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奴隷竜とSランク冒険者42

「浮竹、起きて」

「んー、あと2時間・・・・・・」

「馬車が目的地にまでついたよ」

「ん?」

浮竹と京楽の二人は、護衛の任務に当たっていた。

護衛といっても、Cランクの仕事で、その目的地に用があったので、ついでに連れてってもらったかんじになる。

空は飛べるが、そう遠くもないので、馬車で目的地まで向かうことにして、ちょうどその目的地までの護衛の依頼があったので、引き受けたのだ。

「ここから先に進んだ場所が、ドラゴンの聖地・・・・・・」

浮竹は、珍しげにきょろきょろしている。一方京楽は、敵がいないか魔力探知で気配を探っていた。

「ドラゴンの聖地といっても、もうドラゴン族が住んでいるわけでもないし、ドラゴンの住処だった洞窟があって、古文書やらが残っているくらいだけど・・・・ここに、フルムーンキュアの、浮竹の月竜としての真骨頂の魔法が眠っているんだよね?」

「ああ。ハイエルフの俺から聞いた、フルムーンキュアはここにある。俺の本能も、そう言っている」

京楽が魔族に操られたりしたら、解呪呪文でも治らない可能性が見えてきたため、エリクサー以上の聖なるドラゴンの魔法、フルムーンキュアを覚える必要があった。

それを覚えると、浮竹は進化する。

周囲に敵がいないのを確認して、浮竹と京楽は森の奥へと進んでいった。

「ここが、聖地・・・・・」

大きな洞窟だった。

ドラゴンを祭る祭壇があり、その昔ここではドラゴン族と人間族が共存して暮らしていた。

壁にはたくさんのドラゴンの壁画があった。

洞窟の中には、ドラゴンの骨もあった。

「この骨、古いね。2千年以上前のものだね」

「2千年・・・・ここが繁栄していた時代だな」

「そうだよ。ドラゴン族と人間族が共存して暮らしていた。いつの間にかドラゴン族は人間に恐れられるようになり、狩りの対象となったことで、共存は終わってしまったけどね」

京楽は、書物で知りえた知識を語る。

「奥へ進もう。ムーンホワイトドラゴンにしか開けない扉があるはずだ」

浮竹の本能は、この奥にフルムーンキュアが眠っていると告げていた。

さらに奥に進むと、宝石で飾られた扉があった。

京楽が近寄ろうとするが、ばちっとバリアで弾かれてしまった。

「ここから先は、ムーンホワイトドラゴンの俺だけしか進めない。京楽は、ここで待っていてくれ」

「うん、分かったよ」

浮竹は、ドラゴン化すると扉をくぐり、羽ばたいて巨大な空間を飛んでいく。

天井近くに、古文書を壁に刻んだものがあった。

「あった・・・・・これが、フルムーンキュアの魔法・・・・・」

古代語と竜語で書かれていて、覚えることができるのはムーンホワイトドラゴンのみであった。

その昔、疫病が流行った時代、一匹のムーンホワイトドラゴンがフルムーンキュアを使って、病を全て癒した歴史があると書かれてあった。

「俺も、覚えるんだ。フルムーンキュアを。そして、京楽を守る」

壁に描かれた文字は複雑であったが、ムーンホワイトドラゴンの浮竹には理解できた。

「フルムーンキュア!」

覚えたので、ためしに自分に使ってみると、きらきらと虹色の光が瞬く。

ドクン、ドクン。

浮竹は、鼓動の音を聞いていた。

(よくぞここまできました、我が子よ。さぁ、3大王種に相応しいドラゴンに進化するのです)

マザードラゴンの声が聞こえた。

浮竹の15メートルほどの体は倍の30メートルほどになり、空気中の魔力で体を維持するエネルギーを取り込むことが可能になっていた。

もう、食事だけでエネルギー摂取しなくてもすむ。

真っ白な羽毛は白銀に輝き、浮竹のドラゴンの額には弓張り月の紋章が刻まれた。

「これが、進化・・・・・・・」

魔力が極限まで高まっていた。邪神でも倒せそうなほどに。

「京楽」

京楽のところに戻ってきた浮竹は、京楽に驚かれた。

「君、本当にボクの浮竹?」

「そうだぞ」

「魔力も気配も全然違う」

「進化したんだ。今の俺はフルムーンドラゴンだ。この巨体で行動するのはきついから、元のムーンホワイトドラゴンに戻るな」

そう言って、浮竹は15メートルほどのドラゴン姿になった。

「あ、元の浮竹だ」

「どうやら、体のサイズを変えることができるようだ。フルムーンドラゴンは、存在するだけで他の生物を怖がらせてしまうから、いつも通りムーンホワイトドラゴンの姿でいることにする。
緊急時にはフルムーンドラゴンになる」

「小さくなっても、羽毛の色は変わらないんだね。白銀に輝いている。あと、額に弓張り月の紋章が刻まれてるね」

「人型になったらどうなるんだろう。今、人型に戻る」

浮竹は、人型になった。

額には、弓張り月の紋章はそのまま残り、後は変わらなかった。

「フルムーンドラゴン・・・・古の、ムーンホワイトドラゴンの王種」

京楽は、浮竹を契約をしているので、浮竹の状態が分かった。

「魔力がすごい。契約してるボクまで魔力が高くなってる。浮竹、今ならなんだか魔王にも勝てそうな気分だよ」

「多分、勝てるかもしれないな。それほどに魔力は高くなっている」

浮竹が扉から完全に出ると、扉は崩壊し、もうフルムーンキュアを覚えるドラゴンはいないので、役目を果たして空間は閉ざされてしまった。

「帰ろうか」

「せっかくだから、フルムーンドラゴン姿で空を飛んで帰ろう」

「大丈夫なの?」

「魔力を制御すれば大丈夫だ。巨体だから、王都の近くの森で人型に戻るが」

「うん。帰ろうか。でも、意外とあっさりと手に入ったね?」

「マザードラゴンの導きだ。フルムーンドラゴンは、マザードラゴンの弟ドラゴンがそうだった。フルムーンドラゴンになった時、イメージが浮かんできた」

「マザードラゴンの弟・・・竜神だね」

「ああ。どうやら、俺の本当の種族はフルムーンドラゴンで、竜神らしい」

「ボクの浮竹がどんどん遠くにいっちゃう・・・」

「そんなことないぞ。これからも、Sランク冒険者としてやっていくし、京楽、お前の隣にずっといるぞ」

翡翠の瞳を輝かせて、浮竹は京楽を背に乗せて飛ぶ。

「満月の日は大変だね。フルムーンドラゴンになっちゃうんでしょ?」

「ああ、大丈夫だ。魔力制御でいつも通り普通のムーンホワイトドラゴンでいるから」

マザードラゴンの子、3王種は神でもある。

「進化をしていないのは、一護君だけだね」

「ああ。でも、サンシャインレイドラゴンは破壊と再生の象徴だから、覚醒しないほうがいい。覚醒すると、一度世界を滅ぼし、そこからまた再生をはじめる」

浮竹は、フルムーンドラゴンとなったことで、知った知識を京楽に教える。

「一護君には悪いけど、覚醒はしないでもらうしかないね」

「もともと、一護君は精霊族に擬態している。精霊族であろうとする限り、覚醒は訪れない」

その日のうちに、ハイエルフの浮竹とダークネスインフェルノドラゴンの京楽に、浮竹は自分の真実を話した。

「まさか、マザードラゴンの弟の竜神と同じ種だとは・・・・・』

「そっちの京楽も、王種の竜神だぞ?」

『え、そうなの?』

「今の時代ではきちんとした竜神ではないが、古代では竜神だった」

『マザードラゴンの子は、神の子ってことかい?』

「そうなるな」

ハイエルフの浮竹も、ダークネスインフェルノドラゴンの京楽も、ここまでムーンホワイトドラゴンの浮竹の存在が変わるとは思っていなかったらしく、少しぽかんとしていた。

「まぁ、フルムーンドラゴンには滅多にならないから、多分見せることはないと思う」

『うん、ええ、ああ、そう』

ハイエルフの浮竹は、マザードラゴンに育ててもらった存在だが、よく似た魔力に懐かしさを感じつつ、ダークネスインフェルノドラゴンの京楽と共に、ぽかんとしているのだった。




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