風のウィザード
風のウィザート 月が消える時(月明りの下で続編長編)
始まりの調べ
乾いた風が吹きぬける。
なで上げる旋律はヒュウヒュウとどこまでも乾燥した色を含み、彼は背負っていた剣を外すと、木陰を見つけてそこに座り込んだ。
カッと容赦なく照りつける太陽は、じりじりと大地を焦がし続ける。
生きる者から力を奪うような、そんな照りつけを見上げて、目深に被ったフードを少しだけずらして、彼は太陽を睨む。
それから、空間ポケット、この世界において非常に旅などに役にたつ、亜空間に繋がる、旅に必要なアイテムや生活必需品――毛布などや、武器から携帯食料まで。いろんなものを詰め込むことができる、ギルド認定の空間ポケットを呼び出すと、そこから水筒を取り出して、彼はごくごくと喉を鳴らして一気に中身の水を飲み干した。
「暑い――だるい」
乾燥地方独特の水気のない、からからとした乾いた空気と景色が何処までも続いている。
生い茂る植物といえば、ほぼ枯れているかほとんどがサボテンや砂漠地方独特のもの。暑い乾燥地帯に適応した植物ばかりだ。
今彼が座っている大木も、この乾燥砂漠に適応して、木の葉がほとんどなく、幹に水分を蓄える植物として有名だ。
「すまない、少しだけ・・・」
彼は、岩と砂利にまみれた地面に置いていた剣を抜き放つと、大木の幹に穴をあけて、そこから流れ出る水分を水筒に集めた。
「ありがとう」
幹を手で撫でて、礼を言ってから、口早に回復呪文を唱えると、水分を提供してくれた大木にかける。
見る見るうちに、剣で致命的な穴をあけられた大木の穴が塞がっていく。
回復魔法は水・緑・光の3種類の属性のものがこの世界では当たり前に存在するが、彼は風の魔法を回復魔法にした。
とても珍しいことだ、これは。風の回復魔法など、どの魔法辞典を覘いても書かれていないだろう。
人が作り出した魔法ではなく、自分自らの手によって編み出した魔法だろうか。
風は主に飛行・スピードアップといった補助的なものがメインで、後は攻撃系の魔法ばかり。
才能があっても、新しい魔法を生み出すことなどほぼ不可能に近い。
「・・・・・・遠いな、まだ先か」
彼は、陽炎のように揺らめく大地の先を見据えて、剣を背負い直す。
空間ポケットをしまいこんで、呪文を唱え出した。
「ラ・サーラ・リ・エーダ。我は風となり鳥となり羽ばたかん」
それは、この世界でごく平凡でもある飛翔のための呪文。
風の上位魔法だ。
背中に白い翼を生やし、そして一気に空を飛ぶ魔法。風の恩恵を得て、速度は速まり使いこなせるようになれば自在に空を翔け回ることもできる。
「できれば歩いて行きたかったけど、この地帯は無理だね」
ため息をついて、遥か眼下に広がる景色を見やる。
冷たく乾燥した風が、彼の体を包み込む。
上空にまでくると、砂埃はあまりなくて助かると、一人ごちた。
「飛べ、一気に翔け抜けろ!」
何かに命令するように、彼は大きな白い一対の翼を羽ばたかせて、乾燥地帯を横断する。
すれ違うハゲワシが、驚いた声をあげてこっちを見てくる。
さも愉快そうに、彼はハゲワシを放った風の魔法でからかうと、飛翔するスピードをあげた。
あのハゲワシは、一昨日からこちらを獲物として上空を旋回していたやつだ。旅で力尽きて、ハゲワシやらハイエナの餌食となって、白骨化した骨もたまに見ることができる、周囲に集落も村もオアシスもない、完全に孤立した乾燥砂漠。
横断すると決めた時、食料などを最後に買い込んだ店で止められた。
「あのアララ砂漠を横断するって!?止めとけ、命あってのもんだぜ!あそこは駱駝を数匹連れたキャラバンだって通らない難関な場所だぞ。移動するなら、隣の国にいってそこから船に乗ればいい」
「船は無理だ」
「どうしてだ。確かに費用は高くつくかもしれんが・・・・」
「酔うから」
キッパリと言い放った彼は、店主が見る限り年若い少年の印象であった。フードを目深に被っているため、顔までは分からないが声は少年のものだ。
「酔うからってお前さん、なんつー理由」
「船に乗るくらいなら泳ぐ」
彼はきっぱり言い放ってアララ砂漠を横断することを決行した。
パチパチと、火の爆ぜる音がする。
彼は空間ポケットからリュートと取り出すと爪弾き、生まれ育った故郷の曲を弾く。
それを聞くのは、空間ポケットにつっこんでおいた旅の連れの、一匹の黒い毛並みを持った狼。
「主、望郷の念が消えぬか?」
「そうでもない、ラグドエル――」
彼は、その黒い狼をあろうことか、闇の精霊ドラゴン「ラグドエル」と呼んだ。
黒い狼の周囲には闇が静かに渦巻き、その狼が闇の精霊ドラゴンかの名高き、精霊ドラゴンを従えた竜の子が、全ての精霊ドラゴンを身に宿した時に現れる「ラグドエル」と同じ存在であるのだと、静かに語っていた。
深淵の漆黒。
渦巻く闇がもれている。
「ラグドエル。何故、今になって僕の元に戻ってきた。新しい主を見つけたのだろう。黒き聖なる一族。竜の子を」
「私は元より契約をする他の精霊ドラゴンとは違う。光のレイシャと同じく、求められた時に姿を現すのみ」
「それが、僕の前で尻尾振って・・・ポチって呼んでいい?」
「ダメー(゚Д゚)」
ラグドエルは、ふりふりと尻尾を振りながら(どうしても、止まらないらしい)、リュートを女よりも美しい白い手でつま弾く、自らの主と呼ぶ存在を凝視するように金色の視線を固める。
桜色の爪が、綺麗な旋律を空に放って、ラグドエルの鼓膜を刺激する。
良い曲だ。綺麗な。素直に、ラグドエルはそう思った。
「主は、主のみ。そう、私を生み出したあなたのみ――」
「いつの話だいそれ」
彼は、目深に被っていたフードを下ろした。
サラサラとした髪が零れ落ちて綺麗な音を立てる。
緑銀の髪。肩までの高さで切り揃えられている。瞳の色は――金色。琥珀に近いが、精霊ドラゴンたちがもつ金色だ。
右目は金色の中に僅かに朱の色を交えており、オッドアイだった。
「主、いつもかわらず美しいな―――」
ポロンと、リュートの音が大地に零れ落ちた。
緑銀の髪を揺らして、その少年は空に浮かぶ三つの月を仰ぐ。
「ライラシエル」
ポロン。
旋律が乱れた。
「ライラシエル・ジル・サーラ」
「うるさいよ、ラグドエル」
少年の少し高めな声。それさえも美しい。ラグドエルを睨むその双眸。その露になった顔のなんと美しきことか。
見た目は少女のような面立ちだ。だが何処かに中性的な色をくっきり残している。
真っ白な、旅で汚れもしていない肌に、紅い唇、長い睫は影を色濃く作っている。
ライラシエルと呼ばれた少年は、いや少女か?どちらとも分からないが、言動からして少年だろう。
そう、ラグドエルは思った。
精霊ドラゴンに性別などあやふやであるように、彼もまた、性別という枠に囚われることなどないだろうが、あえて人型をとるのであれば性別はあったほうが便利か。
「ではジルと呼ぼう。そう、風精(ジル)と」
「それでいいよ。さぁ、もうお休み。子供は寝る時間だよ。ラグドエル、お前も寝なさい」
「主もな(゚Д゚)」
この精霊ドラゴンは、どこか変だ。主であるライラシエルに向かって、変な言葉を宙に浮かばせる。俗にいう顔文字というやつか。
「うっさいわ」
すっとーんと、ライラシエルは、手元にあった小さな石をラグドエルに向かって投げる。
「ワン!」
それを尻尾を振ってキャッチするラグドエルは、尻尾をちぎれんばかりに振っている自分に嫌悪した。
「なぜに私はこのような・・・」
「犬だよね。狼ぽいけど」
「私は、気高き闇の精霊ドラゴン・・・」
「尻尾ぶんぶん振って、言う台詞じゃないよ」
「く~ん」
悲しそうにラグドエルは喉を鳴らした。
ライラシエルは爆ぜる火に薪を新しくくべると、そのままも毛布をしいて横になった。ラグドエルも横に寄り添って寝そべってくる。
「良い夢を。僕の闇の王」
「主も良い夢を」
一人と一匹は、互いに寄り添い合って、氷点下まで下がるアララ砂漠の夜を迎えるのであった。
小鳥の鳴き声もしない、寂寥とした朝を迎える。冷え切った体を温めるように、ライラシエルは火の魔法を唱えた。
「炎の光よ我に力を。ファイア」
ぼっと、消えたしまった薪の燃えカスに新しい魔力による炎が宿り、ライラシエルの白い頬を照らした。
「主、起きたか」
「一時間後には出発する。空は飛べるか?」
「飛べる」
ラグドエルは尻尾をふりふり応える。精霊ドラゴンは、空さえも自由に駆け抜ける。
空間ポケットを取り出して、簡素な食事をとる。ラグドエルは、本当は何も食べなくても平気なのに、ライラシエルの手から干し肉をもらって美味しそうに食べていた。
「お前・・・どんどん犬っぽくなってない?」
「気のせいだ( ´Д`)」
「なんかその、いちいち宙に変な言霊を浮かべるの止めろ。むかつく」
「やだ(゚Д゚)」
一人と一匹は、アララ砂漠の真ん中で朝食をとり終わると、出立のために立ち上がった
「ラ・サーラ・リ・エーダ。我は風となり鳥となり羽ばたかん」
背中に翼を生やし、飛翔するライラシエルの後を続いて、巨大な3メートルの姿になったラグドエルが、黒い狼の姿で空を走る。
ザッ、ザッと、非常識にも空を走っているのに大地を走っているような音を立てている。
「目指すはリトリア王国の魔法ギルド―――」
「風のウィザード健在と?」
横を駆け抜けるラグドエルが、面白そうに主であるライラシエルを追い越した。
「そうだな。風のウィザードと自ら名乗る輩が世界には何人もいるそうだが」
「ならば、主もその一人だな。はははは」
「つまらない冗談だ」
「ごめんなさい(゚Д゚)」
風の刃を放たれて、ラグドエルはライラシエルと距離を保って離れてついていく
続く
始まりの調べ
乾いた風が吹きぬける。
なで上げる旋律はヒュウヒュウとどこまでも乾燥した色を含み、彼は背負っていた剣を外すと、木陰を見つけてそこに座り込んだ。
カッと容赦なく照りつける太陽は、じりじりと大地を焦がし続ける。
生きる者から力を奪うような、そんな照りつけを見上げて、目深に被ったフードを少しだけずらして、彼は太陽を睨む。
それから、空間ポケット、この世界において非常に旅などに役にたつ、亜空間に繋がる、旅に必要なアイテムや生活必需品――毛布などや、武器から携帯食料まで。いろんなものを詰め込むことができる、ギルド認定の空間ポケットを呼び出すと、そこから水筒を取り出して、彼はごくごくと喉を鳴らして一気に中身の水を飲み干した。
「暑い――だるい」
乾燥地方独特の水気のない、からからとした乾いた空気と景色が何処までも続いている。
生い茂る植物といえば、ほぼ枯れているかほとんどがサボテンや砂漠地方独特のもの。暑い乾燥地帯に適応した植物ばかりだ。
今彼が座っている大木も、この乾燥砂漠に適応して、木の葉がほとんどなく、幹に水分を蓄える植物として有名だ。
「すまない、少しだけ・・・」
彼は、岩と砂利にまみれた地面に置いていた剣を抜き放つと、大木の幹に穴をあけて、そこから流れ出る水分を水筒に集めた。
「ありがとう」
幹を手で撫でて、礼を言ってから、口早に回復呪文を唱えると、水分を提供してくれた大木にかける。
見る見るうちに、剣で致命的な穴をあけられた大木の穴が塞がっていく。
回復魔法は水・緑・光の3種類の属性のものがこの世界では当たり前に存在するが、彼は風の魔法を回復魔法にした。
とても珍しいことだ、これは。風の回復魔法など、どの魔法辞典を覘いても書かれていないだろう。
人が作り出した魔法ではなく、自分自らの手によって編み出した魔法だろうか。
風は主に飛行・スピードアップといった補助的なものがメインで、後は攻撃系の魔法ばかり。
才能があっても、新しい魔法を生み出すことなどほぼ不可能に近い。
「・・・・・・遠いな、まだ先か」
彼は、陽炎のように揺らめく大地の先を見据えて、剣を背負い直す。
空間ポケットをしまいこんで、呪文を唱え出した。
「ラ・サーラ・リ・エーダ。我は風となり鳥となり羽ばたかん」
それは、この世界でごく平凡でもある飛翔のための呪文。
風の上位魔法だ。
背中に白い翼を生やし、そして一気に空を飛ぶ魔法。風の恩恵を得て、速度は速まり使いこなせるようになれば自在に空を翔け回ることもできる。
「できれば歩いて行きたかったけど、この地帯は無理だね」
ため息をついて、遥か眼下に広がる景色を見やる。
冷たく乾燥した風が、彼の体を包み込む。
上空にまでくると、砂埃はあまりなくて助かると、一人ごちた。
「飛べ、一気に翔け抜けろ!」
何かに命令するように、彼は大きな白い一対の翼を羽ばたかせて、乾燥地帯を横断する。
すれ違うハゲワシが、驚いた声をあげてこっちを見てくる。
さも愉快そうに、彼はハゲワシを放った風の魔法でからかうと、飛翔するスピードをあげた。
あのハゲワシは、一昨日からこちらを獲物として上空を旋回していたやつだ。旅で力尽きて、ハゲワシやらハイエナの餌食となって、白骨化した骨もたまに見ることができる、周囲に集落も村もオアシスもない、完全に孤立した乾燥砂漠。
横断すると決めた時、食料などを最後に買い込んだ店で止められた。
「あのアララ砂漠を横断するって!?止めとけ、命あってのもんだぜ!あそこは駱駝を数匹連れたキャラバンだって通らない難関な場所だぞ。移動するなら、隣の国にいってそこから船に乗ればいい」
「船は無理だ」
「どうしてだ。確かに費用は高くつくかもしれんが・・・・」
「酔うから」
キッパリと言い放った彼は、店主が見る限り年若い少年の印象であった。フードを目深に被っているため、顔までは分からないが声は少年のものだ。
「酔うからってお前さん、なんつー理由」
「船に乗るくらいなら泳ぐ」
彼はきっぱり言い放ってアララ砂漠を横断することを決行した。
パチパチと、火の爆ぜる音がする。
彼は空間ポケットからリュートと取り出すと爪弾き、生まれ育った故郷の曲を弾く。
それを聞くのは、空間ポケットにつっこんでおいた旅の連れの、一匹の黒い毛並みを持った狼。
「主、望郷の念が消えぬか?」
「そうでもない、ラグドエル――」
彼は、その黒い狼をあろうことか、闇の精霊ドラゴン「ラグドエル」と呼んだ。
黒い狼の周囲には闇が静かに渦巻き、その狼が闇の精霊ドラゴンかの名高き、精霊ドラゴンを従えた竜の子が、全ての精霊ドラゴンを身に宿した時に現れる「ラグドエル」と同じ存在であるのだと、静かに語っていた。
深淵の漆黒。
渦巻く闇がもれている。
「ラグドエル。何故、今になって僕の元に戻ってきた。新しい主を見つけたのだろう。黒き聖なる一族。竜の子を」
「私は元より契約をする他の精霊ドラゴンとは違う。光のレイシャと同じく、求められた時に姿を現すのみ」
「それが、僕の前で尻尾振って・・・ポチって呼んでいい?」
「ダメー(゚Д゚)」
ラグドエルは、ふりふりと尻尾を振りながら(どうしても、止まらないらしい)、リュートを女よりも美しい白い手でつま弾く、自らの主と呼ぶ存在を凝視するように金色の視線を固める。
桜色の爪が、綺麗な旋律を空に放って、ラグドエルの鼓膜を刺激する。
良い曲だ。綺麗な。素直に、ラグドエルはそう思った。
「主は、主のみ。そう、私を生み出したあなたのみ――」
「いつの話だいそれ」
彼は、目深に被っていたフードを下ろした。
サラサラとした髪が零れ落ちて綺麗な音を立てる。
緑銀の髪。肩までの高さで切り揃えられている。瞳の色は――金色。琥珀に近いが、精霊ドラゴンたちがもつ金色だ。
右目は金色の中に僅かに朱の色を交えており、オッドアイだった。
「主、いつもかわらず美しいな―――」
ポロンと、リュートの音が大地に零れ落ちた。
緑銀の髪を揺らして、その少年は空に浮かぶ三つの月を仰ぐ。
「ライラシエル」
ポロン。
旋律が乱れた。
「ライラシエル・ジル・サーラ」
「うるさいよ、ラグドエル」
少年の少し高めな声。それさえも美しい。ラグドエルを睨むその双眸。その露になった顔のなんと美しきことか。
見た目は少女のような面立ちだ。だが何処かに中性的な色をくっきり残している。
真っ白な、旅で汚れもしていない肌に、紅い唇、長い睫は影を色濃く作っている。
ライラシエルと呼ばれた少年は、いや少女か?どちらとも分からないが、言動からして少年だろう。
そう、ラグドエルは思った。
精霊ドラゴンに性別などあやふやであるように、彼もまた、性別という枠に囚われることなどないだろうが、あえて人型をとるのであれば性別はあったほうが便利か。
「ではジルと呼ぼう。そう、風精(ジル)と」
「それでいいよ。さぁ、もうお休み。子供は寝る時間だよ。ラグドエル、お前も寝なさい」
「主もな(゚Д゚)」
この精霊ドラゴンは、どこか変だ。主であるライラシエルに向かって、変な言葉を宙に浮かばせる。俗にいう顔文字というやつか。
「うっさいわ」
すっとーんと、ライラシエルは、手元にあった小さな石をラグドエルに向かって投げる。
「ワン!」
それを尻尾を振ってキャッチするラグドエルは、尻尾をちぎれんばかりに振っている自分に嫌悪した。
「なぜに私はこのような・・・」
「犬だよね。狼ぽいけど」
「私は、気高き闇の精霊ドラゴン・・・」
「尻尾ぶんぶん振って、言う台詞じゃないよ」
「く~ん」
悲しそうにラグドエルは喉を鳴らした。
ライラシエルは爆ぜる火に薪を新しくくべると、そのままも毛布をしいて横になった。ラグドエルも横に寄り添って寝そべってくる。
「良い夢を。僕の闇の王」
「主も良い夢を」
一人と一匹は、互いに寄り添い合って、氷点下まで下がるアララ砂漠の夜を迎えるのであった。
小鳥の鳴き声もしない、寂寥とした朝を迎える。冷え切った体を温めるように、ライラシエルは火の魔法を唱えた。
「炎の光よ我に力を。ファイア」
ぼっと、消えたしまった薪の燃えカスに新しい魔力による炎が宿り、ライラシエルの白い頬を照らした。
「主、起きたか」
「一時間後には出発する。空は飛べるか?」
「飛べる」
ラグドエルは尻尾をふりふり応える。精霊ドラゴンは、空さえも自由に駆け抜ける。
空間ポケットを取り出して、簡素な食事をとる。ラグドエルは、本当は何も食べなくても平気なのに、ライラシエルの手から干し肉をもらって美味しそうに食べていた。
「お前・・・どんどん犬っぽくなってない?」
「気のせいだ( ´Д`)」
「なんかその、いちいち宙に変な言霊を浮かべるの止めろ。むかつく」
「やだ(゚Д゚)」
一人と一匹は、アララ砂漠の真ん中で朝食をとり終わると、出立のために立ち上がった
「ラ・サーラ・リ・エーダ。我は風となり鳥となり羽ばたかん」
背中に翼を生やし、飛翔するライラシエルの後を続いて、巨大な3メートルの姿になったラグドエルが、黒い狼の姿で空を走る。
ザッ、ザッと、非常識にも空を走っているのに大地を走っているような音を立てている。
「目指すはリトリア王国の魔法ギルド―――」
「風のウィザード健在と?」
横を駆け抜けるラグドエルが、面白そうに主であるライラシエルを追い越した。
「そうだな。風のウィザードと自ら名乗る輩が世界には何人もいるそうだが」
「ならば、主もその一人だな。はははは」
「つまらない冗談だ」
「ごめんなさい(゚Д゚)」
風の刃を放たれて、ラグドエルはライラシエルと距離を保って離れてついていく
続く
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