「雨のち」3期
「あれ」
ぽつぽつと。
今まで晴れていたのに、気づけば雨が降ってきた。
ティエリアは、傘などもっていないので、空を仰ぐだけだった。眼鏡に水滴が滴り落ちて、視界が濁る。それを外してセーターの裾でふいていると、背後から傘が自分の上にさされた。
「よお、奇遇」
「奇遇じゃありません。もう2時間も待ちました」
「ついてこなくてもよかったのに」
「別に。散歩にいきたかったから、そのついで、です。別にあなたのあとをつけてここまできたなんて、決してそんなことありません」
つーん。別の方向を向くティエリア。
ティエリアの興味とは無縁の、骨董品店からそう離れてもいない場所でロックオンに見つかった。彼が買い物にいくといって出かけたのに、素直に一緒にいくといえずに、結局尾行のような真似事をしてしまったことに少し後悔しながらも、こうやって見つかったことにどこか安堵する。
骨董品の店に入ったのは確認したが、一緒に入ることを躊躇って、近くの本屋で暇つぶしに小説を読んでいた。
ちらちらと骨董品店の様子を伺いながら。
ついつい、読んでいた恋愛ものの小説に感情移入してしまって、時が経つのを忘れてしまった。
しまったと思ったが、もう遅いかと溜息をついた矢先の雨。
傘なんてもってきていない、近くにコンビニでもないかと思案した矢先の、ロックオンがさしてくれた、やけにファンシーな水色の、白の水玉模様の傘。
誰のものでもない、ティエリアの傘だ。
いや、昨日雨が降るかもしれないからと、一緒に地上に降りていたロックオンに無理やり持たせたもの。
茶色の髪を翻して、傘をくるくる回すロックオンが、なぜかかわいく見えて仕方なかった。
「あなたに、似合わないですね、この傘」
「そうか?俺はけっこう気に入ってるけどな。お前がくれたから」
そのまま、水玉模様の傘の下で、二人は他愛もない会話をしながら、地上で滞在している刹那の家に向かって歩いていく。
鉛色の空は、重くたれこめていてしばらく雨はやみそうにない。
そうか、日本では今は梅雨の季節なのだなと、ティエリアは遅まきに気づく。
TVで明日は雨だと、それでもってきていた傘のストックをロックオンにあげたのだけど。
「おい、濡れるぞー」
「かまいません」
一歩一歩、少し大幅に歩いて、パシャンと水溜りを踏んだ。
広がる波紋を見つめて、優しく微笑むティエリア。
雨が、けれど彼を包み込む前に、ロックオンの持っていた傘が屋根代わりになってくれた。
「ん」
道端でのキスシーンに、下校途中だった女子高校生がきゃあきゃあと声をはやし立てて去っていく。
行きかう人の視線を全て浴びて、ティエリアは目を閉じて、そのまましばしロックオンに身を任せた。
「ん・・・もう、帰り、ましょう」
甘い吐息に混じる、困惑の声。
「そだな。帰ろうか」
ロックオンは、あいていた手をティエリアと繋げて歩きだす。
梅雨の5月ももう明けようとしている季節。
「胸焼けがする」
偶然、二人のキスシーンを、食料買出しのために出かけて、思い切り目撃してしまった刹那は、一緒に荷物を持ってくれていたフェルトにそう呟いた。
「どうしたの、刹那。どこか具合でも?」
フェルトは、二人が道の角を曲がってしまったので気づかなかった。
「いいや。胸焼けのする季節だと、思って」
「それをいうなら、じめじめした季節、じゃないの?」
しとしとと降る雨は、まだやみそうにない。
5月もこんな調子では、6月も晴れより雨の日が多いのではないかと刹那は、どんよりとした雲と同じような暗い気持ちで歩きだす。
雨が降ると、ピンピンと勝手にはねた髪がくるくる曲がって、なんともいえない状態になるので、梅雨は嫌いだった。
「傘、僕がもちますよ」
遠くで、ティエリアは荷物をもったロックオンから傘を奪おうとするが、適わなかった。
「だーめ。身長差があるだろう。お前さんだと背伸びしなきゃいけなくなる」
「じゃあ荷物もちます!」
「もてるものなら」
ほいっと渡された荷物があまりにも重くて、ついつい取り落としそうになる。
「ほら、無理しなくていいから」
にまーっと笑んで、ロックオンは少し悪戯気味にティエリアの頭をわしゃわしゃと撫でて、荷物を奪って、傘をくるくる回して先を促す。
「子供扱い、しないでください!」
「ちがう。恋人扱いしてるんだよ」
その言葉に、ぼっとなって、ティエリアは好調した頬も隠さずにロックオンを追いかけていくのであった。
ぽつぽつと。
今まで晴れていたのに、気づけば雨が降ってきた。
ティエリアは、傘などもっていないので、空を仰ぐだけだった。眼鏡に水滴が滴り落ちて、視界が濁る。それを外してセーターの裾でふいていると、背後から傘が自分の上にさされた。
「よお、奇遇」
「奇遇じゃありません。もう2時間も待ちました」
「ついてこなくてもよかったのに」
「別に。散歩にいきたかったから、そのついで、です。別にあなたのあとをつけてここまできたなんて、決してそんなことありません」
つーん。別の方向を向くティエリア。
ティエリアの興味とは無縁の、骨董品店からそう離れてもいない場所でロックオンに見つかった。彼が買い物にいくといって出かけたのに、素直に一緒にいくといえずに、結局尾行のような真似事をしてしまったことに少し後悔しながらも、こうやって見つかったことにどこか安堵する。
骨董品の店に入ったのは確認したが、一緒に入ることを躊躇って、近くの本屋で暇つぶしに小説を読んでいた。
ちらちらと骨董品店の様子を伺いながら。
ついつい、読んでいた恋愛ものの小説に感情移入してしまって、時が経つのを忘れてしまった。
しまったと思ったが、もう遅いかと溜息をついた矢先の雨。
傘なんてもってきていない、近くにコンビニでもないかと思案した矢先の、ロックオンがさしてくれた、やけにファンシーな水色の、白の水玉模様の傘。
誰のものでもない、ティエリアの傘だ。
いや、昨日雨が降るかもしれないからと、一緒に地上に降りていたロックオンに無理やり持たせたもの。
茶色の髪を翻して、傘をくるくる回すロックオンが、なぜかかわいく見えて仕方なかった。
「あなたに、似合わないですね、この傘」
「そうか?俺はけっこう気に入ってるけどな。お前がくれたから」
そのまま、水玉模様の傘の下で、二人は他愛もない会話をしながら、地上で滞在している刹那の家に向かって歩いていく。
鉛色の空は、重くたれこめていてしばらく雨はやみそうにない。
そうか、日本では今は梅雨の季節なのだなと、ティエリアは遅まきに気づく。
TVで明日は雨だと、それでもってきていた傘のストックをロックオンにあげたのだけど。
「おい、濡れるぞー」
「かまいません」
一歩一歩、少し大幅に歩いて、パシャンと水溜りを踏んだ。
広がる波紋を見つめて、優しく微笑むティエリア。
雨が、けれど彼を包み込む前に、ロックオンの持っていた傘が屋根代わりになってくれた。
「ん」
道端でのキスシーンに、下校途中だった女子高校生がきゃあきゃあと声をはやし立てて去っていく。
行きかう人の視線を全て浴びて、ティエリアは目を閉じて、そのまましばしロックオンに身を任せた。
「ん・・・もう、帰り、ましょう」
甘い吐息に混じる、困惑の声。
「そだな。帰ろうか」
ロックオンは、あいていた手をティエリアと繋げて歩きだす。
梅雨の5月ももう明けようとしている季節。
「胸焼けがする」
偶然、二人のキスシーンを、食料買出しのために出かけて、思い切り目撃してしまった刹那は、一緒に荷物を持ってくれていたフェルトにそう呟いた。
「どうしたの、刹那。どこか具合でも?」
フェルトは、二人が道の角を曲がってしまったので気づかなかった。
「いいや。胸焼けのする季節だと、思って」
「それをいうなら、じめじめした季節、じゃないの?」
しとしとと降る雨は、まだやみそうにない。
5月もこんな調子では、6月も晴れより雨の日が多いのではないかと刹那は、どんよりとした雲と同じような暗い気持ちで歩きだす。
雨が降ると、ピンピンと勝手にはねた髪がくるくる曲がって、なんともいえない状態になるので、梅雨は嫌いだった。
「傘、僕がもちますよ」
遠くで、ティエリアは荷物をもったロックオンから傘を奪おうとするが、適わなかった。
「だーめ。身長差があるだろう。お前さんだと背伸びしなきゃいけなくなる」
「じゃあ荷物もちます!」
「もてるものなら」
ほいっと渡された荷物があまりにも重くて、ついつい取り落としそうになる。
「ほら、無理しなくていいから」
にまーっと笑んで、ロックオンは少し悪戯気味にティエリアの頭をわしゃわしゃと撫でて、荷物を奪って、傘をくるくる回して先を促す。
「子供扱い、しないでください!」
「ちがう。恋人扱いしてるんだよ」
その言葉に、ぼっとなって、ティエリアは好調した頬も隠さずにロックオンを追いかけていくのであった。
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