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エンシェントエルフとダークエルフ38

ドラゴンは、大ざっぱに分けて2種類いる。

人語を解し、人型をとる真竜の竜族と、普通のドラゴンだ。

依頼は、そんな竜族からの依頼であった。

冒険者の中にも獣人やエルフ、ドワーフなどの亜人種もいるが、竜族は人とあまり関わりをもたないので、竜族が依頼を出すなど、とても珍しいことであった。

依頼内容は、死に至る毒の治癒であった。

その竜族は、まだ子供だった。

その母親のドラゴンが、魔族から毒を受けて魔大陸から戻ってきたのだという。しかも厄介なことに、どんな治癒術士でも治せない毒であった。

「俺たちが引き受けるしかないな」

「うん、ブルンがいるからね」

「あななたちが、引き受けてくださるのですか」

依頼を受注したと聞いて、真っ赤に泣きはらした目をした竜族の子供が、宿屋から冒険者ギルドにきていた。

「僕の名前はアレク。アレク・サンダーゾン。どうか、母のエルミナ・サンダーソンを助けてください!報酬は、僕の体の一部を売ってお支払います。だからどうか、どうか母を」

「顔をあげて。ちゃんと依頼は引き受ける限り、必ず治癒するから」

アレクは、ぱぁぁと顔を輝かせた。

「早速、母のところまで案内します」

「ん、馬車か?それともワイバーン?」

浮竹の疑問に、アレクを首を横に振る。

「僕の上に乗って下さい」

アレクは、町の広場に出ると、竜化した。

子供といっても、6メートルはあるだろうブラックドラゴンだった。

「きゃあああ、ドラゴンよおおお!!」

「うわああ、殺されるううう」

人々は逃げていく。

「さぁ、今のうちに背中に乗ってください」

「竜化するなら、帝都を出たほうがよかったね」

「すみません。でも、早く母を楽にしてあげたくて」

アレクのブラックドラゴンの背中に乗って、二人と1匹は、空を飛んだ。

「世界広しといえど、ドラゴンの背に乗って飛んだ冒険者なんて、いないだろうな」

「あ、それ僕も思った」

アレクは、休憩することなく10時間飛び続けた。

浮竹と京楽は、ドラゴンの背中で眠ってしまっていた。

ブルンだけが、ドラゴンと会話をしていた。

「そうですか。あなたが、毒の治癒を」

「くくるー」

任せろ、どんな毒でも治してみせるよ。

そうアークエンジェリングスライムから言葉をもらい、アレクは険しい崖が続く山脈に降り立った。

「ここが、竜族の里の入り口です」

巨大な洞窟があり、そこにアレクは人化して入っていく。

中に入ると、エルフなど見たことがない竜族たちの、好奇の的にされた。

「竜族っていっても、人化したら角があるだけで、ほとんど人間と変わらないんだね」

「アレク、このエルフたちは?」

竜族の里の、族長だという者が現れた。

「母さんの毒を治癒してくれる方々です」

「アレク・・・悪いことは言わない。母さんのことは、諦めなさい。あの毒は、禁忌の毒だ」

アゾムの毒といって、猛毒でどんな治癒魔法も解毒剤も効かぬとされている毒だった。

「でも、この方たちは治してくれます。見て下さい、アークエンジェリングスライムです。この神の魔法をもつスライムなら、きっと母さんを」

「エルフのそこの二人。怪しい真似をしたら、すぐに放り出すからな」

「おお、怖」

「俺たちは、この子の依頼を引き受けてやってきたSランク冒険者だ。ちゃんと、依頼を遂行して何もせずに戻る」

浮竹と京楽は、ドラゴンの背にいる間にそれぞれ自己紹介をしていた。

「こっちです、浮竹さん、京楽さん、ブルンさん」

「くくるーー」

ブルンは、4枚の翼で空をパタパタ飛んでいく。

アレクが辿り着いた先は、大きな館が立っていた。

「人間でいうところの、貴族ですか。僕の父が先代の族長の子でした。魔族に殺されてしまいましたが」

「お前の母親は、必ず助けて見せる。なぁ、ブルン」

「くくる!!」

屋敷の中の一番奥の部屋に、その女性はいた。

とても子持ちとは思えない、十代後半の姿をした少女だった。

「母は、エンシェントドラゴンの血を引いていて、実年齢より見た目が若いんです」

綺麗な少女だった。

「ブルン、いいか?」

「くくるーー」

ブルンは、神ヒールをエルミナにかけた。

青白い顔で、今にも死にそうに横たわっていたエルミナの頬に、赤みがさしてくる。

「うん・・・アレク?私は・・・・毒が、消えてる!?」

「母さん!」

アレクはエルミナに抱き着いて、泣きだした。

「よかった、本当によかった。母さんまで失ったら、僕は独りぼっちになってしまう。こちらのエルフの浮竹さんと京楽さんが、母さんの治癒の依頼を引き受けてくれたんです。それから、こちらのアークエンジェリングスライムのブルンさんが、母さんの毒を中和してくれたんです」

「ああ、アレク!よかった、私は死を覚悟していたけれど、生きられて本当によかった」

浮竹と京楽とブルンは、その後竜の里中でもてなされて、数日滞在した。

「そろそろ、帰らないと」

「ええ、もうですか?まだ1週間しか経ってませんよ」

「僕たちもエルフだから、時間の流れはあっという間に思えるけど、1週間もいないと、ギルドマスターが僕たちがドラゴンに食べられたじゃないかとかいって、葬式の準備してそう」

「あのブスのしそうなことだな」

「あ、じゃあ報酬金はギルドに預けていますが、これをもっていってください」

それは、竜の魂のオーブという秘宝だった。

竜族の心臓から作り出される代物だった。

「こんな大層なもの、もらえないよ」

「父の形見ですが、あるだけ無駄なので。どうか、金銭に変えて、冒険の役に立たせてやってください。あ、帰りも僕の背に乗って帰りますか?」

「いや、京楽が転移魔法を使えるから、そのまま魔法で帰るよ」

「転移魔法!すごいですね!」

「ドラゴンの知り合いができたって、あのオカマのギルドマスターに知られたら、なんかいろいろありそうだから、ここのことは秘密にしておこう、浮竹」

「ああ」

アレクは、竜化すると、浮竹のほっぺを舐めた。

それに、京楽がむっとする。

京楽を舐めることはなく、浮竹とブルンばかりを舐めるアレクに、京楽が冷たい声を出す。

「浮竹は僕の伴侶なんだ。あんまり、馴れ馴れしくないで」

「あ、そうだったんですか。ごめんなさい」

しゅんとして、人の姿にもどったアレクは、京楽にぺこりと謝った。

「京楽、らしくないぞ。もしかして、嫉妬か~?」

「もう、浮竹のばか!とにかく、帰るよ」

京楽は頬を赤くしながら、転移魔法を唱える。

着いた先は、冒険者ギルドだった。

中に入ると、すでに線香がたかれて、遺影を飾られた空の棺が2つあった。

「キャサリン、君ってやつは」

「このブス!」

「あらぁ、春ちゃんにうっきーちゃん、てっきりドラゴンに食べられてあの世にいったものだと・・・・」

「ドブス!!」

「うっきーちゃん、もっぺんいってごらんなさい?」

「このド・・・ムーーー」
京楽に口を塞がれて、冒険者ギルドで行われていた浮竹と京楽の葬式は、中止で終わった。

「何故止める。あのドブスに本当のことを言っただけだぞ」

「あのドブスはね、後が怖いんだよ。あれでもドラゴンキラーの称号をもつ、元Sランク冒険者のTOPだからね」

「まぁいい。報酬金を受け取ってくる」

報酬金は、大金貨千枚だった。

竜族もドラゴンなので、金銀財宝をためこむのが好きだ。

「このドラゴンの魂の秘宝は・・・・家に飾っておくか」

「うん、そうしよう。お金には困ってないし、ギルドに売ったら、竜族との関係を知られそうだしね」

「ブラックドラゴンかぁ。アレクは子供だが、かっこよかったな」

「浮竹、浮気は許さないよ?」

「ばか、違う。ドラゴンはかっこいいと言ってるんだ」

「竜族はね。普通のドラゴンは食うことと金銀財宝をためこむことくらいしかおつむがないから」

「あのファイアドラゴンも、竜族なんだろうな」

「そうだね。人語をしゃべっていたから、きっとその気になれば人化できるんじゃない。人化する必要のないドラゴンは、人化することを嫌うからね」

以前、討伐任務を受けて失敗した、災害クラスのファイアドラゴンのことを思った。

「ドラゴンキラーになるが夢だったが、竜族とこんなに親しくなると、竜族は退治できそうにないない」

「それでも、人に害なす場合は駆除しないと」

京楽は、アレクがまだ子供でよかったと思うのだ。

アレクの行為は、求婚に近かった。

異種族だが、人化した竜族と亜人が契れないことはない。

本当に子供でよかった。心から、そう思うのであった。



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