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始祖なる者、ヴァンパイアハンター12

ブラディカ・オルタナティブは、京楽に口づけた。

口づけられた京楽は、眠りの海に旅立つ。

「ブラディカは、京楽、あなたも愛してる。浮竹が愛する者は、ブラディカも愛してる」

夢の中で、京楽は浮竹とブラディカと一緒に暮らしていた。

幸せだった。3人の子供に恵まれて、どちらがどちらの子なのか分からなかったが、そんなことはどうでもいいほど幸せだった。

「起きろ、京楽、おい、京楽!」

「うーん、いい夢を見ているんだ。もう少し寝かせて」

「京楽、それはブラディカが見せている夢だ。起きろ!」

バシンと頭を叩かれて、京楽はゆっくりと目を開けた。

浮竹の隣で、ブラディカ・オルタナティブは浮竹の腕を抱きしめていた。

「浮竹・・・浮気は許さないよ」

「ブラディカ、いい加減離してくれ」

「いや。ブラディカは浮竹のもの。浮竹もブラディカのもの」

ブラディカは、妖艶な美女であったが、口調は幼かった。自分のことをブラディカと呼んだ。

「キスしてくれたら、手を離してあげる」

浮竹は逡巡してから、ブラディカの額に口づけた。

「唇がいいのに」

「ブラディカ、簡便してくれ。2千年前、休眠したまま眠り続けた俺を見限って、お前は違うヴァンパイアロードの男と結婚して、二人の子をもうけていたじゃないか」

「あんなの、ブラディカにとっては遊び。二人の子ももう死んでしまった。ブラディカは浮竹の血族。夢から覚めたあなたを迎えにきた」

「もう、120年以上も前に起きてる。何より、お前は死んだはすだ。ブラディカはヴァンパイアハンターに殺された」

「ブラディカは今ここにいる。ヴァンパイアハンターには、確かに殺された。でも、浮竹の血族であったせいで、長い休眠に入り、傷を癒していた」

「ここにいるブラディカは反魂ではないと?」

「そう。ブラディカは本物」

「じゃあ、血族を解く。お前との血の契りを破棄する」

ブラディカは、見る見るうちに涙をためて、泣きだした。

「浮竹が意地悪する!京楽、助けて!」

泣きじゃくる美女を、京楽は庇った。

「浮竹、血族なんでしょ。もっと優しくしてあげなよ」

「俺の血族は、京楽、お前だけでいい」

「僕はそれでもいいけど、せめてもう少しだけこのブラディカって子に優しくしてあげて?僕はもう浮竹の血族だから分かるけど、血族を解かれて血の契りを破棄されるのは、すごく悲しいことなんだよ」

「ブラディカ、すまない。俺は、今は京楽だけを愛してるんだ」

「ブラディカは、それでも構わない。浮竹が京楽だけを好きでもいい。でも、ブラディカも浮竹のことが好き。愛してる」

「なんかこれ・・・・泥沼の、三角関係?」

京楽の言葉に、浮竹は頭を抱えた。

「もともとの原因は、ブラディカを血族にして、死んだ確認をせずに休眠に入ったままで、覚醒したら京楽を血族にした俺が悪いのか・・・・」

「浮竹、血族なら死んでるか生きてるか分かるんじゃないの?」

「ブラディカは休眠に入っていたんだろう?」

「うん。ブラディカは眠っていた」

「休眠は限りなく死に近い。死んだと判断しても仕方ない」

浮竹は、ブラディカを血族から外すことを決めた。

「俺は、血族は常に一人だけだ。俺はブラディカ、お前をもう愛していない。血の契りを破棄する」

「酷い!ブラディカの心を弄んだの!?」

「お前だって酷いじゃないか!俺がいるのに、夫を迎えて子供を二人も作って・・・浮気、だろう」

びくりと、ブラディカは浮竹の言葉に反応する。

「ブラディカ、あの時は夫を好きだったの。浮竹も好きだった。それじゃだめ?」

「だめだ。誰か一人にしないと、浮気になる」

「ブラディカ、浮気、してたの。ブラディカ・・・・浮竹に必要なくなるなら、死ぬ」

ブラディカは、血の刃で作り出したもので、自分の心臓を突き刺した。

「ブラディカ!」

浮竹は、指を噛み切って、その傷ついた心臓に、血を滴らせようとする。

それを、京楽が阻む。

「どうしてだ、京楽!」

「浮竹は僕を選んでくれたんでしょ?ここでブラディカを助けたら、また三角関係の泥沼だよ」

京楽の静止をふりきって、浮竹はブラディカの始祖の血を癒しの力として分け与えた。

「だからといって、血族をむざむざ死なせるわけにもいくか!」

「そう。じゃあ、僕は浮竹の元から去るよ?」

「嘘だ、京楽!」

「もう、君には愛想がつきた。僕は、君の血族であることを破棄するよ。ばいばい、浮竹」

「待ってくれ。京楽、京楽!」

涙を流す浮竹は、これが現実であるわけがないと、歯ぎしりする。

「こんなことは起きるわけがない。京楽は俺を愛している。俺も京楽を愛している。ブラディカ・オルタナティブ。夢渡りにして、夢を操る魔女の末裔よ。俺は目覚めるぞ!」

カッと、浮竹の体が光った。

ゆっくりと目を開けると、心配そうに覗き込んでくる京楽がいた。

「ブラディカは?」

「隣で、寝てるよ」

ふりあげた拳は、けれど女性であるのだしと、力なく降ろされる。

元を言えば、確かに浮竹が全部悪いのだ。

ブラディカを血族にしなければ、こんなことにはならなかった。

「ブラディカ。ここに、血族の破棄を盟約する」

ブラディカは目覚めると、涙を流して京楽に泣きついた。

「こんなに愛してるのに・・・浮竹、酷い」

「酷いのはどっちだ。こんな悪夢を見せて・・・・」

「ブラディカ、悪くないもん!悪いのは、全部浮竹でしょ!」

パン。

乾いた音が、鳴り響いた。

「浮竹のせいにしなさんな。浮竹がいながら、夫をもって子を二人ももうけて。浮気していたのに、それも全部浮竹のせいにするの?」

「京楽、酷い・・・・」

ブラディカは、京楽に頬を叩かれて、血を暴走させた。

「こんなの、ブラディカは望まない。みんな、ブラディカのこと愛してくれた。ブラディカを愛さない存在なんていらない!」

血の刃が、浮竹と京楽を襲った。

二人は、自分の血のシールドでそれを防ぐ。

「ブラディカ・オルタナティブ。血族の主に向かって攻撃することは、何を意味するのか分かるな?」

「あ・・・・。やだ、ブラディカ死にたくない!ブラディカは、浮竹の血族として永遠を生きるの。そうじゃないと、ブラッディ・ネイからもらったこの命の意味が!」

「ブラッディ・ネイ?ブラッディ・ネイがお前に何かしたのか!?」

「ヴァンパイアハンターに殺された後に、ブラディカに血をくれた。おかげで、ブラディカは一命を取り留めた」

「ブラッディ・ネイ・・・・余計なことを」

「ブラディカはもう、この世界に絶望した。もう、こんな世界、いらない」

「そうか。お別れだ、ブラディカ・オルタナティブ」

ゆっくりと、浮竹は始祖の血の刃で、ブラディカの心臓を突き刺していく。

「愛していた、ブラディカ。俺の手で、せめて眠ってくれ」

浮竹は、ブラディカを強制的に休眠状態にさせた。

殺すことはできなかった。

かつて愛した女性を、手にかけることは、とうとう最後まで無理だった。

「いい夢を。ブラディカ」

浮竹は、ブラディカの体を、青い薔薇の入った棺に入れて、そっと蓋を閉じる。

浮竹が生き続ける限り、ブラディカは休眠状態のまま生きるだろう。

それは、限りなく死に近いが。

「浮竹・・・・」

「今は、何も言わないでくれ」

浮竹は、京楽に抱き着いて、涙を零した。

こんな結末しか用意できなかった自分を、恥じた。

「浮竹は、何も悪くないよ。血族のまま眠り続けるなら、きっといい夢を見ているさ。夢渡りの
夢を操れる魔女の末裔でしょ?」

「ああ」

「きっと、いい夢を見て眠っているよ」

「京楽、俺はもう、本当にこれが最後だ。血族にするのはお前が最後」

「うん。僕以外に血族を作ったら、僕がその血族を殺すから」

京楽は、ブラディカが女でなければ、すでに殺していただろう。

夢渡りの魔女は、永遠に近い眠りについた。

それを脅かす者は誰もいない。

「ブラディカは青い薔薇が好きだった。せめて、棺を青い薔薇で満たしてやりたい」

「青い薔薇?そんなの、存在するの?」

「S級ダンジョンの26階層、薔薇の洞窟に咲いている」

「じゃあ、そこに青い薔薇を摘みにいこう」


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さすがにS級ダンジョンなだけあって、出てくるモンスターも強かった。

5階層、10階層、15階層とボスを倒して、出てきたお宝や、素材として売れるモンスターだけを選んでアイテムポケットにいれる。

5階層はケルベロスが3体。10階層はリッチが5体。15階層はワイバーン5体だった。

20階層に続く階段を、京楽は浮竹と二人で降りていく。

19階層は、城のダンジョンだった。

複雑に入り組んだ地形を、マッピングしながら進んでいく。

「あ、宝箱!」

「ちょっと、浮竹!」

「もがーー!かじられるううう」

普通のミミックではない、エンシェントミミックだった。

がじがじと浮竹の上半身をかじっているが、殺すつもりはないのか、はてまた殺すまでの威力がないのか、牙でがじがじと浮竹の上半身をかじるだけだった。

京楽に助け出されて、浮竹は魔法を唱える。

「アイシクルランス」

氷でできた槍に貫かれて、エンシェントミミックは宝物を残して消えてしまった。

「ドラゴンウルフの毛皮で作られたコートか・・・・」

ドラゴンウルフは、狼系モンスターの最上位である、氷の精霊フェンリルの次に強いモンスターだ。

「ドラゴンウルフ?聞いたことないね」

「古代の生物だから。地上では絶滅してしまった。S級ダンジョンとかに少しだけ生息している」

「ふーん。そのドラゴンウルフの毛皮はすごいの?」

それを聞くと、浮竹は目を輝かせた。

「耐熱性と氷の耐性に優れていて、ドラゴンのブレス程度なら弾ける。それに、毛皮はキラキラしていて、星が瞬いているようで綺麗なんだ。防寒装備にもなるし、軽いし、とにかくいい装備なんだ」

「じゃあ、浮竹が着て?」

「でも、俺は別にこんな装備なくても、結界でドラゴンのブレスくらい反射できるし」

「その星の瞬きのように、毛皮がキラキラ光ってるの、気に入ったの。浮竹が着たら、絶対似合う」

「そ、そうか?」

「うん、着てみてよ」

浮竹は、京楽に勧められて、着てみた。

でろでろでろ~~~。

音楽が流れて、装備が呪われていたことが分かった。

「ああ!呪われていて脱げない!」

「そんなことだろうと思った」

「おい京楽、呪われたと知っていたなら、何故止めなかった」

「浮竹は、何気にエリクサーもってるでしょ。それで解呪できるじゃない」

「エリクサーを隠しもっていることにも気づいていたのか。抜け目のないやつだな」

「浮竹、この前金クラスの錬金術士って言ってたけど、実はミスリル級でしょ。そのエリクサー、自分で作ったね?」

「な、なんのことだ」

「古城の離れにある館、錬金術士が住んでいるような風情になってた。エリクサーの失敗作が散乱してた」

「ぎくっ」

浮竹は白状した。

ブラックドラゴンの財宝を売った金で、エリクサーの材料を買いあさり、何度も調合して失敗を繰り返してできた3つのうちの1つだという。

エリクサーは、別名神の涙。奇跡の薬。

どんな呪いも毒もステータス異常も治してくれる。

「エリクサー、高いんだぞ」

「どれくらい?」

京楽の耳に、浮竹はぼそぼそと値段を言う。

「ええ、まじで?」

屋敷が一軒建てれそうな値段だった。

「浮竹、呪われたままでいなさいな。そんなコートのために使うなんてばかげてる。古城に帰ったら、血の帝国からルキアちゃんを読んで解呪してもらえばいい」

「それもそうだな」

そのまま階段を降りていくと、20階層に続く扉があった。それを開けて中にすすむと、更に扉があった。

その手前が、セーブポイントになっていた。

「外はもう、太陽が沈んでいるだろう。今日は、ここで野営しよう」

「うん、分かった」

アイテムポケットからテントを取り出して、テントをはると、浮竹はまたごそごそとアイテムポケットを漁り、ドラゴンステーキを取り出した。

「まだあったの、ドラゴンステーキ」

「まだまだあるぞ。ブラックドラゴンの肉、けっこうもらったからな」

ブラックドラゴンを退治した時、冒険者ギルドには肉以外の全てのものを売った。肉は一部をのぞいて、浮竹がもらっていった。

ドラゴンの肉は、とにかく美味い。シャトーブリアンなんて目じゃない。

世界に200体いるかどうかという、ドラゴンは絶滅危惧種だ。

だが、個体数が150を割ると、次のドラゴンが次々と孵化するので、絶滅はしない。

そうなるよう、始祖ドラゴンのカイザードラゴン、恋次が調節している。

20階層のボスの扉の前で一夜を明かすと、二人は顔を洗って、簡単な朝食をとり、持ち物をチェックしてから、ボスの部屋に続く扉を開けた。

「うわ、くっさ!ドラゴンはドラゴンでも、腐ってやがる」

「ドラゴンゾンビだね!うわぁ、肉が!僕、もうドラゴンステーキ食べれないかも・・・」

浮竹は火の上位魔法ヘルインフェルノをドラゴンゾンビに叩きつけた。

ドラゴンゾンビの弱点は、聖属性か炎属性だ。

「燃え尽きろ!ヘルインフェルノ!」

一撃目をくらって、肉のほとんどを蒸発させて、骨だけになったドラゴンゾンビは浮竹に襲い掛かった。

それを、浮竹がもう一度ヘルインフェルノを使って、ドラゴンの骨ごと炎の魔法でつつみこむ。

「浮竹、止めは任せて!」

ホーリーエンチャント、聖属性をもたせたミスリルの剣で、京楽はドラゴンゾンビのコアを破壊した。

「ぎゃるるるるるう!」

ドラゴンゾンビの体が崩れていき、ばらばらの骨になった。

「何してるの、浮竹」

「見ての通り、ドラゴンゾンビの骨や牙を回収している」

「お金になるの?」

「死んでもあくまでドラゴンだぞ。その骨と牙と爪は通常のドラゴンと同じ値段で売買される」

「うわぁ、またお金もちになるんだね」

「金はあればあるほど困らない」

「また、エリクサーの材料買い漁って、失敗させて館を爆発させるんだね」

「な、館を爆発させたことを何故知っている!」

「1週間前、爆発させてたの、気づかないとでも思った?」

「く、気づかれていたとは。今度は聖女の涙でも錬金で作ろうかな」

「今度はアクセサリー?」

「せっかく8千年もかけて最高位のミスリルクラスになったんだ。たまには錬金術で遊ぶのもいい。金にもなるし、一石二鳥だ」

聖女の涙とは、オパールのような見た目の宝石で、聖女と同じ聖なる属性をもち、闇を祓う。そこらのモンスターなら、持っているだけで浄化される、世界三大秘宝の最後の一つであった。

「よし、26階層に向けて進むぞ」

「うん」

ドラゴンゾンビの素材をアイテムポケットにいれて、けっこう強いモンスターたちを蹴散らして、25階層にまできた。

「今度のボスはなんだろうな?」

「さぁ、ドラゴンだったりして」

「それはないだろう。このS級ダンジョン、50階層まであるんだぞ。50階層なら分かるが、25階層にドラゴンは・・・・・・・」

「シャアアアアアアアア」

扉の中を覗き込んだ京楽が、顔を青くさせた。

「いた、ドラゴンだ。しかもカイザードラゴン」

「恋次君か?何してるんだ、恋次君」

「シャアアアアアアアって、浮竹さんじゃないっスか」

カイザードラゴンは、大きな翼を折りたたむと、浮竹と京楽を見下ろした。

「俺はたまにここの階層のボスをするようにしてるんスよ。暇な時だけ。力ある者には祝福を、力なき者には敗北を」

人型になり、タトゥーを刻んだ体はまたタトゥーが増えていた。

「また、最近死んだのかい?」

恋次もまた始祖で、死なない呪いをもっている。でも、一応死ぬのだ。復活するが。

「ああ、先週毒殺されたっス。毒殺は慣れないから、いつも毒を入れられるんですよね」

「ここにエリクサーがある。これをもっていけ」

「ええええ!エリクサーって、めっちゃ高い神薬じゃないっすか!」

「俺の血も混ぜてある。毒が含まれていたら、近くにおいておけば色が変わって、教えてくれるだろう」

「ただでもらって、いいんすか?」

「ふふふふ。今度、遊びにおいで。ドラゴンの素材から作りたい薬があるんだ。ちょっと、体で返してもらうだけだ。ぐふふふふふ」

「浮竹、顔が悪人になってるよ。台詞もいっちゃってる」

京楽のつっこみに、浮竹は咳払いした。

「とにかく、それで毒殺は防げるはずだ」

「ありがとうございます。あ、俺を倒したってことでいいっすよ。先に進んでください」

「ああ、ありがとう」

「恋次クン、また古城に遊びにおいで」

「ああ、白哉さんを口説きにいくついでに、寄らせてもらいます!」

始祖竜、カイザードラゴンは、S級ダンジョンで25階層のボスをしていた。力試しにと、ソロで訪れていた白哉に負けた。初めてのことだった。

8千年生きてきて、それまで敗北したことはなかった。

黒髪の美しいヴァンパイアロードに、気づけば恋をしていた。

自分が皇帝をしている帝国をほっぽりだして、よく血の帝国で白哉の守護騎士として過ごしていた。ちなみに、皇帝ではあるが、お飾りなので影武者をたてているだけで問題なかった。

問題があるとすれば、その影武者がよく毒殺されかかるくらいだろうか。

「じゃあ、先に進む。ありがとう、恋次君」

「おつかれっす」

「恋次クン、またね」

「はい」

26階層は、薔薇の洞窟。

出てくるモンスターも、薔薇だった。

「ヘルインフェルノ!」

「ファイアエンチャント!」

浮竹は炎の魔法で薔薇のモンスターを焼き払い、京楽は炎を帯びた剣で焼き殺していく。

「この、26階層の奥に、青い薔薇の群生地がある」

「囲まれたよ。どうする?」

「ここは、他にも珍しい薔薇があるから、なるべく火魔法は使いたくないな。氷の魔法でいく。
ヘルコキュートス!」

地獄の氷で凍らされて、薔薇のモンスターは粉々になった。普通の薔薇は、氷がとけてきらきらと咲いていた。

「浮竹の魔法の威力ってすごいよね。さすが始祖」

「京楽、お前もその気になれば、俺の使える魔法を使えるだろう」

「いや、けっこう制御が難しいから、暴走しそうであんまり使いたくない」

「今度、恋次君相手に修行させてもらったらどうだ」

「うん、それもいいかもね。始祖ドラゴンなら、どれだけ傷ついても死なないし」

「あった、青い薔薇だ!」

洞窟の一番奥で、青い薔薇はそこだけ天上に穴があいていて、月の光を受けながら美しく咲いていた。

「ブラディカがよく眠れるように、花を摘もう」

「うん」

二人は、青い薔薇を摘んで、アイテムポケットに入れた。二株ほど根をつけたままとった。

「それはどうするの?」

「性悪の妹に、たまには手土産を。ブラッディ・ネイは薔薇が好きだからな。青い薔薇の存在を知ったら、欲しがると思うから」

「浮竹ってさ、なんだかんだいっても妹のブラッディ・ネイに甘いよね」

「そうか?」

首を傾げる浮竹は愛らしかったが、京楽は口づけしたいのを我慢した。

「まぁいいや。古城に戻ろう」

「ああ。ブラディカが待っている」

--------------------------------------------------------------------


古城に帰還すると、離宮に赴き、ブラディカを入れた棺の蓋を開ける。

褐色の肌に金髪の絶世の美女が眠っていた。

アイテムポケットから青い薔薇を取り出し、ブラディカの眠る棺にしきつめてまた蓋をしめた」

「ヘルコキュートス」

薔薇が枯れないように、休眠状態であるブラディカが半永久的に眠り続けるようにと、冷凍魔法をかけた。

「おやすみ、ブラディカ・オルタナティブ。いい夢を・・・・・・」


浮竹と京楽は、古城のいつも過ごしている部屋に戻った。

「ねぇ、浮竹は僕だけのものだよね?」

「何を言っているんだ」

「ブラディカを、もう愛していないよね?」

「京楽?」

「怖いんだ。これが、ブラディカのが見せている夢の続きじゃないんだろうかと思えて。このまま、君は眠りから覚めたブラディカと何処かへ行ってしまう気がして」

京楽は、浮竹を抱きしめると、深い口づけをした。

「そんなに怖いなら、確認すればいいだろう。俺が、誰のものであるか」

「いいの。嫌って言っても、やめないよ」

「俺が嫌がってお前が途中でやめたためしがないんだが」

京楽は、浮竹を天蓋つきのベッドに押し倒した。

「待て。昨日風呂に入っていない。先に風呂に入ろう」

「ああ、うん」

二人で風呂に入り、二人は全身から薔薇の匂いをさせていた。

「あの入浴剤、まさかブラッディ・ネイの式がいれたのか・・・・・・」

「さぁ。でも、催淫作用はないみたいだし、いい匂いするだけだから、いいんじゃない?」

二人は風呂に入り、上がると早速浮竹は京楽にベッドに押し倒されていた。

「春水、落ち着け」

「落ち着いてるよ?」
衣服を脱がされて、浮竹は早速潤滑油を手にとった京楽にまったをかけた。

「いきなりするなら、させないからな」

「分かったよ。たっぷり、愛してあげる」

骨の髄まで愛されるのではないかという、愛撫を受けた。

「あ、ああ!」

白い肌には、いくつもの花を咲かせていた。

「んんっ」

耳を甘噛みされる。

浮竹は耳が弱い。

「あ、だめっ」

「ここ、好きだよね?」

耳を甘噛みして、噛みついて吸血すると、浮竹は情欲で濡れた瞳で京楽を見た。

それを合図に、京楽は浮竹を全裸にすると、胸の先端を口に含んで転がした。

「んっ」

深く口づけしあい、舌を絡めあう。

飲みこみ切れなかった唾液が、浮竹の顎を伝った。

「うわ、めっちゃエロい・・・・・十四郎、かわいいね?」

「あ、春水・・・もう、我慢できない」

「僕の十四郎は、素直でいい子だね?」

ゆるりと勃ちあがっていた浮竹のものに、京楽はしゃぶりついた。

「あああ!!」

全体を指でしごいて、先端の鈴口を舌でちろちろと舐めていると、甘い薔薇の味がした。

「精液が甘い薔薇の味がする」

「ブラッディ・ネイの式だな・・・・・薔薇の魔法をかけていったようだ」

「僕はいいけどね。甘いから病みつきなりそう」

「俺は嫌だ。何処かで覗いているかもしれない」

「見せつけてやればいいのさ」

京楽は、潤滑油を手に取って、浮竹の蕾を撫でた。

「んんっ」

「もうひくついて、僕を誘ってる」

「あ、あ!」

つぷりと、京楽の指が入ってくる。

浮竹は、自然とそれを締め付けていた。

「君の中、すごく熱くて締め付けてくる」

「や、言うなっ」

「どうして?かわいいよ、十四郎」

指を増やしてばらばらに動かずと、前立腺を刺激したのか、びくんと浮竹の体がはねた。

「ここ、いい?」

こりこりと、前立腺ばかりを刺激されて、快感で浮竹は生理的な涙を流した。

「ああ、もういいから、早く!春水!」

妖艶な浮竹に、ごくりと喉を鳴らして、京楽はたけったものを宛がった。

ずぷりと、音を立てて貫くと、浮竹は精液を迸らせていた。

「ああああ!!!」

「挿れただけでいっちゃうなんて、淫乱な子だね」

「あ、あ、春水、春水」

「僕はここにいるよ。大丈夫だから」

ズチュリと音を立てながら、浮竹を犯していく。

「あ、あ、あ!」

ごりっと奥まで入ってきて、浮竹は啼くことしかできなかった。

「あああ!!!」

「ここ、君、好きだよね?」

「やあああ、奥、ごりごりしないでぇっ」

最奥の結腸に入り込み、ごりごりと抉ると、浮竹はオーガズムでいっていた。

「ひああああ!」

「君の奥深くで出すからね」

京楽は、浮竹の胎の奥で子種を注いでいた。

「あああ、やぁ、春水、吸血は、やぁ!」

浮竹をいかせながら、京楽は浮竹の首筋に噛みついて、吸血していた。

「やあああ、変になる、やだぁっ」

精液もでなくなった浮竹は、透明な液体を出していた。潮をふいたのだ。

「やあ、おもらし、やあああ!」

「潮吹いてるだけだから。十四郎、僕の血も吸って?」

差し出された右手の甲に噛みつき、浮竹は京楽の血を啜った。

「ああ、気持ちいいね。セックス中の吸血は最高だ」

「んん・・・・・・ん」

舌を絡め合いながら、落ちていく。

京楽が体液を全て浮竹の中に注いで、満足する頃には、浮竹はぐったりとしていた。


「ごめん、加減できなかったね」

「体をふいてくれ」

「うん。中にだしたものも、かき出すよ」

とても風呂にいく気力はなくて、京楽の手で逢瀬の名残を清められた。

浮竹の肌には、京楽が咲かせた花がいっぱいあった。そのまま、眠りの海に誘われる。

「待っていたの、浮竹、京楽」

「ブラディカ?これは夢か?」

「そう。二人の夢を渡り歩いて、くっつけたの」

「ブラディカ、休眠に入ったんじゃないのか?」

「休眠状態でも、ブラディカは夢渡りの魔女の末裔。少しは、力が残っているから。これは警告。白哉の存在が、危ないの」

「白哉が?」

「始祖竜が、傍にいる。守護騎士として。その守護騎士は、白哉を愛している。でも、それにつけこまれて、白哉を食べてしまおうとしている。始祖竜が」

「恋次が!?そんな馬鹿な!始祖だぞ、始祖を操れる者など・・・シスター・ノヴァ、あるいはブラッディ・ネイ、あるいは他の誰か・・・・」

「白哉と始祖竜を助けてあげて。ブラディカの力は、これでおしまい。どうか、血の帝国の心臓を守って」

白哉は、血の帝国の皇族王であり、女帝ブラッディ・ネイの次に偉い。

同時に摂政であり、血の帝国においては心臓であった。

夢渡り魔女の末裔、ブラディカ・オルタナティブは、そのまま二人に笑顔を向けると、消えてしまった。

------------------------------------------------


白哉は、血を流しながら、千本桜を手に、恋次と睨み合っていた。

「愛している。愛しているから食って殺す。血肉にして愛する」

「お前は、気がふれたのか、恋次!」

自分の守護騎士である恋次に、刃を向けられて、白哉は戸惑っていた。

相手は始祖竜だ。

己が皇族のヴァンパイアロードだとはいえ、敵うかどうか。

リィィン。

「鈴の、音?」

白哉の耳には、確かに鈴の音が聞こえた。

それは眠っていた浮竹と京楽の耳にも、聞こえていた。


「キャハハハハハハ!アタシは、始祖の魔女ローデン・ファルストル。人間の国も、血の帝国も、聖帝国も、全部アタシのもの!キャハハハハ!」

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