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スマイル0円(閑話)

ラーメン屋でのバイトのかけもちと一緒に、友人に泣きつかれて、少しの間だけマクドナルドでバイトをすることになった。

接客ではなかったのでよかったと思いながら、昼の一番混んでいる時間には接客もさせられた。

「いらっしゃいませ」

笑顔をつくっているはずが、頬の筋肉が引きつる。

「うわーーん、まま、このおじちゃんこわいよー」

「お、おじちゃん!?」

一護はまだ10代だ。18歳だった。幼い年齢からみれば、おじちゃんなのであろうか。

もうバイトは首を覚悟に、適当に接客した。

だが、首にならなかった。女性客が3割増えたそうだ。一護がきてから。

「スマイルを。あとダブルチーズバーガーのセットを」

スマイル0円。それがマクドナルドの売りであるのは知っている。

ぎこちない笑みを顔に刻むと、客は写メで一護の写真を撮った。

「やーん、やっぱかっこいいー」

そういって、品物を受け取って去って行った。

「大分繁盛しているようだな」

「いらっしゃいま・・・・・・ぶはっ」

いつ現世にきたのか、客として並ぶルキアの姿があった。

「ご、ご注文はお決まりでしょうか」

「スマイルをくれ」

にっこりー。

バイトして2週間で培った、営業スマイルを浮かべる。

パシャり。それを伝令神機でとると、ルキアは拡散するように一護の知り合いの死神たちに向けてその写メールを送った。

「おい、何してやがる」

「あらー、お客様にむかってその態度はなんなんでしょう」

店長が、ギロリと睨みをきかせてくる。

「お、お客様、ご注文はお決まりでしょうか」

「スマイルを」

ぴきっ。一護の額に血管マークが浮かんだ。ルキアはわざとだ。わざと、からかっているのだ。

「何か注文しやがれ」

小声でいうと、ルキアはこういう。

「お前のおごりで、月見バーガーセットを。ドリンクはコーラで」

「金くらい自分でだしやがれ」

「あいにくと、今手持ちがないのだ」

にこにこにこにこぴきっ。

「だったら並ぶな」

「一護、おごってほしいぞ」

「ああもう、おごってやるからさっさと行け!」

注文をうって、自分の財布からお金をだしてレジに入れる。

店長は、違うところを見ていたので、ばれなかった。

客をおごるなんて、普通なら言語同断である。後でお金を返してもらうならいざ知らず、その場でバイトをしている者が金銭をレジにいれることは普通ない。

接客を他の店員に任せて、月見バーガーのセットをルキアの座る机の上に置く。

「貴様も座れ」

「無理言うな。俺はいまバイト中だ」

「ちっ、つまらん」

「そもそも金がないならなんできた!」

「貴様に会いたかったから」

顔が赤くなるのを感じた。

「たまにしか現世にこれんのだ。たわけ、それくらい察しろ」

「あと2時間でバイト終わるから、それまでそのセットでも食ってねばってろ」

コーヒー一杯で3時間とかねばる客もいる。

「ふむ・・・・まぁまぁの味だな。ジャンクフードは体に悪いから兄様になるべく食べないようにと言われているが・・・・・うむ、いけるではないか」

あろうことか、ルキアはおかわりを所望した。

一護を呼びつける。

「なんだよ、今接客で忙しいんだよ!」

「あの月見パイとマックシェイクが飲みたい。もってこい」

「あのなぁ。並べ!ちゃんと客の列に並んで、注文しやがれ。あとこれ、それを買うための金!」

テーブルの上に、ばんと、千円札を置いた。

「ふうむ。注文するのにまた並ばねばならぬのか。変わった店だな」

マクドナルドのような店にきたのも始めてで、久しぶりに味わう現世は美味しいものだらけだった。

ルキアは、大人しく客の列に並ぶ。

一護は祈った。どうか、ルキアに当たりませんように。

「いらっしゃいま・・・またお前か」

「月見パイ1つと、マックシェイクのM、バニラ味で」

「よく食うな」

「お客様に向かって失礼であろう!」

鳩尾に拳をいれられた。

「おうふ・・・・・・・この野郎、後で覚えてやがれ!」

結局、ルキアは注文したものを全部一人で平らげてしまった。

細いのに、どこにそんなに入るんだと、一護も不思議に思ったくらいだ。

やがてバイトが終わり、ルキアを連れてアパートに帰る。

一護のスマホに、死神仲間からメールが届いていた。

「何々・・・・ひきつった笑顔が気持ち悪い、一角。美しくない、弓親。スマイルするならもっと練習しろ、冬獅郎。アホみたいな顔してる、乱菊。ま、愛嬌があっていいんじゃないの、京楽。夜一様の笑顔の方が美しい、砕蜂。バカ面してんじゃねぇよ、恋次。兄の顔は間抜けだ、白哉・・・・・・・(#^ω^)」

「ははははは、面白い顔だな、一護」

「誰のせいだと思ってやがる!!!!」

ルキアをベッドに押し倒した。

「はははははは」

それでも笑っているルキアの足をこしょこしょしてみた。

「あっはははは、かゆいかゆい」

「お前なぁ。俺の部屋にいるんだぞ。もうちょっと、色気のある言葉しゃべれねーのかよ」

「兄様を呼べばいいのか?」

「だああああああ、止めろ!」

婚約を交わしたとはいえ、こんな場面を白哉が見ようものなら、千本桜を手に追いかけてきそうだ。

「好きだぜ、ルキア」

シャンプーの匂いがする体を抱き締める。

ルキアも、一護に抱き着いた。

「私も貴様が好きだ、一護。明日も、マクドナルドとやらにいってやろう。10万あれば足りるか?」

「ああもう、お前も白哉も金銭感覚崩壊してるな!1万もあれば十分だよ!厳密にいえば普通なら千円あれば事足りる」

「そうなのか。兄様からこれだけ借りてきたのだか」

札束の数を数えると、2千万はあった。

「家が1軒買えるじゃねか。こんなにいるか、あほ!」

「追伸、兄様へ。一護が兄様のことをアホといっていました、と。送信完了」

「だああああああああ!何してやがる!!!」

ルキアから、白哉専用携帯を取り上げる。

「兄は、何をしているのだ?私のどこがあほだというのだ?」

背後から声をかけられて、一護は飛びあがった。

「出たあああああああ!」

一護は、死神化してアパートの室内から走り去ってしまった。それを軽やかに追う白哉。

「兄の笑顔、実に間抜けであった」

「うっせえええええええええ!」

「何故逃げる!」

「じゃあ、なんで千本桜、始解してやがるんだあああああ!!!」

今日もまた、夜は更けていく。

一人取り残されたルキアは、一護の部屋の冷蔵庫を勝手に漁って夕飯を食べていたという。

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