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エンシェントエルフとダークエルフ26

「ふふ・・・・このキメラは、そこいらのキメラとは違う」

そのキメラは、足はケルピーの足でできており、尻尾はデッドリーポイズンスネーク、胴はドラゴン、翼はペガサス、頭はダークエルフだった。

「ああああああ!!」

人語を話すキメラは、ある遺跡で、やってくる冒険者たちを次々と殺していった。

Sランク指定の、変異キメラであった。

イアラ帝国のウララ高原にある、スキア帝国の遺跡に出た。

その遺跡は、中でミスリルの鉱石が取れることで有名で、いろんな冒険者たちがやってきては、変異キメラに殺されて、食われた。

地下にはモルモットにされているダークエルフの姿があるのだが、それを浮竹と京楽はまだ知らなかった。

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Sランク指定の依頼であった。

もともとAランク指定で、Bランクの冒険者3人のパーティーが行ったが、いつまで経って帰ってこなくて、急遽Sランクに指定された。

魔の悪いことに、イアラ帝国のSランク冒険者たちは皆違う国の魔物討伐に赴いていた。

一番評価の高い、Aランクの浮竹と京楽が、その変異キメラを退治することになった。

「何か、悪い予感しかしないんだけど。その遺跡って、いろんな冒険者が訪れる遺跡でしょう?その冒険者たちを殺して食ったとなると、僕らの手だけでどうにかなるのかな」

「念のために、師匠を呼んでおいた」

浮竹と京楽は、そのスキア帝国の遺跡の前にいた。

「ここからでも、血の匂いが分かる。かなりの数の人間を食ったみたいだね」

「気を引き締めていこう」

「ライト」

京楽が、光の魔法で光源を出す。

それをずっと維持しながら、中を進んでいく。

中は荒れていて、ところどころに食いちぎられた人の手足が散乱しており、変異キメラの狂暴性が窺われた。

「ぐるるるるる」

「近くにいるよ、気をつけて!」

「しゃあああ!!!」

ダークエルフの顔をもつ変異キメラが、襲い掛かってきた。

「この!ファイアフェニックス!」

「ぎゃおう!」

咄嗟に浮竹が放った上級魔法を顔に受けて、ダークエルフの顔は醜く焼けただれたが、すぐに再生してしまった。

「再生能力が半端じゃないね。浮竹、剣でいける?」

「ああ、アシッドエンチャント!」

錆びないミスリルの剣に、金属まで溶かす酸を付与して、そのドラゴンの胴体らしき鱗に切りかかると、なんとミスリルの剣が折れてしまった。

「なんだと!?」

浮竹は動揺した。

その一瞬の隙を狙って、ダークエルフの頭部が浮竹の腕を噛みちぎる。

「ぐっ」

「セイントヒール!

「すまない、京楽!」

「いいって。それより、魔法で倒すしかないようだね」

「弱点の属性が分からないが、幸い京楽は闇以外の属性を使えるからな」

「助けて・・・・殺して」

ダークエルフの頭部は、そう言って血の涙を流した。

「ゴッドフェンリル!」

「ゴッドファイアフェニックス!!」

それぞれ、氷の魔狼と炎の不死鳥を出した。

まずはフェンリルが氷のブレスを吐いて、ケルピーでできた足を凍らせた。次にフェニックスが、翼を燃やす。

傷を負わせると、再生していく。

「これ、勝てるの?」

「なんとかするしかないだろう。ここで負けたら、俺たちのSランクになるという冒険者の夢も終わりだ!」

「トリプルフレア!」

「バーストロンド!」

じりじりと、獲物を追い詰めるように、変異キメラは二人を追い詰めていく。

「浮竹、地下に通じる小さな階段がある!一度撤退しよう!」

「分かった!サンシャイン!」

変異キメラの目を、光で一時的につぶして、二人は遺跡の地下におりた。

そこでは、目に見るもの無残な光景があった。

ダークエルフたちが、ある男に生きたまま解剖されていた。

「誰だお前は!」

「おや、もうきてしまったのかい。じゃあね」

男は、転移魔法で消えてしまった。

「あああ・・・殺してくれ」

「殺してくれ・・・・」

ダークエルフたちは、もう原型をとどめておらず、変異キメラになりかけていた。

「くっ」

京楽は、胸が疼いた。

「京楽は目を瞑っていろ。同胞たちだろう。俺が片付ける。ゴッドファイアフェニックス!」

浮竹は、炎の魔法で殺してくれと哀願してくるダークエルフのなれの果てを灰にしていった。

ドクン、ドクン、ドクン。

鼓動の音がした。

「どうしたんだ、京楽?」

「あああああ!!!」

京楽は、発狂したかのように叫んで自分の頭を抱え込んだ。

ドロリと、京楽纏う魔力が闇のものになる。

「しっかりしろ、京楽!」

「浮竹、僕は・・・・ああああ!!」

京楽は、遺跡の階段をあがり、変異キメラと対峙する。

「ワールドエンド」

京楽は、使えないはずの闇魔法を使っていた。

それに、変異キメラの体がぐちゃぐちゃになっていく。

「あはははは」

「京楽!」

「アハハハ・・・・浮竹、こっちに来ちゃだめだ」

ワールドエンドは、禁忌の魔法だ。

「僕の力じゃ、もうこの魔法をとめられない」

『ここはスキア帝国の遺跡。ボクの妖刀がいた遺跡とは別だねえ』

「あ、師匠!」

『やあ、エルフのボクに浮竹。エルフのボクは、禁忌を発動したはいいけど、力の使い方を迷っているようだね』

「師匠、京楽を助けてやってくれ」

剣士の京楽は頷くと、手を前に突き出した。

それだけで、ワールドエンドの魔法は終わった。

「ああああ、僕は、僕は!!」

「京楽、しっかりしろ。俺はここにいる」

エルフの京楽は、浮かべた涙を一筋流した。

「僕は、ダークエルフなのに、同胞たちを助けられなかった・・・・」

「それはお前のせいじゃない。手を下したのは俺だし、あんな風になるようにしたのは、影の暗躍者だ」

『それね、名前は藍染っていうの』

「その、藍染とかいうやつが全部悪んだ。京楽は、何も悪くない」

「ああ・・・・感じる。闇の鼓動だ」

『それは闇魔法を習得した証だな』

いつの間にか現れた精霊の浮竹が、エルフの浮竹の肩に手を置いた。

『このまま、彼を抱きしめて』

「分かった」

エルフの浮竹は、優しくエルフの京楽を抱きしめた。

精霊の浮竹のおかげか、エルフの京楽は安らかな顔になり、エルフの浮竹を抱きしめ返した。

「これはなんていうんだろう。魔力の底が見えない。闇の魔法を習得するのって、こんななの?」

『全属性習得なら、そうだろうね。今のキミなら、宮廷魔術師にもなれる』

「そんなものに、なりたくはないよ。僕は、浮竹、君の傍にいたい」

「京楽、落ち着いたか?」

エルフの浮竹がエルフの京楽の顔をのぞきこむ。

「うん。ごめんね。浮竹」

「なんか、京楽、お前の魔力の量、尋常じゃないほどにあがってないか?」

『覚醒したんだろう。ダークエルフとして』

剣士の京楽の言葉に、エルフの京楽が自分の手の平をみた。

「これが覚醒・・・・鼓動が高鳴ったのは感じた」

『覚醒の予兆だね。ワールドエンドは禁忌の中の禁忌。よほどのことがない限り、使わない方がいいよ』

「うん、あんな凄い魔法、まだしばらくの間制御できそうにないよ」

エルフの京楽は、憑き物がとれたようなすっきりした顔をしていた。

「僕はダークエルフだ。自分と向き合おうと思う」

「京楽、無理はしなくていいんだぞ」

「いや、ギルドでも言うよ。僕がダークエルフだってことを」

「でも、自分で魔族だって言うようなものだぞ?」

エルフの京楽は頷く。

「それでも、僕はもう自分を偽るのが嫌になった。いつまでも隠し続けてうじうじするより、告白して受け止めてもらいたい」

「分かった。でも、ギルドで告白する隣には、俺を置いてくれ」

「うん」

「師匠、ありがとうございました」

「ぷぷる~~」

「くくる~~」

『ああ、プルンとブルンを忘れていたね』

プルンは飛び跳ねながら、ブルンは空を飛びながらやってきて、二人の京楽の頭と肩に、それぞれ乗った。

「戻ろうか」

「ああ」

師匠である剣士の京楽と、精霊の浮竹と、エルフの浮竹と一緒に、イアラ帝国の冒険者ギルドにやってきた。精霊の浮竹は妖刀姿だった。

みんな、剣士の京楽を見て怖がっていた。

「Aランクの変異キメラの討伐は終わったよ。なんとか魔石だけは回収できたから」

エルフの京楽が受付嬢に変異キメラの魔石を渡すと、人工的に作られたものだとすぐに分かって、ギルドマスターのキャサリンがやってきた。

「あら、春ちゃんうっきーちゃん・・・・お尻さわりたいところだけど、剣士の春ちゃんに殺されるから我慢するわ」

「報酬金は金貨500枚と、人工魔石の買取り額が金貨100枚になります」

合計で金貨600枚を、エルフの京楽はもらってアイテムポケットにいれた。

「みんな、話があるんだ」

Aランクの京楽に視線が集まる。

「僕は、ウッドエルフで通していたけど、本当はダークエルフなんだ」

「がんばれ、京楽」

エルフの京楽の隣で、エルフの浮竹が心を支えてくれた。

「なんだ、そんなことか。知ってるやつ、けっこういるぞ」

「ダークエルフだらかってなにかあるのか?京楽は京楽じゃないか」

「みんな・・・・・・」

駆け出しの冒険者や京楽とあまり顔見しりでない冒険者は、ダークエルフと聞いて怯えていたけれど、多数の冒険者がそれをさも当たり前のことのように受け取るので、怯える者はいなくなった。

「みんな、僕が怖くないの?」

「浮竹に手を出した時の京楽は怖いが、それ以外の京楽なら怖くない」

京楽は、涙を流した。

「受け入れて、もらえた・・・・・」

「京楽、みんなダークエルフとか種族関係なしに、Aランク冒険者の京楽を見ているんだ」

「浮竹も、ありうがとうね?」

「どういたしまして」

「じゃあ、マイホームに帰ろうか」

「そうしよう」

剣士の京楽は、キャサリンを睨んでいたが、キャサリンが何もしなかったので、ただ黙してエルフの二人の後をついていった。

「ああ、今日は疲れたよ」

『ダークエルフとして覚醒した感想は?』

「いきなりレベルアップしたかんじ」

『そのままだな』

人型をとった精霊の浮竹が、苦笑していた。

「今日は遅いし、泊まっていく?」

『ああ、お言葉に甘えよう。いいな、京楽?』

『僕は別にどっちでもいいよ』

適当に夕食を済ませて、風呂に入り、それぞれゲストルームと寝室で眠った。

「ププルウ!」

ぽよんと、ブルンがはねて、剣士の京楽と精霊の浮竹を起こした。

「くくるーー」

寝室では、ブルンが空を飛んでから体当たりをして、エルフの二人を起こしていた。

「ププルウ」

「くくるー」

「え、何、お腹へった?はいはい、朝ごはんだね」

プルンには林檎を10個、ブルンにはアイテムポケットに入れていたゴミをあげた。

「くくるーー」

「ププウ」

プルンが残した林檎の芯を、ブルンが食べた。

『それにしても驚いたね。エンジェリングスライムとは。このままいくと、アークエンジェリングスライム、セラフィスライムに進化するだろうね』

「そうなのか、師匠」

『うん。天使に近くなるね』

「天使族みたいなものかな?」

この世界には、魔族の対になる、天使族がいる。

真っ白な純白の翼をもち、頭にわかったのある、本物の天使に似た種族であった。

「天使族に近いスライムだなんてすごいな、ブルン」

「くくる!」

そうでしょそうでしょ。

自慢するブルンに、プルンは。

「プププううう」

すごいすごいお兄ちゃん、天使になるんだ。

そう勘違いをおこしていた。

『じゃあ、俺らは戻るな。またなにかあったら、式を飛ばしてくれ:』

精霊の浮竹は、剣士の京楽とプルンと共に、プルンが使った転移魔法で消えてしまった。

「ねぇ、浮竹」

「なんだ?」

「僕、ダークエルフでよかったよ。いっぱい辛い目にもあったけど、君と出会えた」

「俺も、エンシェントエルフでよかった。族長がお前を拾い、幽閉したのは俺と出会うための運命だったんだ」

二人で手を繋ぎ合い、またベッドに横になった。

「愛してるよ、浮竹」

「俺も愛してる、京楽」

触れるだけの口づけをして、二人はまた眠るのであった。


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「ダークエルフとしての覚醒か。まぁいい、次は・・・・・」

真っ暗な部屋で、藍染は血のような赤いワインを飲み干した。

藍染の後ろでは、水槽の中で奇妙な肉塊が動き続けるだった。

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