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君のためなら、星さえも

じっとりと、熱さの残る9月の半ば。

学院では、体育祭があった。

クラス対抗で、体力を競い合うのだ。

最近取り入れられたらしい行事で、それがとてもめんどくさいので、京楽はさぼっていた。

「京楽!京楽!」

さぼっていると、浮竹が探しにきた。

それを無視して、目をつぶる。

「やっぱりここにいた」

白い髪の麗人は、桜の大木の枝の上で居眠りを決め込んだ京楽を発見した。

「浮竹・・・君、なんで僕がいる場所がわかるの?」

この桜の木以外にも、校庭の納谷の上とか屋上、空き部屋・・・・京楽がさぼりに身を隠す場所はたくさんあるが、いずれも浮竹に見つかっている。

「なんとなく分かるんだ」

「霊圧は閉じているのに・・・」

「それでも、なんとなく分かる。お前がいきそうな場所は、天候や授業の教科によって、大体決まってるしな」

「霊圧を閉じるだけ無駄かい?」

「そういうことだな」

浮竹が、手を伸ばしてくる。その手をとろうとした。

ぐらりと、浮竹の体が傾ぐ。

「浮竹!」

なんとか、抱き寄せた。

「ごほっごほっ・・・・・っ、少し、すぐにおさまるから・・・」

苦しそうに身を屈ませる浮竹の背中を撫でる。

「ほんとに大丈夫?」

浮竹は、念のためにと携帯していた薬を飲む。

「水、とってくるよ」

「ああ、すまない・・・」

紙コップを手に入れて、水をもって桜の木の上にいくと、浮竹が平気な顔をしていた。

「一時的な発作だったらしい。薬を飲んだら、すぐに収まった」

水を受け取り、飲んでいく。

水を嚥下する喉の白さが眩しくて、もう完全に葉桜になってしまった桜の大木を見上げた。

「君、今日はもう休んだほうがいいよ。僕が説明しておくから、寮の部屋に戻りなさいな」

「いや、今日は体育祭だぞ。最後のリレーのアンカーは俺だ。でなくては」

拳を握りしめて力説する浮竹に、溜息を零す。

「そんな体で・・・・・」

「こんな体だからこそ、体験できるものは体験しておきたいんだ」

結局、京楽は発作の収まった浮竹に連れられて、体育祭に出る羽目になった。


特進クラスなので、浮竹と京楽のクラスにはハンデがもうけられていた。

「こういうのでハンデとか、ちょっとおかしくないか?」

鬼道や剣術の腕ではない。ただ、基礎体力を競うものだ。霊圧の高さも関係ない。

「まぁ、基礎体力の高い子がうちのクラスには多いからね」

「それはまぁ、そうなんだが。京楽とかな」

「僕の体力は普通だよ」

「体育の授業は5段階中5だっただろう」

「あんなの、子供の遊びだよ・・・・・」

何はともあれ、体育祭は開催された。

京楽にとって、もう何度も体育祭など経験したので、新鮮ではなかった。

騎馬競争になると、京楽が鬼のように他のクラスのハチマキを全部とってしまい、歓声と野次が飛び交う。

「どっかいけー特進クラス!」

「素敵―京楽くん!」

「つきあってー!」

無駄に金があり、見た目もそこそこなので、京楽は女によくもてた。

その黄色い声に、浮竹は何も思わない様子で、自分のクラスを応援していた。

少しでも焼いてくれたら、可愛げがあるのにと思う。付き合っているのだから、少しは焼いてくれればいいのにと

借り者競争だの、玉入れだの・・・・・本当に、死神になるにはどうでもいいことばかりだった。

すぐに飽きて、与えられていた席で半分眠っていた。

「きゃー浮竹さーん」

「浮竹君、いいぞその調子だ」

「いけー浮竹!」

浮竹と、自分の恋人を呼ぶ声に目をあけると、種目も最後のリレーになっていた。
アンカーの浮竹は、バトンを受け取ると風のように走っていく。二人抜いて、ゴールした。

「やったー!俺たちのクラスの優勝だ!」

その年は、設けられたハンデなどものともせず、特進クラスは優勝した。

優勝の旗が、クラスの委員長に渡される。

「最後すごかったなー浮竹」

「浮竹君のお陰だね」

「浮竹君かっこよかった」

浮竹に群れる人込みをかきわけて、京楽は浮竹を抱き上げた。

「え、どうしたの?」

「どうなってるんだ?」

京楽は、瞬歩でその場を去った。

「ごほっごほっ」

居場所が変わったとたん、苦し気に身を捩る。

「だから、部屋に戻っておくべきだっていったのに。我慢するなんて、無茶だよ」

「ごほっごほっ」

咳と一緒に、真紅の血が散った。

「ほらいわんこっちゃない!」

「すまな・・・・・ごほっごほっ」

「君、最後のリレー発作我慢して走ってたね。周りに人だかりができても、ずっと我慢してたでしょ」

「ごほっごほっ・・・・・・それは・・・」

「僕は怒ってるんだ。そんな君に。どうして我慢するの。リレーのアンカーなんて、どうでもいいでしょ」

「どうでも・・・よくない・・・・ごほっ」

「どうでもいいね。大切な君が辛い目をあうことが、僕にはとても辛いんだ」

「きょうら・・・く・・・・・・」

血を吐き出すその血を受け入れるように、唇を奪う。

そのまま、結局浮竹は大量の血を吐いて意識を失った。



「・・・・すまない、京楽」

見知った、寮の自室だった。

相部屋の相手である京楽は、看病し疲れたのか、浮竹の手を握ってベッドの上に肘をついて寝ていた。

「ん・・・気づいたのかい?」

「ああ・・・・・すまない、京楽」

「謝るのはいいから。もっと、自分を大切にして」

頭を撫でられた。

「でも、何もかもが新鮮で・・・・」

授業すらも。子供の頃病気のせいで。家の自室にいることをほぼ強制された浮竹にとって、外で感じるもの全てが新鮮なのだ。

「念のため、明日も休むんだよ。君、意識失って二日はねこんでたからね」

「二日!?京楽、まさかその間・・・・」

「さぼったよ。君のいない学院なんて、いても意味がない」

かっと頬に朱がさすのが分かった。

「一緒に死神になって、護廷13隊に入るんだろう?授業をさぼっていると、推薦枠から外れてしまうぞ」

「そんなことないよ。君と僕の実力なら・・・・もう、護廷13隊の席官クラスは用意しているって、この前山じいがいってた」

「元柳斎先生が・・・・・そうか」

「嬉しくないの?」

「嬉しい。でも、学院ともさよならになるのかと思うと、少し寂しい」

3月には、卒業だ。

卒業と同時に、浮竹は13番隊、京楽は8番隊の、席官クラスが用意されてある。

仕事に慣れるのが先決で、しばらくの間二人きりでいる時間などとれそうにない。

憧れの死神になり、護廷13隊に入れるのは嬉しかったけれど、京楽と共に寝起きするのももう終わりかと思うと、少しばかりの寂寥感を感じた。

「卒業、したくないな・・・」

それは、浮竹には珍しい言葉だった。

「どうしたの浮竹。あんなに、死神になりたがってたのに」

「お前と寝起きを共にし、鍛錬したり勉強したりするのが終わりかと思うと、寂しくて」

その言葉に、京楽が浮竹を抱き締めた。

「京楽?」

「今の君はとてもいいよ。素直だ。発作の時も、隠したり我慢したりしないでほしい」

「もう、そんなこともないだろう・・・これといった行事もないし」

「そうだ。二人で、卒業旅行にいこう」

「卒業旅行?」

「そう。現世もいいけど・・・今の現世は確か戦国時代で、物騒だからね。流魂街にでもいこう」

瀞霊廷の外に出るのは、虚退治以外にないので、その提案は魅力的だった。

流魂街には治安の悪い場所もあるが、瀞霊廷の近くなら治安もよいし、少し遠出すれば温泉街などが広がっている。色街もある。

その色街で、京楽はよく女を買っていた。浮竹を手に入れてからは、やめてしまったが。入学当初は女遊びがひどすぎて、停学を食らったこともある。

「温泉宿でもいいよね?もっと君が好きそうな・・・現世の海にいきたいけど、野盗の類がめんどうだからね」

何度か現世に虚退治の任務にいったが、時は戦国時代。下剋上が当たり前で、平和と思われた街や村も、戦争になると焼け落ちてしまう。どこで戦争がおきるのか分からなかったし、野盗が多いし、身目のいい浮竹など、人さらいにさらわれて売られかけたこともある。

「そうだね・・・温泉宿にいって、夜の間だけ現世の海にいこう。修学旅行で、夜の海と空を見たように・・・・・そうしよう」

「ああ、いいな・・・・現世は怖いが、夜の海と空は好きだ」

人に、危害を無意味に与えることは禁じられている。それが野盗でもだ。

夜の海は静かだ。

月明りしかない今の時代は、現世の星空は綺麗すぎて、感動できる。

あの夜の空を、もう一度みてみたい。

修学旅行の時、見た景色をもう一度。

世界の終わりがくるような、星の海を。

「もう夜だし、少し外に出てもいいか?」

「無茶はしてないね?」

「今は大丈夫だ・・・少し星を見てみたい」

「現世の空にはまけるけど、尸魂界の空も綺麗だからね」

二人して、寮をぬけだして学院の屋上に登った。

寝転がると、星の海が広がっていた。

「空が落ちてきそうだ」

「そうだね」

浮竹には念のためにと上着を羽織らせてあるし、薬も飲ませた。

京楽の手配した医者の薬だ。効き目がとてもあるが、高価すぎて浮竹には手が出せない代物だった。

「僕は、君のためなら星さえ落とす」

「花天狂骨でか?」

「そうだよ」

「じゃあ、俺は双魚理で月でも落とそうか」

こうやって、他愛ない時間をお互い大事に過ごせる学院の生活も、あと半年もない。

星を落とし、月を落としたらきっとこの儚い世界は終わる。

二人は、手を繋ぎあう。

長く伸びた浮竹の髪に口づけながら、京楽は星の海を見る。

手を伸ばせば、掴めそうで。

浮竹に口づけると、京楽は浮竹の瞳を見た。翡翠の瞳に、星の海が広がっている。それがとても綺麗で、言葉を失った。

「どうした?」

「・・・・星を映す浮竹の瞳の色があまりにも綺麗だから、見惚れてた」

「恥ずかしやつだな」

そんな言葉を平気で口にだす京楽に、浮竹の白い肌が上気した。

「君を食べてもかわまわないかい?」

「寮の、部屋でなら・・・・」

冗談でいったつもりだったのに、そう返されて、京楽は浮竹を抱き上げた。

「おい、京楽?」

「時間は有限だからね」



君のためなら、雪も星も。


空さえも落とそう。







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