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出会いは突然に⑧

次の週の日曜は、ティエリアがニールの家に遊びにきた。
一軒家で、男やもめの一人暮らしだが、家の中は綺麗に整頓されていて、人が住んでいる匂いのする暖かい部屋ばかりだった。

「これ・・・・もってきたけど。口に合わなかったら食べなくてもいいから」

持っていたカバンの中から、ラップにくるんだちょっと歪んだ形のくっきーを取り出して、溜息と一緒に、それをリビングルームの机に置いた。
アレルヤに手伝ってもらったけど、焦げまくったり、形がゆがみまくりで失敗した。でも、失敗作でもニールなら貰ってくれると思った。その推測はあたりだった。

ニールは嬉しそうに、ラップを開けるとクッキーを口いっぱいにほうばった。そして、一言。

「芸術的な味だ」
「どうせ美味しくないですよだ。ふん」
「愛情だよ、愛情。味とかそういうの、関係ない」
「キザったらしい」

でも、その心遣いが嬉しくもあった。

「僕には・・・昔、婚約者がいたんです。5年前に、僕を庇って、交通事故にあって死んでしまいました。それからずっと考えていたんです。僕に幸せになる権利なんてあるだろうかと」

ニールは、無言でティエリアの髪をすいた。

「あるよ。死んでしまった婚約者の子も、きっとティエリアの、幸福を天国で祈ってるはずだぜ?」
「そうでしょうか?」
「そうに決まってる」

断言して、それから頬にキスされる。それがむず痒くて、ティエリアはいつの間にか長く伸びてしまった髪を揺らした。

「本当に、僕とちゃんと付き合ってくれますか。僕は、あなたのことが・・・・。多分、この感情は嘘じゃない。あなたといると、まるで陽だまりにいるみたいだ。ニール、あなたがいないと、寂しいと感じる。僕は、あなたのことが・・・」

だんだん小さくなっていく声。

「好き、なんです」
「俺も好きだ。愛してる。だから、婚約しよう。ちょっと待ってな」

ニールは立ち上がると、2Fにあがってがさごそと何かを探しているようだった。そして、降りてきた時には、その手には小さな金色の指輪があった。

「おふくろの形見で悪いけど。講師なんて発給だしな。これ、対になるやつないけど、婚約指輪のかわりにやるよ」
「形見?そんな大事なもの!」
「いいから。これは俺の気持ちなんだって。もらってくれ」

強く押されて、ティエリアは首を縦に振った。

「はい・・・・」

それから、その日は借りてきたDVDを二人でずっと見ていた。恋愛もので、ラブシーンがたくさんあった。

「あなたは・・・・その、僕にこういうことしたいと思ってます?」
「今のところ思ってない。そういうのは、大切だから。ティエリアのこと、大事にしたいんだ」

安堵まじりに、けれど少し落胆した。
魅力がないのだろうかと、不安にかられたが、今までのニールの行動を見る限り、誠実そうなので軽くSEXなどをするタイプではないと思われた。

「キス、していい?」

効かれて、真っ赤になった。

「・・・・・・・・・・うん」

頷くまで、時間がかかった。
「ん・・・」

振れるように唇に指を這わされて、それからニールの唇と重なった。

「んあ・・・・」

濡れた声が、艶やかにお互いの鼓膜を刺激する。
大人のキス。初めてのキスは、飲んでいた紅茶のダージリンの味がした。

「もっかいしてもいい?」
「はい」

もう一度、唇を互いに重ね合わせる。自然と口を開けたティエリアの歯茎を刺激するように、ニールの舌が動き、舌同士を絡み合わせていく。
銀の糸を引いて、ニールの舌が引き抜かれる。

とても恥ずかしかった。

これ以上は、とてもできそうにない。

「僕は、今日はこれで」
「ああ、送ってくよ」

ニールの車に乗って、ティエリアは自宅まで無事に送り届けられた。ニールは車をもっていた。少し年代もので、古そうだったけれど丁寧に使い込まれているせいか、どこにも不調はなかった。

車。

そのキーワードに、胸が冷えた。

婚約者だったリジェネは、ティエリアが車にはねられそうになったのを庇って死んだ。

ティエリアは、天国にいるだろうリジェネに懺悔する。

君以外を好きになってしまった。多分、愛しているんだろう。これは愛という気持ちなんだろう。ごめん、リジェネ・・・・・・。

無事に家まで送り届けられて、アレルヤが夕飯に誘ったのだけれど、用があると言って、ニールは帰ってしまった。また明日になれば、学校でニールに出会える。学校に通うのが、楽しくなっていた。



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