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エンシェントエルフとダークエルフ31

その女性は、褐色の肌が美しいダークエルフだった。黒髪に黒目をしていた。

「母上が捨てた子か・・・面白い」

女性の名は、夜一と言った。

見た目は京楽より若いが、京楽より200歳は年上の実の姉だった。

夜一は、見た目を人間に見える魔法をかけて、空間転移魔法でイアラ帝国までくると、浮竹と京楽が住んでいるという家を訪ねた。

ピンポーンとチャイムが鳴り、浮竹が対応にでた。

「どちら様で?」

「よう。京楽の嫁じゃな?」

「はぁ?」

「儂は四楓院夜市。京楽春水の実の姉にして、ダークエルフじゃ」

夜一は、人間に見える魔法を解いた。

「京楽に何の用だ!」

いつでも剣を抜けるように、鞘に手を伸ばす。

「誤解じゃ誤解じゃ。捨てられたはずの弟が、人間社会でAランク冒険者をやっていると聞いてのう。ただ純粋に、好奇心から会いに来ただけじゃ。害意はない」

「くくるーーー」

ブルンが、この人ほんとに害意がないよと言うので、浮竹は夜一を家にあげた。

「京楽」

「んー?」

ソファーでゴロンと横になって、書物を読んでいた京楽は、ダークエルフの夜一を見て、闇の魔法を発動させようとした。

「いきなり初対面で闇の魔法はなじゃろ。儂は四楓院夜一。灼熱がシャイターンの長女にして、お主の実の姉じゃ!」

「はあああああ!?」

間の抜けた京楽の声が、家中に響き渡った。


とりあえず、お茶を出した。

「で、夜一さんはなんの用でこんなところにいるの?」

「夜一姉さんじゃ」

有無を言わさない強さで迫られて、咳払いしてから京楽は言い直した。

「で、夜一姉さんは何の用があってここにきたの?」

「儂か?儂は何の用もない。しいていれば、お主の様子を見に来たくらいじゃろうか」

「そんな理由で、わざわざ魔大陸から来たの!?」

「この国には昔きたことがあるからのお。転移魔法で一発じゃ。それにしてもやるのうお主。こんな綺麗なエンシェントエルフを嫁にするなぞ」

「浮竹は僕と同じ男だよ!」

「分かっておるわい。でも、ものにしたんじゃろう?お主の匂いがぷんぷんするわい」

その会話を聞いていた浮竹は、真っ赤になってブルンを抱きしめて、隣の部屋に逃げてしまった。

「ちょっと、浮竹逃げないで!頼むから、この夜一姉さんと2人きりにしないで~~」

情けない声を出す京楽に、仕方なく浮竹は部屋に戻ってきた。

「くくるーー」

「お、エンジェリングスライムか。実物を見るの始めてじゃのう。なんていうか・・・うまそうじゃ」

「くくるーーー!!」

ブルンは、空を飛びまくって、照明と激突して落っこちてきた。

「夜一姉さん、そんな本当か冗談なのか分からないことを言わないで!」

「む?本心じゃぞ」

浮竹が、気絶したブルンを抱きしめて、首を横に振った。

「ブルンは大切な家族だ。食べさせないぞ!」

「嘘じゃ嘘じゃ。ただの冗談じゃ」

「ダークエルフの普通の食生活がどんなのか分からないから、冗談に聞こえない」

「む?人やエルフのような同じような生活を送っておるぞ?ただ、モンスターの肉を食うのが多いくらいじゃの。違いは」

「ダークエルフって、もっと魔族に近くて野蛮なんじゃ」

「ダークエルフというだけで、そう決めつけないでくれぬか」

「ああ、すまなかった」

「よい。儂も悪ふざけが過ぎた」

夜一は謝ると、京楽の手を取った。

「人間社会の冒険者ギルドを見たいのじゃ。連れていってくれぬか?」

「でも、その見た目じゃ・・・・」

夜一は、人間の女性に見える魔法を使った。その魔法は完璧で、魔力障害を発生させても解けなかった。

「分かったよ。夜一姉さんの言う通りにするから、目立たないでね。あと、冒険者ギルドでは僕がダークエルフっていうのはばれてるから、姉だって言わないでね」

「分かった分かった。言う通りにするから、早く冒険者ギルドへ行こうぞ」

京楽と浮竹は、ブルンと人間にしか見えない夜一を連れて冒険者ギルドに来た。

「あら、春ちゃんうっきーちゃん、どうしたの?今日はもう帰るって言ってたのに」

「なんじゃ、この化け物は?」

キャサリンは、ぴきっと引きつった。

「何か言った、お嬢ちゃん?」

「お主のことを化け物と言ったのじゃ。冒険者ギルドのギルドマスターなのか。マスターが化け物と・・・・・・むーーー」

京楽は、夜一の口を塞いだ。

「むーむーーーー」

「夜一ちゃん、あっちに依頼の掲示板あるから、それを見に行こう」

「だめだ、夜一さん。あのオカマを化け物扱いしたら、後で凄い目にあうから、化け物って言っちゃだめだ」

「わかった。お主らの言う通りにする。依頼・・・・何々、ファイアドラゴンの退治。これが面白そうじゃ。受けて、退治にいくぞ!」

「いや、僕らにはまだ無理だから。ドラゴン退治はまだしたことがないよ」

「じゃあ、ますます受けねば!」

「だから、まだ早いって!ドラゴン退治はSランクになってから受けるって決めてあるんだよ」

「つまらんのう」

夜一は依頼書を隅から隅まで見た。

「よし、この薬草採取に行こう」

「ええ、本気なの!?」

「これなら、危なくないじゃろ?」

「でもそれ、Fランクの依頼だよ?報酬とか銀貨1枚だよ?」

「いいのじゃいいのじゃ。これを受ける。ついでに、儂も冒険者登録しておこうかの」

そうして、夜一はFランク冒険者になった。

草原にいき、ヒーリング草と、解毒ポーションの元になる毒消し草を探して、籠の中に入れていく。

指定の数をつみ終わる頃には、日が暮れていた。

「かけだし冒険者は大変じゃのう。こんなに苦労して、報酬は銀貨一枚だけとは」

冒険者ギルドに戻ると、夜一の顔を知らない同じAランク冒険者たちが声をかけてきた。

「なんだ、新米冒険者のお嬢ちゃんのお守か?」

「まぁ、似たようなもんだよ」

「ぬう、バカにされておるのか・・・・」

「夜一さんは、この籠をもって、受付嬢のところに行ってくれ」

「分かったぞ、浮竹」

夜一は、ヒーリング草と毒消し草をそれぞれ50個ずつ提出して、報酬の銀貨一枚をもらった。

「今夜は疲れたのじゃ。帰るぞ」

「ふーん。京楽さんが目にかける子だけあって、かわいいじゃん」

「ねえ、お嬢さんお名前は?」

「四楓院夜一じゃ。魔王が配下、灼熱のシャイターンの・・・むーーーー」

浮竹と京楽に口を塞がれて、夜一はずるずると浮竹と京楽の自宅に引っ張っていかれた。

「何をする!」

「それはこっちの台詞だよ!中立を保っているとはいえ、魔族は人間の敵なんだよ!しかも灼熱のシャイターンは四天王の一人!その長女とばれたら、どうなるか分からない!」

「むう、そうなのか。儂が悪かった・・・」

「まぁ京楽、悪気があったわけじゃないから」

「浮竹は甘いよ。さぁ、用は済んだでしょ。魔大陸に帰ってよ」

「むう、まだ人間社会の市場などを見て回りたいのじゃ」

「じゃあ、明日にしよう。今日は夕飯をとって、風呂に入って寝よう。着替えとかは持ってきているか?」

浮竹の言葉に、夜一は頷いた。

「勿論じゃ。お風呂セットももってきておるし、布団と毛布と枕ももってきておる」

アイテムポケットをごそごそして、夜一はお風呂セット手に、脱衣所に消えていった。

「あ、お風呂まだ水じゃない?」

「ファイアボール!」

夜一は、器用に炎の魔法でお湯にして適温にすると、鼻歌を歌いながら長湯をするのであった。

「ああ、いい風呂じゃった。お、おいしそうじゃの」

今夜のメニューは、タルタルソースつっきのエビフライ、コーンスープ、白パン、ビーフシチューであった。

「うむ、うまいのお」

「京楽が作ってくれたんだ。後で、お礼を言ったら、きっと恥ずかしがるぞ」

くすくすと、浮竹は笑った。

その京楽は、デザートを作るためにキッチンに居た。

「苺のシャーベットでいいか」

苺のシャーベットをもってくると、夜一はニヤニヤしていた。

「なんだい、夜一姉さん」

「この料理、全部お主が作ったのじゃろう?」

「そうだけど」

夜一は、背伸びをして京楽の頭を撫でた。

「偉いのう、京楽は。姉として、鼻がたかいぞ。冒険者ギルドでの評判を聞く限りでは、次のSランク試験にはほぼ通りそうというではないか」

「まだまだ、修行が足りないよ」

「謙虚なところも良いな」

その日はそのまま就寝して、次の日になって朝食をとって、三人で市場に出かけた。

「おお、人が多いのう」

「そりゃ、帝都だからね」

「あっちの店に売ってあるあれはなんじゃ?」

「ああ、クレープだな。食べたいのか?」

「うむ」

「じゃあ、買ってくる」

浮竹は、クレープ屋にいって、チョコ味とバナナ味とストロベリー味を注文して、持って帰ってきた。

「食べてもよいのか?」

「うん、いいよ」

「甘い・・・初めて食べる食べ物じゃ。人間社会は、いろんなものがあって楽しいのう」

市場でいろいろ見て、夜一の職業がアサシンであることが分かり、短剣がボロボロだったので新調することにした。

浮竹と京楽が馴染みにしている武器屋で、ミスリルのナイフを二つ白金貨七枚で購入した。

「いやあ、人間社会の鍛冶屋はすごいのう。ミスリルの武器を扱えるのか」

中古品だったので、今度は馴染みの鍛冶屋でミスリルのナイフを研いでもらった。

「ふふ、これでまたいい仕事ができそうじゃ」

「夜一姉さんは、そのナイフで人を殺すの?」

「人というか、魔族じゃがの。灼熱のシャイターンに逆らう連中をヤるのじゃ」

「そう・・・・・」

京楽は、沈んだ顔をしていた。

「心配せんでも、無駄な殺しはせぬよ。どうしても必要になった時、集団の頭を暗殺する。その程度じゃ」

「そう・・・・・」

京楽の表情が、少し晴れた。

「さて、人間社会の見学も終えたし、いろいろ食えたし、短剣も新調したし、儂は魔大陸に戻るよ」

自宅に戻ると、夜一がそう言いだした.。

「夜一姉さん・・・・灼熱のシャイターンは・・・・母さんは元気にしてる?」

「おう、元気じゃぞ。この前、一三番目の夫と結婚して、新婚生活を満喫中じゃ」

「一三番目の夫?今、母さんには夫は何人いるの!?」

『生きている数では、九人じゃな。あと、男妾を5人もっておる。母上は、エルフにしては性欲が旺盛じゃからのう。子は末子の子で12人目か。まだ30歳じゃ」

「はぁ・・・なんか眩暈がする」

「大丈夫か、京楽」

「うん。僕の家庭問題から。平気だよ、浮竹」

「じゃあ、儂は戻るな。また、遊びにきてもよいじゃろうか?」

「うん、別にいいよ。ただし、ダークエルフってばれないようにね」

「分かっておるよ」

「さよなら」

「うむ、浮竹、そなたは義理の弟になるのじゃな、そういえば。京楽と契りの儀式を交わした伴侶じゃろ」

浮竹は真っ赤になって、エンジェリングスライムのブルンで、顔を隠してしまった。

「ははは、照れ屋じゃのう」

「もう、夜一姉さん、浮竹は純粋なんだから、からかわないで」

「悪かった悪かった。では、今度こそ帰るよ」

夜一は、空間転移魔法で、魔大陸に戻ってしまった。

「なんか、嵐のような人だったな。そこだけは、シャイターンにそっくりだ」

「僕の一族って、みんな嵐のような人物だったりして」

冗談で言ったつもりであったのだが、事実、灼熱のシャイターンの一族は、ほとんどが嵐のような人物で構成されていると、まだ知らない京楽であった。

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