僕はそうして君に落ちていく4
3回生になっていた。
二人は、相思相愛なことに気付かずに、時間だけが流れていく。
京楽は浮竹に嫌われるのが怖くて、気持ちを隠していた。浅ましい欲を抱いていることを理解しながらも、親友といして浮竹の傍にいれるなら、それでよかった。
浮竹も、京楽に愛想をつかされるのが怖くて、親友であろうと傍にいた。
二人の距離は、1回生や2回生の頃よりぐっと近くなっていた。
浮竹は、髪を伸ばしていた。
京楽に、長い方が似合うと言われたからだ。
肩よりも長くなった髪は、さらさらと音をたてて、零れていく。
「ねぇ、浮竹、ちょっとだけ抱きしめてもいい?」
「え、なんでだ?」
「浮竹の肉が落ちてないか確かめたくって」
そう言い訳をして、浮竹を抱きしめた。
甘い花の香りがした。それが浮竹が使ているシャンプーのせいだとは知っているが、まるで誘われているような錯覚を覚えた。
「君は抱き心地がいいね」
京楽の腕の中で、浮竹は固まった。
顔を真っ赤にさせて、言葉を紡げないでいた。
「うん、体重少し減ったかな。この前も寝こんでたし。もっといっぱい食べて、肉つけようか。鍛錬もしないと」
「え、ああ、うん。京楽はすごいな。抱きしめただけで、俺のことがわかるのか」
そりゃ、君のことが大好きだから、とは言えなかった。
「俺も、京楽を抱きしめていいか?」
「え?」
浅ましい欲が、ずくりと心臓を打つ。
「なんだか、いつもハグされたりで、俺だけなのは納得いかない」
そういって、浮竹は京楽抱き着いた。
「でかいな」
「うん。身長190センチはあるからね」
京楽を抱きしめて、それからさっと離れた。
「俺も、京楽と同じくらいになりたい」
「君は今のままでもいいと思うけどね」
「身長伸びてるから、京楽を追い越せなくても、近いくらいには成長したい」
浮竹は、少年から男性へと変貌していた。
でも、白くて綺麗で、中性的なかんじは否めず、やはり浮竹は可愛いなぁと、京楽は思った。
どんなに成長しても、浮竹は京楽より華奢だった。
病気のせいもあって、成長が他人より少し遅かった。
それでも、浮竹の身長はいつの間にか頭一つ分はあったのに、京楽と並んでも視線が少し下になるくらいまで、身長は伸びていた。
それでも、京楽の中で浮竹は、自分のものにしたい、という欲を抱かせたままだった。
浮竹が成長し男性らしくなれば、浅ましい欲も消えるのではないかと思っていたが、浮竹はいつまでたっても中性的な容姿をしていて、京楽の心を刺激した。
「今日は学院は休みか」
「創立記念日だそうだよ」
「京楽、行きたい甘味屋があるんだ。一緒に行かないか?」
「うん、いいよ」
学院の近くに、新しい甘味屋ができた。
最近の浮竹は、その甘味屋に行くのが楽しみの一つになっていた。
お金はあまりないので、たくさんは注文できなかったが、節約していた金を使っていろいろ注文して食べていた。
「今日は僕が奢ってあげる」
「え、本当か!?」
「うん。お金なら、不自由してないから」
浮竹は、顔を輝かせて今まで高くて手が出せないでいたメニューなどをたくさん注文した。
「その量、一人で食べれるの?」
注文された量に、京楽が心配する。
別に食べ残してもいいが、食べ過ぎてお腹を壊したりしないだろうかと、心配になった。
「ああ、大丈夫だ。一度でいいからこのメニュー食べてみたかったんだ」
ぱくぱくと軽快に食べる浮竹は、可愛かった。
テーブルの上に並んでいた甘味物は、次々と浮竹の胃の中に収まっていく。
「ほら、ほっぺたについてる」
京楽は、白玉餡蜜だけを注文して、それを食べ終えて、浮竹の頬についているあんこを指でぬぐって、それをぺろりと舐めた。
「お前、その、恥ずかしいこと平気でするな」
浮竹が赤くなっていた。
「え、ああ。ごめん、ごく自然に動いちゃった」
京楽は、浮竹に謝りながら、温かい茶を飲んだ。
「浮竹、無理に全部食べなくていいからね。残しても、僕は文句は言わないから」
「残すわけないだろう。ずっと食べたかったんだ」
浮竹は、本当に全部完食してしまった。
軽く3人前はあったと思うのだが。
甘味物の力って、怖い、と京楽は思った。
勘定を済ませると、結構な金額がふっとんでいったが、浮竹のためならそんなこと些細なものだった。
「ふー、食べた食べた。もう、流石に夕飯は食えないな」
「うん。僕も、見てるだけでお腹いっぱいになったよ」
その日は夕食はとらずに、二人は寮の部屋に帰宅した。
先に風呂に入った浮竹に、京楽はそわそわしていた。
いつもは脱衣所で服を脱ぐのだが、今日の浮竹は部屋の中で院生の服を脱いでしまっていた。
白い肌と、華奢ながらも薄い筋肉のついた均整のとれた体に、目が釘付けになった。
「ほんとにもう、浮竹ったら僕の想いも知らずに煽るようなことを・・・・」
そわそわ。
やがて、浮竹は京楽がプレゼントした部屋着を着て、風呂からあがってきた。
「いい風呂だったぞ。京楽も、入ってこい」
「うん。そうするよ」
風呂の中で、京楽は浮竹の半裸の姿を思い出して、抜いた。
若いだけあって、一度では足りずに、3回ほど抜いた。
浮竹の男の体を見れば、欲もなくなるんじゃないかと思っていた。でも、反対に欲は深まるばかりで、爆発する前に抜いた。
風呂からあがると、浮竹はもう寝ていた。
寝るの早いなぁと思いながら、京楽は浮竹の少し長くなった白髪をなでる。
「浮竹、君が好きだよ・・・・・」
京楽の告白は、浮竹に伝わることなく、部屋は静かに時間を刻んでいった。
「京楽、起きろ!やばい、遅刻だ!」
「んー、あと1時間・・・・・」
スパン。
頭をスリッパで殴られて、京楽は目覚めた。
「どうしたの」
「とっくに授業はじまってる!」
昨日が創立記念日なので、夜更かししたわけではない。
ただ、深夜に目が覚めてしまって、なかなか寝付けなくて、京楽もそんな浮竹に気づいたのか目を覚まし、二人で深夜の時間にトランプとかオセロとかして、結局再び寝たのは明け方だった。
京楽は、慌てなかった。
「今日の授業は必須科目じゃないでしょ。そんなに慌てなくても、大丈夫だよ」
「でも、寝坊して遅刻なんて、だめだ」
「あーうん。とりあえず、着替えたりして、学院に行く準備をしようか」
忙しそうな浮竹を落ち着かせると、浮竹ももうその授業はどうあってもほとんど受けられそうにないので、次の時間の授業から出ようと思った。
「朝食食べてる時間ないね。準備できた?」
「ああ。瞬歩で移動しよう」
二人は、瞬歩を会得していた。まだ他の生徒は瞬歩を使えない。
さっと学院まで来ると、ちょうど1限目の授業が終わるチャイムが鳴った。
「あれ、浮竹。今日は病欠じゃなかったのか?」
「京楽と一緒に遅刻なんて、珍しいな」
浮竹は、特進クラスのリーダー的存在であった。特進クラスは、落ちこぼれは他のクラスに移動したり、優秀な生徒が特進クラスに編入してきたりと、細々とした変化はあったものの、基本6年間同じクラスである。
そんな3年間同じクラスだった浮竹の友人たちが、浮竹と京楽を取り囲んだ。
「二人そろって寝坊か?」
「ああ。夜は早めに寝たのに、深夜に覚醒してしまって、遊んで夜明け前に寝たらこの有様だ。余裕で起きれるだろうと、目覚まし時計を設置していなかったせいもある」
「浮竹、目覚まし時計使ってないのか。自然に、起きてるのか?」
「ああ。いつもは授業がはじまる1時間前には起きる」
けっこうギリギリだった。朝食をとったりしていたら、ほんとに時間ぎりぎりだ。
浮竹にとって、睡眠は安らげる時間であり、睡眠不足は大敵であった。
本当はもっと早くに起きるべきなのだが、寝るのも早いし、とにかく体調を万全なものにするためにもよく寝た。
「次の授業、稽古試合だってさ」
「何、本当か!?」
浮竹の顔が輝く。
「京楽、今日こそ決着をつけるぞ」
「浮竹に負けるわけにはいかないねぇ」
それまで沈黙を通していた京楽が、浮竹の肩に手を回した。
「こら、京楽!」
京楽は、それから浮竹の腰を引き寄せて、抱き寄せる。
「お前ら、ほんとに仲いいな」
「浮竹は僕のものだから」
「京楽、悪乗りしすぎだぞ」
ばきっと頭を殴られて、それでも京楽は浮竹を抱き寄せていた。
「ほら、稽古試合が待ってる。木刀になるが、今日こそ決着をつけよう」
「そうだ、勝ったほうが負けたほうの言う事一つきくってのはどう?」
浮竹を解放してから、京楽が鳶色の瞳で悪戯を思いついたとばかりに口にした。
「いいぞ。どうせ俺が勝つから。俺が勝ったら、甘味屋のメニュー全部おごってもらうからな」
「じゃあ、僕が勝ったら、浮竹には抱き枕になってもらおうかな」
「絶対俺が勝つ!」
「勝つのは僕だよ」
浮竹を抱き枕にできる。そんな欲にかられた京楽は、本当に浮竹に勝ってしまった。
「う・・・・約束だから抱き枕にはなるが、変なことはするなよ」
その日の夜、寝間着に着替えた浮竹を抱きしめて、京楽は微笑んだ。
「うーん、手が滑ってちょっと触っちゃうかも」
「京楽!」
京楽が浮竹をハグすることが多くなっていた。
それでも、浮竹はまかさ京楽が自分のことを好きだ、なんて気づかなかった。
抱き枕になるといって、早々に浮竹は眠ってしまった。
「君の傍にずっといれるなら、僕はそれだけでいい」
例え、想いを告げらずとも。
----------------------------------------------------------------
「会いたかった、京楽」
霊王宮で、霊王になった浮竹は、愛しい男の到着に心を弾ませた。
「霊王におかれましては・・・」
「堅苦しいことはなしだ。茶菓子を用意させたんだ。食べていくだろう?」
霊王になっても、浮竹は変わらない。
ただ、その存在は遠い神に限りなく近い位置にあるが。
「好きだよ、浮竹」
「そんなの、知っている」
浮竹が花のように笑う。清浄な力が漏れて、飾られていた花がさらに花を咲かせる。
霊王の力は強大だ。
「俺も大好きだ、京楽」
院生時代は、好きだと告げれなかった。想いが実ったのは、その遥か先。
霊王となった浮竹は、下界を見たり書物を読んだりして暇を持て余す。月に一度、京楽がきてくれることが、何よりの楽しみだった。
二人は、相思相愛なことに気付かずに、時間だけが流れていく。
京楽は浮竹に嫌われるのが怖くて、気持ちを隠していた。浅ましい欲を抱いていることを理解しながらも、親友といして浮竹の傍にいれるなら、それでよかった。
浮竹も、京楽に愛想をつかされるのが怖くて、親友であろうと傍にいた。
二人の距離は、1回生や2回生の頃よりぐっと近くなっていた。
浮竹は、髪を伸ばしていた。
京楽に、長い方が似合うと言われたからだ。
肩よりも長くなった髪は、さらさらと音をたてて、零れていく。
「ねぇ、浮竹、ちょっとだけ抱きしめてもいい?」
「え、なんでだ?」
「浮竹の肉が落ちてないか確かめたくって」
そう言い訳をして、浮竹を抱きしめた。
甘い花の香りがした。それが浮竹が使ているシャンプーのせいだとは知っているが、まるで誘われているような錯覚を覚えた。
「君は抱き心地がいいね」
京楽の腕の中で、浮竹は固まった。
顔を真っ赤にさせて、言葉を紡げないでいた。
「うん、体重少し減ったかな。この前も寝こんでたし。もっといっぱい食べて、肉つけようか。鍛錬もしないと」
「え、ああ、うん。京楽はすごいな。抱きしめただけで、俺のことがわかるのか」
そりゃ、君のことが大好きだから、とは言えなかった。
「俺も、京楽を抱きしめていいか?」
「え?」
浅ましい欲が、ずくりと心臓を打つ。
「なんだか、いつもハグされたりで、俺だけなのは納得いかない」
そういって、浮竹は京楽抱き着いた。
「でかいな」
「うん。身長190センチはあるからね」
京楽を抱きしめて、それからさっと離れた。
「俺も、京楽と同じくらいになりたい」
「君は今のままでもいいと思うけどね」
「身長伸びてるから、京楽を追い越せなくても、近いくらいには成長したい」
浮竹は、少年から男性へと変貌していた。
でも、白くて綺麗で、中性的なかんじは否めず、やはり浮竹は可愛いなぁと、京楽は思った。
どんなに成長しても、浮竹は京楽より華奢だった。
病気のせいもあって、成長が他人より少し遅かった。
それでも、浮竹の身長はいつの間にか頭一つ分はあったのに、京楽と並んでも視線が少し下になるくらいまで、身長は伸びていた。
それでも、京楽の中で浮竹は、自分のものにしたい、という欲を抱かせたままだった。
浮竹が成長し男性らしくなれば、浅ましい欲も消えるのではないかと思っていたが、浮竹はいつまでたっても中性的な容姿をしていて、京楽の心を刺激した。
「今日は学院は休みか」
「創立記念日だそうだよ」
「京楽、行きたい甘味屋があるんだ。一緒に行かないか?」
「うん、いいよ」
学院の近くに、新しい甘味屋ができた。
最近の浮竹は、その甘味屋に行くのが楽しみの一つになっていた。
お金はあまりないので、たくさんは注文できなかったが、節約していた金を使っていろいろ注文して食べていた。
「今日は僕が奢ってあげる」
「え、本当か!?」
「うん。お金なら、不自由してないから」
浮竹は、顔を輝かせて今まで高くて手が出せないでいたメニューなどをたくさん注文した。
「その量、一人で食べれるの?」
注文された量に、京楽が心配する。
別に食べ残してもいいが、食べ過ぎてお腹を壊したりしないだろうかと、心配になった。
「ああ、大丈夫だ。一度でいいからこのメニュー食べてみたかったんだ」
ぱくぱくと軽快に食べる浮竹は、可愛かった。
テーブルの上に並んでいた甘味物は、次々と浮竹の胃の中に収まっていく。
「ほら、ほっぺたについてる」
京楽は、白玉餡蜜だけを注文して、それを食べ終えて、浮竹の頬についているあんこを指でぬぐって、それをぺろりと舐めた。
「お前、その、恥ずかしいこと平気でするな」
浮竹が赤くなっていた。
「え、ああ。ごめん、ごく自然に動いちゃった」
京楽は、浮竹に謝りながら、温かい茶を飲んだ。
「浮竹、無理に全部食べなくていいからね。残しても、僕は文句は言わないから」
「残すわけないだろう。ずっと食べたかったんだ」
浮竹は、本当に全部完食してしまった。
軽く3人前はあったと思うのだが。
甘味物の力って、怖い、と京楽は思った。
勘定を済ませると、結構な金額がふっとんでいったが、浮竹のためならそんなこと些細なものだった。
「ふー、食べた食べた。もう、流石に夕飯は食えないな」
「うん。僕も、見てるだけでお腹いっぱいになったよ」
その日は夕食はとらずに、二人は寮の部屋に帰宅した。
先に風呂に入った浮竹に、京楽はそわそわしていた。
いつもは脱衣所で服を脱ぐのだが、今日の浮竹は部屋の中で院生の服を脱いでしまっていた。
白い肌と、華奢ながらも薄い筋肉のついた均整のとれた体に、目が釘付けになった。
「ほんとにもう、浮竹ったら僕の想いも知らずに煽るようなことを・・・・」
そわそわ。
やがて、浮竹は京楽がプレゼントした部屋着を着て、風呂からあがってきた。
「いい風呂だったぞ。京楽も、入ってこい」
「うん。そうするよ」
風呂の中で、京楽は浮竹の半裸の姿を思い出して、抜いた。
若いだけあって、一度では足りずに、3回ほど抜いた。
浮竹の男の体を見れば、欲もなくなるんじゃないかと思っていた。でも、反対に欲は深まるばかりで、爆発する前に抜いた。
風呂からあがると、浮竹はもう寝ていた。
寝るの早いなぁと思いながら、京楽は浮竹の少し長くなった白髪をなでる。
「浮竹、君が好きだよ・・・・・」
京楽の告白は、浮竹に伝わることなく、部屋は静かに時間を刻んでいった。
「京楽、起きろ!やばい、遅刻だ!」
「んー、あと1時間・・・・・」
スパン。
頭をスリッパで殴られて、京楽は目覚めた。
「どうしたの」
「とっくに授業はじまってる!」
昨日が創立記念日なので、夜更かししたわけではない。
ただ、深夜に目が覚めてしまって、なかなか寝付けなくて、京楽もそんな浮竹に気づいたのか目を覚まし、二人で深夜の時間にトランプとかオセロとかして、結局再び寝たのは明け方だった。
京楽は、慌てなかった。
「今日の授業は必須科目じゃないでしょ。そんなに慌てなくても、大丈夫だよ」
「でも、寝坊して遅刻なんて、だめだ」
「あーうん。とりあえず、着替えたりして、学院に行く準備をしようか」
忙しそうな浮竹を落ち着かせると、浮竹ももうその授業はどうあってもほとんど受けられそうにないので、次の時間の授業から出ようと思った。
「朝食食べてる時間ないね。準備できた?」
「ああ。瞬歩で移動しよう」
二人は、瞬歩を会得していた。まだ他の生徒は瞬歩を使えない。
さっと学院まで来ると、ちょうど1限目の授業が終わるチャイムが鳴った。
「あれ、浮竹。今日は病欠じゃなかったのか?」
「京楽と一緒に遅刻なんて、珍しいな」
浮竹は、特進クラスのリーダー的存在であった。特進クラスは、落ちこぼれは他のクラスに移動したり、優秀な生徒が特進クラスに編入してきたりと、細々とした変化はあったものの、基本6年間同じクラスである。
そんな3年間同じクラスだった浮竹の友人たちが、浮竹と京楽を取り囲んだ。
「二人そろって寝坊か?」
「ああ。夜は早めに寝たのに、深夜に覚醒してしまって、遊んで夜明け前に寝たらこの有様だ。余裕で起きれるだろうと、目覚まし時計を設置していなかったせいもある」
「浮竹、目覚まし時計使ってないのか。自然に、起きてるのか?」
「ああ。いつもは授業がはじまる1時間前には起きる」
けっこうギリギリだった。朝食をとったりしていたら、ほんとに時間ぎりぎりだ。
浮竹にとって、睡眠は安らげる時間であり、睡眠不足は大敵であった。
本当はもっと早くに起きるべきなのだが、寝るのも早いし、とにかく体調を万全なものにするためにもよく寝た。
「次の授業、稽古試合だってさ」
「何、本当か!?」
浮竹の顔が輝く。
「京楽、今日こそ決着をつけるぞ」
「浮竹に負けるわけにはいかないねぇ」
それまで沈黙を通していた京楽が、浮竹の肩に手を回した。
「こら、京楽!」
京楽は、それから浮竹の腰を引き寄せて、抱き寄せる。
「お前ら、ほんとに仲いいな」
「浮竹は僕のものだから」
「京楽、悪乗りしすぎだぞ」
ばきっと頭を殴られて、それでも京楽は浮竹を抱き寄せていた。
「ほら、稽古試合が待ってる。木刀になるが、今日こそ決着をつけよう」
「そうだ、勝ったほうが負けたほうの言う事一つきくってのはどう?」
浮竹を解放してから、京楽が鳶色の瞳で悪戯を思いついたとばかりに口にした。
「いいぞ。どうせ俺が勝つから。俺が勝ったら、甘味屋のメニュー全部おごってもらうからな」
「じゃあ、僕が勝ったら、浮竹には抱き枕になってもらおうかな」
「絶対俺が勝つ!」
「勝つのは僕だよ」
浮竹を抱き枕にできる。そんな欲にかられた京楽は、本当に浮竹に勝ってしまった。
「う・・・・約束だから抱き枕にはなるが、変なことはするなよ」
その日の夜、寝間着に着替えた浮竹を抱きしめて、京楽は微笑んだ。
「うーん、手が滑ってちょっと触っちゃうかも」
「京楽!」
京楽が浮竹をハグすることが多くなっていた。
それでも、浮竹はまかさ京楽が自分のことを好きだ、なんて気づかなかった。
抱き枕になるといって、早々に浮竹は眠ってしまった。
「君の傍にずっといれるなら、僕はそれだけでいい」
例え、想いを告げらずとも。
----------------------------------------------------------------
「会いたかった、京楽」
霊王宮で、霊王になった浮竹は、愛しい男の到着に心を弾ませた。
「霊王におかれましては・・・」
「堅苦しいことはなしだ。茶菓子を用意させたんだ。食べていくだろう?」
霊王になっても、浮竹は変わらない。
ただ、その存在は遠い神に限りなく近い位置にあるが。
「好きだよ、浮竹」
「そんなの、知っている」
浮竹が花のように笑う。清浄な力が漏れて、飾られていた花がさらに花を咲かせる。
霊王の力は強大だ。
「俺も大好きだ、京楽」
院生時代は、好きだと告げれなかった。想いが実ったのは、その遥か先。
霊王となった浮竹は、下界を見たり書物を読んだりして暇を持て余す。月に一度、京楽がきてくれることが、何よりの楽しみだった。
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