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青春白書2

朝起きると、恋次はすでに全て仕度を終えて、テーブルについていた。

ルキアはパジャマ姿のまま、欠伸をしてテーブルにつく。

朝ご飯は冬獅郎がいつも作ってくれる。家事のほとんどは居候の冬獅郎がする。

朝食は、トーストとサラダ、それに苺という簡単なものだったが、それだけでもありがたい。

ルキアは、食が細い。長い間、食事をまともに与えられてもらえなかった時期があるせいか、胃が小さいのだ。

トーストを半分食べ、サラダを少量食べた。それから苺だけは好きなので全部食べた。

「俺の分も食うか?」

恋次が、苺を盛った小皿をルキアの目の前に置く。

苺に限らず、果物が好きなルキアを恋次はよく知っている。

「すまない。ありがとう」

半分になってしまったトーストをかわりに恋次に渡す。

恋次はそれと受け取って食べてしまう。

「早く支度しろよ。待ってるから」

通学する時は一緒だ。

徒歩でいける距離のマンションを恋次は選んだ。

「すまぬ、今着替えてくる」

制服はブレザーだった。

ルキアは着替えた。それから、洗面所にいって歯を磨いて顔を洗う。顔なんて石鹸でごしごし洗う。

髪なんてシャンプーだけだ。

女の子なんだから・・・・そんな台詞を恋次から受けるが、女の子という感覚がルキアからは欠如していた。

「うーん。うーんうーん」

少し長くなった髪を結ぼうとしても、なかなか上手くいかない。

めんどうくさいので、そのままにした。

「いってきます」

「いってきまーす」

鍵をかけて、寝ているであろう冬獅統を起こさないように気をつける。

外は快晴だった。ゴミはすでに冬獅郎が出してくれたのか、影も形もなかった。

「おはよう」

「おはようございます、兄様」

同じ高校の教師である、義兄の白哉が朝の挨拶をしてきてくれたので、ルキアは白哉をみた。緋真姉様だけを愛し抜くという白哉は、緋真が死んでから周りの女性がアプローチしてくるのだが、一向に興味を示さなかった。

「ルキア、先に教室にいってるぞ」

「ああ、分かった恋次」

下駄箱をあけると、毎日のようにラブレターが何通か入っている。

ルキアは、それを読むことはしない。そのままゴミ箱に捨てる。酷いかもしれないが、自分が今好きなのは恋次なのだ。それ以外の男性に興味なんてない。

それでもラブレターは毎日のようにしつこいほど入っている。ストーカー被害にあうことだって、多い。

それも全ては朽木家の名をもつのと、ルキアが無防備なせいだった。

だから、なるべく目立たないように、他の女子のようにかわいいリボンで髪を結んだり、おしゃれをすることはしない。それでも目立つ。

「いっ・・・」

靴を履こうとして、足の裏に激痛が走った。

「くそ」

足の裏に完全にささった画鋲をとりのぞくと、地面に叩き捨てる。

その姿をみてクスクスと笑う女子のグループがいた。またあいつらか。

ルキアは男子にもてる。それが、女子には面白くないらしい。ルキアに女子の友人はいない。恋次の友人たちが、ルキアの友人だ。

ルキアは、靴を履き替えるとそのまま教室に向かった。

「遅いぞ、ルキア」

恋次が、鞄をもってくれた。

「ああ、すまぬ」

ちなみに、恋次は女子にもてる。おまけにルキアと同居しているとなれば、皆誤解する。

「ひゅうひゅう、朝っぱらからなんだ?」

からかいの声が飛ぶ。

恋次は無視するし、ルキアも無視する。

「大丈夫か?顔色悪いぞ」

恋次が顔を覗き込んでくる。

「いや、なんでもない」

なんだか、今日は少し体調が悪いかもしれない。

なんだろう。

よく分からない。

少女にしては発育が悪い体。胸なんてあまりない。

できれば男に生まれたかったな。
そんなことを思う。

1時間目、2時間目と授業を受けたあと、3時間目は体育だった。移動する。体操服を持って、ルキアは恋次とその友人たちとしゃべりながら、教室を後にする。

「でさ、恋次のやつ告白された女子を振った言葉、なんだと思う?ルキアより背の高い女の子は嫌なんだってさ」

「ぎゃはははは、なんだよそれー」

「ルキア、身長はまだ伸びる。多分・・・・」

「ルキアの身長、女の子にしても低いからな」

友人たちと談笑している時、ふいに眩暈に襲われた。

そのまま、ルキアは倒れた。

「おい、どうした!」

「すまねぇ。俺が保健室につれていく」

ルキアはよく倒れる。それが精神的なものなのか、身体的なものなのかはよく分からない。ただ、ルキアは生まれつき体が弱かった。

もう慣れてしまった恋次は、ルキアを抱きかかえて保健室に向かった。

それを見ていた女子は、明らかにバカにする。またわざと倒れたと。男子の気をひくために倒れるなんて、バカじゃないのって声が、意識が遠ざかっていルキアの耳にも聞こえた。

「失礼します」

ガラリと保健室の扉をあけると、先生がいた。

「あれ?あんた誰だ?」

「教師に向かって誰とは失礼な生徒だな。俺は黒崎一護。今日から保健室の先生だ」

黒崎一護は、少女を抱いた少年にそう自己紹介した。

「んで、どうした?」

「多分、いつもの貧血だ。倒れたんだ」

「そうか。ここまで運んできてくれてご苦労様。後は俺に任せろ」

保健室の先生とは思えない、オレンジ色の髪をした保険医だった。

ふと、ルキアが目をあける。

「きゃああああああ!いやあああああ!!!!」

暴れだす。

「ちょ、どうした!」

「いつもの発作だ。多分、精神的なものだ」

黒崎一護と名乗った保健教師は、暴れるルキアをなんとかしようとしている。

「おい、ルキア。俺は恋次だ。お前を守るから。落ち着け」

「恋次・・・・」

次第に大人しくなっていく。

そして、完全にルキアは意識を失った。

「どうなってるんだ?」

「新任ってことは、ルキアのこと何も知らないみたいだな。ルキアは、幼い頃からずっと義理の両親から虐待を受けて育ってきた。それで、義理の父親からレイプされそうになったことが、何度かあるみたいだ。本人がいってた。多分、そこらが原因じゃねぇのか、こういうのは。俺は精神科医じゃねぇから良く分からねぇけど」

一護は、言葉を失った。

少女を抱いてベッドに寝かせる。靴を脱がすと、大きな血のしみをつくった靴下が目にとまる。靴下を脱がすと、何かが刺さったような傷痕をみつける。

「この傷は?」

「またか・・・・多分、画鋲がささったんじゃないのか。ルキアは女子の友人がいないからな。いじめられてるらしい。本人が何も言わないから、誰がやったのかも分からねぇから、対処のしようがない」

「・・・・・・・・」

一護は、また言葉を失う。

「じゃあ、俺は授業があるから。ルキアのこと頼みます、先生」

やっと、教師に対してらしいものの言い方をした恋次は、そのまま保健室を去った。

「朽木ルキアね・・・・朽木財閥のお嬢さんか」

一護は思う。

白哉とは、見知った仲だった。その義妹が、この学園に通っていることは知っていたが、虐待を受けていたとは知らなかった。

白哉も精一杯庇ったのだろうが、白哉の目の届かない時に義理の両親はルキアを虐待した。

「とりあえず、怪我の治療っと・・・」

一護は傷口を消毒し、固まった血を拭き取るとガーゼをあてて包帯を巻いた。

見るからに痛そうだ。傷口は深いが、血は止まっている。普通に歩くこともできないだろうに。

手当てもしないまま、この少女は普通に歩いていたのだろう。靴下に広がった血の染みが大きい。

「恋次?」

少女が紫水晶の目を開く。

「いや、俺は・・・」

ルキアは、手を伸ばして一護の首に手を回す。

熱が出ているのだろうか。意識が朦朧としているようだ。

「恋次、私には貴様しかいないだ・・・・・・・」

一筋の涙を零して、また意識を失った少女に、一護はどうしたものかとその手を払いのけることもできずにいた。

しばらくその苦しい体勢のままいたが、一護は少女の額に手を当てる。

「こりゃ高熱だ。早退だな」

思っていた以上の高熱に驚く。多分、39度はこえている。体温計でルキアの体温をはかると、39度6分という温度だった。

一護はすぐに氷枕を用意して、額に冷えピタシールをはる。

それから、職員室でルキアの家に連絡するために、連絡先を調べて電話をかけた。

「あの、もしもし。こちら学校の者ですが、ルキアさんが高熱のため早退させたいんですが、迎えにこれますか?」

電話先の相手は、慌てたように答えを返した。

「また、倒れたのか。今すぐ向かえにいく」

まだ、幼い少年の声だった。

また、という言葉から、一護はルキアが頻繁に倒れているのだと知る。

念のため、白哉にも声をかける。

「おい、白哉。お前の義妹のルキアが高熱をだして倒れたんだ。早退にさせるけど、いいよな?」

「またか。ルキアはよく熱を出すのだ・・・兄には迷惑をかける。すまない」

保健室に戻って、ベッドの中のルキアを見る。

ふと、右手首にされていたリストバンドが気になって外してみる。

「やっぱり・・・か」

そこには、いくつも手首を切った痕があった。

自傷行為。精神的に不安定な者は、そういった行動に出ることが多い。

「精神科にはかかってねーのかな」

見た様子だと、精神科にかかっている気配はない。かかっていれば、発作のように暴れたり、自傷行為も少ないはずだ。右手首の傷をみる。つい最近つけたとみられる、傷がいくつかあった

それから、かなり昔のものだろうが、動脈付近を縦に切った傷を見て、一護はルキアの髪を優しく撫でた。

自傷行為をするには、いろいろ理由がある。ストレス発散だったり、突発的だったりもあれば、誰かに構ってほしいからという理由でするものもいる。

横に切ると、何度も傷口ができる。自殺しようとしても、うまく動脈を切れないのだ。

でも、縦に切るのは本当に死にたいから。横に切るよりも、縦に切ったほうが傷口は深く、動脈付近を切れば本当に死ぬ。

「こんなに若いのに」

死にたいと思わせる人生を歩んできたのだろう、ルキアは。

一護は今までいろんな生徒を見てきた。

同じように、自傷行為をしていた生徒を見たことはあるが、今現在している、悩みを抱えたままの生徒はまだみたことがなかった。

保健室を受け持つ教師となってまだ2年。

前の学校は平和で、むしろ保健室にさぼりにくる生徒を叱ったり、不登校になって保健室にくる生徒の悩みを聞いたりするくらいだった。

自傷行為をするまでに精神的に追い詰められている生徒と接したことはまだなかった。
 
「朽木ルキアか・・・・・・・」

一護の心に、ルキアの存在は深く刻まれるのだった。


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