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翡翠に溶ける 終章 翡翠に溶ける

「色のない世界」と世界設定が、一部リンクしております。

https://www.pixiv.net/novel/series/9409516

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尸魂界は、危機に瀕していた。

存続の危機だ。

ユーハバッハの侵略により、たくさんの死神が死んだ。

その中には、京楽が愛してやまない浮竹の姿もあった。

自分の肺に宿らせていたミミハギ様を解き放ったことで、崩壊しかけていた世界は止まったが、その代償はあまりにも大きすぎた。

「浮竹、しっかりして!」

腕の中で、浮竹は今にも力尽きようとしていた。

「あの・・・桜の下に・・・・・」

瞬歩で、季節外れの夜桜を咲かせる、学院の桜の木の下にきていた。

「お前と出会えたこと・・・嬉しかった・・・ずっと、こんなに人を好きになることはないんだと、思っていた・・・・・」

「浮竹!僕を置いていかないで!」

ボロボロと、片目になってしまった黒曜石の瞳から、涙が零れ落ちた。

「神様・・・・浮竹の命が助かるなら、なんでもします。だから、僕から浮竹を奪わないで・・・・・」

「その言葉、本当だな?」

ぶわりと、季節外れの桜の花びらが散っていく。

「私は、花の神。別名、椿の狂い咲きの王」

「俺が赤子の頃に捧げたれたという、神様?」

浮竹の言葉に、花の神は頷いた。

「そうだ、愛児。愛児を愛する者、京楽春水。私は、いろんな世界でお前たちの愛を見てきた。この世界で、浮竹を求めるなら、代償として器になってもらう」

「器?」

「そうだ。私を宿せ。意識はお前のままだ。ただ、時折器としての体をかりる。それでもいいなら、愛児を助けてやろう」

なんでもよかった。浮竹が助かるなら、悪魔に魂を売り渡してもいいと思った。

「器にだってなんだってなるよ!

「おい、京楽!」

「お願いだ、浮竹を助けてくれ!」

「その願い、しかと聞き届けた」

京楽の中に、花の神は舞い降りた。

京楽の隻眼は、薄い紅色になっていた。

「京楽・・・・?」

「今、助けるから・・・・・」

唇を重ねた。何か甘い液体を、浮竹はこくりと飲みほした。

するとどうだろうか。今にも死にそうになっていた体が、軽くなった。

「体が・・・・」

「もう大丈夫だよ、浮竹」

「京楽・・・・・?いや、花の神・・・・?」

「今の僕は京楽さ。花の神は眠っている」

狂い咲くような桜の木の下で、二人はお互いを抱き締めあっていた。

「俺は、まだお前と一緒にいれるのか?」

「ああ、そうだよ」

「京楽・・・花の神を宿して、平気なのか?」

「半神かな。半分は神様だけど、半分は死神のままだ」

京楽の瞳も髪の色も、薄紅色になっていた。

「愛してるよ、十四郎」

「俺も愛してる、春水」

いつか、誓い合った桜の木の下で、永遠の別れを言うはずだった。

気まぐれな神様のお陰で、浮竹は一命を取り留めた。

だが、まだ完全ではなく、浮竹は雨乾堂で療養していた。

やがて、一護の手でユーハバッハは倒され、尸魂界は救われた。

みんな、浮竹が死んだものと思っていたので、生きていて吃驚していた。

ただ、依然のような霊圧はなかった。僅か霊圧しかもっていない。それは、浮竹のもつ霊圧を生命力に変換したせいであった。

薄紅色になってしまった京楽について、京楽自身から説明がされた。

にわかには信じがたいので、花の神に器である京楽の中からでてきてもらった。

薄紅色の長い髪に、瞳、花を思わせる紅色のふわふわした衣服を着ていた。とても美しかった、
まさに、人外の美しさだった。

何もない空間に桜の花を散らせて、こう言う。

「私は、椿の狂い咲きの王という。京楽という器を借りている。神である私の名の元で、浮竹の命を救う代わりに、京楽に器になってもらった。何か文句を言いたい者でもいるか?」

「神様とか、ほんとにいるのか・・・・」

日番谷の言葉に、涅マユリが続ける。

「実に面白いネ。実験体なってもらいたいヨ」

「それはごめんこうむる」

それだけ言って、黒神黒目に戻っていた京楽に降臨し、眠りにつく。京楽の色彩は、花の神と同じ薄紅色になっていた。

そのまま隊首会が開かれて、浮竹は霊圧を失ったことで、13番隊の隊長を辞任することが決定した。

そのまま、ルキアが次の13番隊隊長として任命された。

「ええ、私ですか!?」

ルキアが、浮竹を見る。浮竹は頷いた。

「卍解も習得している。性格も力量も、問題ない」

こうして、朽木ルキアは13番隊隊長となった。

隊首会が終わり、解散になっても生きていた浮竹と、花の神を宿して半神になった京楽の周りには、人だかりができていた。

「ああ、もう解散だから。僕らはここで失礼するよ!」

浮竹を抱き上げて、京楽は1番隊の寝室にひっこんでしまった。


「なぁ、京楽」

「何、浮竹」

「もしもやるとしたら、花の神に筒抜けなのだろうか」

「あ、それは大丈夫。完全に眠りにつくから、感覚は共有しない」

「ならよかった・・・・」

浮竹は京楽と睦みあった。


そして、春が来た。

あの桜の木の下に、もう一度来ていた。

「俺は、死神を隠居して、もう戦力にならない。それでも、傍にいてくれるか?」

「何千回、何万回だって繰り返すよ。君の存在が、僕には必要なんだ」

「桜の花の下で、また誓う。残りの命が燃え尽きるまで、お前の傍にいることを」

浮竹は、もう肺の病を克服していた。熱を出す虚弱体質であることには変わりないが、肺の病は花の神が癒してくれたらしい。

ちらちら散っていく桜の下で、桜色のなってしまった髪と瞳で、京楽も誓う。

「僕が生きている限り、君の傍にいることを誓う。これを君に」

花びらの形にカットされたローズクォーツを繋げた、ブレスレットだった。

「僕と、お揃いだよ。指輪はもうしているから、ブレスットにしたんだ。君への、二度目のプロポーズだよ」

「京楽・・・・ずっと、一緒だ」

「うん、これからもずっと一緒だよ・・・・・」


その翡翠は極上。

その翡翠が溶けていく。

まさに、翡翠に溶ける。

翡翠の中に、桜が溶けていく。

それは、もう一度この世界で産声をあげた浮竹の瞳の色。



                 翡翠に溶ける

                                                     fin


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