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黒猫と白猫の亜人外伝2

「京楽?どうしたんだ、目が金色だぞ」

サタナシア・オルタナティブがゆっくりと京楽春水の中で目覚める。

ボクの中で同化してしまった通称サタンは、時おり意識を覚醒させる。

「ううん、なんでもないんだよ」

「でも京楽、なんだか苦しそうだ」

「君の愛が足りないから」

キスをすると、浮竹は怒ってぽかぽかと殴ってきた。

それさえも愛しい。

ああ、こんなに愛しい存在が世界にあるなんて。

京楽は、浮竹を抱きしめる。

「京楽?」

「本当に、なんでもないんだよ。ちょっと古傷が痛んでね」

京楽の裸の胸には大きな傷跡がある。

なんでも、幼い頃にサタン崇拝者に、臓物を引き抜かれそうになってできた傷だという。

半ば嘘であり、半ば本当だった。

ボクは京楽春水。

愛しい伴侶の名は、浮竹十四郎。黒猫より貴重な、白猫の亜人の青年。

「君が大好きだよ、浮竹」

京楽の中の通称サタンは、ボクとまじわって消えていく。

消えないで。

そう語りかけるのは、ボクの中にほんの少し混じった本当のサタン叫び。

小さすぎて、時おりしか声は聞こえない。

サタナシア・オルタナティブが悪いわけじゃない。ただ、サタンの最愛の‥‥‥であることに問題があるので、ボクの中に混じって溶けてもらう。

「浮竹、明日はサーカスに行こうか。王都のほうで、有名なサーカス団がきてるらしいんだ」

京楽は浮竹をそう誘うと、浮竹はキラキラした瞳をしていた。

「行きたい!」

「じゃあ、白哉君の許可も取らないとね」

「ああ、楽しみだなぁ」

「浮竹。ボクの中に、ボク以外の何かが混じっていたらどうする?」

「気にしない。京楽は京楽だから。いつも俺に優しい」

気にしない‥‥‥。

その言葉に、ほっとする。

さよなら、通称サタン。

サタナシア・オルタナティブは京楽の意識の下へ下へと溶けて沈んでいく。

次の日になり、王都にいく途中で占い師の婆に捕まった。

「そこの黒猫の亜人のお主、中に人食いの魔人を飼っておるな?」

「なんのことだい?」

京楽が首を傾げる。

心当たりがなかった。

「その一部が、溶けて溶けてお主と混じっておる。いずれ、いつかお主と相対するであろう」

「ばからしい。行くよ、浮竹」

「京楽、でも」

「あんな怪しい占い師の言葉なんて、気にすることないよ」

サタナシア・オルタナティブがはサタンじゃない。

通称サタンで、サタンとは別物だ。

そして、ボクの意識に溶け込んでしまっている。

いつか、通称サタンと相対することがあっても、もう溶けこんでいるので、のっとられたりはしない。

意識が混じりあうことはあるかもしれないが。

サタナシア・オルタナティブも浮竹を愛していた。

京楽が愛するから。


「ほら、チケットの予約の席に行こう」

「ああ」



京楽の世界は、閉じられた世界だった。

父親はサタン崇拝者で、兄がいたが、京楽と同じ黒猫の亜人だったので、父に臓物を取り出されて生贄にされた。

その時は、サタンも通称サタンも降りてこなかった。

母親は、父に愛想をつかして出て行ってしまった。

里の者に、黒猫の亜人だと愛されていたが、閉じられた世界だった。

いつか、外に羽ばたきたいと願った。

さして、皆が知らないところで実の父を殺し、出ていった母のところに身を寄せて生きた。

里の者から、みんなから愛されていたが、母親と父親の愛は、もらえなかった。

欲しいもの。

ボクを一心に愛してくれ誰か。

それが欲しいと渇望した。

結果、浮竹と巡り会う。

浮竹の家族の母に酸をかけた。京楽の中の、サタナシア・オルタナティブが殺してしまえと叫んでいて、ちょっとその気になったけど、殺しはしなかった。

ただ、もうその美貌が戻らないような、魔法でも癒せぬ酸をかぶせた。

「あはははは。浮竹を傷つける者は、みんなこうなるんだ」

京楽の中で、沈んで溶けてしまっていた通称サタンが、意識に混じる。

瞳を金色にして、京楽はいつまでも笑い続ける。


「京楽?」

「ねぇ、浮竹。ボクのこと、何があっても好きでいてくれる?」

「ああ。俺は、お前がサタンでも愛する」

京楽は、浮竹の膝の上で泣いた。ただ、泣いた。


ボクを必要としてくれる者がいる、明るい世界。

それが、ここにある。


空は、晴れていた。

いつの日だったのように、星空が綺麗だった。

手を伸ばせばーーーーー。

「手を伸ばせば、星に届きそうだな?」

浮竹がそう言うので、京楽はびっくりする。

「ボクが言おうとした台詞なのに」

「え、そうなのか。ごめん」

「ううん、かまわないよ」

手を伸ばせば、いつかきっと、星に届く。

ボクの中の通称サタンは、溶けながらそう言っていた。

サタンの‥‥‥であるが、サタナシア・オルタナティブは邪悪な存在じゃないし、人食いでも魔人でも魔神でもない。

ただ、今はボクの中に溶け込んでいるだけ。

「浮竹、帰ろうか」

「うん」

浮竹と手を繋ぎながら、帰り道をゆっくりと歩いていく。

さよなら、サタナシア・オルタナティブ。

また、いつか出会える時まで。

ボクの中で、眠っていてね。



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