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君の微笑み

「ライル」
「どうした?」
隣に寝るアニューに毛布をかけてやりながら、その体を引き寄せる。

「もしも・・・私の魂が粉々になっても、拾い集めてね」
「なんだそりゃぁ」
「さぁ・・・どうしてかしら。思い出が粉々になっても・・・・」
その先の言葉を、ライルが塞ぐ。

「そんなこと、絶対に起きないから」
アニューは意外と体温の高いライルにすりよる。

「そうね。起きないでしょうね」

「アニュー。戦争が終わったら、アイルランドに行こうか。俺が生まれた国だ。アニューは、家族の記憶とかないんだろ?俺と家族になっちまえばいい。今からいっぱい、これからもたくさん俺たちの記憶を、思い出を作っていこう」
「素敵ね・・・・」

アニューはうっとりと呟いた。

「私の記憶が、あなたとの思い出で塗りつぶされていく。なんて素敵なのかしら」
「アニュー。離さないから」
「ええ。離さないで」

何度も、一緒に寝た。
体だって繋げた。
男女の恋愛としては、陳腐なものなのかもしれない。

でも、アニューを愛してたこの気持ちは真実なのだから。

「アニュー」

ライルは、テーブルに二人分の紅茶をいれておいた。

向かいの席には、アニューが来ていた服の紅いポレロだけが椅子にかけられていた。

「アニュー、いつか迎えにきてくれ。お前に笑われないように、生きてみせるから」

CDをかける。ティエリアの歌声をまとめたものだ。


愛している 愛している
魂の欠片を拾い集めても
何度何度拾い集めても
君の魂の形にならないよ
でも想いは拾い集めれるから
記憶は粉々にならないから
愛している 愛している
何度でも 拾い集めるよ
君の魂を 何度でも

女性ソプラノの声の唄。
アニューの魂の欠片を何度拾い集めても、アニューにならない。

消えてしまった。
それでも、記憶から忘れないように、拾い集める。

「ずっと愛してるから」
テラスから入ってきた風に、ふわりとポレロが攫われる。

「ア、ニュー?」

椅子に、彼女が座っていた。

「アニュー・・・・もう、迎えにきてくれたのか?」
「違うわ。心配になって、少し見に来たの」

「俺は、アニュー・・・」
「だめよ。あなたは連れていけない」
「アニュー・・・・・」

「私たち、分かり合えてた。愛し合えてた。私はそれだけでも十分幸せ。あなたに愛してもらえた。たくさんたくさん・・・・愛してもらえた。魂の欠片を拾い集めなくても、私の魂は、いつもあなたの傍にあるから。忘れないで」

「アニュー」
キスをした。
甘い味がする。アニューは光の欠片となって、消えてしまった。

テラスから、また風が入る。

ライルは、その風を受けて、ゆっくりと目を覚ます。

お茶は、テーブルに二人分。
ライルは、穏やかな顔になって、ゆっくりと紅茶を飲み干す。

テラスから入ってくる風が、アニューのポレロを揺らす。
ライルは、ポレロを大事にしまった。

「隣、いいかしら?」
「え。あ、うん」
フェルトが、ゆっくりと腰掛ける。そして、紅茶を飲んでいく。

ライルは、優しい笑みを零す。
「ミレイナとティエリアもくるの。お茶と椅子、もう少し増やしておいて?」
「ああ、分かったよ」
「あと・・・・刹那もくるんだけど、いいかしら?」
「うん」

ライルの顔は、何処までも穏やかだ。
遠くから、ティエリアの歌声が聞こえてくる。
その声と一緒に、ミレイナと刹那も声も。フェルトは、三人を呼びに立って走り出す。

ゆっくりと、椅子をみる。
アニューが座っていた。

「ねぇ。みんな、あなたを愛しているから」
アニューは、最後にみた綺麗な笑顔で微笑んでいた。

「うん、知ってるよ」
ライルは微笑み返す。

そして、椅子を3つだし、茶気を3つ追加して、紅茶をいれる。
クッキーをテーブルの真ん中においた。

「ライル・・・平気か?」
ティエリアが、心配そうに覗きこんでくる。
「大丈夫。彼女の魂が、少し見えただけだから」
「そうか・・・・無理は、しないほうがいい」

「アーデさん、ずるいです!刹那さんを私におしつけるなんて」
刹那は、眠そうに目をこすっていた。

「さて、お子様たち、午後の紅茶にしようか」
「アレルヤとマリーは?」
刹那が首を傾げる。
「二人なら、隣の部屋で人格が入れ替わってプロレスしてたぞ」
「そうか」
刹那とライルがすれ違う。

「憎んでくれていいから」
刹那が、ライルを見上げる。ライルは穏かな顔で、刹那の頭をぐしゃぐしゃにかき回す。
「アニューが、それを望んでいないから、しない」
ライルも大分落ち着いた。

テラスから、風が入る。

アニューが、いつまでも綺麗な笑顔で微笑んでいる気がして、ライルは穏かに空を見上げると、テラスへと続くドアを閉める。

存在する世界が違っても、愛しているから。

(魂だけになっても、愛しているわ)

ティエリアが、目を金色に輝かせる。アニューの声が、確かに聞こえたのだ。

それは、ライルにも届いているようで、ティエリアはライルの穏かな笑顔に、涙が零れそうになった。


世界は。
世界は、こんなにも。
まだ、愛にあふれているから。

だから、私たちは戦っていくんだ。
世界を、守りたいから。

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