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悲しみの一護

次の日、現世にまだいると言っていたルキアの姿がなかった。

ただ、書き置きだけが置かれていた。

(すまない、一護。きっと謝っても仕方のないことだと思う。私は、もう朽木ルキアではないのだ。四楓院ルキア。四楓院夕四郎咲宗殿と、婚礼をあげ、お腹にはもう子がいる。お前の朽木ルキアは死んだのだ。朽木ルキアは、最後までお前を愛していた。それだけは本当だ。いつか、朽木ルキアに戻る時がくるかもしれない。その時まで、愛していてくれるのなら、待っていてくれ)

「なんだよコレ・・・・ルキア!いねぇのかルキア!」

どんなに探しても、ルキアの姿はなかった。

浦原のところにいき、尸魂界まで送ってくれというと、拒否された。

「いやー、朽木さんに硬く禁止を食らいましてねぇ。朽木白哉さんのほうからも圧力がかかって・・・黒崎さんを、尸魂界に行かせることはできないんす」

「なんだよそれ・・・・・」

一護は、目の前が真っ暗になった。

昨日、はじめて睦みあって、これからだという時なのに。

ルキアは、俺を裏切っていたのか?

子供がいるってことは、高校時代から?

いつか朽木ルキアに戻るかもしれないから、その時まで愛しているなら待っていてくれ?

随分と、自分勝手だな、ルキア。

「・・・・・・もういい浦原さん」

伝令神機にメールを送る。

着信拒否になっていた。

「ルキアのバカ野郎ーーーーーーー!!!」

一護は、家に戻ると泣いた。

ルキアのことが、大好きだった。

たとえ、結婚していて、誰が違う他人の子を孕んでいても、愛する自信はあった。でも、拒否された。

いつか朽木ルキアに戻る時はくるかもしれないから。

そんな、可能性の言葉、信じられなかった。

「ルキア・・・・」

昨日の、ルキアの泣きそうな顔を思い出す。お腹は平らだった。多分、妊娠してまだ1か月も経っていないと思う。

「ルキア・・・・」

ルキアのいないこの世界は、真っ暗だった。

ルキアが、例え遠くても居ると思うから、頑張ってきた。

でも、もうどうでもいい。

ルキアに捨てられたのだ。

もう、俺がルキアを愛しても、ルキアは俺を愛してくれないのだろうか。

一護は、携帯からルキアのメールアドレスを削除した。

そして、一護は、井上に電話をかけた。



尸魂界には、何度か浦原のところに行けないかと頼みんでみたが、やはり無理だった。

今、一護は井上と付き合っていた。

井上はかわいい。

俺のことを愛していると言ってくれるし、何より裏切らない。

井上と、何度か体を重ねた。

ルキアと別れて、3年の月日が流れていた。

「井上、今日は俺の部屋に泊まってけよ」

「え、いいの、黒崎君」

「お前がよければだけどな」

一度、井上を抱いた時にルキアと呼んでしまい、とても悲しそうな目をされた。でも井上はいう。ルキアの代わりでいいから、傍に置いてくれと。

一護は、井上を好きなんだろう。多分。愛しているとまでは言えないが、好きだとは言えた。

「井上・・・・好きだ」

「あ・・・黒崎君、私も、黒崎君のこと大好きだよ」

体を重ねながら、ふとルキアの最後の手紙を思い出す。

(いつか、朽木ルキアに戻る時がくるかもしれない。その時まで、愛していてくれるのなら、待っていてくれ)

もう、3年だ。

1年目は待った。

井上と友達からスタートしながら。

2年目になって、諦めがついた。

3年目になり、絶望が残った。

もう、ルキアは戻ってこないのだ。

尸魂界には、もう行こうとも思っていない。

今は、井上がいる。

でも・・・・心の中では、ルキアをまだ愛していた。

だから、井上に好きだとは言うが、愛しているとは、言えなかった。

「井上、明日暇か?」

「うん、どうしたの、黒崎君」

「なんか、俺の家にきて俺の飯ばっかくって、一緒に泊まるだけだろう、最近。デートしようぜ。水族館のチケットとってあるんだ」

「水族館?わぁ、嬉しい!久しぶりのデートだね!」

このまま、ルキアを忘れて、井上と結婚して暖かい家庭を築こう。

そう、思い始めていた。

いつかと、ルキアのために用意しておいたエンゲージリングは、値段のせいもあって捨てられないまま、タンスの中にしまってある。

置いてあったルキアの衣装は全て処分した。

この部屋に、ルキアの物はもう何もない。ただ、エンゲージリングだけが冷たくタンスの中で眠っている。いつか、ルキアにプロポーズするときのために置いておいたものだから。

次の週の日曜日、水族館で待ち合わせをして、井上と水族館の中を回った。

イルカショーなどを見たりした。

井上は熱帯魚がお気に入りなのか、アマゾンの熱帯魚コーナーにずっと張り付いていた。

「井上、次いくぞ」

「はーい」

ふと海月(くらげ)のコーナーにきた。

ふわふわとただよう海月が、癒しの感覚を与えてくれる。

そういえば、高校時代ルキアとデートした時、海月をみてそれをルキアはじっと眺めていたな・・・そんなことを思いながら、海月を見ていると、アメジストの瞳と目線があった。

ここに、いるはずがない。

ついに、恋しさのあまり幻覚まで見るようになったのだろうか。

だが、そのアメジストの瞳は本物だった。いつか大学の授業を受けた時と同じようなワンピースに、ファーのついたコートを羽織っていた。

「一護・・・・・・」

「ルキア!?」

「一護、愛している」

ぽろぽろと、涙を零しながら、こちらにくるルキアに、井上がきっと顔をあげた。

「こないで!朽木さん、黒崎君は今私と付き合っているの!あなたが、黒崎君を酷く捨てたんでしょ!こないで!現世にこないで!尸魂界に帰って!」

「一護・・・・・」

「帰れ、ルキア。お前とは、もう終わった・・・・・」

ルキアは、とても傷ついた顔をしていた。

「そうか・・・・やはり、待ってはくれなかったのだな。分かった。もう二度と、現世には・・・・・」

井上が見ていた。

井上のことが好きだ。

ルキアは俺を捨てた。

他の男を選んだ。

ルキアに裏切られた。

それでも。それでも。





「ルキア!」




気づくと、その細い体を、抱き締めていた。





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