エンシェントエルフとダークエルフ30
浮竹とブルンが攫われた。
正確には行方不明になったのだが、事件が解決してから犯人から手紙があったのだ。
(ありがとう)
「はぁ?」
京楽は情けない声をあげていた。
ことの発端は、昨日にまで遡る。
草原で、浮竹と京楽とブルンは、ピクニックをしていた。
ブルンには大量のゴミを与えてやった。
そのブルンが、何か変な声がするといって、飛んでいった。
その後を浮竹が追ったのだが、そのまま一人と一匹は帰ってこなかった。
周囲を探したが、姿はなく、先に帰っていると思ったのだがいなかった。冒険者ギルドにもいなかった。このまま帰ってこないと心配なので、冒険者ギルドの者にも依頼して、行方を捜してもらおうかと思っていた矢先だった。
行方不明になった翌日に、浮竹とブルンは帰ってきた。
「浮竹にブルン、どうしたの!心配したんだよ!」
「助かった!よかったよう」
「くるるーーー」
一人と一匹は泣きだした。
なんでも、獣人に誘拐されたのだそうだ。
魔力が消えるお札を使われて、目隠しをされて、プルンと一緒にどこかへと運ばれた。
周囲をふっとばそうかと思ったが、犯人は明らかに子供だったのだ。
子供に誘拐されてついた先は、山奥の深い森の中だった。
「メアリ、どうしたの。探したのよ」
「かあさん!かあさんを治せる人を連れてきたよ!」
大きな白い狼と、獣人の子供たちがいた。
「えっと、これは?」
「誘拐しちゃってごめんなさい。報酬を払うお金がないの。どうか、かあさんの傷を癒してください!」
浮竹は、大きな白い狼が獣人たちの母親であると分かった。
「ちょっと、傷を見せてくれるか」
「はい。この右足です」
右足は腐って半分ちぎれかけていた。
「これは酷い。どうしたんだ?」
「人間の罠にはまって・・・・かあさんの毛皮が高く売れるからって、人間たちが」
「ブルン、頼めるか?」
「くるる~~~」
ブルンは体を光らせて、大きな白い狼の傷を治した。
「まぁ。怪我が嘘のよう」
「それより、この獣人たちはあなたの子なのだろう。人化はできないのか?」
「いえ、できます。ただ、足の傷が深すぎて人化できなかっただけで。私はダリア。この山の奥の森を縄張りにしている狼の獣人です」
ダリアは人化した。
純白の獣人が現れた。
髪も肌も目も衣服も、何もかもが白かった。
頭の上には狼の耳があり、白い尻尾もついていた。
「傷を治してくださり、ありがとうごいます・・・・ううう」
「どうした?」
「こ、子供が・・・生まれそう」
「ええ!」
「くくるー!」
「おかあさん、どうしたの、まだ苦しいの?」
「違うのよ。新しいあなたたちの妹か弟ができるの」
「すみません、いつもは亭主がいるのですが、大掛かりな狩りの最中で。お産の手伝い、してもらっていいですか?」
浮竹は真っ赤になった。
「いいが、俺は男だぞ?」
「ええ、分かっています。でも、子供たちは小さくてまだ頼めません」
それから、浮竹はお湯を分かし、綺麗な布を用意して、子供が生まれてくるのを待った。
「出てこないぞ?」
「逆子のようです。少しずつ、ひっぱりだしてください」
足がでてきたので、少し引っ張った。ピクリと足は動いたが、それきり動かなくなった。
「だめだ、息をしていないかもしれない。ちょっと荒くなるが、我慢してくれ!」
浮竹は、赤子の足を掴んで無理やり引っ張りだした。
やはり、息はしていなかった。
「死産ですか・・・・・うううう」
「まて、まだ可能性はある!」
浮竹は、習ったことのある方法で、心臓マッサージを繰り返し、息を吹き込んだ。
するとどうだろう。
赤子が息を吹き返したのだ。
「おぎゃあおぎゃあ」
「ブルン、頼む」
「くくうるーー」
ブルンが魔法をかけて、赤子の容態はすぐに安定した。
「よかったー。生まれたよう」
「くくる――」
浮竹とブルンは、わんわんと泣きだした。
そのまま、一晩を様子見のために親子の様子を見ながら眠った。
「イアラ帝国のどこにお住まいですか?」
「帝都アスランだが」
「そこなら、行った事があるので、空間転移の魔法で送りますね」
「あ、俺は浮竹という。こっちはブルンだ」
「ありがとございます、優しい浮竹さん、ブルンさん」
ダリアは、去り際に刃で作られたネックレスをくれた。
その刃は、牙狼一族の証であった。
牙狼一族は義理堅いという。
「何か、獣人のことで問題が起きたら、そのネックレスを見せてください。きっと、役に立ちますから」
そうして、浮竹とブルンは帰ってきた。
子供がちゃんと生まれた記憶が蘇り、京楽が目の前にいたので緊張の糸が解けて、浮竹とブルンはわんわん泣きだした。
それから、犯人らしき人物が残した手紙がポストの中に投函されていた。
内容は「ありがとう」
浮竹とブルンは泣くばかりで、京楽は訳が分からないのだが、浮竹とブルンが帰ってきてくれて、ほっとするのだった。
ことのあらましを聞いて、京楽は溜息をついた。
「で、その獣人の子供に攫われたというか連れていかれて、ブルンも浮竹も、犯人の母親の傷を無報酬で治しちゃったんだね?」
「無報酬じゃないぞ。ちゃんと、牙で作られたネックレスをもらった」
「牙狼族?聞いたこともないよ?」
「でも、いたんだ。真っ白な大きな狼が」
「それってフェンリルじゃないの?」
「フェンリルは、氷の精霊だろう?」
浮竹が首を傾げる。
「個体によっては、ただの大きな狼の場合がある。フェンリルなら、牙狼族と名乗っていたとしても頷ける」
「そういえば、人化した時何もかもが白かった」
「白亜種族のフェンリルだろうね」
京楽は、浮竹より獣人なんかには詳しかった。
「子供を産んだんだけど、死産で、俺が蘇生させて、ブルンが安定させてくれたんだ」
「蘇生できたのかい。おまけにフェンリルの傷を癒したとなると、牙は本物かもね」
京楽は、牙狼族と名乗ったフェンリルの牙のネックレスをみた。ほのかだが、氷の属性がエンチャントされていた。
「なんでも、毛皮目当ての人間の罠にかかってしまったらしい」
「フェンリルの毛皮は、毛皮の中でもダントツに高いからね」
「でも、なぜ?フェンリルは獣人でもあるのだろう?」
「正確には、人の姿になれる獣かな。本性は獣だよ」
「仲良く、なれないのかな」
「無理だろうね。本物の獣人ならいざ知らず、フェンリルの獣人だと、毛皮目当てで襲からわれる、人を見つけると襲うだろう。君は、エルフだったから無傷だったんだよ。あとブルンも連れていたから」
「そうか・・・・仲良くなれないのか」
しょんぼりする浮竹に、京楽が助け舟を出す。
「あ、でもそのネックレスをもらったってことは、友好の証じゃないの?」
「そうかな。そうだな。うん、きっとそうだ」
「くくるーーー」
「ブルンも、そう思うか?」
「くくる!」
浮竹とブルンは、前の日食事をあまりとっていなかったので、よく食べて眠りにつくのであった。
-----------------------------------------------------------------
「フェンリルの捕獲に失敗したか」
藍染は、ぽつりと呟いた。
「まぁいい。他の魔獣を探してみるか」
ワイングラスの赤い液体を飲み干す。
それは、ワインなどでなく人の生き血であった。不老不死を維持するために、時折藍染は人の生き血を飲むのだった。
ゴポリ。
藍染の背後では、変わらず水槽の中で何かの肉塊が蠢いていた。
正確には行方不明になったのだが、事件が解決してから犯人から手紙があったのだ。
(ありがとう)
「はぁ?」
京楽は情けない声をあげていた。
ことの発端は、昨日にまで遡る。
草原で、浮竹と京楽とブルンは、ピクニックをしていた。
ブルンには大量のゴミを与えてやった。
そのブルンが、何か変な声がするといって、飛んでいった。
その後を浮竹が追ったのだが、そのまま一人と一匹は帰ってこなかった。
周囲を探したが、姿はなく、先に帰っていると思ったのだがいなかった。冒険者ギルドにもいなかった。このまま帰ってこないと心配なので、冒険者ギルドの者にも依頼して、行方を捜してもらおうかと思っていた矢先だった。
行方不明になった翌日に、浮竹とブルンは帰ってきた。
「浮竹にブルン、どうしたの!心配したんだよ!」
「助かった!よかったよう」
「くるるーーー」
一人と一匹は泣きだした。
なんでも、獣人に誘拐されたのだそうだ。
魔力が消えるお札を使われて、目隠しをされて、プルンと一緒にどこかへと運ばれた。
周囲をふっとばそうかと思ったが、犯人は明らかに子供だったのだ。
子供に誘拐されてついた先は、山奥の深い森の中だった。
「メアリ、どうしたの。探したのよ」
「かあさん!かあさんを治せる人を連れてきたよ!」
大きな白い狼と、獣人の子供たちがいた。
「えっと、これは?」
「誘拐しちゃってごめんなさい。報酬を払うお金がないの。どうか、かあさんの傷を癒してください!」
浮竹は、大きな白い狼が獣人たちの母親であると分かった。
「ちょっと、傷を見せてくれるか」
「はい。この右足です」
右足は腐って半分ちぎれかけていた。
「これは酷い。どうしたんだ?」
「人間の罠にはまって・・・・かあさんの毛皮が高く売れるからって、人間たちが」
「ブルン、頼めるか?」
「くるる~~~」
ブルンは体を光らせて、大きな白い狼の傷を治した。
「まぁ。怪我が嘘のよう」
「それより、この獣人たちはあなたの子なのだろう。人化はできないのか?」
「いえ、できます。ただ、足の傷が深すぎて人化できなかっただけで。私はダリア。この山の奥の森を縄張りにしている狼の獣人です」
ダリアは人化した。
純白の獣人が現れた。
髪も肌も目も衣服も、何もかもが白かった。
頭の上には狼の耳があり、白い尻尾もついていた。
「傷を治してくださり、ありがとうごいます・・・・ううう」
「どうした?」
「こ、子供が・・・生まれそう」
「ええ!」
「くくるー!」
「おかあさん、どうしたの、まだ苦しいの?」
「違うのよ。新しいあなたたちの妹か弟ができるの」
「すみません、いつもは亭主がいるのですが、大掛かりな狩りの最中で。お産の手伝い、してもらっていいですか?」
浮竹は真っ赤になった。
「いいが、俺は男だぞ?」
「ええ、分かっています。でも、子供たちは小さくてまだ頼めません」
それから、浮竹はお湯を分かし、綺麗な布を用意して、子供が生まれてくるのを待った。
「出てこないぞ?」
「逆子のようです。少しずつ、ひっぱりだしてください」
足がでてきたので、少し引っ張った。ピクリと足は動いたが、それきり動かなくなった。
「だめだ、息をしていないかもしれない。ちょっと荒くなるが、我慢してくれ!」
浮竹は、赤子の足を掴んで無理やり引っ張りだした。
やはり、息はしていなかった。
「死産ですか・・・・・うううう」
「まて、まだ可能性はある!」
浮竹は、習ったことのある方法で、心臓マッサージを繰り返し、息を吹き込んだ。
するとどうだろう。
赤子が息を吹き返したのだ。
「おぎゃあおぎゃあ」
「ブルン、頼む」
「くくうるーー」
ブルンが魔法をかけて、赤子の容態はすぐに安定した。
「よかったー。生まれたよう」
「くくる――」
浮竹とブルンは、わんわんと泣きだした。
そのまま、一晩を様子見のために親子の様子を見ながら眠った。
「イアラ帝国のどこにお住まいですか?」
「帝都アスランだが」
「そこなら、行った事があるので、空間転移の魔法で送りますね」
「あ、俺は浮竹という。こっちはブルンだ」
「ありがとございます、優しい浮竹さん、ブルンさん」
ダリアは、去り際に刃で作られたネックレスをくれた。
その刃は、牙狼一族の証であった。
牙狼一族は義理堅いという。
「何か、獣人のことで問題が起きたら、そのネックレスを見せてください。きっと、役に立ちますから」
そうして、浮竹とブルンは帰ってきた。
子供がちゃんと生まれた記憶が蘇り、京楽が目の前にいたので緊張の糸が解けて、浮竹とブルンはわんわん泣きだした。
それから、犯人らしき人物が残した手紙がポストの中に投函されていた。
内容は「ありがとう」
浮竹とブルンは泣くばかりで、京楽は訳が分からないのだが、浮竹とブルンが帰ってきてくれて、ほっとするのだった。
ことのあらましを聞いて、京楽は溜息をついた。
「で、その獣人の子供に攫われたというか連れていかれて、ブルンも浮竹も、犯人の母親の傷を無報酬で治しちゃったんだね?」
「無報酬じゃないぞ。ちゃんと、牙で作られたネックレスをもらった」
「牙狼族?聞いたこともないよ?」
「でも、いたんだ。真っ白な大きな狼が」
「それってフェンリルじゃないの?」
「フェンリルは、氷の精霊だろう?」
浮竹が首を傾げる。
「個体によっては、ただの大きな狼の場合がある。フェンリルなら、牙狼族と名乗っていたとしても頷ける」
「そういえば、人化した時何もかもが白かった」
「白亜種族のフェンリルだろうね」
京楽は、浮竹より獣人なんかには詳しかった。
「子供を産んだんだけど、死産で、俺が蘇生させて、ブルンが安定させてくれたんだ」
「蘇生できたのかい。おまけにフェンリルの傷を癒したとなると、牙は本物かもね」
京楽は、牙狼族と名乗ったフェンリルの牙のネックレスをみた。ほのかだが、氷の属性がエンチャントされていた。
「なんでも、毛皮目当ての人間の罠にかかってしまったらしい」
「フェンリルの毛皮は、毛皮の中でもダントツに高いからね」
「でも、なぜ?フェンリルは獣人でもあるのだろう?」
「正確には、人の姿になれる獣かな。本性は獣だよ」
「仲良く、なれないのかな」
「無理だろうね。本物の獣人ならいざ知らず、フェンリルの獣人だと、毛皮目当てで襲からわれる、人を見つけると襲うだろう。君は、エルフだったから無傷だったんだよ。あとブルンも連れていたから」
「そうか・・・・仲良くなれないのか」
しょんぼりする浮竹に、京楽が助け舟を出す。
「あ、でもそのネックレスをもらったってことは、友好の証じゃないの?」
「そうかな。そうだな。うん、きっとそうだ」
「くくるーーー」
「ブルンも、そう思うか?」
「くくる!」
浮竹とブルンは、前の日食事をあまりとっていなかったので、よく食べて眠りにつくのであった。
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「フェンリルの捕獲に失敗したか」
藍染は、ぽつりと呟いた。
「まぁいい。他の魔獣を探してみるか」
ワイングラスの赤い液体を飲み干す。
それは、ワインなどでなく人の生き血であった。不老不死を維持するために、時折藍染は人の生き血を飲むのだった。
ゴポリ。
藍染の背後では、変わらず水槽の中で何かの肉塊が蠢いていた。
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