青春白書3
「すまない、遅れた」
冬獅郎がやってきた。中学生がくるとは思わなくて、一護はルキアの身柄を引き渡していいものかと悩んだ。
白哉が、実際のルキアの保護者になっていた。
籍は、白哉の両親の元にあるし、親権も向こう側がもっているが、あちらの義理の両親はルキアのことな
んて、本当にただ疎むだけの存在としてみていただけだ。
世間体を気にした義理の両親が捜索願を出していたため、ルキアは警察に保護された。
そうでなくとも、保護されただろう。不良グループの仲間に入り、中学生でありながら家に帰ることもせず、学校に通うこともせず、ただ不良グループの友人の家をわたりあるく。
白哉の家にやってきたルキアは、荒んでいた。
とても美しかったが、誰にも心を許すことはせずにしゃべりもしない。威嚇しているかと思えば、暗がりと閉鎖空間を嫌い、怯えていた。
病弱で、よく貧血で倒れたり、熱を出した。右手首をリストカットする癖が、その時にはすでについていた。今でも時折リストカットする。悩みを聞こうとしても、打ち明けてくれない。
精神科医のところにつれていったが、全く効果はなかった。それどころかリストカットが酷くなって、連れて行ったことを後悔したくらいだ。
恋次と暮らし出してから、恋次が傍で見守ることが多くなってから、次第に安定しだした。
一緒に暮らし始めて、リストカットなんてなくなっていた。だけど、いつからだろう・・・また再発したのは。
そうだ、恋次の彼女と出会わせてからかもしれない。ルキアは同性の友人がいないため、友人になってあげてくれと彼女に頼んだ。恋次の彼女に対して、ルキアは言葉を交わすこともせず、またリストカットがはじまった。
余計なことなんてしなければ良かったと思った。
ルキアと一緒に過ごす時間を多くとった。「お前を守る」といったときの、ルキアの笑顔が今でも忘れられない。あんなに綺麗に笑えるのだから、もっと笑ってほしかった。
恋次は知らない。ルキアが、恋次を愛していることを。異性として恋をしていて、彼女の存在がショックだったことを。
ルキアは、恋次が自分だけのものと思い込んでいた。自分を守ってくれる存在で、他人に奪われたりしないと思っていた。その分、彼女であり、婚約まで誓っているという女性の存在はルキアにとって衝撃的だった。
「すまない、ルキアを引き取りにきた」
「え、でもお前中学生だろう?学校はどうした?」
「今日は創立記念日で休みだ。タクシーを待たせてあるから、ルキアを渡してくれ」
「意識がないが、運べるか?」
「ルキアは軽いから、おんぶくらいできる」
。
保健室に案内し、椅子に座るように進めて、現状がどうであるかを確認するために一護は冬獅郎と会話を進める。生徒の心のケアも、保健室の先生の大事な仕事だ。
「このルキアって子、精神科医には診せたか?」
「診せた。でも逃げ出したりする。リストカットが酷くなって、やめた。何か悩み事があるときは恋次か俺が聞くようにしてる」
「リストカットは、まだやってるのか?」
「1ヶ月前に、1回。理由は分からない。どうしてするのと聞いても、答えてくれねぇんだ。でも、昔みたいに頻繁じゃなくなった。傷も浅い。恋次が彼女を連れてきた時、またリストカットするようになった。学校も不登校になっていた。恋次が彼女と一時的に別れてずっと傍についていたら、次第に回復した。学校も行くようになった。でも恋次がいうには同性にいじめられてるらしい。そんなこと何もいわないからな、ルキアは」
「恋次って子と同居してるらしいな」
「ああ。ルキアが同居したいって言い出してな。俺も心配だったし、両親がうざかったから家出して
、一緒に同居することにしたんだ」
「義理の両親から虐待されていたのが、リストカットの最大の原因だろが・・・。あ、これは恋次から聞いた話な」
「恋次から聞いたのか?」
「ああ。いじめられてるかもしれないとか、そこらへんも聞いた」
「ルキアの過去のこと、教える」
冬獅郎は、ルキアが義理の両親から虐待されていたこと、父からレイプ未遂を何度もされたこと、そしてついには家出をして不良グループの仲間に入り、その中の友人の家を点々として最後に警察に保護されたこと全てを話した。
「暗闇と閉鎖空間が嫌いなんだ。子供の頃、ルキアは義理の母親にしつけとしょうして、暗い地下室に閉じ込められてたんだってよ。そのトラウマかな」
「冬獅郎?」
「ルキア?起きたのか?」
「冬獅郎。いやだ、話さないでくれ。私の過去を、話さないでくれ。知っていいのは恋次と冬獅郎と兄様だけだ」
「俺は、新しく赴任してきた保健の先生だ。悩みがあるんだろ?俺に話してみないか」
一護は優しくルキアに近づく。
ルキアは、ベッドから降りるとフラついた足どりで冬獅郎の背に隠れる。
「いやだ。貴様なぞ、嫌いだ」
「ルキア、そんなこと言ちゃいけねぇ」
「いらない。恋次と冬獅郎以外いらない。貴様なんて嫌いだ。嫌い」
冬獅郎は怒ることはせずに、ルキアをおんぶした。
「熱が高いから、今日は家に帰ろう」
「冬獅郎、傍にいてくれるか?」
「ああ」
「帰りたい。家に帰ろう」
「ああ。帰ろう」
「うん」
冬獅郎は、一護に耳打ちする。
体調が悪い時のルキアは、とても幼いのだと。
そのまま、冬獅郎はルキアをおんぶして、待たせてあったタクシーの後部座席に乗せると、自宅へと戻った。
「俺は嫌い、か・・・・」
一護は見送りをしながら、一人で呟いた。
それからルキアは三日間にわたり欠席した。
熱がなかなか下がらなかったのだ。医者が嫌いなルキア。病院に連れて行くこともできない。
自然のままに体調がよくなるのを待った。恋次は学校がある日はちゃんと行って、帰ってくるとルキアの看病をした。冬獅郎もルキアの看病をする。
中学2年の冬、警察に保護されてからルキアは恋次と知り合い、友人となった。
そして、恋次に恋をした。だが,、恋次にはもう好きな人がいた。
恋次と友人になったのは、恋次も複雑な家庭事情を抱えて、よく頻繁に家出を繰り返していたと聞いたのがきっかけだった。それまで、ルキアには上辺だけの存在で、不良グループの仲間以外、友人といえる存在がなかった。同じく、孤立していた恋次。どこか自分に似た存在。ルキアは恋次の親友となった。
恋次は、一護を自宅に呼んだ。恋次と一護は親戚同士だったのだ。つもる話をしながら、再会を祝う。次の日は連休だったので、一護は恋次の自宅に泊まることになった。
「恋次・・・・?」
ルキアはやっと熱も下がって、廊下に出る。
「恋次、傍にいてくれ!」
そこですれ違った恋次と思った人物に思わず、いつものように抱きついた。
「ごめんな。俺、恋次じゃないんだ」
「あ・・・・」
優しく頭を撫でてくる人物は、恋次と同じくらい背が高かった。
「保健室の先生?どうして?」
「恋次とは親戚なんだ。ほら、足元がふらついてるぞ。まだベッドにいないと。無理して起き上がるな」
一護はルキアを抱き上げて、部屋まで連れていくとベッドに寝かせた。
「恋次は?冬獅郎は?」
「リビングルームにいる。今日は泊まることになったから」
「そうか」
ルキアは、保健室の先生をじっと見つめた。
恋次の親戚。恋次の友人。恋次の・・・・特別。
「なぁ。なんで、リストカットするんだ?」
「そんなの、貴様には関係ない」
そう言ってのけたが、一護は左手首をルキアに見せた。
そこには、ルキアの右手首にしたリストバンドの下のような傷痕があった。
「俺な、両親と妹をテロで亡くしてるんだ。それから・・・親戚に引き取られて、そこで過剰なしつけ・・・いわゆる虐待にあった。他に行き場所もなくてさ。新しく親となった相手と何度もケンカして。虐待がばれて、違う親戚に引きとられたけど、やっぱりそこにも俺の居場所はなくてさ。自分はなんで生きてるんだろうって思って、中学生の頃に手首切ったんだわ。まぁ傷はそんなに深くなかったけどよ。それから、ストレスがたまると発散のためにリストカットした。今思えばバカなことしたなぁって思う」
「・・・・・・・・・」
ルキアは泣いていた。
「なぁ、俺なら話せる?」
「・・・・・・・・・・うん」
何度も涙を零して、それから一護の優しい顔を見て、小さく頷いた。
一護はルキアの頭を何度も優しく撫でる。
その手に手を重ねて、ルキアは泣いていた。
「私も、虐待にあっていた。生まれた頃からずっと・・・・兄様に引き取られるまで、ずっと15年間。義理の父親からは何度も強姦されそうになった。生きているのが辛くて、リストカットした。この縦の傷、意識不明の重体になって、でも助かって・・・」
「うん。辛いか?ゆっくりでいいんだぞ」
「・・・・・・・」
ルキアは、ベッドから半身をおこしてせきこんだ。
ベッドに座った一護が、ルキアを抱きしめる。ルキアは、一護にしがみついて、泣き続けた。
「・・・・・・・・意識を取り戻した時、義理の両親がいったのだ。お前なんてこのまま死ねばよかったのにって。せっかく生命保険かけてるのにって・・・・。私の命はお金以下なのだ」
「ひでぇな」
流石の一護も、眉を顰める。同じく虐待にあってはいたが、そこまで酷く言われたことはなかった。死にたいと思うほどに虐待を受けていたわけでもない。でも、このルキアという少女は生れてから15年間ずっと虐待されて育ってきたのだという。義兄の白哉が庇ってくれていたが、それにも限界があった。
「・・・・・それから家に帰らなくなって・・・・」
不良グループに入って、そこのリーダーの女性と親しくなって、姉のように優しく接してくれたのだという。不良グループは、みんなルキアのように両親がなんらかの問題を抱えていたり、いじめられていたり・・・社会にうまく溶け込めなかったり、とにかくなんらかの問題を抱えた者たちの集まりで、そこにいると皆、仲間を大切にしていて、ルキアはやっと自分の居場所を見つけたのだと思った。
でも、長くは続かなかった。警察に保護されて、もう終わりだと思った。またあの家に帰らなければならないのだと思った。
義理の両親はルキアを引き取ったが、親権はもったままだが、白哉に全てを託すようになった。
恋次との出会いがあった。それが、ルキアにとっては運命の出会いだった。
恋次がいるから生きているのだと思う。そうルキアは語る。
「時折、どうして生きているのかバカらしくなってリストカットする。でも、他に意味があるのだ。恋次は、ずっと私だけのものだって思ってた。婚約者だって彼女を紹介されて・・・・私は、また手首を切った。恋次がいつの間にか私の全てになっていた。恋次の気をひくために、リストカットするがある。恋次が彼女と別れてしまえばいいのにと思うのだ。そんな自分が嫌で・・・・自己嫌悪に陥って、またリストカットする。そんな繰り返しで・・・・私など、恋次に相応しいはずないのに。冬獅郎にだって、相応しくない。私は最低の人間だ」
「じゃあ、俺も最低の人間だな」
「え?」
「お前の気持ちよく分かる。リストカットはじめてしたとき、義理の親が凄く優しくなってくれて。傷をつければ、親は優しくいてくれる。周囲の人間が自分を特別扱いするって思った。そんな俺も最低だろ?」
「私は・・・・」
「恋次の特別でありたかったんだろ?」
「・・・・・・・・ああ」
「大丈夫、十分特別だ。それでも満足いかないのなら・・・・自分だけに特別な人間が欲しいなら、俺に相談しろ」
「貴様に?」
「俺が、お前の特別になってやる。お前だけを見て、お前を守って」
一護は、ルキアの頬にキスをした。
「・・・・・・・・・私の、特別?」
ベッドに押し倒した少女は、とても華奢だった。ルキアは、一護に抱きついてくる。
これって犯罪だよなぁと、一護は心中で苦笑した。
とても哀れな少女。
「じゃあ、なってくれ。私の秘密を聞いた罰だ。私の特別になれ」
まさか、そんな答えが返ってくるとは思ってもみなかった。
特別は恋次だけだ、そんな答えが返ってくると思っていた一護。
「本気か?俺は教師だぞ?」
「貴様が、そういったのではないか。背徳でもなんでもいい。私の特別になれ。恋次の「特別」であった貴様になら、私と同じ境遇を過ごした貴様になら・・・・・・約束、だぞ」
ルキアはとても綺麗な顔で微笑んだ。言っている内容は凄いけど。
冬獅郎がやってきた。中学生がくるとは思わなくて、一護はルキアの身柄を引き渡していいものかと悩んだ。
白哉が、実際のルキアの保護者になっていた。
籍は、白哉の両親の元にあるし、親権も向こう側がもっているが、あちらの義理の両親はルキアのことな
んて、本当にただ疎むだけの存在としてみていただけだ。
世間体を気にした義理の両親が捜索願を出していたため、ルキアは警察に保護された。
そうでなくとも、保護されただろう。不良グループの仲間に入り、中学生でありながら家に帰ることもせず、学校に通うこともせず、ただ不良グループの友人の家をわたりあるく。
白哉の家にやってきたルキアは、荒んでいた。
とても美しかったが、誰にも心を許すことはせずにしゃべりもしない。威嚇しているかと思えば、暗がりと閉鎖空間を嫌い、怯えていた。
病弱で、よく貧血で倒れたり、熱を出した。右手首をリストカットする癖が、その時にはすでについていた。今でも時折リストカットする。悩みを聞こうとしても、打ち明けてくれない。
精神科医のところにつれていったが、全く効果はなかった。それどころかリストカットが酷くなって、連れて行ったことを後悔したくらいだ。
恋次と暮らし出してから、恋次が傍で見守ることが多くなってから、次第に安定しだした。
一緒に暮らし始めて、リストカットなんてなくなっていた。だけど、いつからだろう・・・また再発したのは。
そうだ、恋次の彼女と出会わせてからかもしれない。ルキアは同性の友人がいないため、友人になってあげてくれと彼女に頼んだ。恋次の彼女に対して、ルキアは言葉を交わすこともせず、またリストカットがはじまった。
余計なことなんてしなければ良かったと思った。
ルキアと一緒に過ごす時間を多くとった。「お前を守る」といったときの、ルキアの笑顔が今でも忘れられない。あんなに綺麗に笑えるのだから、もっと笑ってほしかった。
恋次は知らない。ルキアが、恋次を愛していることを。異性として恋をしていて、彼女の存在がショックだったことを。
ルキアは、恋次が自分だけのものと思い込んでいた。自分を守ってくれる存在で、他人に奪われたりしないと思っていた。その分、彼女であり、婚約まで誓っているという女性の存在はルキアにとって衝撃的だった。
「すまない、ルキアを引き取りにきた」
「え、でもお前中学生だろう?学校はどうした?」
「今日は創立記念日で休みだ。タクシーを待たせてあるから、ルキアを渡してくれ」
「意識がないが、運べるか?」
「ルキアは軽いから、おんぶくらいできる」
。
保健室に案内し、椅子に座るように進めて、現状がどうであるかを確認するために一護は冬獅郎と会話を進める。生徒の心のケアも、保健室の先生の大事な仕事だ。
「このルキアって子、精神科医には診せたか?」
「診せた。でも逃げ出したりする。リストカットが酷くなって、やめた。何か悩み事があるときは恋次か俺が聞くようにしてる」
「リストカットは、まだやってるのか?」
「1ヶ月前に、1回。理由は分からない。どうしてするのと聞いても、答えてくれねぇんだ。でも、昔みたいに頻繁じゃなくなった。傷も浅い。恋次が彼女を連れてきた時、またリストカットするようになった。学校も不登校になっていた。恋次が彼女と一時的に別れてずっと傍についていたら、次第に回復した。学校も行くようになった。でも恋次がいうには同性にいじめられてるらしい。そんなこと何もいわないからな、ルキアは」
「恋次って子と同居してるらしいな」
「ああ。ルキアが同居したいって言い出してな。俺も心配だったし、両親がうざかったから家出して
、一緒に同居することにしたんだ」
「義理の両親から虐待されていたのが、リストカットの最大の原因だろが・・・。あ、これは恋次から聞いた話な」
「恋次から聞いたのか?」
「ああ。いじめられてるかもしれないとか、そこらへんも聞いた」
「ルキアの過去のこと、教える」
冬獅郎は、ルキアが義理の両親から虐待されていたこと、父からレイプ未遂を何度もされたこと、そしてついには家出をして不良グループの仲間に入り、その中の友人の家を点々として最後に警察に保護されたこと全てを話した。
「暗闇と閉鎖空間が嫌いなんだ。子供の頃、ルキアは義理の母親にしつけとしょうして、暗い地下室に閉じ込められてたんだってよ。そのトラウマかな」
「冬獅郎?」
「ルキア?起きたのか?」
「冬獅郎。いやだ、話さないでくれ。私の過去を、話さないでくれ。知っていいのは恋次と冬獅郎と兄様だけだ」
「俺は、新しく赴任してきた保健の先生だ。悩みがあるんだろ?俺に話してみないか」
一護は優しくルキアに近づく。
ルキアは、ベッドから降りるとフラついた足どりで冬獅郎の背に隠れる。
「いやだ。貴様なぞ、嫌いだ」
「ルキア、そんなこと言ちゃいけねぇ」
「いらない。恋次と冬獅郎以外いらない。貴様なんて嫌いだ。嫌い」
冬獅郎は怒ることはせずに、ルキアをおんぶした。
「熱が高いから、今日は家に帰ろう」
「冬獅郎、傍にいてくれるか?」
「ああ」
「帰りたい。家に帰ろう」
「ああ。帰ろう」
「うん」
冬獅郎は、一護に耳打ちする。
体調が悪い時のルキアは、とても幼いのだと。
そのまま、冬獅郎はルキアをおんぶして、待たせてあったタクシーの後部座席に乗せると、自宅へと戻った。
「俺は嫌い、か・・・・」
一護は見送りをしながら、一人で呟いた。
それからルキアは三日間にわたり欠席した。
熱がなかなか下がらなかったのだ。医者が嫌いなルキア。病院に連れて行くこともできない。
自然のままに体調がよくなるのを待った。恋次は学校がある日はちゃんと行って、帰ってくるとルキアの看病をした。冬獅郎もルキアの看病をする。
中学2年の冬、警察に保護されてからルキアは恋次と知り合い、友人となった。
そして、恋次に恋をした。だが,、恋次にはもう好きな人がいた。
恋次と友人になったのは、恋次も複雑な家庭事情を抱えて、よく頻繁に家出を繰り返していたと聞いたのがきっかけだった。それまで、ルキアには上辺だけの存在で、不良グループの仲間以外、友人といえる存在がなかった。同じく、孤立していた恋次。どこか自分に似た存在。ルキアは恋次の親友となった。
恋次は、一護を自宅に呼んだ。恋次と一護は親戚同士だったのだ。つもる話をしながら、再会を祝う。次の日は連休だったので、一護は恋次の自宅に泊まることになった。
「恋次・・・・?」
ルキアはやっと熱も下がって、廊下に出る。
「恋次、傍にいてくれ!」
そこですれ違った恋次と思った人物に思わず、いつものように抱きついた。
「ごめんな。俺、恋次じゃないんだ」
「あ・・・・」
優しく頭を撫でてくる人物は、恋次と同じくらい背が高かった。
「保健室の先生?どうして?」
「恋次とは親戚なんだ。ほら、足元がふらついてるぞ。まだベッドにいないと。無理して起き上がるな」
一護はルキアを抱き上げて、部屋まで連れていくとベッドに寝かせた。
「恋次は?冬獅郎は?」
「リビングルームにいる。今日は泊まることになったから」
「そうか」
ルキアは、保健室の先生をじっと見つめた。
恋次の親戚。恋次の友人。恋次の・・・・特別。
「なぁ。なんで、リストカットするんだ?」
「そんなの、貴様には関係ない」
そう言ってのけたが、一護は左手首をルキアに見せた。
そこには、ルキアの右手首にしたリストバンドの下のような傷痕があった。
「俺な、両親と妹をテロで亡くしてるんだ。それから・・・親戚に引き取られて、そこで過剰なしつけ・・・いわゆる虐待にあった。他に行き場所もなくてさ。新しく親となった相手と何度もケンカして。虐待がばれて、違う親戚に引きとられたけど、やっぱりそこにも俺の居場所はなくてさ。自分はなんで生きてるんだろうって思って、中学生の頃に手首切ったんだわ。まぁ傷はそんなに深くなかったけどよ。それから、ストレスがたまると発散のためにリストカットした。今思えばバカなことしたなぁって思う」
「・・・・・・・・・」
ルキアは泣いていた。
「なぁ、俺なら話せる?」
「・・・・・・・・・・うん」
何度も涙を零して、それから一護の優しい顔を見て、小さく頷いた。
一護はルキアの頭を何度も優しく撫でる。
その手に手を重ねて、ルキアは泣いていた。
「私も、虐待にあっていた。生まれた頃からずっと・・・・兄様に引き取られるまで、ずっと15年間。義理の父親からは何度も強姦されそうになった。生きているのが辛くて、リストカットした。この縦の傷、意識不明の重体になって、でも助かって・・・」
「うん。辛いか?ゆっくりでいいんだぞ」
「・・・・・・・」
ルキアは、ベッドから半身をおこしてせきこんだ。
ベッドに座った一護が、ルキアを抱きしめる。ルキアは、一護にしがみついて、泣き続けた。
「・・・・・・・・意識を取り戻した時、義理の両親がいったのだ。お前なんてこのまま死ねばよかったのにって。せっかく生命保険かけてるのにって・・・・。私の命はお金以下なのだ」
「ひでぇな」
流石の一護も、眉を顰める。同じく虐待にあってはいたが、そこまで酷く言われたことはなかった。死にたいと思うほどに虐待を受けていたわけでもない。でも、このルキアという少女は生れてから15年間ずっと虐待されて育ってきたのだという。義兄の白哉が庇ってくれていたが、それにも限界があった。
「・・・・・それから家に帰らなくなって・・・・」
不良グループに入って、そこのリーダーの女性と親しくなって、姉のように優しく接してくれたのだという。不良グループは、みんなルキアのように両親がなんらかの問題を抱えていたり、いじめられていたり・・・社会にうまく溶け込めなかったり、とにかくなんらかの問題を抱えた者たちの集まりで、そこにいると皆、仲間を大切にしていて、ルキアはやっと自分の居場所を見つけたのだと思った。
でも、長くは続かなかった。警察に保護されて、もう終わりだと思った。またあの家に帰らなければならないのだと思った。
義理の両親はルキアを引き取ったが、親権はもったままだが、白哉に全てを託すようになった。
恋次との出会いがあった。それが、ルキアにとっては運命の出会いだった。
恋次がいるから生きているのだと思う。そうルキアは語る。
「時折、どうして生きているのかバカらしくなってリストカットする。でも、他に意味があるのだ。恋次は、ずっと私だけのものだって思ってた。婚約者だって彼女を紹介されて・・・・私は、また手首を切った。恋次がいつの間にか私の全てになっていた。恋次の気をひくために、リストカットするがある。恋次が彼女と別れてしまえばいいのにと思うのだ。そんな自分が嫌で・・・・自己嫌悪に陥って、またリストカットする。そんな繰り返しで・・・・私など、恋次に相応しいはずないのに。冬獅郎にだって、相応しくない。私は最低の人間だ」
「じゃあ、俺も最低の人間だな」
「え?」
「お前の気持ちよく分かる。リストカットはじめてしたとき、義理の親が凄く優しくなってくれて。傷をつければ、親は優しくいてくれる。周囲の人間が自分を特別扱いするって思った。そんな俺も最低だろ?」
「私は・・・・」
「恋次の特別でありたかったんだろ?」
「・・・・・・・・ああ」
「大丈夫、十分特別だ。それでも満足いかないのなら・・・・自分だけに特別な人間が欲しいなら、俺に相談しろ」
「貴様に?」
「俺が、お前の特別になってやる。お前だけを見て、お前を守って」
一護は、ルキアの頬にキスをした。
「・・・・・・・・・私の、特別?」
ベッドに押し倒した少女は、とても華奢だった。ルキアは、一護に抱きついてくる。
これって犯罪だよなぁと、一護は心中で苦笑した。
とても哀れな少女。
「じゃあ、なってくれ。私の秘密を聞いた罰だ。私の特別になれ」
まさか、そんな答えが返ってくるとは思ってもみなかった。
特別は恋次だけだ、そんな答えが返ってくると思っていた一護。
「本気か?俺は教師だぞ?」
「貴様が、そういったのではないか。背徳でもなんでもいい。私の特別になれ。恋次の「特別」であった貴様になら、私と同じ境遇を過ごした貴様になら・・・・・・約束、だぞ」
ルキアはとても綺麗な顔で微笑んだ。言っている内容は凄いけど。
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