番外編 金木犀
浮竹十四郎は、神掛を行った。
本当は、死ぬはずであった。彼を生まれた頃、両親は花の神という土着伸に我が子が健康でありますようにと捧げ、そして3歳の時に肺の病で死にそうなところを、同じ土着伸であるミミハギ様に救われた。
ミミハギ様を解放して、浮竹は死ぬはずだった。
それを止めたのは、花の神であった。
花の神は京楽を器として降臨し、京楽は半神へとなった。残っていた左目は桜の神を宿し、表面に現れる時だけ桜色の瞳になった。
「金木犀の香りがするね。もう秋も終わりだね」
「金木犀の香りは甘いからな。俺は好きだ」
「ボクも好きだよ?君から匂う花の香りに似てる」
浮竹からは、花の神に愛された証として、甘い花の香りがした。
「もう、大戦が終わって30年か。あっという間だな」
「そうかい?ルキアちゃんと恋次君の間に第二子ができたり、副隊長が変わったり、いろんなことが起きたよ?」
「まぁ、そうだな」
浮竹は、オレンジ色の金木犀の花を集めた。
「そんなに集めて、どうするんだい?」
「香水にしようと思って。それを朽木とかにやりたくてな」
浮竹は器用だ。
香水の作り方も知っていた。
「じゃあ、大量の金木犀の花がいるね?ボクも手伝うよ」
浮竹と京楽は、一番隊に近い金木犀の花を集めすぎて、七尾に怒られた。
「全く、限度というものを知ってください」
「はい」
「はーい」
浮竹は早速香水を作ることにした。
無水エタノール:を10ml。凝縮した金木犀のエキスの精油を20滴。
遮光瓶:(香水を保存するための瓶)に入れて混ぜて、金木犀の香水の出来上がりだ。
とりあえず、怒っていた七緒にあげると、凄く喜ばれた。
成功だと、本命のルキアにあげた。
「浮竹隊長、ありがとうございます!すごくいい香りです」
「よければ、苺花ちゃんの分もあるんだ。あげてくれないかな」
「浮竹隊長、最近お体のほうは?」
浮竹は花の神の力で病んでいた肺の病は言えたが、相変わらず病弱で、よく熱を出す。
最近はあまり熱もでないで、風邪とかもひいていないので、浮竹は笑顔になった。
「ああ、最近は調子がいいんだ。心配ありがとうな、朽木」
浮竹は、自分にも金木犀の香水をつけてみる。
「京楽、どうだ?」
「うん、むらむらする匂いだね」
「どんな匂いだ!」
「こう、甘ったるくて浮竹にぴったりで」
むちゅーとキスをしようとしてくる京楽を、浮竹は押しのける。
まだ傍にルキアがいたのだ。
「では、浮竹隊長、京楽総隊長、失礼します」
ルキアは、隊長でなくなった浮竹のことを、いつも浮竹隊長と呼ぶ。言い直させても直らないので、そのままにしておいた。
浮竹は高い霊圧をもっていたが、その霊圧は全て生きるエネルギーに変換されて、もう鬼道も瞬歩も使えないし、斬魄刀もふるえない。
今は、浮竹の代わりに13番隊隊長となったルキアの書類仕事の補佐をしていた。
だが、日常の業務のうち半分を、京楽の書類仕事の補佐をするようになっていた。
京楽という男は、総隊長になってもさぼり癖が直らず、七緒は苦労させられていた。
「お前にも、つけてやる」
浮竹は、京楽にも金木犀の香水をふきかける。
「やめてよ!色気むんむんで、浮竹以外にももてちゃうじゃない」
「この毛もじゃ男が」
「酷い。ボクの体毛はチャームポイントだよ」
「はいはい」
浮竹は、金木犀が風で散っていくのを見ていた。
「季節はあっという間に移ろうな?」
「仕方ないよ。それが生きている証なんだから」
むちゅーとキスをしようとする京楽に、浮竹は手で遮る。
「キスくらいさせてよ」
「昨日、散々抱いただろうが。キスもいっぱいした。今日は何もしない」
「ケチ」
「年も考えず、毎晩のように盛るお前の相手をさせられるこっちの身にもなれ」
「ふーんだ。どうせボクはヤリチンですよ」
「誰もそこまで言っていないだろうが」
京楽の瞳が淡く紅色に輝く。
「‥‥‥‥桜の神か?」
「器となった男が、これほど色欲魔だとは‥‥‥‥人選を間違えたか」
「なんの用だ?」
浮竹が、愛しい半身を神に支配されて、眉を寄せる。
「我が愛児を見ておきたくて」
「俺のことなど、京楽を介して見ているんじゃないのか?」
「そんなことはない。お前たちの情事も見ていないぞ。いつもは京楽の奥深くで眠っている。私が出ている時は、瞳の色が変わるからすぐわかるだろうが」
「まぁそうだが。あまり、京楽の体を支配するな」
「ふ、我が愛児は我儘だな。命を助けてやったというのに」
「感謝はしている」
浮竹は、花の神にも香水をあげた。
「ふむ。人の匂い袋のようなものか。悪くはない」
しゅっしゅと、金木犀の香水をふきかけまくって、花の神は大地に桜の花びらを残して、京楽の中でまた眠りについた。
「あれ、ボク‥‥‥‥うわぁ、香水くさい!たまらない、風呂に入りたい」
「今日は、仕事はもうないしな。早めに帰るか」
「うん」
浮竹は、死んでいないので雨乾堂が取り壊されることなく残っていて、普段はそこで住んでいるんだが、今は京楽の屋敷で厄介になっていた。
「今日の夕食はなんだろう」
「カニらしいよ」
「お、いいな。久しぶりだ。もうカニの季節か」
「今度、現世にもカニ食べに旅行でも行ってみる?」
浮竹は、それはまずいのでないかと口にする。
「総隊長がいない尸魂界は大変だろうが」
「まぁ、そこらはなんとかなるよ」
「じゃあ、二泊三日くらいで旅行にいくか」
「うん、そうだね」
ふわりと、金木犀ではなく桜の花びらが散っていく。
「ああ、花の神も行きたいみたい」
「そうか。とりあえず、カニ食いに帰るか」
浮竹と京楽は、手を繋いで歩きだす。浮竹は、確かにここに生きて今存在している。
これからも、ずっとずっと。
神掛で失われるはずだった浮竹の命は続いている。
京楽が器となって半神になったが、花の神のお陰で、二人は歩いていくのだった。
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