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京楽と浮竹と海燕と 熱を出した浮竹

海燕は、急いでいた。

駄菓子屋にいって、美味い棒10本買って来いといわれた。

自分で行けと言ったが、1万環のお札をぴらぴらされた。

どうせ、京楽にでももらったのだろう。

駄菓子屋にいって美味い棒10本買うだけで、1万環がもらえるのはおいしすぎる。

駄菓子屋で美味い棒を、味が重ならないように買って帰ってくると、浮竹はいなかった。

「どこいったんだ、隊長・・・・」

ぱしゃぱしゃと、池で音がして、まさかと思って外を見てみると、まだ寒い季節なのに浮竹が死覇装に隊長羽織のまま、池に入っていた。

「何してるんですか、隊長!熱出したらどうするんですか!」

海燕が、浮竹をとめに自分も池の中にはいった。

震えるような寒さではなかったが、若干冷たいと思った。

「あれ、海燕?俺は、確か簪を落として・・・・」

水底に、煌めいているものがった。

「これですか?」

「ああ、それだ」

浮竹は、大切そうに簪を懐に入れる。

とにかく浮竹を池からあがらせて、風呂で体を温めさせて、着換えさせた。

懐にいれられていた簪を見る。

翡翠の飾りがついた、見るからの高級そうなものだった。きっと、京楽からの贈り物だろう。

「今日は・・・俺は何をしていたんだろう」

そんなことを言ってくるので、まさかと思い額に手を当てると、凄く熱かった。

「よくそんな熱で動けますね!布団しくから、早く横になってください!」

「うん?」

よく分かっていない浮竹に、熱があると言って、解熱剤と念のために風邪薬も飲ませて横になってもらった。

冷えたタオルを、その額に乗せる。

「あの、美味い棒は・・・・・・」

「美味い棒?それがどうかしたか?」

がっくりときた。やはりあの1万環は、熱で自分が何をしているのか分からない浮竹の仕業だったのだ。考えてみればそれもそうだろう。浮竹なら、自分で駄菓子屋にいって美味い棒を買って帰ってくる。

1万環も誰かにあげて、買ってこさせるほど、無駄遣いではない。

「お邪魔するよ~。浮竹遊ぼ~」

「ああもう、こんな時に・・・・・」

雨乾堂の部屋を見回して、京楽は浮竹の傍にきた。

「浮竹、熱あるんでしょう?眠りなよ」

「それが、目が冴えてて眠れない」

「仕方ないねぇ」

懐から粉薬をだして、それを浮竹に飲ませた。

「おい、あんた何飲ませた」

「軽い、眠剤だよ」

浮竹は眠気を訴えて、しまいには眠ってしまった。

「たまにしか飲ませないけどね。どうしても眠れない時とかにあげてるんだ」

「それ、京楽隊長用に処方されたものなんじゃないんですか」

「そうだよ」

「浮竹隊長に与えていいんですか」

「何、僕もお世話なるのはほんとにたまにだし。体に害はないし、依存性もない軽い薬だから大丈夫だよ」

「それでも、できるだけ隊長に飲ませないでください。自然に寝れなくなってしまう」

浮竹を心配するあまり、海燕は不機嫌になっていた。

「何、そんなに心配?」

「そりゃ心配です。自分の上司ですし」

「じゃあ、これあげるから、今日の夜にでも試してごらん」

粉薬を渡されて、海燕は逡巡する。

普通こういう薬は医者の処方通りに飲む必要があるが、流魂街などでは金を少し出すだけで簡単に手に入った。もっときついやつだが。

「今後も飲ませるなら、一度試してみます」

その日、浮竹は翌日の朝までよく眠った。

家に帰り、都の手料理を食べて、いざ寝るというときに思い切って薬を飲んでみた。

耐性がないので、もっとくらくらするかと思っていたが、体は楽だった。

しまいに少し眠くなってきて、横になると意識は闇に落ちた。

翌日はすっきりしていた。

薬の効果のせいか、深く眠れて、いつもの疲れがとれていた。

「悪くはないのかもしれない・・・・」

そう思った。

熱を出して辛い状態で起きているよりは、薬の効果でも眠っていたほうが楽だろう。

その日、雨乾堂に行くと、まだ布団に横になっている浮竹が、畳の上でごろ寝している京楽と話し合っていた。

「隊長、熱は下がりましたか?」

「いや、まだ微熱だが熱がある。起きているとお前がうるさそうだから、こうやって大人しく床についている」

「床にいて正解ですね。起き出して熱があがったりしたら、俺は無茶苦茶あんたを叱りますよ」

おお怖いといいながら、浮竹は京楽と院生時代のことを話していた。

聞いていると、同じ寮で隣の席で、2回生の冬に告白されて、4回生の終わりに正式に交際しだしたそうだ。

「学院の近くにある、壬生の甘味屋はまだやっているだろうか」

「ああ、あそこは老朽化して潰れたよ」

「なんだって」

驚く浮竹。学院時代は、よくそこの甘味屋に京楽と一緒に通ったのだ。

「代わりに、すぐ目のまえに建てられた建物の2Fが甘味屋になってるよ」

「2Fなのか・・・・客の入り具合はどうだろう」

「この前食べにいったけど、そこそこ客は入っていたよ」

浮竹が拗ねる。

「ずるいぞ、自分だけなんて」

「いや、君が肺の発作で入院してた時だから。見舞いの品であげたおはぎは、そこの店で買ったものだよ」

「そうか・・・未だにあの店はあるんだな。今度暇な時、少し遠出になるが、いかないか?」

「いいよ。でも今は、熱を下げること。少しくらい動いてもいいけど、あんまりふらふら出歩かないでね」

京楽の言葉に頷きつつ、浮竹は起き出した。

でも、あまり動かずに京楽と一緒にまた、院生時代のことについて話し出す。

会話の内容についていけず、海燕は自分一人は蚊帳の外にいる気分だった。

「海燕!今度、海燕も一緒にいかないか。学院の近くの下町にある壬生の甘味屋っていう老舗なんだが」

「ああ、チェーン店構えるとこの、本舗ですか?」

「そうだ」

「行きます」

「だそうだ、京楽」

「海燕君は、自分で食べた分のお金払ってね」

「誰も京楽隊長になんてたからないので、安心してください」

くだらないやりとりだが、楽しかった。

夫婦みたいに幸せな二人の間に入ることになるのだが、二人ともそれが苦ではないらしい。

浮竹は、それ以上熱をあげないために、また横になった。

「ちょっと、暇だし瞬歩で老舗からおはぎ買ってくるね」

京楽がそう言って、出ていってしまった。

30分で帰ってきた。

混んでいたようで、買い求めるのに少し時間がかかったらしい。

「浮竹、熱はもういいの?」

完全に起き上がって、小説を読んでいた浮竹の額に手をあてると、平温にまで下がっていた。

「ああ、もう熱はさがった」

「解熱剤が効いたんでしょう」

海燕もいれて、3人で仲よくおはぎをわけて食べた。浮竹は甘味物をよく食べるので、二人の倍の数を食べたが、そうなるよう調整されていた。

ああ。本当に、京楽隊長は、こんな細かいところまで気配りができて、すごいと思う海燕だった。

京楽と知り合って、まだ20年も経っていないが、京楽はとにかく浮竹に甘い。浮竹も幸せそうで、喧嘩をしている姿はたまに見かけることもあったが、まさに鴛鴦夫婦のようで。

ああ、俺も大分毒されていると思う海燕だった。

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