喪服2(2期)
黒い服に赤いターバンを首に巻いて、刹那は無言でロックオンの墓の前に立っていた。備えたのは白い百合の花。
艶やかに咲いて、甘い匂いが鼻孔をくすぐった。
「あんたは・・・・・間違っていない」
彼がしたことを、否定するのではなく肯定する。
家族の仇は結局うてなかったのだが、代わりに刹那がうつと、もう心に決めていた。
あの時、刹那の機体がもっと早く到着していれば、あるいはニール・ディランディはロックオン・ストラストのまま死ぬことはなかったかもしれない。だがそれは仮定の話であって、事実はどうなったか分からない。
「あんたの夢は俺が叶える」
世界から、テロを、紛争をなくすことを。
彼の代わりに、成し遂げてみせよう。そう強く心に誓う。
「そしてあんたは置いていってしまったな」
誰でもない、ティエリア・アーデというもう一人のガンダムマイスターを。ティエリアとロックオンは恋人同士だった。トレミーの誰もが知る仲の良さだった。
それさえも捨てて、命を投げ出したロックオン。
それが愚かなのかは分からない。
ロックオンのことが分かるのは、やはり彼自身なのだから。
「じゃあな。またくる」
「おっと。刹那か」
すれ違いになったのは、今のロックオン・ストラトスことライル・ディランディだった。
「今日は命日だそうだから。朝にはティエリアもきてたぜ。アレルヤと一緒に」
「そうか。ティエリアもアレルヤも、この日は忘れていないんだな」
ニールが散ってしまった敗北の日を。
誰もが忘れることができない。心に刻まれたままだ。その日の出来事は。その日のまま、ティエリアは時間が凍り付いたように生きている。それを溶かすことができるのは、今は刹那ただ一人だった。
「俺は先に宇宙に戻る。あんたはどうするんだ」
「いや、このアイルランドには生家があるんだよ。兄さんが管理してたみたいだけど、流石に無人の時間が長いと荒れるからな。ちょっと掃除とかしにいく予定だ」
「ああ・・・・それなら、ティエリアが合い鍵をもらっていたらしい。家の管理もある程度はティエリアがしていたと思う」
「そうなのか。あのかわいい教官殿がねぇ」
ティエリアになら、生家をいじられてもいいかと、ライルは空を見上げた。
「じゃあ、宇宙で会おう」
「ああ」
刹那は、止めてあった黒い車に乗って去って行った。次は、ライルが墓参りにくる番だった。
「さて、兄さん。兄さんが死んだなんていまだに実感がわかないよ。俺たち、ずっと離れ離れだったからな。今俺は兄さんの名前を受け継いでCBにいるんだ。ガンダムマイスターになったよ」
墓前にそっと置くのは、刹那が備えたのと同じ白い百合の花だった。
「こんな場面に薔薇とか、ちょっと悲哀すぎるもんなぁ。日本では菊が定番と聞いたが・・・・あいにくそんなもの売ってねーし。ここはアイルランドだしな」
ディランディ家の墓前には、アレルヤとティエリアが捧げただろう、白い薔薇の花が置いてあった。そして、さっき来ていた刹那がおいてあった白い百合の花も。
「花が重なっちまったみたいだが、ま、許してくれよな」
それじゃあな、と、ひらひら手を振って、ライルはスポーツカーに乗り込むとエンジンをかける。そのままディランディ家の墓前から消えていった。
それを待っていたのは、ティエリアだった。
ずっと、墓の近くにある休憩所で、アレルヤを先に宇宙に帰して日が暮れるのを待っていたのだ。
イノベイターであるティエリアの瞳が、黄金がまじった銀色に輝く。
「流石に命日は、皆来るな・・・・」
少しでも、彼の近くにいたかった。少なくとも、今日だけは。
「もう何度目だろうな。ここに来るのは」
季節が移り替わる前、雨が降っている中、刹那に運転を頼んでは墓参りにきた。その時捧げた花は深紅の薔薇だった。今回はアレルヤも一緒だったので、白い薔薇にした。
「今日で、宇宙に戻ります。また、来ます」
それだけ言い残して、深く頭(こうべ)を垂れた後、ティエリアは少しずつディランディ家の墓から離れていく。
首都圏までは遠いが、近くにバス亭がある。
行きはタクシーでアレルヤときて、アレルヤはタクシーで同じように戻って行った。
また、来年命日が来て、生きていたならガンダムマイスターたちは、この墓を訪れるだろう。ティエリアはもう5年以上、ほぼ季節が移ろうごとに墓参りにきている。
アロウズのこともあり、これから先はしばらく墓参りは無理だろう。
戦闘がどんどん重くなっていく。
世界は、歪んだままだ。
この世界をいつか、歪みのない世界にしたい。
ガンダムマイスターであれば、誰でも思うこと。
ティエリアは、もう泣かない。最初にこの墓を見つけた時は、号泣した。もう、涙も枯れ果てた。
5年間、たくさん泣いてきた。夢を見ては目覚めた。
もう、流す涙も乾いてしまったけれど、心は今でも泣いている。
それを押し殺して、ティエリアは空を見上げた。
夕暮れの藍色を帯びた紫の空が、純粋に綺麗だった。さわさわと緑を揺らす風に、紫紺の髪がもっていかれる。
一度後ろを振り返ったあと、目を一度閉じてから、前を向いて歩き出す。
刹那、アレルヤ、ロックオンとなったライルと、そしてトレミーの仲間と共に。
艶やかに咲いて、甘い匂いが鼻孔をくすぐった。
「あんたは・・・・・間違っていない」
彼がしたことを、否定するのではなく肯定する。
家族の仇は結局うてなかったのだが、代わりに刹那がうつと、もう心に決めていた。
あの時、刹那の機体がもっと早く到着していれば、あるいはニール・ディランディはロックオン・ストラストのまま死ぬことはなかったかもしれない。だがそれは仮定の話であって、事実はどうなったか分からない。
「あんたの夢は俺が叶える」
世界から、テロを、紛争をなくすことを。
彼の代わりに、成し遂げてみせよう。そう強く心に誓う。
「そしてあんたは置いていってしまったな」
誰でもない、ティエリア・アーデというもう一人のガンダムマイスターを。ティエリアとロックオンは恋人同士だった。トレミーの誰もが知る仲の良さだった。
それさえも捨てて、命を投げ出したロックオン。
それが愚かなのかは分からない。
ロックオンのことが分かるのは、やはり彼自身なのだから。
「じゃあな。またくる」
「おっと。刹那か」
すれ違いになったのは、今のロックオン・ストラトスことライル・ディランディだった。
「今日は命日だそうだから。朝にはティエリアもきてたぜ。アレルヤと一緒に」
「そうか。ティエリアもアレルヤも、この日は忘れていないんだな」
ニールが散ってしまった敗北の日を。
誰もが忘れることができない。心に刻まれたままだ。その日の出来事は。その日のまま、ティエリアは時間が凍り付いたように生きている。それを溶かすことができるのは、今は刹那ただ一人だった。
「俺は先に宇宙に戻る。あんたはどうするんだ」
「いや、このアイルランドには生家があるんだよ。兄さんが管理してたみたいだけど、流石に無人の時間が長いと荒れるからな。ちょっと掃除とかしにいく予定だ」
「ああ・・・・それなら、ティエリアが合い鍵をもらっていたらしい。家の管理もある程度はティエリアがしていたと思う」
「そうなのか。あのかわいい教官殿がねぇ」
ティエリアになら、生家をいじられてもいいかと、ライルは空を見上げた。
「じゃあ、宇宙で会おう」
「ああ」
刹那は、止めてあった黒い車に乗って去って行った。次は、ライルが墓参りにくる番だった。
「さて、兄さん。兄さんが死んだなんていまだに実感がわかないよ。俺たち、ずっと離れ離れだったからな。今俺は兄さんの名前を受け継いでCBにいるんだ。ガンダムマイスターになったよ」
墓前にそっと置くのは、刹那が備えたのと同じ白い百合の花だった。
「こんな場面に薔薇とか、ちょっと悲哀すぎるもんなぁ。日本では菊が定番と聞いたが・・・・あいにくそんなもの売ってねーし。ここはアイルランドだしな」
ディランディ家の墓前には、アレルヤとティエリアが捧げただろう、白い薔薇の花が置いてあった。そして、さっき来ていた刹那がおいてあった白い百合の花も。
「花が重なっちまったみたいだが、ま、許してくれよな」
それじゃあな、と、ひらひら手を振って、ライルはスポーツカーに乗り込むとエンジンをかける。そのままディランディ家の墓前から消えていった。
それを待っていたのは、ティエリアだった。
ずっと、墓の近くにある休憩所で、アレルヤを先に宇宙に帰して日が暮れるのを待っていたのだ。
イノベイターであるティエリアの瞳が、黄金がまじった銀色に輝く。
「流石に命日は、皆来るな・・・・」
少しでも、彼の近くにいたかった。少なくとも、今日だけは。
「もう何度目だろうな。ここに来るのは」
季節が移り替わる前、雨が降っている中、刹那に運転を頼んでは墓参りにきた。その時捧げた花は深紅の薔薇だった。今回はアレルヤも一緒だったので、白い薔薇にした。
「今日で、宇宙に戻ります。また、来ます」
それだけ言い残して、深く頭(こうべ)を垂れた後、ティエリアは少しずつディランディ家の墓から離れていく。
首都圏までは遠いが、近くにバス亭がある。
行きはタクシーでアレルヤときて、アレルヤはタクシーで同じように戻って行った。
また、来年命日が来て、生きていたならガンダムマイスターたちは、この墓を訪れるだろう。ティエリアはもう5年以上、ほぼ季節が移ろうごとに墓参りにきている。
アロウズのこともあり、これから先はしばらく墓参りは無理だろう。
戦闘がどんどん重くなっていく。
世界は、歪んだままだ。
この世界をいつか、歪みのない世界にしたい。
ガンダムマイスターであれば、誰でも思うこと。
ティエリアは、もう泣かない。最初にこの墓を見つけた時は、号泣した。もう、涙も枯れ果てた。
5年間、たくさん泣いてきた。夢を見ては目覚めた。
もう、流す涙も乾いてしまったけれど、心は今でも泣いている。
それを押し殺して、ティエリアは空を見上げた。
夕暮れの藍色を帯びた紫の空が、純粋に綺麗だった。さわさわと緑を揺らす風に、紫紺の髪がもっていかれる。
一度後ろを振り返ったあと、目を一度閉じてから、前を向いて歩き出す。
刹那、アレルヤ、ロックオンとなったライルと、そしてトレミーの仲間と共に。
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