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エンシェントエルフとダークエルフ27

浮竹は、武器屋をのぞいていた。

エルフの森を出る時にもらった、餞別代わりのミスリルの剣が折れてしまったのだ。

一通り見るが、ミスリル製のものはなく、代わりにミスリル銀の魔剣があった。

白金貨10枚。

その値段に、浮竹が唸る。

「うーん。高い。だが、ものはいい・・・」

「命を預ける武器なんだ。出し惜しみしなくていいよ。白金貨なら電撃のボルからもらった千枚の貯金に白金貨50枚が利子でついていたよ」

「よし、このミスリル銀の剣を買おう!」

「お、お目が高いですね。それはさる高名な魔族が使っていた剣で、流れ流れてうちみたいな武器屋にやってきたはいいが、値段が高すぎて誰も買わなかった品です。魔剣としては意識はありませんが、闇属性の魔法が使えて、水火土風の魔法を強化してくれる嬉しいおまけつきです」

「決めた!この魔剣を買う!」

「はい、白金貨10枚になります。分割払いですよね?」

「全額払いだ!」

どんと、白金貨を10枚出すと、店の主人はびびった。

白金貨の本物を見るのは初めてだったのだ。

白金貨1枚で大金貨10万枚に値する。つまりは大金貨100万枚だ。

それをポンと出す浮竹を、どこかの貴族か大金もちと勘違いしたのか、店主は店の奥にあるよくわからない武器を取り出してきた。

「これら、よくわからなくて売れてない品なんですけど、欲しいものありますか?おまけでおつけしますよ」

上客を逃す手はないと、店の主人はサービス精神を出す。

「この杖・・・・・。京楽、持ってみろ」

「ああ、闇の属性の杖だね」

「この杖をもらってもいいか?」

「いいですけど、それ、所持者がみんな死んでいく呪われているという杖ですよ。いろんな属性の魔力を高めてくれますが、正直その杖はやめておいたほうがいいかと」

店の主人は困惑していた。

「闇属性の適正がないと、持ち主の魂を喰う杖だ。幸い僕は、闇魔法を使えるからね」

「闇魔法なんて使えるんですか!」

この世界では珍しかった。

このウッドガルド大陸は人間や亜人種が住む大陸で魔族が少なく、普通闇魔法が使えるのは魔族だ。

「僕はダークエルフで魔族だからね」

「またご冗談を」

「冗談じゃないんだけどなぁ」

店の主人は、最後まで京楽がダークエルフであることを冗談と受け取っていた。

「前のミスリルの剣あったじゃない。鍛冶屋で引き取ってもらえば?」

「そうだな。打ちなおしてもらうことも考えたんだが、ミスリル銀の剣なんてミスリルより貴重だ」

ミスリルの剣でも、白金貨5枚はする。

市場を回って歩き、いつもミスリルの剣を研いでもらっている鍛冶屋までやってきた。

「すまない、このミスリルを買い取ってもらえないだろうか」

「お、浮竹さんじゃないか。あらら、大事なミスリルの剣が折れちまってらぁ。打ち直しはしないでいいんですか?」

「ああ、ミスリル銀の魔剣を買ったんだ」

「ミスリル銀!また、高価なもの買いましたねぇ。Sランク冒険者の装備ですよ、普通」

「金ならあったからな」

「折れた剣先もあるし、もう一度ミスリルの剣として命を吹き込んでやりまさぁ。白金貨2枚でどうですか?」

「ああ、それでいい。引き取ってくれるか?」

「もちろんでさぁ。ミスリルなんて、そうそう打つことができない神の金属だ。喜んで買い取りますよ」

あとは、食べ物の市場を回って、プルンが遊びに来た時用にりんごを50個かって、アイテムポケットにいれる。

その他、1週間分の食料を買った。水は、水魔法で新鮮な水が出せるし、水道も通っている。

「前の杖がちょっとボロボロだったからね。浮竹のお陰で、いい杖が手に入ったよ」

市場に外れにくると、空間転移してマイホームに戻った。

「さて。買い出しも終了したし、冒険者ギルドに行くか」

「そうだね」

「くくる~~」

ブルンは、市場で大量のゴミの処理もとい食事をして、元気いっぱいだった。

「ブルンもくるか?」

「くくーー」

当たり前だよ。

そう言っていた。

冒険者ギルドに二人がやってくると、浮竹宛に手紙がきていた。

「何だ・・・・エルフの森の族長から?」

中身を読んでいって、浮竹の顔色が変わった。

「どうしたの」

「次期族長になるはずだった兄が死んだ。それで、俺に戻ってきて見合いをしろと・・・」

「何それ!今まで散々放置しといて、いきなり!?」

「京楽すまない、きっと嫌な目に合うかもしれないが、俺と一緒にエルフの森までついてきてほしい」

「もちろん行くよ。君の伴侶は僕だからね」

浮竹と京楽は荷造りをして、冒険者ギルドにしばらく依頼を請け負えないことを通達してから、ブルンを師匠の元に預けて、京楽はエルフの森に住んでいたので、空間転移魔法でエルフの森の入り口まできた。

「誰だ!」

「エンシェントエルフの浮竹だ。族長ハオの次男だ。兄のマオが死んだ件で、帰ってきた」

「浮竹様でしたか・・こちらは、まさかダークエルフの・・・」

「そうだよ?僕はダークエルフの京楽。族長ハオが拾って幽閉して、最後に処刑しようとしていたダークエルフだよ」

京楽が一歩前に進み出て、そう言う。

「浮竹様、危険です。こんなダークエルフ、早速処分を」

「俺に命令するな!それに京楽は俺の伴侶だ。すでに儀式は済ませ、正式に伴侶になっている」

「なんてことだ・・・・早く族長のハオ様のところへ知らせを」

しばらくすると、族長のハオがやってきた。

浮竹や他のエルフと同じで、20代後半くらいの若々しい姿で成長が止まり、死を迎えるその時まで若い姿のままなのが、エルフの特徴であった。

ハオは、浮竹の頬を殴った。

浮竹は後ろに吹っ飛ばされて、口の中を切ってしまった。

「この恥さらしが!ダークエルフと契っただと!?」

「そうだよ、父さん。マオ兄さんが死んだからって、俺を次期族長になんてできないだろう?」

「このダークエルフを殺すか、契りの儀式を破棄させてやる!」

族長ハオは、頭に血が上っていて、京楽のことをまともに見ていなかった。

「この僕を殺すだって?できるものなら、やってみるといいよ」

「このダークエルフが!・・・・なんだ、その魔力は!」

京楽は笑った。

「ダークエルフとして覚醒したのさ。昔みたいに幽閉されてた幼い頃の僕はもういない。浮竹の見合いも、浮竹が次期族長になることも認めない」

「ダークエルフが!エルフの森に災いをふりかけにやってきたのか!」

族長のハオは、京楽のもつ強大な魔力を感じながらも、続ける。

「違うよ。僕は浮竹のれっきとした伴侶だ。契りの儀式を済ませて、伴侶になっている。僕を殺して上書きもできないし、浮竹は僕との契りの儀式の破棄をなんて、するはずがない」

「このダークエルフが!拾ってやった恩を仇で返す気か!」

「誰も拾ってなんて頼んでないし、幽閉して処刑しようとまでしたくせに」

ハオは、それ以上何も言えなかった。

「とりあえず、昔住んでいた小屋に数日泊まる。次期族長の件については、俺も案を出そう」

「恥さらしが!」

「その恥さらしを作り出して育てたのは、父さんだ」

「くっ・・・・・」

母親はすでに他界しており、子ができにくいのがエルフの特徴であるので、今から妾を迎えるとかそういう方法はなかった。

昔住んでいた小屋は掃除が行き届いており、兄のマオが使用していたらしかった。

「浮竹、ほんとに僕を連れてきてよかったの?」

「そうじゃないと、俺は捕らわれて今頃お前との契りの契約を破棄させられていたぞ」

「そんなの駄目!絶対駄目!」

京楽が浮竹を抱きしめる。

「ほらな?お前を連れてきて正解だったろう?」

「そうだね。憎しみは全部僕が浴びればいい。浮竹を奪ったのは僕だ」

「そんなことはない。お前を連れ出して逃げだのは、俺の意思だ」

「いつか、エルフの森の住民全てに、分かってもらえるといいね」

「ああ、そうだな」

その小屋で二人は数日を過ごした。

次期族長を誰にするかという会議に、ダークエルフである京楽と共に出席して、京楽は憎しみの視線を浴びせられていたが平気そうで、結局いとこが継ぐことに決まった。

「お前とは、勘当だ。二度と、エルフの森に帰ってくるな」

族長のハオは、浮竹と京楽を追いだして、去って行った。

「追い出されちゃった」

「勘当だってさ」

二人は、手を握り合いながら、エルフの森を後にする。そして、転移魔法でマイホームまで戻ってきた。

『あ、帰ってきた』

精霊の浮竹が、迎えにきてくれた。精霊の浮竹に、ブルンを預けていたのだ。

「師匠も、お元気そうで」

『なんでも、エルフの森の族長問題で呼び出されたそうだね』

「勘当された。京楽と契りの儀式を済ませた知った時の、父の顔といたったら、傑作で」

『大丈夫そうでよかったよ。エルフのボクも大丈夫だよね?』

「当たり前だよ。浮竹に浴びせられる憎しみも全て僕の方へ向いていた。計算通りさ」

「京楽・・・・お前には、本当にすまないと思っている。エルフの森は、閉鎖的だからな」

エルフの浮竹は、エルフの京楽に抱きしめられてキスをされた。

「僕は全然かまわないよ。君と契りの契約を交わしたことも後悔していない」

「くくるーーー!!!」

僕の存在を忘れないで!!

ブルンは、エルフの二人頭の上を飛んでいた。

「ごめんな、ブルン。今回ばかりは、お前を連れていけなかった」

「くるるー」

仕方ないなぁ。

ブルンは、飛び跳ねているプルンの頭の上に乗った。

「ププウ!」

あ、お兄ちゃんだ。

そう言いながら、プルンは体を黄色の喜びの色に変えていた。

穏やかな時間が過ぎていく。

もう、エルフの森には二度と帰れないだろう。

その道を、二人は選んだ。

京楽も、後悔していない。浮竹と出会って逃げ出したことも、契りの契約を交わしたことも。

『じゃあ、僕らは戻るから』

「じゃあ、師匠、また」

『またな』

最後に精霊の浮竹が手を振って、プルンの転移魔法でロスピア王国にある自分の家まで戻っていった。

「久しぶりに、明日冒険者ギルドに行こう。何かいい依頼があるかもしれない」

「そうだね」

エルフの森には、もう帰れない。

分かってはいたが、二人とも心の何処かで寂しいと思うのであった。



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