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桜のあやかしと共に57

妖巫(ようふ)から受けた傷が原因で、浮竹は毒状態になった。

鴆の京楽が解毒してくれて、なんとか助かったが、毒の妖術を与えた妖巫に、京楽は桜鬼になって、死体となった後も剣で切り刻む。

彼岸花の精霊の浮竹に眠らされて、京楽の中の闇は、ひとまず静かになった。

「う‥‥‥」

「ん‥‥」

浮竹と京楽は、ほぼ同時に起きた。

「十四郎、傷は!?」

京楽が、浮竹の受けた傷を見るが、傷口は塞がっており、毒状態も回復していた。

「大丈夫なようだ。鴆の京楽に助けられてな」

「よかった‥‥‥」

ぎゅっと抱きしめられて、浮竹も抱きしめ返す。

「すまない、油断していた。もう、俺は大丈夫だから。だから、桜鬼の姿から元に戻ってくれ」

「うん‥‥」

京楽は人の姿に戻ると、ずっと浮竹を抱きしめていた。

「離さない。君を一人にはしない」

「京楽、苦しい」

「あ、ごめん」

ぱっと手を離すが、やはりまた抱きついてきた。

「ふふ、寂しいのか?」

「君を失いそうで怖い」

「俺はそう簡単には死なないぞ?」

京楽は、浮竹の傍にずっといた。

ご飯の時も、お風呂も、眠る時も。さすがにトイレにまでついてこられそうになって、扉の外でまっていてくれとお願いしたが。

浮竹が買い物にいくとついてくる。

散歩にいってもついてくる。

子猫姿になって、ふりきろうとしたら、捕まえられて抱きしめられた。

「京楽、ちょっとおかしいぞ。前はこんなにずっと四六時中一緒ではなかっただろうに」

「君が傷つくのが怖い。君を失うのが怖い」

浮竹は、はぁと大きなため息をついた。

「俺はお前の傍にいるから、安心しろ。俺を守ってくれるんだろう?」

「うん。君の傍にいる」

浮竹は、諦めて京楽の好きにさせた。


「あやかし退治だ。水龍神が暴れて、村を水没させたらしい」

「うん。ボクは行かなきゃいけないけど、浮竹もきて?」

「分かっている。そんな精神状態のお前を一人にさせるほうが危険だ」

水没したという村まで、高級車で向かう。

4時間かかった山奥に、湖があって、その近くの村が水没していた。

「ああ、術者の方ですか!お願いです、水龍神を退治してください!」

「水龍神はかりにも神だぞ。そうやすやすとは倒せない」

「そこをなんとかお願いします。生贄を要求してきて、拒んだら村を水没させたんです。何人か犠牲が出ました」

「十四郎、その水龍神とやらと、とりあえず話をしてみない?」

「ああ、そうだな」

「前の水龍神様は村を守ってくださっていたのに、代替わりしてから酷いのです」

浮竹と京楽は、水龍神が塒(ねぐら)にしているという、滝の裏側の洞窟にやってきた。

「誰ぞ。輪が眠りを妨げるのは誰ぞ」

「水龍神、話がある!」

「なんだ、あやかしの子か。なんの用だ」

「代替わりしてから、生贄を要求したり、村を水没ざせたのはお前か?」

「水龍神でも、場合によっては封印するよ?」

京楽の言葉に、水龍神は笑った。

「神である我を封印だと?笑わせてくれる。500年も生きている我は、我の好きなようにするのだ。父は愚かなことに、人間の娘と恋に落ちて神の座を空位にした。子である我が引き継いだのだ。好きなようにしてもいいであろう」

「間違っているぞ、水龍神。人に害をなすな。生贄の要求など、もっての他だ。他のあやかしではなく、水龍神、お前が村を水没させたんだな?」

「十四郎、封印しよう」

「ああ。神は殺すと厄介だからな」

「ははははは!あやかしの術者か!笑わせてくれる!我を封印だと?その命、よほどいらぬと見える。よく見れば、そっちの白い髪のあやかしはなかなか麗しいではないか。我の奴隷にしてくれようぞ」

「極滅破邪、天炎!」

京楽が、水龍神の言葉に怒り、天の炎をもたらす。

「ぐがががが、我に炎など‥‥」

「十四郎がボクのものだよ。奪おうとするなら、神でも殺すよ?」

「京楽、封印だ」

「あ、うん、そうだね」

京楽は、式神を飛ばして、円陣を描く。

「四季の王の名において命ずる!きたれ、冬の王よ!」

「へあ?」

いきなり召喚されて、冬獅郎はぼけっとしていた。

「な、なんだ!?」

「冬獅郎くん、この水龍神を凍らせてくれ!」

浮竹の言葉に、冬獅郎は頷く。

「冬の息吹よ!」

「ぬおおお、我の体があああ!四季の王だと!?」

凍てついていく水流神は、自分が敵に回したのは王の名を冠するきわめて神に近い者だと知る。

「おのれ、四季の王も京道連れにしてくれる」

「十四郎には、手を出させないよ?」

京楽が、桜鬼になって、氷ついていく水龍神の体を砕く。

「あははは、君は塵がお似合いだよ」

「京楽、しっかりしろ!闇に飲まれるな!」

浮竹から口づけられて、京楽は人の姿に戻る。

「ごめん、十四郎」

「封印するぞ!」

「うん!極滅破邪、永久凍土!」

京楽の放った冷気は、冬の王の冬獅郎にも負けず、水龍神を完全に凍らせた。

粉々に砕き、いくつもの結界を構築して封印する。

「俺、必要あったのか?」

「さぁ?」

京楽が、首を傾げる。

「浮竹、四季の王だからと‥‥」

召喚された冬獅郎は、それを言い残して強制送還された。

「封印、うまくいったかな?」

「ああ。さすがだぞ、春水」

「十四郎を傷つけたり自分のものにしようとするから、封印されている間、針の山にいるような痛みを感じるようにさせてやったよ」

「水龍神も、おとなしくしていれば、人に敬われて捧げものや神酒をもらえたものを」

浮竹と京楽は、洞窟から出た。

水没していた村は、水がひいていた。

「ありがとうございました、術者の方!これは、村の者たちでかき集めた金です。これで、手を打ってくれないでしょうか」

「いらない」

「え?」

「これから、村の復興に金がかかるでしょ。だから、いらない」

依頼人は、顔を輝かせた。

「本当にありがとうございました!」

「帰ろう、十四郎」

「ああ、そうだな」

高級車に乗って、また4時間もかけて帰るのかと思うとちょっと億劫だった。

「車ごと、異界送りをするか」

「え、そんなことできるの?」

「ちゃんと駐車場に、ゲートを繋げた」

京楽のマンションに帰還する。玄関に、恋次の靴があった。

「あああ!!」

白哉の甘い声が聞こえて、浮竹と京楽は赤くなり、結界をはる。

「ううう、俺の白哉がああああ」

「白哉くんはもう、すっかり恋次くんのものだね」

「阿散井恋次‥‥‥消すか?」

本当にやりかねないので、京楽がなだめまくる。

「十四郎には、ボクがいるでしょ」

「それはそうだが、白哉は俺の弟で‥‥」:

「ねぇ、ボクたちもしようよ」

「え、こんな時間からか?」

「いや?」

「いやじゅないが‥‥ううん」

京楽からディープキスされて、寝室にお姫様抱きで連れていかれて、浮竹は赤くなりながらも、京楽の首に手を回すのであった。



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