黒猫と白猫の亜人37
浮竹と京楽は、冒険者ギルドに登録してみた。
はじめての登録なので、Fランクからだった。
掲示板で張り出されていた、スライム退治を引き受けて、初心者用のトトカのダンジョンにいくと、スライムもいたが、ワイバーンもいた。
「ねぇ、浮竹。初心者のダンジョンでワイバーンってありだと思う?」
「ないな。LVが違いすぎる。誰かの罠か‥‥‥」
浮竹は、風魔法を使う。
「エアリアルエッジ!」
ワイバーンの翼が片方が切り落とされて、地面に落ちてくる。
「グラビティゼロ!」
浮竹が重力の魔法を使うと、ワイバーンはブレスも使うことができず、大地にめりこむ。
剣をもっていた京楽は、火の魔法を剣にエンチャントする。
「ファイアウェポン」
そこらの道具屋で売っているただの鋼の剣で、京楽はワイバーンの首を落としてしまった。
魔石をとり、ワイバーンの死体をアイテムポケットに収納して、スライムも退治して魔石をアイテムポケットに入れると、冒険者ギルドに帰還して、ワイバーンが出たことを伝えると、みんなに笑われた。
「はっはっは、兄ちゃんよしてくれ。トトカのダンジョンにはスライムしか出ないんだぞ」
「もしも出たとしても、初心者の兄ちゃんたちだとすぐに殺されてる」
「これが、証拠だ」
浮竹は、アイテムポケットからワイバーンの死体を出す。
皆、黙り込む。
「ギ、ギルドマスターを呼んできます!」
受付嬢はそういって、浮竹と京楽は2Fの応接室に呼ばれた。
「俺が、この王都の冒険者ギルドマスターのヨハンだ。ワイバーンが出て、退治を二人でしたんだな?」
浮竹と京楽は頷いて、ワイバーンの魔石を取り出す。
「本物だな。遺体ならあるだけでごまかせるが、魔石があるということは倒した証だ。君たちを、Bランクまでランクをあげよう。ワイバーンを倒せるのは、Bランク以上の冒険者だ」
「はぁ」
「まぁ、なんでもいいんだが」
「な、嬉しくはないのか!?冒険者として、異例の出世だぞ!」
「俺たちは冒険者で食べていくつもりじゃないからな」
「多分、冒険自体これっきりかも」
「もったいない!!Aランク以上の実力があるとみた。それなのに、冒険者をしないのか!」
浮竹と京楽は顔を見合わせあう。
「暇つぶしにしてただけだからな」
「うん。市場で野良猫たちとおしゃべりしてたほうが楽しいし」
「もったいないいいいい」
そう泣くギルドマスターを放置して、鋼の剣とか魔法の杖とか、かりていた装備を返して、浮竹と京楽は冒険者ギルドから出ると、猫の姿になって消えてしまう。
「朽木白哉様のところの猫か‥‥‥自由すぎてなんともいえない」
冒険者ギルドのギルドマスターは、猫の姿になって市場に消えてしまった浮竹と京楽の存在を、白哉に冒険者の素質ありとして通達することにするのであった。
「にゃあにゃあ(あら、京楽さん、浮竹さん、どうしたの?)」
「ああ、リリーちゃん。冒険者ギルドで冒険者として遊んでいたら、素質あるとか言われてねぇ。冒険者にされそうだったので、逃げてきたんだよ」
「いきなりBランクとか言われたしな」
「にゃあああ(あら、それは大変。でも、猫なんだから冒険者なんてする必要ないでしょ。自由気ままに生きましょ)」
「そうだね。リリーちゃんの言う通りだよ」
「俺もそう思う。冒険者なんてやって、怪我でもしたら大変だ」
京楽と浮竹は、魔法が使えるが、冒険者としてやっていくつもりはないようだった。
「冒険者ギルドに登録してしまったし、白哉の猫だとばれているが、まぁなるようになるだろ」
昼は昼寝をして、市場に出かけては魚を盗んで、市場に集まる他の野良猫にあげたりして、白哉の猫にならないかと勧誘してまわるのが、浮竹と京楽の日常だった。
お陰で、白哉の猫は半野良猫が半分を占めていた。
サタンの子供も生まれたりしたし、いろいろあって162匹まで増えていた。
猫たちが集まる猫の広場を白哉は改築して、もっと大きな広場にしていた。
162匹の猫が暮らせる空間だった。
キャットタワーはあるし、キャットフードをもらえる食事場と、トイレの砂場とペットシーツをひいてある場所は広場から少し離れていた、
162匹の面倒を一人では見きれないので、白哉は猫たちの相手をする専用の使用人をもっていた。みんな猫好きで、職場としては幸せだろうが、ケンカしないかとか、怪我や病気にも目を光らせなければいけないので、意外と大変である。
キャットフードやチュールを与える他に、トイレを交換したり、ブラッシングしたり、お風呂に入れてあげたり、爪を切ったり、猫草をあげたり‥‥仕事はけっこう多岐にわたる。
始めて入った元野良の予防接種したり、ノミの駆除などには、白哉が信頼を寄せている獣医が担当していた。
浮竹のなまけ病を治してくれたのも、その獣医だった。
「最近は、野良からノミの感染がおおい。浮竹も京楽も気を付けるように」
浮竹と京楽は、またいつものように市場に出かけると、茶色の猫の亜人の子供の女の子が、市場でパンを盗んだと、殴らているのを見つけて、二人は止めに入った。
「やめろ。相手はまだ子供だ」
「こいつは、すりとかっぱらいの常習犯なんだ!庇うなら、お前たちも同じ目に合わせるぞ」
「おい、純金の首輪してるぞ。こいつら、朽木様の猫の亜人だ!」
「ひいいい、怪我させたら首が飛ぶ!逃げようぜ!」
ならず者たちは逃げだした。
「大丈夫かい?」
「あ、ありがとう」
「君、ここら辺の子?」
「違うの。西から流れてきたわ」
京楽が、猫の亜人なら受け入れてくれる場所があると説明すると、茶色の猫の亜人の女の子は、目を輝かせたが、相手が貴族と知って暗くなる。
「貴族は嫌い。貴族の世話になるくらいなら、死んだほうがましよ」
「お前、名前は?」
「シャーリー」
「そうか。仲間はいないのか?」
「いる。路地裏の孤児たちが、あたしの仲間」
「貧民街に行ってみればいい。孤児院があるはずだ。君や他の孤児たちを受け入れてくれるだろう。俺たちの主の白哉っていうのが運営してるんだが、衣食住はもちろん、読み書きから計算まで教育を施してくれるし、将来なりたい職業につくための訓練もしてくれる」
「え、本当?そんな、夢のような場所があるの?」
「シャーリーちゃんだっけ。それがあるんだよ。この王都は白哉君に任されているからね。孤児院は朽木白哉君っていう、貴族が運営してるけど、白哉君は本当にいい貴族だよ」
「ありがとう。貴族が運営してるってのが気に食わないけど、このままじゃ人さらいに捕まるか、飢え死にしてしまうわ。みんなを連れて、貧民街まで行ってみるわ」
浮竹と京楽が、シャーリーというまだ小さい少女の頭を撫でる。
「孤児院につくまで、警護しよう。俺たちみたいに、純金の首輪をもっている猫の亜人や猫は、白哉のものって証なんだ。害したら、厳しい処罰を受ける。最近は少なくなったが、人さらいもいるからな」
シャーリーは、路地裏で他の孤児たちを呼んだ。
「みんな、このおじさんたちが、孤児院に案内してくれるって」
「え、でもこの前孤児院に入れてあげるって言って、3人がさらわれていったよ。そのおじさんたち、本当に信用できるの?」
浮竹と京楽は、おじさん扱いされてちょっと悲しくなった。
まだ、20歳なのに。
「お兄さんたちは、君たちをさらったりしないよ。それに前にさらわれたという子のことを、孤児院についたら騎士団を派遣するから、教えてほしい。きっと、取り返しくれる」
「ありがとう、おじさん!」
「おじさん、ありがとう!!」
シャーリーを含めた孤児たち12人は、無事王都の貧民街の孤児院に受け入れられて、怪我をしたり病気のものが多かったので、まずは治療を受けることになった。
「ヒール」
浮竹は、シャーリーの怪我を治してやった。
「ありがとう、お兄さん」
シャーリーは、浮竹の唇にキスをする。
「ああああ!」
「京楽、落ち着け」
「ふふ、あたしのファーストキスあげる。おっきくなって、一人前のレディになれたら、お兄さんのお嫁さんになってもいいわ」
「あああああ」
「気持ちは嬉しいが、俺はこの京楽と結婚してるんだ」
「ええ、結婚してるの?」
シャーリーは、浮竹と京楽を見て、不思議そうな顔をしていた。
「じゃあ、俺たちは帰るな?」
「お兄さん、名前教えて」
「俺は浮竹十四郎。こっちは京楽春水だ」
「じゃあ、浮竹お兄ちゃん、またねぇ。孤児院に、今度遊びにきてねぇ」
白哉の経営している孤児院は3つあり、現在63人の孤児たちがいた。
「シャーリー、これをやる」
浮竹は、新婚旅行の時とったサファイアの原石の結晶を、シャーリーにあげた。
「わぁ、綺麗」
「立派なレディになれよ」
「ふふふ、浮竹お兄さんが驚くような美人さんになるわ」
「ああああ、浮竹にキスしたああ。あの子、ライバルだあああ」
「京楽、落ち着け」
「上書きしなきゃ」
孤児院からそう離れていない場所で、京楽にキスされて、浮竹は京楽の頭を拳で殴る。
「痛い」
「子供に嫉妬するな。見苦しい」
「だってええええ」
浮竹と京楽は猫の姿になり、魚屋でまだ飛び跳ねている魚を盗む。
「ああ、白哉様のとこの猫!こら、お代をもらいにいくのめんどうなんだぞ!相場の5倍支払ってくれるけど!」
そんな魚屋の主人が気をとられている隙に、他の白哉の猫が魚を盗む。
「ああもう、白哉様んとこの猫は自由すぎだ!ちゃんと餌もらってるだろうに、なんで魚を盗むんだか」
魚がいると、かぶりつきたくなるから。
浮竹と京楽は、猫のふりをして、にゃあにゃあと鳴きながら白哉の家に戻っていくのであった。
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