吐血
定期的に行われる、隊首会がめんどくさくて、京楽は山本総隊長の様子を見てはあくびをかみ殺していた。
「では、解散!」
13番隊隊長たちが、それぞれ自分の隊舎に戻っていく中、浮竹は強く手を握りしめて立っていた。
「浮竹?」
ぽたぽたと、手から血が流れる。
「浮竹!?」
ぐらりと、その細い体が傾ぐ。
「げほっ・・・・・ごほっごほっ」
強く咳き込んだ。
傷ついた手のひらからの出血ではない、吐血による血が床に広がる。
「すまない・・・・・・ごほっ、ごほっ」
他の隊長や山本総隊長に、弱い部分を見られるのがいやで、発作を我慢していたのだ。手のひらに爪をたてるほどに。
「謝罪なんていいから!4番隊隊舎に連れて行くよ!」
浮竹の軽い体を抱き上げて、京楽は立ち上がった。
「京楽、着物に血が・・・・・ごほっ」
ごぽりと、音をたてて大量に吐血する。
血が喉につまったのか、気管からヒューヒューと音がする。京楽は逡巡もなしに浮竹から血を吸い上げると、床に吐き出した。
「すま・・な・・い・・・・・・・・」
弱弱しく謝って、浮竹は意識を手放した。
「卯ノ花隊長はいるかい!?」
瞬歩で、浮竹を胸に抱いたまま、京楽は四番隊隊舎にやってくると、その場にいた死神を捕まえた。
「卯ノ花隊長なら、先ほどご自分の隊首室に戻られましたが・・・・」
「そうかい」
礼をいう暇も惜しい。
腕の中の浮竹は、意識を手放しているが苦しそうに呼吸していた。肺の病の発作が最近なかったので、京楽はどこかで安堵していたのだ。
彼が、真紅を吐き出すのがいやでいやで。
その真っ赤な色が、浮竹の命を削っていくのがいやで。
発作の少ない浮竹の小健康状態に慣れてしまっていたのが、仇になった。
「卯ノ花隊長、失礼するよ!」
瞬歩で卯ノ花隊長のいる隊首室にやってくると、ふすまを足であける。
「京楽隊長?」
勇音とお茶を飲んで談笑していた卯ノ花が、立ち上がった。
京楽の着ている隊長羽織が、浮竹の吐血で真っ赤になっていた。
「すぐ、部屋に運んでください、京楽隊長!勇音もきなさい!浮竹隊長が倒れたのはいつですか!?」
「さっきだよ!」
浮竹の体を寝台に横たえる。
発作を起こしてすぐに卯ノ花隊長に診てもらい、回道で手当てを受けたの幸いして、浮竹は大事に至らなかった。
だが、一週間ほど意識を取り戻さなかった。
「僕はバカだねぇ。君が、肺を患っていることをすっかり失念していた」
寝込んだまま、点滴に繋がれた細い手が、痛々しかった。
京楽は、仕事を浮竹の病室にもちこんでまでして、ただ傍にいた。
真っ白な肌の色が、余計に病気で青白くなっていくのが、悲しかった。真っ白な髪は好きだが、それも病気のせいだと思うと、どこか悲しくなった。
「京楽?」
翡翠色の瞳があいた。
「うん、僕だよ。君、今の状態わかるかい?」
「確か、隊首会で、発作を我慢して倒れて・・・・・・すまない、あまり覚えていない」
「浮竹」
京楽は、どこか怒っていた。
「京楽?何を怒っているんだ」
「君が、手に爪を食いこませるほど、発作を我慢していたことに、怒っているんだ」
「ああ・・・・・元柳斎先生に、心配をかけたくなくて・・・・・」
「だからって、発作を我慢することないでしょ?我慢すればするほど、苦しくなって酷くなるの分かってるでしょ?」
「すまない・・・・・・・」
浮竹は、握っていてくれた京楽の手を握り返した。
「もう、発作の我慢なんて真似、しない」
「うん。本当に、そうしてくれないと、心配で心配で僕が倒れるよ」
浮竹が倒れるのは仕方ない。肺を患っているせいで、吐血して倒れる浮竹を抱き上げて、4番隊の隊舎に連れていくことにも慣れてしまった。
院生時代からだ。院生時代は、発作に倒れた浮竹を医務室に送り届けるようなことをしていた。
「ほんとに、これ以上心配かけさせないでよ」
京楽は、浮竹に触れるだけのキスをする。
「すまない」
「それ、君の悪い癖だよ」
「え・・・・・」
「いちいち、謝らなくていいから」
「すまない・・・って、ああ、いい慣れてしまっているから。他にどう言葉をかけていいのかが、分からない」
「卯ノ花隊長のところにいってくる」
浮竹が意識を取り戻したことを、伝えなくてはならない。
「京楽!」
「なんだい、浮竹」
「その・・・・・・ありがとう」
やっと聞けた感謝の言葉は、少し小さかった。
誰もいなくなった病室は、静かだった。
「俺は・・・・京楽にばかり、重荷を背負わせて・・・・」
感謝してもしたりないのだ。
京楽は優しい。発作で倒れたりしたら、いつも傍にいてくれる。看病だってしてくれる。
「こんな体じゃなきゃな・・・・」
京楽に心配をかけたくないが、病に蝕まれた体はいうことをきいてくれない。せめて、早く元気になろう。
「京楽・・・・・本当に、ありがとう」
早く元気になって、雨乾堂でいつものように酒を飲みかわそう。それを想像するだけで、少し気持ちが楽になった。
「では、解散!」
13番隊隊長たちが、それぞれ自分の隊舎に戻っていく中、浮竹は強く手を握りしめて立っていた。
「浮竹?」
ぽたぽたと、手から血が流れる。
「浮竹!?」
ぐらりと、その細い体が傾ぐ。
「げほっ・・・・・ごほっごほっ」
強く咳き込んだ。
傷ついた手のひらからの出血ではない、吐血による血が床に広がる。
「すまない・・・・・・ごほっ、ごほっ」
他の隊長や山本総隊長に、弱い部分を見られるのがいやで、発作を我慢していたのだ。手のひらに爪をたてるほどに。
「謝罪なんていいから!4番隊隊舎に連れて行くよ!」
浮竹の軽い体を抱き上げて、京楽は立ち上がった。
「京楽、着物に血が・・・・・ごほっ」
ごぽりと、音をたてて大量に吐血する。
血が喉につまったのか、気管からヒューヒューと音がする。京楽は逡巡もなしに浮竹から血を吸い上げると、床に吐き出した。
「すま・・な・・い・・・・・・・・」
弱弱しく謝って、浮竹は意識を手放した。
「卯ノ花隊長はいるかい!?」
瞬歩で、浮竹を胸に抱いたまま、京楽は四番隊隊舎にやってくると、その場にいた死神を捕まえた。
「卯ノ花隊長なら、先ほどご自分の隊首室に戻られましたが・・・・」
「そうかい」
礼をいう暇も惜しい。
腕の中の浮竹は、意識を手放しているが苦しそうに呼吸していた。肺の病の発作が最近なかったので、京楽はどこかで安堵していたのだ。
彼が、真紅を吐き出すのがいやでいやで。
その真っ赤な色が、浮竹の命を削っていくのがいやで。
発作の少ない浮竹の小健康状態に慣れてしまっていたのが、仇になった。
「卯ノ花隊長、失礼するよ!」
瞬歩で卯ノ花隊長のいる隊首室にやってくると、ふすまを足であける。
「京楽隊長?」
勇音とお茶を飲んで談笑していた卯ノ花が、立ち上がった。
京楽の着ている隊長羽織が、浮竹の吐血で真っ赤になっていた。
「すぐ、部屋に運んでください、京楽隊長!勇音もきなさい!浮竹隊長が倒れたのはいつですか!?」
「さっきだよ!」
浮竹の体を寝台に横たえる。
発作を起こしてすぐに卯ノ花隊長に診てもらい、回道で手当てを受けたの幸いして、浮竹は大事に至らなかった。
だが、一週間ほど意識を取り戻さなかった。
「僕はバカだねぇ。君が、肺を患っていることをすっかり失念していた」
寝込んだまま、点滴に繋がれた細い手が、痛々しかった。
京楽は、仕事を浮竹の病室にもちこんでまでして、ただ傍にいた。
真っ白な肌の色が、余計に病気で青白くなっていくのが、悲しかった。真っ白な髪は好きだが、それも病気のせいだと思うと、どこか悲しくなった。
「京楽?」
翡翠色の瞳があいた。
「うん、僕だよ。君、今の状態わかるかい?」
「確か、隊首会で、発作を我慢して倒れて・・・・・・すまない、あまり覚えていない」
「浮竹」
京楽は、どこか怒っていた。
「京楽?何を怒っているんだ」
「君が、手に爪を食いこませるほど、発作を我慢していたことに、怒っているんだ」
「ああ・・・・・元柳斎先生に、心配をかけたくなくて・・・・・」
「だからって、発作を我慢することないでしょ?我慢すればするほど、苦しくなって酷くなるの分かってるでしょ?」
「すまない・・・・・・・」
浮竹は、握っていてくれた京楽の手を握り返した。
「もう、発作の我慢なんて真似、しない」
「うん。本当に、そうしてくれないと、心配で心配で僕が倒れるよ」
浮竹が倒れるのは仕方ない。肺を患っているせいで、吐血して倒れる浮竹を抱き上げて、4番隊の隊舎に連れていくことにも慣れてしまった。
院生時代からだ。院生時代は、発作に倒れた浮竹を医務室に送り届けるようなことをしていた。
「ほんとに、これ以上心配かけさせないでよ」
京楽は、浮竹に触れるだけのキスをする。
「すまない」
「それ、君の悪い癖だよ」
「え・・・・・」
「いちいち、謝らなくていいから」
「すまない・・・って、ああ、いい慣れてしまっているから。他にどう言葉をかけていいのかが、分からない」
「卯ノ花隊長のところにいってくる」
浮竹が意識を取り戻したことを、伝えなくてはならない。
「京楽!」
「なんだい、浮竹」
「その・・・・・・ありがとう」
やっと聞けた感謝の言葉は、少し小さかった。
誰もいなくなった病室は、静かだった。
「俺は・・・・京楽にばかり、重荷を背負わせて・・・・」
感謝してもしたりないのだ。
京楽は優しい。発作で倒れたりしたら、いつも傍にいてくれる。看病だってしてくれる。
「こんな体じゃなきゃな・・・・」
京楽に心配をかけたくないが、病に蝕まれた体はいうことをきいてくれない。せめて、早く元気になろう。
「京楽・・・・・本当に、ありがとう」
早く元気になって、雨乾堂でいつものように酒を飲みかわそう。それを想像するだけで、少し気持ちが楽になった。
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