翡翠に溶ける 大きな発作
1回生の冬になった。
寮の室内にいた。
寒い空気を吸ったのがいけなかったのか、浮竹は久しぶりの肺の発作で血を吐いた。
それまで、影で発作を起こして自分で鎮静剤を打ち、薬を飲んで大人しくしていたので、京楽の前での発作は初めてだった。
影で発作を起こしていた時は、吐血は少しだった。
でも今回の発作は酷く、手の隙間からぼたぼたちと吐いた血を滴らせていた。
「浮竹!」
ひゅっと、呼吸が止まる。
「浮竹!」
「ごほっごほっごほっ・・・・・京楽、服が汚れる・・・」
「そんなことどうでもいいから!今医務室に連れていくから!」
浮竹を横抱きにして、学院に走った。
まだ瞬歩を1回生のため学んでいないのが、もどかしかった。
「浮竹、しっかりして・・・死なないで!」
浮竹は、意識を失っていた。
医務室にいくと、4番隊の隊士が保険医だった。
「血を吐いたんだね?」
「はい」
「山本総隊長から聞いている。肺の病の子がいると。とりあえず、回道をかけよう」
回道をかけられていくうちに、青白かった浮竹の頬に赤みがさしてきた。
「とりあえず、これで大丈夫だろう。鎮静剤はあるかい?」
「あ、はい」
念のため、浮竹の薬箱をもってきていた。
保険医は、慣れた手つきで浮竹の手をアルコール消毒し、鎮静剤を打った。
「これでもう大丈夫。あとは寝かせて、体力が回復するのを待とう。僕も付き合うから、この子を寮の自室へ戻そう」
担架が用意された。
浮竹の体に負担をかけないよう、運んでいく。
「じゃあ、僕はこれで」
「ありがとうございました!」
保険医に礼を言って、眠ったままの浮竹の頬に手を当てる。
暖かかった。
「君が肺病を患っているのを、失念していたよ」
きっと、今までも発作があっても隠してきたんだろう。
京楽は、浮竹の血の付いた院生の服からパジャマに着替えてしまった。そして、眠っている浮竹の血で濡れた院生の服を脱がして、パジャマを着せた。
同じ男とは思えない、華奢で色白な体だった。細い。
抱き寄せると、いつも浮竹からする甘い花の香がした。
それから1週間、浮竹が目覚めることはなかった。あまりにも長いので、点滴が用意された。
4番隊の隊長だという、卯ノ花という優しそうな女性に診てもらったが、久しぶりの大きな発作で体が疲弊していて、今は休養のために眠っているだけだと言われた。
「浮竹・・・・早く、起きて?」
浮竹のいない学院はつまらなかった。
とうとうさぼりだし、浮竹の傍にいた。
「ん・・・・・・」
ゆっくりと、浮竹が瞼をあける。
「浮竹、大丈夫!?」
「腹が、減った・・・」
実に昏睡状態から目覚めるまで、10日を要した。
寝ている間に体をふいてあげたり、髪を洗ってあげたりしたけど、完璧ではない。
「気持ち悪いので、湯浴みしてくる・・・・・」
そういって、ふらつきながら湯殿に消えてしまった。
時間が長いので、大丈夫かと様子を見に行けば、髪を洗っている浮竹を見てしまった。
「なっ!」
浮竹は裸だった。
「ご、ごめん!あんまり長いから、風呂場で倒れているんじゃないかって」
浮竹の裸体を見たのは初めてだった。
点滴だけだったせいで、肋骨が浮きだしそうなくらいにまで、元々細い体から肉が削げ落ちていた。
風呂あがりでさっぱりした浮竹は、まずはオレンジジュースを飲んだ。
体が糖分を欲しているせいか、もうすぐ目覚めるだろうと用意していたおはぎをぺろりと食べてしまった。
「京楽、心配をかけた・・・そのすまないが、京楽家の料理人の飯が食いたい」
「うん、全然いいよ」
料理人を呼んで、簡単なキッチンのついている寮で調理してもらった。
カニ鍋だった。
二人分用意されてあった。
「病み上がりでカニとか無理?」
「いや、大丈夫だ。お腹がすいてすいて・・・でも、食堂の食事では足りなさそうだったから」
カニを、2匹分では足りないかと、3匹分いれて、他の海鮮物と一緒に野菜もいれた。うどんやもちも入れた。
食べ終わると、雑炊にした。、
よほど腹が減っていたのだろう。いつもの2倍は食べた。
「ふう・・・・満足だ。ありがとう、京楽」
「どういたしまして」
京楽家の料理人にも礼を言った。
「ぼっちゃまの想い人のためならば!」
浮竹は真っ赤になった。
「ねぇ」
「ん?」
「君を抱いて寝ていいかな」
「俺はまだ・・・・・」
「ああ、勘違いしないで。ただ、同じベッドで眠るだけ」
「それくらいならいいが・・・・・」
「ちょっとエッチなことしてくるかもしれないよ」
「飯もごちそうになったし、少しくらいなら我慢する」
「やった!」
その日、浮竹と京楽は同じベッドで眠った。
抱き締められて、舌が絡むキスを何度か繰り返してきた。
「んあ・・・・・」
パジャマの中に手が入る。脇腹と胸を撫でられた。
「細いのに、余計に細くなっちゃったね・・・・もっと食べて体力つけて、肉もつけないと」
その日は、それ以上京楽が触ってくることはなかった。
そのまま、二人は眠りに落ちていった。
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