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悲哀色狂病

「黒崎君!やだよ、黒崎君!朽木さんの代わりでいいって、確かにいったけど、黒崎君はもう私のものでしょう!?」

井上が、ポロポロ涙を零しながら、ルキアを抱き締めた一護の体を揺さぶっていた。

一護ははっとなって、ルキアを離す。

「ごめん、井上。ルキアもごめん」

走って、一護は逃げ出した。

最低だ。

今の彼女である井上を泣かした上に、戻ってきたルキアに心を持っていかれそうになった。

「俺は・・・・・・」

井上が好きだ。でも愛してない。

ルキアはもう好きじゃない。でも愛してる。

「最低だ、俺・・・・・」

二人の女の子を泣かせて。

今更、どんな顔をしてルキアの手をとればいい?

ルキアのいつか戻ってくるかもしれないという手紙を信じず、井上と付き合いだして。

井上との未来を想像しだしていた。

井上は知っている。一護が、まだルキアのことを愛していると。

一護は、本当に逃げ出した。

家に帰り、鍵をかけて、スマホの電源も切った。

「もう俺のことは放っておいてくれ・・・・」

ルキアも井上も。

傷つけるだけで、どちらの手も握れない。最低のクズ男だ。

一護は、もうこれ以上、傷つくのも傷つけるのも嫌だった。




「井上・・・・一護と、付き合っているのだな」

取り残された水族館で、ポロポロお互いに泣いて視線を集めていたので、いったん外に出た。

「もう、黒崎君は私のものだよ。例え、朽木さんにだって渡さない」

「一護は言った。もうお前とは終わっているのだと。でも、だったら、なぜ抱き締めた?」

ぐっと、井上が言葉につまる。

「朽木さんは、同じ4大貴族の四楓院家の当主と結婚して、子供を産んだんでしょう?もう、そんな穢れた体で、元の鞘に収まろうなんてずうずうしすぎる!」

「そうだな。少し前の私は、四楓院ルキアだった。だが、世継ぎを産み、病を克服して、私は戻ってきた」

「・・・・病?」

「一護には言わなかった。4大貴族にかけられた、呪いのような病だ。同じ4大貴族と結ばれ、子を成さなければ、色狂いになって死んでしまう奇病。「悲哀色狂病」というのに、私はかかっていた」

「悲哀色狂病・・・・」

「私は養子だから大丈夫だと思っていたのだ。だが、4大貴族であることが病気の原因なのだ。兄様の母君も、この悲哀色狂病にかかってお亡くなりになられた。兄様が、私を助けるために、四楓院家の当主である四楓院夕四郎咲宗殿との婚姻をなせるように取り計らってくれたのだ。子をもうけ、次の次期当主を産み、私は悲哀色狂病を克服した。一護が、待っていてくれるのであればと思ったが・・・・もう、遅いのだと分かっていたのだ。でも、一護は私を抱き締めてくれた」

ルキアは顔をあげた。

もう、泣いていなかった。

「井上、貴様には悪いが、一護は私がもらっていく」

「この卑怯者!病気だったからって、それが何!黒崎君は、今私と付き合っているの!体の関係だってあるんだから!」

その言葉に、ルキアの瞳が潤んだ。

「そうか・・・・一護は、井上と・・・・」

「たとえ、代わりでもいいからって最初は思ってた。でも、もう戻ってこないからって、黒崎君の方から求めてきてくれた。黒崎君を渡したくない。たとえ朽木さんでも!」

井上の決意は固いようだった。

昔の井上のような優しさは、今は感じられない。それはそうだろう。一護を一度捨てておきながら、また奪おうとしているのだから。

「私は・・・・卑怯でかまわない。また、一護に会いにいく。その時に、一護に答えを聞かせてもらう」

ルキアは、伝令神機を取り出して、尸魂界と連絡をとった。

「すまないが、しばらくの間こちらに残ることになりそうだ。兄様に、くれぐれも手を出さないようにと、言っておいてくれ、恋次」

「いや、もう無理だルキア。隊長のやつ、もう現世に行っちまった」

「何!?」

「見ていたんだってよ。水族館で、他の女連れてたの。ルキアを抱き締めてから逃げ出して、隊長は舌打ちして一護の後を追っていった」

「兄様!」

ルキアは、一護の家に走って向かった。

井上はわけがわからなかったが、とにかく黒崎君に会わなきゃと言って、ルキアの後を追った。




「ここを開けよ、黒崎一護」

「・・・・・・・・・」

「開けぬなら、無理やりこじあける」

「なんだよ・・・・白哉。お前の大切な義妹は、俺を裏切って、俺以外の男を選んで子供を産んで・・・・」

つっと、千本桜の切っ先が、一護の首に当てられた。

「ルキアが、本当に兄を裏切ったと思っているのか?」

「そうじゃねぇか!同じ4大貴族の四楓院家の当主と婚姻して、子供まで孕んで・・・無事生まれたんだろう?よかったじゃねぇか。姪っ子か甥っ子かどっちか知らねーが、子供ができて」

「貴様は、本気でそう思っているのか?」

「何がだよ」

「ルキアが、本気で貴様を裏切ったと、思っているのか?好き好んで、お前をいたぶったとでも?」

「もう、ルキアとは終わったんだ」

切っ先が、少し肌に食い込んだ。血が流れる。

一護も、死神姿になった。

「なんだよ、白哉。言いたいことあるなら、はっきり言いやがれ!」

斬月に手をかけて、白哉の千本桜を押しのけた。

「ルキアは・・・・・貴様に何も言わなかったのだな。ルキアは、4大貴族の者にだけかかる特殊な病気にかかっていた。養子であるから、大丈夫であろうと思っていたのだ。病の名は「悲哀色狂病」私の母も、この病気で死んだ」

長々と、病気の説明をされた。

「なんだよそれ!そんな病気本当にあるのかよ!じゃあ、ルキアは俺を裏切ったわけじゃなく、病気を治すために、愛してもいない男と結ばれて子供を成したっていうのかよ!」

「兄の言う通りだ」

「そんな・・・ルキア・・・・・」

一護は、世界が真っ白になった。

ルキアに拒絶されて、裏切られたのではないのだ。ルキアには、やむにやまれぬ事情があり、四楓院家に嫁ぎ、操を捨てて、子を成して・・・・愛してもいない四楓院家の当主と。

「ルキア・・・・・」

戻ることなら、3年前に戻りたかった。

病気の説明を受けて、納得した上で、ルキアと一時的な別れをしたかった。

でも、もう遅い。3年経った。

僅か3年だ。けれど、もう3年だ。

「兄ら人間には3年の月日は長いであろう。私たちには一瞬でもある。だが、ルキアの3年は長く、そして悲しく苦しく・・・・兄である私が断言しよう。ルキアは、貴様のことだけを想い、貴様のことを今も想い続けている」

「ルキア!」

一護は、叫んでいた。

会いたい。

ルキア。

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