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僕はそうして君に落ちていく3

2回生の冬。

雪が積もった。

浮竹ははしゃいで、院生服のまま雪遊びに夢中になった。

京楽は、そんな浮竹にため息をついて、自分が羽織っていた外套を浮竹に着せた。

「寒いでしょ。あんまり体冷やすと、また熱を出すよ」

「でも、雪が積もるっているのを見るのは始めてだから!」

「ああ、浮竹は南のほうの出身だったね。暖かい地方だから、雪をみるのも初めてかい?」

「ああ。雪って、ほんとに冷たいんだな。ああ、せっかく雪兎作ったのに、明日には溶けちゃってるかな・・・・・」

浮竹が作った雪兎が、寮の庭でちょこんとかわいくそこにあった。


京楽が危惧した通り、雪遊びをしたその翌日、浮竹は熱を出した。

「すまない・・・お前の言葉に従っていれば、こんな世話をかけることもなかったのに」

「いいよ。君を看病するの、嫌いじゃないから」

熱をだした額に水をふくんだタオルを置いてやり、湯たんぽを足元においた。

火鉢が、ぱちっと弾ける音を出す。

室内は温められていて、浮竹が寒気を訴えることはなかった。

「京楽・・・・」

「どうしたんだい、浮竹」

「子守唄を歌ってくれないか」

「え、なんで?」

「風呂で、時折口ずさんでいただろう。いいメロディーだと思って。聞きたい」

「仕方ないなぁ」

まるで、恋人同士になったような、甘い錯覚を覚えた。

京楽は、浮竹のために子守唄を歌った。一度ではなく、もう一度、もう一度と強請られて、浮竹がいつの間に眠るまで歌わされた。

その疲労感は、まるで甘い毒のようだ。

浮竹は、甘い毒だ。

ただ甘いだけじゃなくって、毒があって病みつきになる。

意識のない浮竹の唇に唇を重ねる。

花街には、そういえば最近行っていない。

たまったものは、風呂場で浮竹を頭の中で汚して抜くようになっていた。

「僕も・・・・・落ちたものだね。親友を、頭の中で何度も犯してる」

親友。

でも、なりたいのはそんな関係じゃない。

恋人同士になりたかった。

一目ぼれだった。

時間が経つにつれて、少女めいた美貌が、中性的になり、中性的から男子へと変貌していくさまを見ていても、まだ好きだった。

愛に性別も種族も関係ない。

そんなことを言っていたお偉いさんか何かを思い出して、まさにその通りだと思った。

浮竹が、好きだ。

前よりも、ずっとずっと。

欲している。

浮竹を自分のものにしたい。

浅ましい欲は離れず、京楽は浮竹の少し長くなった白い髪を、いつまでも撫でていた。


「京楽?」

浮竹の看病をしたまま、眠ってしまった京楽に、浮竹は毛布をかぶせてやった。

「いつもすまない・・・・・」

浮竹は、本当にすまなさそうに京楽の黒髪を一房手に取った。

見た目は堅そうだが、意外と柔らかい。

京楽の髪に、口づけた。

「京楽、俺は、お前を利用してばかりだ。親友なのをいいことに、お前を独占している」

京楽も、自分のことなど放置しておけばいいものを。

山じいに頼まれたからといっても、限度がある。

京楽は、本当に浮竹を大切にしてくれた。

「ん・・・・浮竹?熱は、下がったの?」

ベッドに半身を預け、眠ってしまっていた京楽が、目覚めた。

「え、ああ。もう大丈夫だ」

「本当に?」

おでことおでこをくっつけられて、浮竹はちょっと赤くなって、京楽に頭突きをした。

「あいた!何するのさ!」

「近い!顔が、近い!」

「ああ、こういうの苦手?ごめんね」

京楽は、浮竹の額に手を当てる。

「うん、熱はもうないね。動きまわっても平気なの?」

「ああ。元気いっぱいだぞ」

ぐううう。

浮竹のお腹が鳴った。

浮竹は真っ赤になった。

「これは、違う、その」

「僕もお腹すいたし、食堂に夕飯食べにいこうか。少し早いけど、別にいいでしょ」

「うん」

昼を食べそこねた浮竹は、お腹がすいていた。

同じく昼をとっていない京楽も、空腹を覚えた。

並んで、寮の部屋を出る。

こうやって連れ立って食堂にいくのも、いつもの光景の一つだった。

「京楽、看病ありがとな」

「何言ってるの。山じいにも頼まれてるしね。僕たち、親友でしょ。当たり前のことをしただけだよ」

「ああ、そうだな」

浮竹は、親友、という言葉に少し戸惑いを覚えた。

この気持ちは、なんだろう。

ざわざわと、落ち着かない。

二人の関係は、変わることなく親友同士として時間は過ぎていく。

京楽は浮竹のことが好きだ。

浮竹もまた、京楽に親友以上の気持ちを抱きつつあったことを、京楽は知らなかった。

浮竹は、ざわつく心を落ち着かせるために深呼吸する。

ああ。

俺は、京楽のことが好きなんだ。

浮竹は、自分の気持ちに愕然とした。

知られてはいけない。京楽に見捨てられる。

浮竹は、気持ちを押し殺して、京楽の傍でいつもの朗らかな笑みを浮かべるのだった。



その日の夕食のメニューは、天ぷらを選んだ。

浮竹は病み上がりなので、おかゆだった。

京楽は大盛を頼んだので、大きなえびの天ぷらが乗っていた。

それを、食い入るようにじーっと浮竹は見ていた。

「あげるよ」

「え、いや、そんな別においしそうだから見ていたわけでは!」

ぐうう。

お腹が鳴って、浮竹は真っ赤になりながら、京楽からえびの天ぷらをもらった。

「おいしい」

さくさくとした衣の下のえびは美味しく、浮竹はお腹もすいていたせいもあって、夕飯のおかゆをぺろりと平らげて、物足りないのでデザートを多く注文した。

「そんなに食べて大丈夫なの?病み上がりでしょ」

「いや、本当にもう平気だから。念のためおかゆにしたけど、物足りなさすぎる。だからって、他のメニューを頼むのもな」

「別にいいんじゃない。食べ残しても、誰も叱らないよ」

「食べ残しだなんて、作った人に悪い!俺の家は貴族とは名ばかりの下級貴族で、兄弟姉妹で8人だったから、食事の量も半端じゃなくってな」

「うん」

「畑を持っているし、鶏も飼っているし、大体を自給自足で暮らしていたけど、やっぱり両親を含めた10人分を食っていくには大変で。おまけに俺は病をもっているから、薬代がかさんで、親は借金をしていた」

「京楽の家の話、初めて聞くね」

「ああ、まぁあまり周囲には言ってなかったから。お前に話すのも初めてだ。それで、妹や弟は、幼いうちから別の家族の畑仕事を手伝ったりして、賃金を得ていた。そうしないと、10人で食っていけなかったんだ」

浮竹は、故郷に残した家族を思い出していた。

「食うに困ることもあった・・・・この学院は、学費はいらないし、寮にはただで入れるし、飯も金がかからないし、服は支給されるし・・・死神になりたかったから学院に入ったが、肺の病をもった俺がいなくなったことで、家族も少しは楽な生活ができているんじゃないかな」

まるで、自分をいらない子のように話す浮竹に、京楽は浮竹の頭を撫でていた。

「薬代稼ぐのに、たまに下級生の勉強を教えて、お金もらってたね」

「ああ。仕送りは無理だから」

「浮竹の薬代、僕が出すよ」

「何言ってるんだ!けっこう高いんだぞ!」

「僕は上流貴族だよ。金なら腐るほどある。親友の君を助けたいんだ。ねぇ、僕に甘えてよ」

「京楽、それは・・・・」

それはできない。

はっきりと断りたかったが、薬代に関しては借金までできていて、今の収入ではどうすることもできなかった。

「死神になったら、返す、という形で借りていいか?」

「返さなくてもいいよ」

「それはだめだ!俺の矜持に反する!」

「分かったよ。じゃあ、出世払いってことで」

京楽は、浮竹の薬代を出すことになった。

京楽は浮竹のために、高い高級な薬を用意した。

浮竹は戸惑いを覚えつつも、その薬を服用した。驚くほどに、今までよりも体調が改善されて、血を吐く発作も少なくなった。

苦くて嫌いだった薬も、甘い味に変わっていて、服用が楽になった。

「なぁ、京楽、この薬いくらしたんだ?」

「ひ・み・つ」

「おい」

「気にすることないよ。死神になったら、請求書書いて渡すから」

すでに、普通の死神の1カ月の給料を平気で上回っているなんて、浮竹は思いもしないのだった。



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