき、アイルランドの生家に寄ったんだ。兄さんは家族の写真を処分しちまってて・・・俺の部屋に隠してたそれしか、見つからなかった。ほんとはアルバムごとあげたかったけど、ごめんな」
「いいえ、いいえ！」
そっと、大切に写真を受け取る。
サラサラと、首を振ると髪が逃げるように音をたてる。紫紺の髪が、動きにあわせて揺れる。
「わざわざこんな大切なものを・・・僕のためなんかに」
じんと、胸に熱くくるものがあった。
「あんた、沙慈・クロスロードとかいうあいつに、大切にしていた兄さんと映ったたった一つの写真のデータを消されちまったんだろう？バックアップとってなかったっていうし・・・・兄さんの写真、それしかなかった。ごめんな。ほんとは、あんたが愛した兄さんの姿が映った写真をあげたかったけど、兄さんは写真が嫌いで・・・テロで家族を失ってから、俺とも別々に暮らしてたし。兄さんが映ってた写真は、そんな少年時代のものしかなかった。俺の宝物なんだ。大切にしてくれよ？」
「こんな大事なもの・・・・・もらってもいいのですか？」
「俺が持ってるより、あんたが持ってるほうが、絶対兄さんが喜ぶに決まってるから」
ライルは、ニールと同じエメラルドの瞳で、優しくティエリアを見つめる。
「あなたは・・・・優しすぎる」
「そりゃ、惚れた相手には優しくするのが筋ってもんだろうが」
「僕は・・・・・・」
ティエリアは、目を伏せた。長い睫が白い頬に影を落とす。
「愛されなくてもいい。愛している、ティエリア」
椅子から立ち上がったライルが、椅子に座ったままのティエリアの背後から、ティエリアを抱きしめる。
ぎゅっと、抱きしめられる。
「僕はニールのことを・・・・刹那のことを・・・・」
「分かってる。それでも、愛している」
報われないライルの愛。
一途にティエリアを愛するライル。
「ラ、イル・・・・・」
揺れる。
心が、揺れる。
「愛してくれなくてもいいから。今みたいに、傍にいさせてくれ」
「あなたは優しすぎる」
ライルの手を、そっと撫でる。
ナイトクロスが、そんな二人を見つめていた。
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沙慈が消した写真のデータ。映った写真は長編「ラブファントム」で写真を写す文章があります。
そして、写真を消すお話は読みきり短編の「ＬＯＳＴ ＤＡＴＥ」
どこかで、いろいろと連鎖をしています。それが、冬葉の書き方。
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