教師と式
「何してるの、浮竹」
声をかけてきたのは、浮竹の式の京楽だった。桜の花鬼で、他にも浮竹はいくつか式を従えていたが、人型をとるのは京楽と、椿の花鬼の白哉だけだった。
「ああ、今日のテストの点数をつけてるんだ。成績がいい子ばかりで、俺も教えがいがあるな」
「そう。夕ご飯作ったから、食べる?」
「ああ。食べる」
浮竹は、小学校5年の担任の教師だった。
私立の進学校として有名な中学高校と一貫しているため、生徒たちは頭がいい子が多い。
浮竹は、教師をしながら祓い屋をしていた。
浮竹の裏家業を知る者は、同じ祓い屋の中くらいしかいない。
「兄の料理の腕は、いまいちだ」
「ちょっと、白哉くん勝手に食べときながらそれはないでしょ」
人型をとった白哉は、勝手に京楽の作ったカレーを食べて、その感想を言う。
「まぁ、俺のほうがもっと料理の腕は壊滅的だからな」
浮竹が苦笑する。白哉は、カレーをもう一口食べながら、助言する。
「ルーをもう少し入れるといい。隠し味にチョコレートをいれるとまろやかな味になる」
「ふむ。ちょっと待っててね、浮竹」
「ああ」
京楽は、辛口のルーを鍋に足して、おやつにとっておいたチョコレートを少しだけ放り込む。
「うん、さっきよりおいしいかも」
「当り前だ。私の助言でまずいものができるはずがない」
自信満々気な白哉は、また勝手に京楽の作ったカレーを一口食べた。
「先ほどよりはましだな。浮竹、兄も食べるといい」
「白哉、昨日の牛鬼退治で疲れているだろう。無理に人型をとる必要はないんだぞ」
「問題ない。それより、京楽と二人きりにして京楽が、兄にいらぬことをしないかが心配だ」
「ボクと浮竹は、互いの意思でちゃんと交際してるんですう。白哉くんはひっこんでなさい」
「主を守るのも式の務め」
白哉は、浮竹の隣に座る。
「あ、そこボクが座ろうと思ってたのに!」
「京楽、兄が浮竹を大事にしているのは承知しているが、式が主と交わるのはあまり良いことと思えぬ」
浮竹は、最近白哉に知られてしまった京楽との仲に、顔を赤くする。
「白哉、俺は大丈夫だから」
「ふむ。兄がそう言うのなら、私は呪符に戻って休憩することにしよう」
白哉は、椿の文様がある紙切れになって、眠ってしまった。
「全く、白哉くんは‥‥‥」
「まぁまぁ。カレー、うまそうだな。いただくよ」
「うん。好きなだけ食べてね?」
京楽は最近料理を始めたばかりなので、まだ簡単なものしか作れいないが、コンビニの弁当やらジャンクフードやインスタント食品を食べる浮竹の健康面を気にして、新鮮な素材で料理をしてくれるようになった。
浮竹は、京楽の作ったカレーを食べて、京楽も自分で作ったカレーを食べた。
「白哉くんの言った通りにしたら、確かにさっきよりおいしいよ」
「そうか。白哉は昨日牛鬼と戦ったからな。力を消耗しているだろうに」
「白哉君は椿の花鬼だからね。なかなか散らない椿のように強い」
「ああ。京楽は桜の花鬼ですぐ散るのに強いな」
「ふふ。桜の花鬼は人の生気を吸うからね。君がいない間、ボクは外で人間から少しだけ生気を分けてもらってるから」
「本当に、少しだけだろうな?」
「もちろん。干からびるほど吸うようなバカじゃないよ。君の式なんだから」
元々、京楽は浮竹の式ではなかった。
別の術者の式だった。
それを、京楽が惚れたとか言って、前の術者と契約を切り、浮竹の式になりたいと言ってきたのだ。最初、浮竹は拒否していたが、桜の花鬼が主を持たないままいると、人の生気をたくさん吸って殺してしまうので、仕方なく浮竹は京楽を式にした。
京楽はその勢いのまま、浮竹を口説き落とすことに成功した。
「依頼がきている。明日、昨日とは違う牛鬼を退治する」
「こんなに牛鬼が出るなんて、何かあるのかな」
「分からない。ただ、牛鬼は危険だ。人を食うからな」
「うん。生気を吸いつくしてやるよ」
次の日になって、京楽は人型から桜の花びらが描かれた呪符に宿って、浮竹と共に牛鬼が出る公園にやってきた。
「うまそうな匂いがする。人間、お前は他の人間よりうまそうだ。食わせろ」
「京楽」
「はいはい。出番だね」
浮竹は、京楽を召喚する。
「式か。貴様、術者か」
「ああ。祓い屋だ」
「おのれ、我を退治にきたか。だが、そんな式程度に‥‥‥ぎゃあああ、生気を吸われていく!?」
牛鬼は、いつの間にか生気を吸われて、干からびていく。
「ボクは桜の花鬼だからね。桜の花鬼は大量の生気を吸う。牛鬼、君の生気はまずいね」
「ああああ、我の体があああ」
牛鬼は、体を維持することができなくなるくらい生気を吸われて、灰になる。
「京楽、戻れ」
「まずい生気だったよ。浮竹のおいしい生気を少しだけちょうだい?」
「仕方ないやつだな‥‥」
浮竹は、京楽に口づけをする。
「うん。浮竹の生気は極上だね。すごくおいしかった。そんなんだから、他のあやかしに狙われるんだよ。まぁ、祓い屋だから返り討ちだろうけど」
「お前に生気を分けたことを白哉が知るとまた何か言いそうだ」
「白哉くんは、主思いが強いからね」
白哉は、浮竹がもともと持っている式で、椿の花鬼だ。狂い咲きの椿と言われていたあやかしの白哉を、浮竹が自分のものにした。
「ああ、このまま夕飯の買い出しに行こうか」
「そうだな」
「でも、牛鬼なんて強いあやかしが意味もなく出るとは思えないけどね」
「裏で、誰かが糸を引いているのかもな。まぁ、当分牛鬼どころかあやかしも出ないように結界を張っておくか」
「そうだね。逢魔が時にまた何か出そうな空気だ。結界をはって、清めておくのがいいね」
浮竹は、烏の式を召喚して結界を張る。
清めの聖水を公園に降り注がせて、京楽は浮竹のサポートのために烏の式に生気を分けた。
「さぁ、終わりだ」
「うん。じゃあ、買い物にいこっか」
「今日は何を作るんだ?」
「ん、クリームシチューだよ。魚介類いっぱいのね」
「お前の料理の腕は日に日にうまくなっていくから、楽しみだ」
「ふふふ、そう言われると嬉しいね」
京楽は、浮竹の手を握る。
浮竹は、仕方ないとばかりに京楽と手を繋ぐ。
人のいない場所だけであるが。
浮竹十四郎。彼は、その界隈ではある程度有名な祓い屋で、小学校の教師である。京楽はその式で、浮竹に一目ぼれして白哉より後から他の術者の式でありながら、裏切って浮竹の式になった。
白哉は、京楽が裏切るのではないかと心配しているが、今のところそれはなさそうであった。
京楽は、白哉からたまに少しだけ生気を分けてもらって、主に従うという契約を更新している。浮竹は、京楽を式にした限り、他人から生気を分けてもらい存在することを許しはするが、大量に生気を吸って殺すようなことがあれば、京楽を殺すだろう。
京楽は、元々、殺すまで人の生気を吸いつくす花鬼だった。前の術者が従わせるまでは、普通に人を食事としてしか見ていなかった。
浮竹と出会い、浮竹のものになってかから、京楽は自分の存在意義を変えた。
浮竹のために戦い、浮竹を守ると。
「浮竹、明日は食事してくるから、人型のままいさせてね?」
「あんまり、同じ人間から生気を奪うなよ」
「大丈夫。人間はたくさんいるんだもの。少しだけ分けてもらっていくだけでお腹いっぱいになるよ」
京楽は、人の食事は本当は必要ないのだが、浮竹のために食事を作るようになってから、料理をの腕を磨きつつ、自分も食事をするようにした。
浮竹が食べるを、ただ真似しているのだけなのだが、一人で食事するより二人で食事をすれば浮竹は必ず京楽の作ったものを食べてくれるので、そうしていた。
「クリームシチュー、おいしいの作るね?」
「白哉が、味見にまた出てくるだろうな」
「白哉くんは味にうるさいからねぇ」
とりあえず、浮竹と京楽は今は互いに交際中ということで、仲はよいのだった。
声をかけてきたのは、浮竹の式の京楽だった。桜の花鬼で、他にも浮竹はいくつか式を従えていたが、人型をとるのは京楽と、椿の花鬼の白哉だけだった。
「ああ、今日のテストの点数をつけてるんだ。成績がいい子ばかりで、俺も教えがいがあるな」
「そう。夕ご飯作ったから、食べる?」
「ああ。食べる」
浮竹は、小学校5年の担任の教師だった。
私立の進学校として有名な中学高校と一貫しているため、生徒たちは頭がいい子が多い。
浮竹は、教師をしながら祓い屋をしていた。
浮竹の裏家業を知る者は、同じ祓い屋の中くらいしかいない。
「兄の料理の腕は、いまいちだ」
「ちょっと、白哉くん勝手に食べときながらそれはないでしょ」
人型をとった白哉は、勝手に京楽の作ったカレーを食べて、その感想を言う。
「まぁ、俺のほうがもっと料理の腕は壊滅的だからな」
浮竹が苦笑する。白哉は、カレーをもう一口食べながら、助言する。
「ルーをもう少し入れるといい。隠し味にチョコレートをいれるとまろやかな味になる」
「ふむ。ちょっと待っててね、浮竹」
「ああ」
京楽は、辛口のルーを鍋に足して、おやつにとっておいたチョコレートを少しだけ放り込む。
「うん、さっきよりおいしいかも」
「当り前だ。私の助言でまずいものができるはずがない」
自信満々気な白哉は、また勝手に京楽の作ったカレーを一口食べた。
「先ほどよりはましだな。浮竹、兄も食べるといい」
「白哉、昨日の牛鬼退治で疲れているだろう。無理に人型をとる必要はないんだぞ」
「問題ない。それより、京楽と二人きりにして京楽が、兄にいらぬことをしないかが心配だ」
「ボクと浮竹は、互いの意思でちゃんと交際してるんですう。白哉くんはひっこんでなさい」
「主を守るのも式の務め」
白哉は、浮竹の隣に座る。
「あ、そこボクが座ろうと思ってたのに!」
「京楽、兄が浮竹を大事にしているのは承知しているが、式が主と交わるのはあまり良いことと思えぬ」
浮竹は、最近白哉に知られてしまった京楽との仲に、顔を赤くする。
「白哉、俺は大丈夫だから」
「ふむ。兄がそう言うのなら、私は呪符に戻って休憩することにしよう」
白哉は、椿の文様がある紙切れになって、眠ってしまった。
「全く、白哉くんは‥‥‥」
「まぁまぁ。カレー、うまそうだな。いただくよ」
「うん。好きなだけ食べてね?」
京楽は最近料理を始めたばかりなので、まだ簡単なものしか作れいないが、コンビニの弁当やらジャンクフードやインスタント食品を食べる浮竹の健康面を気にして、新鮮な素材で料理をしてくれるようになった。
浮竹は、京楽の作ったカレーを食べて、京楽も自分で作ったカレーを食べた。
「白哉くんの言った通りにしたら、確かにさっきよりおいしいよ」
「そうか。白哉は昨日牛鬼と戦ったからな。力を消耗しているだろうに」
「白哉君は椿の花鬼だからね。なかなか散らない椿のように強い」
「ああ。京楽は桜の花鬼ですぐ散るのに強いな」
「ふふ。桜の花鬼は人の生気を吸うからね。君がいない間、ボクは外で人間から少しだけ生気を分けてもらってるから」
「本当に、少しだけだろうな?」
「もちろん。干からびるほど吸うようなバカじゃないよ。君の式なんだから」
元々、京楽は浮竹の式ではなかった。
別の術者の式だった。
それを、京楽が惚れたとか言って、前の術者と契約を切り、浮竹の式になりたいと言ってきたのだ。最初、浮竹は拒否していたが、桜の花鬼が主を持たないままいると、人の生気をたくさん吸って殺してしまうので、仕方なく浮竹は京楽を式にした。
京楽はその勢いのまま、浮竹を口説き落とすことに成功した。
「依頼がきている。明日、昨日とは違う牛鬼を退治する」
「こんなに牛鬼が出るなんて、何かあるのかな」
「分からない。ただ、牛鬼は危険だ。人を食うからな」
「うん。生気を吸いつくしてやるよ」
次の日になって、京楽は人型から桜の花びらが描かれた呪符に宿って、浮竹と共に牛鬼が出る公園にやってきた。
「うまそうな匂いがする。人間、お前は他の人間よりうまそうだ。食わせろ」
「京楽」
「はいはい。出番だね」
浮竹は、京楽を召喚する。
「式か。貴様、術者か」
「ああ。祓い屋だ」
「おのれ、我を退治にきたか。だが、そんな式程度に‥‥‥ぎゃあああ、生気を吸われていく!?」
牛鬼は、いつの間にか生気を吸われて、干からびていく。
「ボクは桜の花鬼だからね。桜の花鬼は大量の生気を吸う。牛鬼、君の生気はまずいね」
「ああああ、我の体があああ」
牛鬼は、体を維持することができなくなるくらい生気を吸われて、灰になる。
「京楽、戻れ」
「まずい生気だったよ。浮竹のおいしい生気を少しだけちょうだい?」
「仕方ないやつだな‥‥」
浮竹は、京楽に口づけをする。
「うん。浮竹の生気は極上だね。すごくおいしかった。そんなんだから、他のあやかしに狙われるんだよ。まぁ、祓い屋だから返り討ちだろうけど」
「お前に生気を分けたことを白哉が知るとまた何か言いそうだ」
「白哉くんは、主思いが強いからね」
白哉は、浮竹がもともと持っている式で、椿の花鬼だ。狂い咲きの椿と言われていたあやかしの白哉を、浮竹が自分のものにした。
「ああ、このまま夕飯の買い出しに行こうか」
「そうだな」
「でも、牛鬼なんて強いあやかしが意味もなく出るとは思えないけどね」
「裏で、誰かが糸を引いているのかもな。まぁ、当分牛鬼どころかあやかしも出ないように結界を張っておくか」
「そうだね。逢魔が時にまた何か出そうな空気だ。結界をはって、清めておくのがいいね」
浮竹は、烏の式を召喚して結界を張る。
清めの聖水を公園に降り注がせて、京楽は浮竹のサポートのために烏の式に生気を分けた。
「さぁ、終わりだ」
「うん。じゃあ、買い物にいこっか」
「今日は何を作るんだ?」
「ん、クリームシチューだよ。魚介類いっぱいのね」
「お前の料理の腕は日に日にうまくなっていくから、楽しみだ」
「ふふふ、そう言われると嬉しいね」
京楽は、浮竹の手を握る。
浮竹は、仕方ないとばかりに京楽と手を繋ぐ。
人のいない場所だけであるが。
浮竹十四郎。彼は、その界隈ではある程度有名な祓い屋で、小学校の教師である。京楽はその式で、浮竹に一目ぼれして白哉より後から他の術者の式でありながら、裏切って浮竹の式になった。
白哉は、京楽が裏切るのではないかと心配しているが、今のところそれはなさそうであった。
京楽は、白哉からたまに少しだけ生気を分けてもらって、主に従うという契約を更新している。浮竹は、京楽を式にした限り、他人から生気を分けてもらい存在することを許しはするが、大量に生気を吸って殺すようなことがあれば、京楽を殺すだろう。
京楽は、元々、殺すまで人の生気を吸いつくす花鬼だった。前の術者が従わせるまでは、普通に人を食事としてしか見ていなかった。
浮竹と出会い、浮竹のものになってかから、京楽は自分の存在意義を変えた。
浮竹のために戦い、浮竹を守ると。
「浮竹、明日は食事してくるから、人型のままいさせてね?」
「あんまり、同じ人間から生気を奪うなよ」
「大丈夫。人間はたくさんいるんだもの。少しだけ分けてもらっていくだけでお腹いっぱいになるよ」
京楽は、人の食事は本当は必要ないのだが、浮竹のために食事を作るようになってから、料理をの腕を磨きつつ、自分も食事をするようにした。
浮竹が食べるを、ただ真似しているのだけなのだが、一人で食事するより二人で食事をすれば浮竹は必ず京楽の作ったものを食べてくれるので、そうしていた。
「クリームシチュー、おいしいの作るね?」
「白哉が、味見にまた出てくるだろうな」
「白哉くんは味にうるさいからねぇ」
とりあえず、浮竹と京楽は今は互いに交際中ということで、仲はよいのだった。
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