合作に割り込む人。夜の唄
夜の唄
絵:サチ様
文:マサヤ
シャーロットの笑顔はまるで、満開の薔薇のように艶やかで美しい。
つっと、一筋の光に淡く弾ける涙が、彼女の長い金色の睫が影をつくる、白皙の肌を通って、ポタポタと、水面に滴った。
「シャーロット」
二人のまだ幼い兄妹は、冷たいはずの水の中で、手を握り合ったまま互いを見つめる。
自然に色づいた桜色の、艶のある唇をもつ、シャーロットのその唇は、本当に甘かった。禁断の果実のように。僅かに口元に血のにじみを残しているが、それさえも彼女を彩る絵の具のようで。
「お兄ちゃん、もっかいキスして?」
ねだってくる、甘い声。
どこまで蜜のように絡みつく吐息。
上目遣いの、翠とも蒼ともとれる美しい、煌く宝石のような瞳。
金の髪が、水の中を泳いでいる。透明な水の中で、水分を含んで冷たくなったシャーロットの衣服がふわふわと漂っていた。レースのスカートが、風に翻されるように湖の湖面をつついている。
波紋がぽつぽつと広がっていく。
温かい黄金の太陽の眼差しに照らされた水面に、けれどその波紋の中には、妹であるシャーロットが流す透明な涙が混じっていた。
甘い吐息が頬にかかって、シャーロットの兄であるラーサットは、彼女の小さい手を握ったまま、目を何度か瞬いた。
「風邪をひくよ。水からあがろう」
涙を睫に絡ませたまま、自分を見ているシャーロットに声をかけるけれど、彼女は首を横に振った。金色の巻き毛がふわりと、ラーサットの視界を覆い尽くした。
まるで、金色の絨毯みたいだと、その髪に手を伸ばす。
そのまま白い頬に、放した手をもっていくと、シャーロットは僅かに身じろいだ。
ラーサットは、シャーロットが零す涙を舐めとってみた。塩辛いはずなのに、花の蜜の味がした。
「お兄ちゃん、キスして・・・私を捕まえて」
とぷんと、シャーロットは湖の水面下にもぐってしまった。
「シャーロット!」
ラーサットは、驚いて、水中に足をとられて滑りそうになった。それをなんとか回避して、水の中でふわふわ漂う金の巻き毛と、マーメイドのように漂う肢体に、それからエメラルドがかった碧の瞳をのぞきこんだ。
ラーサットは、酸素を肺いっぱいにとりいれると、水中にもぐった。
コポコポコポ。
揺らめく水面。
差し込んでくる日差しは、オーロラ色に輝いている。まるでクリスタルのような透明度に驚きつつも、水の中で遊んでいるシャーロットの、少女としてもまだ幼い肢体をそっと抱き寄せた。
湖面の奥深くまで差し込んでくる日差しは、シャーロットを幻想的なまでに美しく際立たせていた。
本当に、マーメイドかニンフみたいだ。
(キスして)
その瞳が、そう訴えかけていた。
ラーサットは、彼女を抱き寄せて、目を閉じた。
そこに広がるのは、真っ暗な闇。
でも、唇には甘く柔らかな感触がある。手の中に、妹の体温を確かに感じ取って、高鳴る鼓動を落ち着かせた。
「くす・・・・お兄ちゃん、キス下手ね。レディは、何度も同じようなキスで満足しないのよ?」
水面から顔をだして、全身ずぶぬれになりながら、シャーロットはラーサットの頬をつつこみむと、自分から兄にキスをした。
そのキスは、とても優しくてそれでいてとろけそうなくらいに甘かった。
小悪魔のように微笑んで、舌を引き抜いて、シャーロットは大きく伸びをする。
「な、こんなキス、どこで覚えたんだい!」
ラーサットは、唇を手で覆って、顔を真っ赤にしてシャーロットの顔にかかる水を含んで重くなった巻き毛をかきあげた。
「クス・・・・教えてあげないわ」
シャーロットは、ぱしゃんと水面を指で弄んだ。その指の中には、真っ赤な真っ赤な、シャーロットの唇みたいな薔薇の花びらが一枚。
「もうこれもいらないわ」
それを水の中に捨てて、シャーロットは寒さに身を震わせて小さくクシャミをした。
ラーサットは、急いで彼女を抱き上げると、重くなった水分をものともしないで、全力で湖からあがった。
「うふふ。また秘密が増えたね」
シャーロットは、白い肌に張り付いた衣服をはがしながら、ラーサットをからかうように、薔薇の如く咲き誇る。
「シャーロット」
ラーサットは、湖に落としてきた自分の衣服をとりに、一度また湖に戻る。なんとか回収すると、シャーロットの冷たくなった手を握って、森の中を歩きだした。
木漏れ日はとても優しい。チュピチュピと小鳥の鳴き声がする。さわさわとざわめく緑のおしゃべり。揺れる下草のカーペットは緑色。優しく優しく、二人の兄妹に語りかけてくる風の唄。
「帰ろう。みんな心配してるよ」
「お兄ちゃんが帰りたいなら、私もついていくわ」
シャーロットは、天使のようなのに、なんと魅惑的に、小悪魔のように振舞うのだろうか。この少女が輝く年齢を手に入れた時の将来が今から心配だと、兄は心底思った。まだ幼い今でもこんなに美人なんだから。
きっと、大人になったら、他の大人が放っておかない。
いや、今日は自分もシャーロットも大人になれた。一歩、大人に近づいた思う。甘美な背徳の味がするキスをして、抱き合って。
「こら、そんなずぶぬれで!また悪さしてたのかい!」
「あら、マーサおばさん。そんなことはないわ。私とお兄ちゃんは、水遊びをしていただけなのよ」
余所行きの顔を見せるシャーロットに騙される村人ではない。村に戻ると、散々大人たちに怒られた。湖は危ないからもう近づくなと、何度も釘をさされたが、それを守るようなシャーロットではないだろう。
「ラーサットもそんなずぶ濡れになって。シャーロットをちゃんと捕まえておかないと、小鳥のように逃げてしまうよ!」
マーサおばさんは、畑仕事から帰ってきたばかりなのか、衣服にも顔にも泥をつけていた。少し横に太いけど、二人の子供をもつ母で、シャーロットとラーサットにも甘くて、二人の両親が村を出て都会で仕事をしているため、帰ってくるのが遅いときなどは、まるで本当の子供のように面倒を何度も見てくれて、マーサおばさんの暖かな家に二人で泊まりこんだことも数え切れない。
「もう、こんな時にあんたらの両親は商談でいないし。仕方ないね、おいで」
マーサおばさんに無理やり引っ張られて、二人して裸にされて、浴槽で暖かな湯を浴びせられて、真新しい、泊まり用においてあった、衣服を着させられた。
それから、暖かな湯気をたてるココアを入れられて、それを飲んで、マーサおばさんの子供のミシェルとアーチェと一緒に昼食をとった。
フランスパンと、海鮮のパスタ。それにサラダ。
マーサおばさんは、料理の腕が村の中でもダントツで、凄く美味しかった。
シャーロットなんて、おかわりと何度もパスタをほうばって、年相応の子供に戻っていた。
「眠いわ。寝たいわ」
欠伸をしだしたシャーロットは、すでに目がとろんとしていた。マーサおばさんは溜息をついて、シャーロットに歯磨きをさせると、ラーサットも一緒に歯磨きをさせて、二人をいつも預かっている客室に通してくれた。
そこは、シャーロットとラーサットの、自宅以外にある、もう一つの自分たちの部屋。ここは、もう一つの二人の家なのだ。マーサおばさんの家は、もう一つの帰ることができる温かすぎる場所。
綺麗な貝殻ばかりを集めていれた硝子瓶。船の模型、古い童話の本、傾いた熊の縫いぐるみ、少女用の手芸のセット・・・・いろんなものが棚に置かれている。
二人の宝物でもある。自宅の部屋にもそんなものが溢れていた。
「眠いわ。水遊びって、体力がいるのね」
ベッドにぽふりと横になって、シャーロットは兄のラーサットに抱きつきながら、他愛ないおしゃべりをしていたけれど、満腹になった上に水遊びではしゃぎすぎて疲れたのか、ラーサットと共に眠ってしまった。
そのまま、本当に夜が更けるまでねてしまって。気づけば、夜の帳がおりていて、夕焼けの茜色も紫も、もう、世界を包む黒い翼に抱かれて眠ってしまった。大地が黒を愛する時間の始まり。
薄く霧がかかったような空気に混じる、冷たい夜風が外でカタカタと、歪な唄を歌っている。風の唄は好きだけれど、夜の風の唄はとても寂寥が満ちていてあまり好きではない。
木漏れ日溢れる森で、風が歌う緑のパレードを伴った、雑音もまじった唄のほうが遥かに好きだ。
「見て。星が綺麗よ」
すっかり目が冴えて起きてしまったシャーロットは、カーテンを開け放って、ランプの火を消して、夜空を見上げる。
暗闇の中、うっすらと月明かりに照らされるシャーロットの体。
その細い肢体は銀色の光を帯びていて、まるで童話の中の天使が舞い降りてきたようだ。ラーサットは、その隣に立ってみる。シャーロットを包む銀色の淡い光が、ラーサットを抱擁した。
キラキラ光る、月の涙。
シャーロットの、昼間湖でみた、あの綺麗な涙を思い出す。
いくつも星明りが、二人の白磁のように白い白い肌と、お揃いの金の髪をぼんやりと浮かび上がらせた。
「綺麗・・・・」
いくつもの瞬く星達。
銀色の涙を零す下限の月。
窓をあけると、少し冷えた風が入ってきた。寂しい夜の唄を、風が歌っている。どこで歌っているんだろうと、いつも不思議に感じる。
「綺麗だね」
背後から、ラーサットはシャーロットを抱きすくめた。
「お兄ちゃん?」
「シャーロットの背中に翼が生えて、小鳥みたいに飛んで逃げていきそうな気がして・・・・」
「へんなお兄ちゃん」
シャーロットは、金の巻き毛をに銀の光を絡めて、ふわりと微笑んだ。二人の、顔が近づく。昼のあの甘い甘い味を思いだして、シャーロットのほうから唇を重ねた。
「甘いね」
「甘いわ」
いけない、遊びを続けている。これは、大人のいけない遊び。
してはいけない遊びだって、頭では分かっているのに、止まらないんだ。
その時、階下で、聞きなれた声がした。両親が帰ってきて、二人を迎えにきたのだ。
「パパとママには秘密よ?今日一日、何をしたのかって」
「でも、マーサおばさんからばれるんじゃ」
「あら、おばさんとは約束したもの。もうあんな真似しないから、パパとママに話さないでって、涙を浮かべて泣きじゃくったら、ころりと騙されたわ。本当に大人って簡単に子供に騙されるのね」
今から、本当にシャーロットの未来が心配になってきて、溜息をつく兄であった。
星の唄が遠くから聞こえる。かすかな、まるでオルゴールのような音。
シャーロットとラーサットは、両親がこの部屋にくるまで、甘美なその音色に酔いしれて、手と手を繋いで、夜空をずっと見上げ続けるのだった。
夜の唄 END
あ、え?
何これごめんなさい。
今ひよ子さんのサイトで続きを書いたら・・・・とか記事よんでやべえええ俺勝手に弟さんの名前までかいてしまった。設定までなんかあるぞこらああって
ああああどうしようと悩んでるけど、別人ってことで。。。。。
まじごめんなさい切腹してくるわ!
絵:サチ様
文:マサヤ
シャーロットの笑顔はまるで、満開の薔薇のように艶やかで美しい。
つっと、一筋の光に淡く弾ける涙が、彼女の長い金色の睫が影をつくる、白皙の肌を通って、ポタポタと、水面に滴った。
「シャーロット」
二人のまだ幼い兄妹は、冷たいはずの水の中で、手を握り合ったまま互いを見つめる。
自然に色づいた桜色の、艶のある唇をもつ、シャーロットのその唇は、本当に甘かった。禁断の果実のように。僅かに口元に血のにじみを残しているが、それさえも彼女を彩る絵の具のようで。
「お兄ちゃん、もっかいキスして?」
ねだってくる、甘い声。
どこまで蜜のように絡みつく吐息。
上目遣いの、翠とも蒼ともとれる美しい、煌く宝石のような瞳。
金の髪が、水の中を泳いでいる。透明な水の中で、水分を含んで冷たくなったシャーロットの衣服がふわふわと漂っていた。レースのスカートが、風に翻されるように湖の湖面をつついている。
波紋がぽつぽつと広がっていく。
温かい黄金の太陽の眼差しに照らされた水面に、けれどその波紋の中には、妹であるシャーロットが流す透明な涙が混じっていた。
甘い吐息が頬にかかって、シャーロットの兄であるラーサットは、彼女の小さい手を握ったまま、目を何度か瞬いた。
「風邪をひくよ。水からあがろう」
涙を睫に絡ませたまま、自分を見ているシャーロットに声をかけるけれど、彼女は首を横に振った。金色の巻き毛がふわりと、ラーサットの視界を覆い尽くした。
まるで、金色の絨毯みたいだと、その髪に手を伸ばす。
そのまま白い頬に、放した手をもっていくと、シャーロットは僅かに身じろいだ。
ラーサットは、シャーロットが零す涙を舐めとってみた。塩辛いはずなのに、花の蜜の味がした。
「お兄ちゃん、キスして・・・私を捕まえて」
とぷんと、シャーロットは湖の水面下にもぐってしまった。
「シャーロット!」
ラーサットは、驚いて、水中に足をとられて滑りそうになった。それをなんとか回避して、水の中でふわふわ漂う金の巻き毛と、マーメイドのように漂う肢体に、それからエメラルドがかった碧の瞳をのぞきこんだ。
ラーサットは、酸素を肺いっぱいにとりいれると、水中にもぐった。
コポコポコポ。
揺らめく水面。
差し込んでくる日差しは、オーロラ色に輝いている。まるでクリスタルのような透明度に驚きつつも、水の中で遊んでいるシャーロットの、少女としてもまだ幼い肢体をそっと抱き寄せた。
湖面の奥深くまで差し込んでくる日差しは、シャーロットを幻想的なまでに美しく際立たせていた。
本当に、マーメイドかニンフみたいだ。
(キスして)
その瞳が、そう訴えかけていた。
ラーサットは、彼女を抱き寄せて、目を閉じた。
そこに広がるのは、真っ暗な闇。
でも、唇には甘く柔らかな感触がある。手の中に、妹の体温を確かに感じ取って、高鳴る鼓動を落ち着かせた。
「くす・・・・お兄ちゃん、キス下手ね。レディは、何度も同じようなキスで満足しないのよ?」
水面から顔をだして、全身ずぶぬれになりながら、シャーロットはラーサットの頬をつつこみむと、自分から兄にキスをした。
そのキスは、とても優しくてそれでいてとろけそうなくらいに甘かった。
小悪魔のように微笑んで、舌を引き抜いて、シャーロットは大きく伸びをする。
「な、こんなキス、どこで覚えたんだい!」
ラーサットは、唇を手で覆って、顔を真っ赤にしてシャーロットの顔にかかる水を含んで重くなった巻き毛をかきあげた。
「クス・・・・教えてあげないわ」
シャーロットは、ぱしゃんと水面を指で弄んだ。その指の中には、真っ赤な真っ赤な、シャーロットの唇みたいな薔薇の花びらが一枚。
「もうこれもいらないわ」
それを水の中に捨てて、シャーロットは寒さに身を震わせて小さくクシャミをした。
ラーサットは、急いで彼女を抱き上げると、重くなった水分をものともしないで、全力で湖からあがった。
「うふふ。また秘密が増えたね」
シャーロットは、白い肌に張り付いた衣服をはがしながら、ラーサットをからかうように、薔薇の如く咲き誇る。
「シャーロット」
ラーサットは、湖に落としてきた自分の衣服をとりに、一度また湖に戻る。なんとか回収すると、シャーロットの冷たくなった手を握って、森の中を歩きだした。
木漏れ日はとても優しい。チュピチュピと小鳥の鳴き声がする。さわさわとざわめく緑のおしゃべり。揺れる下草のカーペットは緑色。優しく優しく、二人の兄妹に語りかけてくる風の唄。
「帰ろう。みんな心配してるよ」
「お兄ちゃんが帰りたいなら、私もついていくわ」
シャーロットは、天使のようなのに、なんと魅惑的に、小悪魔のように振舞うのだろうか。この少女が輝く年齢を手に入れた時の将来が今から心配だと、兄は心底思った。まだ幼い今でもこんなに美人なんだから。
きっと、大人になったら、他の大人が放っておかない。
いや、今日は自分もシャーロットも大人になれた。一歩、大人に近づいた思う。甘美な背徳の味がするキスをして、抱き合って。
「こら、そんなずぶぬれで!また悪さしてたのかい!」
「あら、マーサおばさん。そんなことはないわ。私とお兄ちゃんは、水遊びをしていただけなのよ」
余所行きの顔を見せるシャーロットに騙される村人ではない。村に戻ると、散々大人たちに怒られた。湖は危ないからもう近づくなと、何度も釘をさされたが、それを守るようなシャーロットではないだろう。
「ラーサットもそんなずぶ濡れになって。シャーロットをちゃんと捕まえておかないと、小鳥のように逃げてしまうよ!」
マーサおばさんは、畑仕事から帰ってきたばかりなのか、衣服にも顔にも泥をつけていた。少し横に太いけど、二人の子供をもつ母で、シャーロットとラーサットにも甘くて、二人の両親が村を出て都会で仕事をしているため、帰ってくるのが遅いときなどは、まるで本当の子供のように面倒を何度も見てくれて、マーサおばさんの暖かな家に二人で泊まりこんだことも数え切れない。
「もう、こんな時にあんたらの両親は商談でいないし。仕方ないね、おいで」
マーサおばさんに無理やり引っ張られて、二人して裸にされて、浴槽で暖かな湯を浴びせられて、真新しい、泊まり用においてあった、衣服を着させられた。
それから、暖かな湯気をたてるココアを入れられて、それを飲んで、マーサおばさんの子供のミシェルとアーチェと一緒に昼食をとった。
フランスパンと、海鮮のパスタ。それにサラダ。
マーサおばさんは、料理の腕が村の中でもダントツで、凄く美味しかった。
シャーロットなんて、おかわりと何度もパスタをほうばって、年相応の子供に戻っていた。
「眠いわ。寝たいわ」
欠伸をしだしたシャーロットは、すでに目がとろんとしていた。マーサおばさんは溜息をついて、シャーロットに歯磨きをさせると、ラーサットも一緒に歯磨きをさせて、二人をいつも預かっている客室に通してくれた。
そこは、シャーロットとラーサットの、自宅以外にある、もう一つの自分たちの部屋。ここは、もう一つの二人の家なのだ。マーサおばさんの家は、もう一つの帰ることができる温かすぎる場所。
綺麗な貝殻ばかりを集めていれた硝子瓶。船の模型、古い童話の本、傾いた熊の縫いぐるみ、少女用の手芸のセット・・・・いろんなものが棚に置かれている。
二人の宝物でもある。自宅の部屋にもそんなものが溢れていた。
「眠いわ。水遊びって、体力がいるのね」
ベッドにぽふりと横になって、シャーロットは兄のラーサットに抱きつきながら、他愛ないおしゃべりをしていたけれど、満腹になった上に水遊びではしゃぎすぎて疲れたのか、ラーサットと共に眠ってしまった。
そのまま、本当に夜が更けるまでねてしまって。気づけば、夜の帳がおりていて、夕焼けの茜色も紫も、もう、世界を包む黒い翼に抱かれて眠ってしまった。大地が黒を愛する時間の始まり。
薄く霧がかかったような空気に混じる、冷たい夜風が外でカタカタと、歪な唄を歌っている。風の唄は好きだけれど、夜の風の唄はとても寂寥が満ちていてあまり好きではない。
木漏れ日溢れる森で、風が歌う緑のパレードを伴った、雑音もまじった唄のほうが遥かに好きだ。
「見て。星が綺麗よ」
すっかり目が冴えて起きてしまったシャーロットは、カーテンを開け放って、ランプの火を消して、夜空を見上げる。
暗闇の中、うっすらと月明かりに照らされるシャーロットの体。
その細い肢体は銀色の光を帯びていて、まるで童話の中の天使が舞い降りてきたようだ。ラーサットは、その隣に立ってみる。シャーロットを包む銀色の淡い光が、ラーサットを抱擁した。
キラキラ光る、月の涙。
シャーロットの、昼間湖でみた、あの綺麗な涙を思い出す。
いくつも星明りが、二人の白磁のように白い白い肌と、お揃いの金の髪をぼんやりと浮かび上がらせた。
「綺麗・・・・」
いくつもの瞬く星達。
銀色の涙を零す下限の月。
窓をあけると、少し冷えた風が入ってきた。寂しい夜の唄を、風が歌っている。どこで歌っているんだろうと、いつも不思議に感じる。
「綺麗だね」
背後から、ラーサットはシャーロットを抱きすくめた。
「お兄ちゃん?」
「シャーロットの背中に翼が生えて、小鳥みたいに飛んで逃げていきそうな気がして・・・・」
「へんなお兄ちゃん」
シャーロットは、金の巻き毛をに銀の光を絡めて、ふわりと微笑んだ。二人の、顔が近づく。昼のあの甘い甘い味を思いだして、シャーロットのほうから唇を重ねた。
「甘いね」
「甘いわ」
いけない、遊びを続けている。これは、大人のいけない遊び。
してはいけない遊びだって、頭では分かっているのに、止まらないんだ。
その時、階下で、聞きなれた声がした。両親が帰ってきて、二人を迎えにきたのだ。
「パパとママには秘密よ?今日一日、何をしたのかって」
「でも、マーサおばさんからばれるんじゃ」
「あら、おばさんとは約束したもの。もうあんな真似しないから、パパとママに話さないでって、涙を浮かべて泣きじゃくったら、ころりと騙されたわ。本当に大人って簡単に子供に騙されるのね」
今から、本当にシャーロットの未来が心配になってきて、溜息をつく兄であった。
星の唄が遠くから聞こえる。かすかな、まるでオルゴールのような音。
シャーロットとラーサットは、両親がこの部屋にくるまで、甘美なその音色に酔いしれて、手と手を繋いで、夜空をずっと見上げ続けるのだった。
夜の唄 END
あ、え?
何これごめんなさい。
今ひよ子さんのサイトで続きを書いたら・・・・とか記事よんでやべえええ俺勝手に弟さんの名前までかいてしまった。設定までなんかあるぞこらああって
ああああどうしようと悩んでるけど、別人ってことで。。。。。
まじごめんなさい切腹してくるわ!
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