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始祖なる者、ヴァンパイアハンター外伝

「ねぇ、十四郎」

「なんだ、春水」

「愛しているよ、十四郎」

「俺も愛している、春水」


遠い東洋の島国に迷いこんだ浮竹と京楽が見たものは、同じ姿形をした、異質な存在が睦み合う世界だった。

(俺はどうにかなってしまったのか、京楽)

(いや、これは・・・夢だね。誰かが僕らの体に夢を見せている)

(では、これはただの夢の幻か?)

(それが・・・・なんだか、こういう世界があるみたいだよ。並行世界っていうのかな。パラレルワールドだよ)

目の前にいる二人は、始祖ヴァンパイアとその血族ではなく、八岐大蛇(やまたのおろち)とそれに愛された青年であった。

(俺は・・・・違う世界でも、お前に愛されているのか。それは嬉しいことだな)

(僕もだよ。君を愛するのは、僕の宿命のようなものかな)

東洋の京楽と浮竹は、西洋の京楽と浮竹のように仲睦まじいようだった。

「何か、力を感じるね。強力な・・・吸血鬼の力だ」

「気をつけろ、春水!」

「何だろう・・・魂だけの存在みたい。悪さをする妖(あやかし)ってわけでもなさそうだから、放置しておいても大丈夫そうだよ」

「春水、魂であっても、悪さをするモノはいる」

「大丈夫みたいだよ。なんだか、君に似た気配を感じる」

「俺に似た気配?」

「うん。十四郎が二人いるみたい」

「じゃあ、春水も二人なのか」

「そうなるね」

二人は顔を見合わせて、クスリと笑んだ。

(あ、こっちの浮竹かわいい。素直で、僕に心を開いてくれてる)

(悪かったな、俺は素直じゃなくって)

(違うよ!そうじゃないの、浮竹)

(ふん!)

(あああああ)


「魂が、喧嘩してるみたいだよ。十四郎、僕をいじめないでね」

「春水、何言ってるんだ。俺が、お前をいじめるわけないだろう」

「いや、君に似た魂が、怒ってる」

「春水のことを怒るなんて、なんて俺だ!おい俺!もっと春水をかわいがれ!」

「はたからみたら、わけわからないだろうね」

「確かに、そうだな」


二人は、手を繋いで歩き出した。

浜辺を歩いていた。

ざぁんざぁんと、押しては引いていく波に足をひたして、ただ黙々と歩いていく。

「あ、白い貝殻。ネックレスにしたら、かわいいかも」

「こっちには巻貝があるぞ。春水、白い貝殻と交換しよう」

「いいけど、どうして?」

「俺のものがお前のものになって、お前のものが俺のものになるから」

浮竹はそう言いながら、顔を真っ赤にしていた。

(ああ、こっちの浮竹すぐ赤くなる。かわいいなぁ)

(こっちの京楽は、凄く優しい)

(あ、何それ。僕が君に優しくない時なんてあるかい?)

(ないけど・・・)



「ああ、魂たちが去っていくようだよ」

「さよなら、俺と春水」


眠りの狭間で、京楽は浮竹の記憶を見ていた。

「ブラディカ・オルタナティブ。俺の最後の血族になるだろう。お前を愛している」

(君を愛しているのは、僕だけだよ。僕を見て!)

夢の中の浮竹は、絶世の美女の腰を抱き寄せて、自分の指を噛み切って、滴る血をワイングラスに入っていたワインの中にいれて、それを美女に飲ませた。

「ブラディカは、あなただけを愛しているわ」

「ブラディカ・・・俺が休眠を選んだら、一緒に休眠してほしい」

「ブラディカは、あなたの願いを、叶えてあげる。あなたが休眠したら、ブラディカも休眠する」

「ああ。時が永遠であればいいのに。俺には永遠があるのに、ブラディカには永遠がない・・・」

「でも、ブラディカはそれでもあなたの傍にいる。ブラディカの願いは、浮竹といつまでも一緒にいること」

ブラディカ・オルタナティブ。

2千年前、浮竹が最後の血族にと、選んだ美女。

褐色の肌に金髪の、紫の瞳をした女性。

(僕は・・・・君が他に愛した人がいても、君だけを愛している)


目覚めると、いつもの天蓋つきのベッドの中だった。

隣には浮竹が眠っていた。

「変な夢を見たよ。東洋にいる僕らの夢。でもその夢の狭間で、君の過去の記憶を見た。ブラディカ・オルタナティブ。例え、まだ浮竹を愛していても、浮竹はあげない」

ブラディカ・オルタナティブは、夢を渡り歩く。

「ブラディカの大切なものは、浮竹。浮竹の大切なものは、ブラディカにも大切なもの」

ブラディカは、ゆっくりと覚醒した京楽に、唇を重ねた。

ブラディカ・オルタナティブは、魔女。魅了(チャーム)を司る、魔女の末裔。

「ブラディカ。僕は、君を受け入れない。僕が愛しているのは、浮竹だけだ」

「ブラディカは哀しい。京楽は浮竹の血族。私も浮竹の血族。同じ血族同士、仲良くしましょう?」

ブラディカ・オルタナティブは、甘い、甘い毒を吐く。

京楽は、また眠りに誘われた。

眠りの底で、浮竹とブラディカが睦み合っている姿を見せられた。そこに京楽を招き入れて、ブラディカは浮竹と京楽、二人の男を受け入れた。

「さぁ、ブラディカの愛の毒に、甘い毒にひたされて、熟れて、食べごろになったら。ああ、なんて甘いの。甘い甘い果実。ブラディカはこれが好き・・・・」

ブラディカは、夢の樹に実る果実をもぎとると、しゃくりと音を立てて齧った。

「ブラディカの夢で、幸せになりましょう、京楽、浮竹」

ブラディカ・オルタナティブ。

夢渡りの、魅了の魔女の末裔。夢の毒婦。

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