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いい湯だなぁ

「1、10、100」
「はいはい、おとなしく100まで数えような」
真っ白なタオルを頭に乗せて、裸体のティエリアが、湯の中でじっと足を抱えていた。
お湯は桃の湯とかいうのを選んだせいで、そんな気分でもないのにピンクだ。いい匂いがする。甘ったるい、鼻孔をくすぐる桃の臭いに、湯あたりするまでの間隔が短くなりそうな気がした。

そう広くもない、部屋に備え付けのバスルームで、二人揃って入浴するのはいいが、二人揃ってバスタブに入るのには少し無理がある。
おまけに、ティエリアはいつものようにジャボテンダーを湯船の中に沈めているし。

大分、湯はそこに加重された体積の分、流れていってしまった。

「この桃の天然水好きです」
「それ飲み物だから。これ飲めないから。これは「桃の湯」だ」
「桃の天然水のお湯があったら素敵だと思いませんか。甘くて、飲み放題です」
「いや、そんなお湯に入りたくないから」
ほんと、そんな湯があったら体中べとべとして入るにも入れないだろうと思った。

紫紺の髪を、バレッタでまとめあげて、ティエリアのうなじが丸見えで、いつもは見えないそんな場所に視線がいってしまう。
中性なので胸なんか絶壁だし、女性がもつロックオンの好きな大人の色香なんか全くないティエリアであるが、ティエリアは無垢で純粋で、そしてただひたすらに綺麗だ。
色気がないわけではない。湯につかっていることで、上気した頬とか。
真っ白な肌、白皙の美貌は柔らかで、大分リラックスしていると分かる。
綺麗に整えられた爪が、ロックオンの肩に触れる。

「また、伸びてきたな。今度、切ろうな」
「爪くらい、自分で切れます」
「綺麗に伸ばしてるのに。勿体ないからだめ。俺が切る」
ティエリアに任せれば、綺麗に整えられた爪も深爪ぎりぎりのところまで切ってしまうし、おまけに長さがばらばらになるし、磨くことをしないので、ひっかかれた時にとても痛いのだ。
綺麗に長く伸びていても、先を丸くなるように磨いていれば、引っかかれても、痛いことは痛いが、まだ我慢できる範囲になることに気づいたのは、もう一年以上も前か。

こうしてティエリアと同じ部屋で生活しだしてから、気づいたことがたくさんある。
ジャボテンダーを風呂にいれるのだって、その一つ。
まぁ、干すのはロックオンなんだけど。

眼鏡を外した裸眼のティエリアは、視力が悪いというわけではない。イノベイターとして、人工光にも太陽光にも弱い眼球を、眼鏡で保護しているのだから。
キラリと、バスルームの光が目に入って、ティエリアは目をこすった。
「目が、痛い」
「どうした?ゴミか睫でも入ったか?」

伏せられたティエリアの睫は、頬に影を作るほどに長い。
「違います。最近ずっと裸眼だったから・・・」
「ああ、そうか」

一緒にいるようになって、気づいたこと。
彼の眼は、眼鏡がないと光に弱い。そして闇に強い。明かりもない中、彼の瞳はものを見ることができる。時折、闇夜の中で、彼の柘榴色の瞳は、まるで刹那のような真紅の光を宿して輝き、更に暗くなると金色になって、ロックオンを驚かせたことも数えきれない。
一緒のベッドで眠っていたはずなのに、いないと気付いてトレミーを探して、暗いままの食堂の奥で金色の視線をこちらに向けられたあの時。
まるで、しなやかながらも残酷な豹に睨まれた錯覚に陥った。

窓の外の星の海を眺めていたのだと、ジャボテンダーを抱きしめながらティエリアは、あの時言った。遠い遠い昔に造られた兄弟たちと、あの光を見て目覚めるのを切実に願っていたのだと。
覚醒もしていない状態で、星の光が見れたのは、きっとリンクしているヴェーダのせいだろう。

人に恋してはいけないよ。
そう教えてくれたヴェーダに離反するような形となり、結局リンクは切れて、ティエリアは激しく動揺し、生まれて初めて真の孤独にぶち当たった。
でも、気づけば一人じゃないことに、視野を広げればわかることができた。
ロックオンがいる。
アレルヤも刹那も。トレミーのたくさんの仲間たちがいる。

例え彼らが人間で、自分がイノベイターという不老の新人類でも。
その間に愛を築くとができるのだと、たとえ女としても男としてもあやふやの中性で生まれてきても、人に愛されることができるのだと分かったのだから。

生まれてきてよかったと、思う。


「ジャボテンダーさんが桃の天然水を飲みたいといっています」
水分を含んで重くなったジャボテンダーを、湯船の底から振り上げて、ロックオンをはたいた。
「あべし!」
ロックオンは、ジャボテンダーにのしかかられて、湯の中でぶくぶくいっていた。
「はいはい、風呂からあがったらちゃんと冷えてるのあるから、一緒に飲もうな」

桃の湯も好きだけれど。桃の天然水も好きだ。あの甘さと爽やかなまでの清涼感。まるで、二人の恋みたいだと、ティエリアはジャボテンダーで顔を隠して照れた。

甘いくらいに仲がよくて。でもロックオンは大人でとってもかっこよくって。それに惚れてしまって、女子学生がするような初恋の甘酸っぱさと、恋が実ったことでついてくる清涼感があるから。

「ロックオン」
「ん?」

「大好き、です」

ジャンボテンダーをバスタブから放り出して、ティエリアは手を伸ばして、ロックオンの緩くウェーブのかかった茶色の髪に、長い爪と細い指を絡めて、耳元で囁いてから、ほっぺたにキスをした。

「って、ティエリアぁぁぁぁ!?」
「ふにゃああ。湯あたりですねこれ・・・・」

ふにゃふにゃにふやけたティエリアを抱き上げようとして、彼が面倒だといってバスタオルをいつものように巻いていないことに気づいて、どこに視線を合わせていいのかわからなくなって、ロックオンは赤面する。
肌だって何度も重ね合ってきたというのに。
いつだって、気分は初恋。

腰にしっかり巻いたタオルを、ふにゃふにゃしたティエリアにもっていかれそうになって、慌ててバスルームから出ると、ティエリアを大きめのバスタオルで包み込んで、自分もバスタオルを被った。

そんな光景を、ずっと風呂場に残されたジャボテンダーさんが、「いい湯だなぁ」って顔して、見てましたとさ。

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