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カナリア「囚われた天使」

「ららら~~ららら~~ららら~~」
ティエリアは、綺麗な声で歌いながら、デッキに出ていた。
どこまでも広がる青空。
吹き抜ける風。
広がる海に、ティエリアは嬉しそうだった。
部屋を出たがらないティエリアを抱き上げて無理に連れてきたが、正解だった。
「ららら~~ららら~~~。ねぇ、カナリアの唄綺麗?」
隣にそっと寄り添って愛しそうに自分を見つめるロックオンを見上げる。
あどけない表情。
誰よりも愛したティエリアの表情だ。
まだ、たしかにどこかに残っている。
「綺麗だよ。ティエリア歌声は、世界一綺麗だよ」
「ありがとう。カナリア、嬉しい」

ティエリアは、自分がティエリアであると分かっていない。
何度名前はティエリアであると教えても、自分はカナリアだという。
鳥のカナリアだと。
籠の中で綺麗に囀(さえず)るカナリアだという。

「ららら~ららら・・・・・・・」
ティエリアの表情が強張った。
「どうした?」
「嫌!こないで!」
首を振って、後じさる。
「ティエリア?」

「嫌!カナリア、痛いのは嫌!!」

デッキをかけて、手すりから身を乗り出す。
「ティエリア!」
海に向かって、身を躍らせる。
ロックオンは、迷いもなく海に飛び込んだ。
青い青い海に、ティエリアの体が沈んでいく。泳いでいく魚の群れを無視して、そのまま透明な紺碧の海に沈んでいくティエリアに手を伸ばす。
ティエリアの体を抱き上げて、浮上する。
トレミーは、緊急停止した。
「ティエリア、ティエリア!」
クルーの手をかりて海から引き上げたティエリアは、息をしていなかった。
「ティエリア!」
ロックオンが、人工呼吸をする。
何度も何度も。

「げほっ、げほっ」
大量の水を吐いて、ティエリアは息を吹き返した。
「ティエリア!」
びしょぬれになったティエリアを抱きしめる。
唇を重ねると、ティエリアが震えた。
そのまま、水をすって体にはりついた衣服を脱ごうとする。そう、教え込まされたのだ。客をとるように。僅か二ヶ月間の間に、人格が崩壊するほどの扱いを受けてきたのだ。はじめは、組織グループの人間に拷問を受けながら昼夜を問わず複数の男に犯された。やがて、自我が崩壊しはじめ、情報も手に入らないこととなって、敵はティエリアを殺して海に投げ捨てるつもりであったのだが、リーダーが止めたのだ。
そのあまりにも美しすぎる容姿は売り物になると。声も綺麗だし、体の感度もいいし、いい商売人形になる。
そのまま、組織の一派が所有するオランダの娼館にティエリアは売られた。
壊れていることもあり、ティエリアはそこでも人間扱いを受けなかった。
特別室を宛がわれたが、それはティエリアを相手する人間が財政会でも大物であったり、変態的な趣味やサディスティックな嗜好を持ち合わせているせいであった。

カナリアは籠の中の鳥。
囚われた天使。

普通の客もいたが、皆カナリアの虜になった。
その天使のように愛らしい顔と、幼い体に。他の商売女にはない無垢さが、カナリアと名づけられたティエリアは持ち合わせていた。
何度嬲られようとも、初めての体験のような体に、男たちは夢中になった。
絶世の美貌は美しく、壊れているほうが店側としてもありがたかった。普通の商売女では相手をさせられない危険な客を、ティエリアに宛がわせる。そういう客は、大金を支払う。だが、使われた女は我慢できないのが大半だ。その分、すでに壊れてしまっているティエリアなら、これ以上壊れても、どうせ最初から壊れているのだから問題はない。

「ティエリア、愛している。そんなことする必要はないから。俺がずっと、お前の傍にいてお前を守るから!」
「・・・・・・・・・・」
石榴の瞳に、ロックオンが映っていた。
「カナリアを、守る?」
「そうだ。俺が、お前を守る」

「カナリア・・・・・あなたと、何処かで出会ったことあったかな?」

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