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ジャボテンダーでしばかれた(3期)

朝起きると、ティエリアがロックオンの顔にジャボテンダーをめりこませた。
めきょって、音がした。凄い音が。
ロックオンの意識は、そのまま眠っていた時と同じ闇に落ちていく。

そもそも、何故朝っぱらからジャボテンダーに殴られないといけないのか。その変が非常に謎だった。
一人、プンスカ怒ったティエリアは食堂で珍しく、ジャボテンダーを正面において、ロックオンを伴わない朝食をすませ、そして残った、きらいな原型をとどめる貝の味噌汁を、だんと、刹那のトレイにおいて、大股で去っていく。

「兄さん、何やらかしたんだろうな?」
「さぁ?」

ライルは、アニューと一緒に食事をとっていたし、刹那はフェルトと一緒に食事をしていた。カウンター席ではアレルヤとマリーがやっと起きてきて、席についてBランチ定職を注文したばかりだ。

「さぁねぇ、何かやらかしたんじゃないのお~」

一人、ニヤニヤとした笑みを、ティエリアと同じ顔で浮かべるリジェネ。リジェネは、ロックオンを助けずっと匿い続け、死んでしまったアニューも再生させた。意識体となれるイノベイターにとっての死は、その意識の死である。体を失ったティエリアと自分の肉体さえ、イオリアが隠していた研究所の中にあった、予備用のツインの肉体に意識体をすべりこませ、ティエリアとリジェネは復活した。
肉体をもたず、ヴェーダの中に閉じこもっていた二人であるが、再会を願うティエリアの仲間の望みを叶えてやった形になる。ついでに、自分とアニュー、かくまい続けていたロックオンまで、CBの皆は邂逅し、まるで争いなど始めからなかったかのような、至福に満ち溢れた世界。

それを作り出したのは、リボンズに撃たれ、一度は肉体を失ったリジェネだ。

リボンズが予備の肉体をもち、それに意識を宿らせたように、リジェネにも同じことができた。だって、リボンズは知らないだろうけれど、イオリアのかわりにリボンズを創造した、リボンズだけの神はリジェネだったのだから。
リボンズはイノベイターには向いていなかった。自らを神と名乗り、世界を手に入れようとした。

それは、イオリアの計画の中にはない。リジェネもティエリアも、あくまでただのイノベイターとして生きている。それは、純粋種として覚醒した刹那も同じこと。もっとも、刹那は人間であるつもりだろうが。イノベイターでありながら最も人間に近いのは刹那。ティエリアもリジェネも、肉体が死んでも意識体が生きている限り、死は訪れない。だから、二人手を繋ぐようにヴェーダの中に意識を同調させて、ヴェーダの中で生きていた。

ホログラムを使って、仲間の前に現れるティエリア。

いい加減、ヴェーダで眠り続けるのも飽きた。ロックオンが生きていることを知ったティエリアは、自分から予備の肉体、ナンバリングがされてあり、未だに母なる羊水の中に漂っていた、意識をもたぬティエリアたちの中の一つにその意識体を宿らせて目覚め、復活した。ティエリアがそうするならと、リジェネもあとを追った。アニューの場合、CBのトレミーに迎えにこられるまでに、イオリアの研究所でアニューと同じ姿をしたイノベイターの肉体を見つけ、その中にすでにアニューが、産声をあげるが如く宿っているのを見つけたのは偶然だった。
彼らが見つけなければ、アニューは宇宙で死したまま終わっていたであろう。

同じ顔をしているのに、シンメトリーを描きながら酷く小悪魔めいたリジェネの美貌は、ティエリアのもつ美貌とは180度反対のようなもの。
純真というものをいつまでたっても失わないティエリアは、リジェネのツインにして、最愛の人。

「ティエリア、まってよ~」
リジェネは唇の端をつりあげ、ニマニマするのをなんとか手で覆って隠して、ティエリアの隣に並んで歩いていく。リジェネが着ているのは、ティエリアと同じ紫を基本とした制服だ。
髪型が違わなければ、誰もティエリアとリジェネの見分けなどつかないだろう。
もっとも、リジェネは尊大すぎて、それが表情に出ているので、僅かな違いで気づく場合もあるが。

「ああ、ロックオン。おはよう」
ティエリアの腕に腕を絡めて、リジェネはやっと起きてきたロックオン、ニールを見ると、舌を出す。

「リジェネ、何をしたあああ!」
「べっつにー。なんにも~?」
にやにやにやにや。
そんな笑顔を浮かべるリジェネ。綺麗なのに、勿体ないとみんな思う。
その笑みのせいで、ほんとに人間性が悪い人間にしかみえない。いや、リジェネの性根はそんなものだろうけれど。

「待ってくれ、ティエリア!」
めきょ。
ロックオンの顔に、またジャボテンダーがめりこんで、ロックオンは床でのたうちまわる。その背中をわざと踏んづけて、リジェネはティエリアの後を追っていく。

ロックオンは、それでも二人の後を追った。
ティエリアとリジェネは、ロックオンに追い詰められて、袋小路に。

「あなたは!火星のタコは白いスミを吐くといった!だから、僕もそうなんだと、火星タコは白いスミを吐くとメモをして、生態を探るべく研究をしていたのに、これを見ろ!」
ティエリアが見せたのは、小さなホログラムの映る機械。
それに映し出されたのは、奇妙な形をしているが、何故か頭の部分に「火星」って文字を書いたタコのホログラム。スミをはいた。すみは真っ白でなく、真っ黒でもなく、緑だった。

「はい?」
ロックオンはまだ状況が読めていない。
「リジェネが、火星タコのホログラムを秘密裏に手に入れたと、これを見せてくれたのだ!スミの色は白ではなく、ジャボテンダーさんと同じ緑ではないか!」
「ああ、緑だな」
そのホログラムは、しつこく緑のスミを吐いていた。足は20本くらいありそうで、凶暴な目つきをしている。
体は赤くなくて、どちらかというと黒い。

「あなたは僕に嘘をついた。だから、ジャボテンダーさんでしばいたのだ」
リジェネのように、尊大にふんぞりかえるティエリア。ああ、どこかリジェネに仕草まで似てきた。

「や、宇宙フグが実はグランジェ7でもとれるんだってさ!今から釣りにいく計画でも練ろうぜ!」
「ほ、本当か!幻の宇宙ふぐが、この目で見られると!?」
目を輝かせるティエリア。ふらりと、その体は自然とロックオンのほうへ。
「そうそう、善は急げだ!」

すでに火星タコの生態から宇宙フグに興味を移したティエリアの矛先を、元に戻す方法はリジェネにはなかった。せっかく、一晩かけてそれらしいホログラムのプログラミングをしたというのに。

「くそ、ロックオンめ覚えていろ」

生態が謎でできているティエリアは、言い出すことも謎が多い。
それを理解できなくも、付き合うのは愛というもの。
そう、ジャボテンダーが生きていると信じてるくらいなんだから。

阿呆なのはティエリアだけでない。ロックオンも阿呆。そして手の込んだしかけまでするリジェネも阿呆だ。
これ、完全な三バカトリオ。
ジャボテンダーをうならせて、それでばしばしと叩かれながら(多分ティエリアの愛情表現)、ロックオンはティエリアを自分の部屋にいれて、ざまぁみろリジェネに、子供のようにほくそえむのであった。


 

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