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小説掲載プログ
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嘘つき

「ロックオン、ドコニモイナイ。ロックオン、ドコニモイナイ」

いつも自由に飛び跳ねているハロを抱えて、ティエリアは血が滲むほど唇を噛みしめていた。

「嘘つき」

「ティエリア、ナイテル?ナイテル?」

「泣いてなんかいない」

ティエリアはそう言うけれど、瞳は充血して、涙を何度も流したことを物語っていた。
もう、涙を流しすぎて、流れる水分さえない気がする。

「アイルランドに、一緒に住もうって約束したのに!」

約束をした。ロックオンと。
ロックオンの生家のあるアイルランドで、結婚して一緒に骨を埋めようと。
けれど、彼はその約束を破った。

元を正せば、負傷したティエリアが悪いのかもしれない。でも、それを庇って目を負傷し、再生治療も拒否して、ティエリアとの未来ではなく、家族の仇をとることを選んだのはロックオン自身だ。

「嘘つき・・・・・」

現実は、悲しいもので残酷だった。

ハロに、生きて戻るからと録音を託し、ロックオンは宇宙に散った。

もう、戻ってこないロックオン。声をかけてくれない。手を握ってくれない。頭を撫でてくれない。笑ってくれない。抱きしめてくれない。

何もかも、ロックオンが嘘をついたから。

「僕は貴方を・・・・・・」

憎めたらいいのにね。

愛しているからこそ、憎めない。憎める筈がない。

「嘘つき・・・・」

ロックオンの嘘は、残酷だった。

生きて戻ると、互いに誓いあったのに。婚約の指輪ももらった。ティエリアは、その指輪を外すと、放り投げた。

カラーン。

乾いた音がして、婚約指輪は何処かへいってしまった。

これから、クルーたちを支えていかなければならない。ティエリアは長い昏睡状態から目覚めてまだ間もない。

CBは壊滅的な打撃をうけ、マイスターであるアレルヤと刹那の居場所はようとして知れない。

そんな中、ティエリアは生き残ったガンダムマイスターとして、生き残ったクルーたちをまとめあげていかなければならない。

悲しみに浸っている暇はないのだ。感傷は捨て去れ。

そう言われた。

あの人の元にいけると思った。

戦いの最後、負傷して意識を失い、ロックオンの元にいけると思った。宇宙で散ったロックオン。ティエリアはトレミーに帰還したとき、ロックオンを必死で探した。機体のハッチをあけてそこにいたのは、ロックオンではなくハロだけだった。

彼は嘘をついたのだ。

ティエリアは、投げ捨てた婚約指輪を探し始めた。一時の感情で投げ捨てたとはいえ、大切なものだった。彼がくれた最後のものだ。

やがて数時間さがして見つけると、ほっとしてハロを抱きしめ直す。

「あなたは、嘘つきだ。それでも愛している。どうにもならないくらいに。いっそ、この身が八つ裂きにされてしまえばいいと思う。それくらい苦しい。この想いをどうすればいい?」

もういなくなったロックオンに語りかける。ティエリアは、意識を戻してすぐに宇宙に花束を流した。

ロックオンと住んでいた部屋にあったものは、トレミーが大破したことでほとんどがぐちゃぐちゃになっていたけれど、遺品はなんとか手に入れられた。

だが、ティエリアはそれを身近に置かなかった。処分した。

後ろを向いてはいられないのだ。

まずは他のマイスターたちを見つけなければいけない。

「嘘つきでも、まだ愛している」

この気持ちをどうすればいい?

分からない。

分からないから、振り返らずにがむしゃらに前に進むしかない。

愛と憎しみは紙一重。

この愛がいっそ憎しみに変わればどんなに救われることだろう。

でも、ティエリアにはできない。

愛してると何千回も互いに囁いた。記憶を切り取れるなら、それを選んだかもしれない。

どうしようもないくらいに愛している。でも、もう愛せない。

一方的に愛を囁いても、死者は語り返してくれない。

苦しい。

ただ、苦しかった。

嘘つきの愛しい人は、果たして天国にいけただろうか。それとも輪廻の環に入っただろうか。

いつか、アイルランドに行こう。

そして、ロックオンの・・・ニール・ディランディとして生きてきた彼の軌跡をたどって、墓参りに行こう。

強く決意する。その時は赤い薔薇をそえよう。墓に。服は黒の喪服のスーツだ。

「前を向かなければ・・・・・・・」

指にはめ直した、婚約指輪を握りしめて、彼は悲しみを振り切っていく。

これからまた人が死んでいくだろう。

それでも前を向いて歩いていかなければならない。

ただ一つ、確実に言えること。

きっと、もう二度と人を愛さないだろう。けれど、それは刹那と出会って変わる。刹那と邂逅し、痛みを分け合っているうちに比翼の鳥となる。

ロックオンとは違う、愛しい存在。

今のティエリアは知らない。まだ、自分には未来があるということを。















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