エンシェントエルフとダークエルフ26
「ふふ・・・・このキメラは、そこいらのキメラとは違う」
そのキメラは、足はケルピーの足でできており、尻尾はデッドリーポイズンスネーク、胴はドラゴン、翼はペガサス、頭はダークエルフだった。
「ああああああ!!」
人語を話すキメラは、ある遺跡で、やってくる冒険者たちを次々と殺していった。
Sランク指定の、変異キメラであった。
イアラ帝国のウララ高原にある、スキア帝国の遺跡に出た。
その遺跡は、中でミスリルの鉱石が取れることで有名で、いろんな冒険者たちがやってきては、変異キメラに殺されて、食われた。
地下にはモルモットにされているダークエルフの姿があるのだが、それを浮竹と京楽はまだ知らなかった。
----------------------------------------------------
Sランク指定の依頼であった。
もともとAランク指定で、Bランクの冒険者3人のパーティーが行ったが、いつまで経って帰ってこなくて、急遽Sランクに指定された。
魔の悪いことに、イアラ帝国のSランク冒険者たちは皆違う国の魔物討伐に赴いていた。
一番評価の高い、Aランクの浮竹と京楽が、その変異キメラを退治することになった。
「何か、悪い予感しかしないんだけど。その遺跡って、いろんな冒険者が訪れる遺跡でしょう?その冒険者たちを殺して食ったとなると、僕らの手だけでどうにかなるのかな」
「念のために、師匠を呼んでおいた」
浮竹と京楽は、そのスキア帝国の遺跡の前にいた。
「ここからでも、血の匂いが分かる。かなりの数の人間を食ったみたいだね」
「気を引き締めていこう」
「ライト」
京楽が、光の魔法で光源を出す。
それをずっと維持しながら、中を進んでいく。
中は荒れていて、ところどころに食いちぎられた人の手足が散乱しており、変異キメラの狂暴性が窺われた。
「ぐるるるるる」
「近くにいるよ、気をつけて!」
「しゃあああ!!!」
ダークエルフの顔をもつ変異キメラが、襲い掛かってきた。
「この!ファイアフェニックス!」
「ぎゃおう!」
咄嗟に浮竹が放った上級魔法を顔に受けて、ダークエルフの顔は醜く焼けただれたが、すぐに再生してしまった。
「再生能力が半端じゃないね。浮竹、剣でいける?」
「ああ、アシッドエンチャント!」
錆びないミスリルの剣に、金属まで溶かす酸を付与して、そのドラゴンの胴体らしき鱗に切りかかると、なんとミスリルの剣が折れてしまった。
「なんだと!?」
浮竹は動揺した。
その一瞬の隙を狙って、ダークエルフの頭部が浮竹の腕を噛みちぎる。
「ぐっ」
「セイントヒール!
「すまない、京楽!」
「いいって。それより、魔法で倒すしかないようだね」
「弱点の属性が分からないが、幸い京楽は闇以外の属性を使えるからな」
「助けて・・・・殺して」
ダークエルフの頭部は、そう言って血の涙を流した。
「ゴッドフェンリル!」
「ゴッドファイアフェニックス!!」
それぞれ、氷の魔狼と炎の不死鳥を出した。
まずはフェンリルが氷のブレスを吐いて、ケルピーでできた足を凍らせた。次にフェニックスが、翼を燃やす。
傷を負わせると、再生していく。
「これ、勝てるの?」
「なんとかするしかないだろう。ここで負けたら、俺たちのSランクになるという冒険者の夢も終わりだ!」
「トリプルフレア!」
「バーストロンド!」
じりじりと、獲物を追い詰めるように、変異キメラは二人を追い詰めていく。
「浮竹、地下に通じる小さな階段がある!一度撤退しよう!」
「分かった!サンシャイン!」
変異キメラの目を、光で一時的につぶして、二人は遺跡の地下におりた。
そこでは、目に見るもの無残な光景があった。
ダークエルフたちが、ある男に生きたまま解剖されていた。
「誰だお前は!」
「おや、もうきてしまったのかい。じゃあね」
男は、転移魔法で消えてしまった。
「あああ・・・殺してくれ」
「殺してくれ・・・・」
ダークエルフたちは、もう原型をとどめておらず、変異キメラになりかけていた。
「くっ」
京楽は、胸が疼いた。
「京楽は目を瞑っていろ。同胞たちだろう。俺が片付ける。ゴッドファイアフェニックス!」
浮竹は、炎の魔法で殺してくれと哀願してくるダークエルフのなれの果てを灰にしていった。
ドクン、ドクン、ドクン。
鼓動の音がした。
「どうしたんだ、京楽?」
「あああああ!!!」
京楽は、発狂したかのように叫んで自分の頭を抱え込んだ。
ドロリと、京楽纏う魔力が闇のものになる。
「しっかりしろ、京楽!」
「浮竹、僕は・・・・ああああ!!」
京楽は、遺跡の階段をあがり、変異キメラと対峙する。
「ワールドエンド」
京楽は、使えないはずの闇魔法を使っていた。
それに、変異キメラの体がぐちゃぐちゃになっていく。
「あはははは」
「京楽!」
「アハハハ・・・・浮竹、こっちに来ちゃだめだ」
ワールドエンドは、禁忌の魔法だ。
「僕の力じゃ、もうこの魔法をとめられない」
『ここはスキア帝国の遺跡。ボクの妖刀がいた遺跡とは別だねえ』
「あ、師匠!」
『やあ、エルフのボクに浮竹。エルフのボクは、禁忌を発動したはいいけど、力の使い方を迷っているようだね』
「師匠、京楽を助けてやってくれ」
剣士の京楽は頷くと、手を前に突き出した。
それだけで、ワールドエンドの魔法は終わった。
「ああああ、僕は、僕は!!」
「京楽、しっかりしろ。俺はここにいる」
エルフの京楽は、浮かべた涙を一筋流した。
「僕は、ダークエルフなのに、同胞たちを助けられなかった・・・・」
「それはお前のせいじゃない。手を下したのは俺だし、あんな風になるようにしたのは、影の暗躍者だ」
『それね、名前は藍染っていうの』
「その、藍染とかいうやつが全部悪んだ。京楽は、何も悪くない」
「ああ・・・・感じる。闇の鼓動だ」
『それは闇魔法を習得した証だな』
いつの間にか現れた精霊の浮竹が、エルフの浮竹の肩に手を置いた。
『このまま、彼を抱きしめて』
「分かった」
エルフの浮竹は、優しくエルフの京楽を抱きしめた。
精霊の浮竹のおかげか、エルフの京楽は安らかな顔になり、エルフの浮竹を抱きしめ返した。
「これはなんていうんだろう。魔力の底が見えない。闇の魔法を習得するのって、こんななの?」
『全属性習得なら、そうだろうね。今のキミなら、宮廷魔術師にもなれる』
「そんなものに、なりたくはないよ。僕は、浮竹、君の傍にいたい」
「京楽、落ち着いたか?」
エルフの浮竹がエルフの京楽の顔をのぞきこむ。
「うん。ごめんね。浮竹」
「なんか、京楽、お前の魔力の量、尋常じゃないほどにあがってないか?」
『覚醒したんだろう。ダークエルフとして』
剣士の京楽の言葉に、エルフの京楽が自分の手の平をみた。
「これが覚醒・・・・鼓動が高鳴ったのは感じた」
『覚醒の予兆だね。ワールドエンドは禁忌の中の禁忌。よほどのことがない限り、使わない方がいいよ』
「うん、あんな凄い魔法、まだしばらくの間制御できそうにないよ」
エルフの京楽は、憑き物がとれたようなすっきりした顔をしていた。
「僕はダークエルフだ。自分と向き合おうと思う」
「京楽、無理はしなくていいんだぞ」
「いや、ギルドでも言うよ。僕がダークエルフだってことを」
「でも、自分で魔族だって言うようなものだぞ?」
エルフの京楽は頷く。
「それでも、僕はもう自分を偽るのが嫌になった。いつまでも隠し続けてうじうじするより、告白して受け止めてもらいたい」
「分かった。でも、ギルドで告白する隣には、俺を置いてくれ」
「うん」
「師匠、ありがとうございました」
「ぷぷる~~」
「くくる~~」
『ああ、プルンとブルンを忘れていたね』
プルンは飛び跳ねながら、ブルンは空を飛びながらやってきて、二人の京楽の頭と肩に、それぞれ乗った。
「戻ろうか」
「ああ」
師匠である剣士の京楽と、精霊の浮竹と、エルフの浮竹と一緒に、イアラ帝国の冒険者ギルドにやってきた。精霊の浮竹は妖刀姿だった。
みんな、剣士の京楽を見て怖がっていた。
「Aランクの変異キメラの討伐は終わったよ。なんとか魔石だけは回収できたから」
エルフの京楽が受付嬢に変異キメラの魔石を渡すと、人工的に作られたものだとすぐに分かって、ギルドマスターのキャサリンがやってきた。
「あら、春ちゃんうっきーちゃん・・・・お尻さわりたいところだけど、剣士の春ちゃんに殺されるから我慢するわ」
「報酬金は金貨500枚と、人工魔石の買取り額が金貨100枚になります」
合計で金貨600枚を、エルフの京楽はもらってアイテムポケットにいれた。
「みんな、話があるんだ」
Aランクの京楽に視線が集まる。
「僕は、ウッドエルフで通していたけど、本当はダークエルフなんだ」
「がんばれ、京楽」
エルフの京楽の隣で、エルフの浮竹が心を支えてくれた。
「なんだ、そんなことか。知ってるやつ、けっこういるぞ」
「ダークエルフだらかってなにかあるのか?京楽は京楽じゃないか」
「みんな・・・・・・」
駆け出しの冒険者や京楽とあまり顔見しりでない冒険者は、ダークエルフと聞いて怯えていたけれど、多数の冒険者がそれをさも当たり前のことのように受け取るので、怯える者はいなくなった。
「みんな、僕が怖くないの?」
「浮竹に手を出した時の京楽は怖いが、それ以外の京楽なら怖くない」
京楽は、涙を流した。
「受け入れて、もらえた・・・・・」
「京楽、みんなダークエルフとか種族関係なしに、Aランク冒険者の京楽を見ているんだ」
「浮竹も、ありうがとうね?」
「どういたしまして」
「じゃあ、マイホームに帰ろうか」
「そうしよう」
剣士の京楽は、キャサリンを睨んでいたが、キャサリンが何もしなかったので、ただ黙してエルフの二人の後をついていった。
「ああ、今日は疲れたよ」
『ダークエルフとして覚醒した感想は?』
「いきなりレベルアップしたかんじ」
『そのままだな』
人型をとった精霊の浮竹が、苦笑していた。
「今日は遅いし、泊まっていく?」
『ああ、お言葉に甘えよう。いいな、京楽?』
『僕は別にどっちでもいいよ』
適当に夕食を済ませて、風呂に入り、それぞれゲストルームと寝室で眠った。
「ププルウ!」
ぽよんと、ブルンがはねて、剣士の京楽と精霊の浮竹を起こした。
「くくるーー」
寝室では、ブルンが空を飛んでから体当たりをして、エルフの二人を起こしていた。
「ププルウ」
「くくるー」
「え、何、お腹へった?はいはい、朝ごはんだね」
プルンには林檎を10個、ブルンにはアイテムポケットに入れていたゴミをあげた。
「くくるーー」
「ププウ」
プルンが残した林檎の芯を、ブルンが食べた。
『それにしても驚いたね。エンジェリングスライムとは。このままいくと、アークエンジェリングスライム、セラフィスライムに進化するだろうね』
「そうなのか、師匠」
『うん。天使に近くなるね』
「天使族みたいなものかな?」
この世界には、魔族の対になる、天使族がいる。
真っ白な純白の翼をもち、頭にわかったのある、本物の天使に似た種族であった。
「天使族に近いスライムだなんてすごいな、ブルン」
「くくる!」
そうでしょそうでしょ。
自慢するブルンに、プルンは。
「プププううう」
すごいすごいお兄ちゃん、天使になるんだ。
そう勘違いをおこしていた。
『じゃあ、俺らは戻るな。またなにかあったら、式を飛ばしてくれ:』
精霊の浮竹は、剣士の京楽とプルンと共に、プルンが使った転移魔法で消えてしまった。
「ねぇ、浮竹」
「なんだ?」
「僕、ダークエルフでよかったよ。いっぱい辛い目にもあったけど、君と出会えた」
「俺も、エンシェントエルフでよかった。族長がお前を拾い、幽閉したのは俺と出会うための運命だったんだ」
二人で手を繋ぎ合い、またベッドに横になった。
「愛してるよ、浮竹」
「俺も愛してる、京楽」
触れるだけの口づけをして、二人はまた眠るのであった。
----------------------------------------------------------------------------
「ダークエルフとしての覚醒か。まぁいい、次は・・・・・」
真っ暗な部屋で、藍染は血のような赤いワインを飲み干した。
藍染の後ろでは、水槽の中で奇妙な肉塊が動き続けるだった。
そのキメラは、足はケルピーの足でできており、尻尾はデッドリーポイズンスネーク、胴はドラゴン、翼はペガサス、頭はダークエルフだった。
「ああああああ!!」
人語を話すキメラは、ある遺跡で、やってくる冒険者たちを次々と殺していった。
Sランク指定の、変異キメラであった。
イアラ帝国のウララ高原にある、スキア帝国の遺跡に出た。
その遺跡は、中でミスリルの鉱石が取れることで有名で、いろんな冒険者たちがやってきては、変異キメラに殺されて、食われた。
地下にはモルモットにされているダークエルフの姿があるのだが、それを浮竹と京楽はまだ知らなかった。
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Sランク指定の依頼であった。
もともとAランク指定で、Bランクの冒険者3人のパーティーが行ったが、いつまで経って帰ってこなくて、急遽Sランクに指定された。
魔の悪いことに、イアラ帝国のSランク冒険者たちは皆違う国の魔物討伐に赴いていた。
一番評価の高い、Aランクの浮竹と京楽が、その変異キメラを退治することになった。
「何か、悪い予感しかしないんだけど。その遺跡って、いろんな冒険者が訪れる遺跡でしょう?その冒険者たちを殺して食ったとなると、僕らの手だけでどうにかなるのかな」
「念のために、師匠を呼んでおいた」
浮竹と京楽は、そのスキア帝国の遺跡の前にいた。
「ここからでも、血の匂いが分かる。かなりの数の人間を食ったみたいだね」
「気を引き締めていこう」
「ライト」
京楽が、光の魔法で光源を出す。
それをずっと維持しながら、中を進んでいく。
中は荒れていて、ところどころに食いちぎられた人の手足が散乱しており、変異キメラの狂暴性が窺われた。
「ぐるるるるる」
「近くにいるよ、気をつけて!」
「しゃあああ!!!」
ダークエルフの顔をもつ変異キメラが、襲い掛かってきた。
「この!ファイアフェニックス!」
「ぎゃおう!」
咄嗟に浮竹が放った上級魔法を顔に受けて、ダークエルフの顔は醜く焼けただれたが、すぐに再生してしまった。
「再生能力が半端じゃないね。浮竹、剣でいける?」
「ああ、アシッドエンチャント!」
錆びないミスリルの剣に、金属まで溶かす酸を付与して、そのドラゴンの胴体らしき鱗に切りかかると、なんとミスリルの剣が折れてしまった。
「なんだと!?」
浮竹は動揺した。
その一瞬の隙を狙って、ダークエルフの頭部が浮竹の腕を噛みちぎる。
「ぐっ」
「セイントヒール!
「すまない、京楽!」
「いいって。それより、魔法で倒すしかないようだね」
「弱点の属性が分からないが、幸い京楽は闇以外の属性を使えるからな」
「助けて・・・・殺して」
ダークエルフの頭部は、そう言って血の涙を流した。
「ゴッドフェンリル!」
「ゴッドファイアフェニックス!!」
それぞれ、氷の魔狼と炎の不死鳥を出した。
まずはフェンリルが氷のブレスを吐いて、ケルピーでできた足を凍らせた。次にフェニックスが、翼を燃やす。
傷を負わせると、再生していく。
「これ、勝てるの?」
「なんとかするしかないだろう。ここで負けたら、俺たちのSランクになるという冒険者の夢も終わりだ!」
「トリプルフレア!」
「バーストロンド!」
じりじりと、獲物を追い詰めるように、変異キメラは二人を追い詰めていく。
「浮竹、地下に通じる小さな階段がある!一度撤退しよう!」
「分かった!サンシャイン!」
変異キメラの目を、光で一時的につぶして、二人は遺跡の地下におりた。
そこでは、目に見るもの無残な光景があった。
ダークエルフたちが、ある男に生きたまま解剖されていた。
「誰だお前は!」
「おや、もうきてしまったのかい。じゃあね」
男は、転移魔法で消えてしまった。
「あああ・・・殺してくれ」
「殺してくれ・・・・」
ダークエルフたちは、もう原型をとどめておらず、変異キメラになりかけていた。
「くっ」
京楽は、胸が疼いた。
「京楽は目を瞑っていろ。同胞たちだろう。俺が片付ける。ゴッドファイアフェニックス!」
浮竹は、炎の魔法で殺してくれと哀願してくるダークエルフのなれの果てを灰にしていった。
ドクン、ドクン、ドクン。
鼓動の音がした。
「どうしたんだ、京楽?」
「あああああ!!!」
京楽は、発狂したかのように叫んで自分の頭を抱え込んだ。
ドロリと、京楽纏う魔力が闇のものになる。
「しっかりしろ、京楽!」
「浮竹、僕は・・・・ああああ!!」
京楽は、遺跡の階段をあがり、変異キメラと対峙する。
「ワールドエンド」
京楽は、使えないはずの闇魔法を使っていた。
それに、変異キメラの体がぐちゃぐちゃになっていく。
「あはははは」
「京楽!」
「アハハハ・・・・浮竹、こっちに来ちゃだめだ」
ワールドエンドは、禁忌の魔法だ。
「僕の力じゃ、もうこの魔法をとめられない」
『ここはスキア帝国の遺跡。ボクの妖刀がいた遺跡とは別だねえ』
「あ、師匠!」
『やあ、エルフのボクに浮竹。エルフのボクは、禁忌を発動したはいいけど、力の使い方を迷っているようだね』
「師匠、京楽を助けてやってくれ」
剣士の京楽は頷くと、手を前に突き出した。
それだけで、ワールドエンドの魔法は終わった。
「ああああ、僕は、僕は!!」
「京楽、しっかりしろ。俺はここにいる」
エルフの京楽は、浮かべた涙を一筋流した。
「僕は、ダークエルフなのに、同胞たちを助けられなかった・・・・」
「それはお前のせいじゃない。手を下したのは俺だし、あんな風になるようにしたのは、影の暗躍者だ」
『それね、名前は藍染っていうの』
「その、藍染とかいうやつが全部悪んだ。京楽は、何も悪くない」
「ああ・・・・感じる。闇の鼓動だ」
『それは闇魔法を習得した証だな』
いつの間にか現れた精霊の浮竹が、エルフの浮竹の肩に手を置いた。
『このまま、彼を抱きしめて』
「分かった」
エルフの浮竹は、優しくエルフの京楽を抱きしめた。
精霊の浮竹のおかげか、エルフの京楽は安らかな顔になり、エルフの浮竹を抱きしめ返した。
「これはなんていうんだろう。魔力の底が見えない。闇の魔法を習得するのって、こんななの?」
『全属性習得なら、そうだろうね。今のキミなら、宮廷魔術師にもなれる』
「そんなものに、なりたくはないよ。僕は、浮竹、君の傍にいたい」
「京楽、落ち着いたか?」
エルフの浮竹がエルフの京楽の顔をのぞきこむ。
「うん。ごめんね。浮竹」
「なんか、京楽、お前の魔力の量、尋常じゃないほどにあがってないか?」
『覚醒したんだろう。ダークエルフとして』
剣士の京楽の言葉に、エルフの京楽が自分の手の平をみた。
「これが覚醒・・・・鼓動が高鳴ったのは感じた」
『覚醒の予兆だね。ワールドエンドは禁忌の中の禁忌。よほどのことがない限り、使わない方がいいよ』
「うん、あんな凄い魔法、まだしばらくの間制御できそうにないよ」
エルフの京楽は、憑き物がとれたようなすっきりした顔をしていた。
「僕はダークエルフだ。自分と向き合おうと思う」
「京楽、無理はしなくていいんだぞ」
「いや、ギルドでも言うよ。僕がダークエルフだってことを」
「でも、自分で魔族だって言うようなものだぞ?」
エルフの京楽は頷く。
「それでも、僕はもう自分を偽るのが嫌になった。いつまでも隠し続けてうじうじするより、告白して受け止めてもらいたい」
「分かった。でも、ギルドで告白する隣には、俺を置いてくれ」
「うん」
「師匠、ありがとうございました」
「ぷぷる~~」
「くくる~~」
『ああ、プルンとブルンを忘れていたね』
プルンは飛び跳ねながら、ブルンは空を飛びながらやってきて、二人の京楽の頭と肩に、それぞれ乗った。
「戻ろうか」
「ああ」
師匠である剣士の京楽と、精霊の浮竹と、エルフの浮竹と一緒に、イアラ帝国の冒険者ギルドにやってきた。精霊の浮竹は妖刀姿だった。
みんな、剣士の京楽を見て怖がっていた。
「Aランクの変異キメラの討伐は終わったよ。なんとか魔石だけは回収できたから」
エルフの京楽が受付嬢に変異キメラの魔石を渡すと、人工的に作られたものだとすぐに分かって、ギルドマスターのキャサリンがやってきた。
「あら、春ちゃんうっきーちゃん・・・・お尻さわりたいところだけど、剣士の春ちゃんに殺されるから我慢するわ」
「報酬金は金貨500枚と、人工魔石の買取り額が金貨100枚になります」
合計で金貨600枚を、エルフの京楽はもらってアイテムポケットにいれた。
「みんな、話があるんだ」
Aランクの京楽に視線が集まる。
「僕は、ウッドエルフで通していたけど、本当はダークエルフなんだ」
「がんばれ、京楽」
エルフの京楽の隣で、エルフの浮竹が心を支えてくれた。
「なんだ、そんなことか。知ってるやつ、けっこういるぞ」
「ダークエルフだらかってなにかあるのか?京楽は京楽じゃないか」
「みんな・・・・・・」
駆け出しの冒険者や京楽とあまり顔見しりでない冒険者は、ダークエルフと聞いて怯えていたけれど、多数の冒険者がそれをさも当たり前のことのように受け取るので、怯える者はいなくなった。
「みんな、僕が怖くないの?」
「浮竹に手を出した時の京楽は怖いが、それ以外の京楽なら怖くない」
京楽は、涙を流した。
「受け入れて、もらえた・・・・・」
「京楽、みんなダークエルフとか種族関係なしに、Aランク冒険者の京楽を見ているんだ」
「浮竹も、ありうがとうね?」
「どういたしまして」
「じゃあ、マイホームに帰ろうか」
「そうしよう」
剣士の京楽は、キャサリンを睨んでいたが、キャサリンが何もしなかったので、ただ黙してエルフの二人の後をついていった。
「ああ、今日は疲れたよ」
『ダークエルフとして覚醒した感想は?』
「いきなりレベルアップしたかんじ」
『そのままだな』
人型をとった精霊の浮竹が、苦笑していた。
「今日は遅いし、泊まっていく?」
『ああ、お言葉に甘えよう。いいな、京楽?』
『僕は別にどっちでもいいよ』
適当に夕食を済ませて、風呂に入り、それぞれゲストルームと寝室で眠った。
「ププルウ!」
ぽよんと、ブルンがはねて、剣士の京楽と精霊の浮竹を起こした。
「くくるーー」
寝室では、ブルンが空を飛んでから体当たりをして、エルフの二人を起こしていた。
「ププルウ」
「くくるー」
「え、何、お腹へった?はいはい、朝ごはんだね」
プルンには林檎を10個、ブルンにはアイテムポケットに入れていたゴミをあげた。
「くくるーー」
「ププウ」
プルンが残した林檎の芯を、ブルンが食べた。
『それにしても驚いたね。エンジェリングスライムとは。このままいくと、アークエンジェリングスライム、セラフィスライムに進化するだろうね』
「そうなのか、師匠」
『うん。天使に近くなるね』
「天使族みたいなものかな?」
この世界には、魔族の対になる、天使族がいる。
真っ白な純白の翼をもち、頭にわかったのある、本物の天使に似た種族であった。
「天使族に近いスライムだなんてすごいな、ブルン」
「くくる!」
そうでしょそうでしょ。
自慢するブルンに、プルンは。
「プププううう」
すごいすごいお兄ちゃん、天使になるんだ。
そう勘違いをおこしていた。
『じゃあ、俺らは戻るな。またなにかあったら、式を飛ばしてくれ:』
精霊の浮竹は、剣士の京楽とプルンと共に、プルンが使った転移魔法で消えてしまった。
「ねぇ、浮竹」
「なんだ?」
「僕、ダークエルフでよかったよ。いっぱい辛い目にもあったけど、君と出会えた」
「俺も、エンシェントエルフでよかった。族長がお前を拾い、幽閉したのは俺と出会うための運命だったんだ」
二人で手を繋ぎ合い、またベッドに横になった。
「愛してるよ、浮竹」
「俺も愛してる、京楽」
触れるだけの口づけをして、二人はまた眠るのであった。
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「ダークエルフとしての覚醒か。まぁいい、次は・・・・・」
真っ暗な部屋で、藍染は血のような赤いワインを飲み干した。
藍染の後ろでは、水槽の中で奇妙な肉塊が動き続けるだった。
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