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始祖なる者、ヴァンパイアハンター11

「彼」は浮竹十四郎。

正確には、細部まで真似たコピー。

ドッペルゲンガーであった。ドッペルゲンガーの上位個体が、S級ダンジョンで浮竹十四郎をコピーした。

ドッペルゲンガーは、喜びに打ち震えた。

始祖、神に近いものになれたのだ。

通常、モンスターはダンジョンの外に出ない。

スタンピードという、ダンジョン内のモンスターが周辺地域に湧き出すことは時折あるが、そんなことにならないように、ガイア王国では定期的に騎士がモンスターを駆除していた。

「彼」は、浮竹十四郎になった。

「彼」は、血の帝国に行きたいと願った。

そして、気づけば大地に這い出していた。

「彼」は、他の冒険者に助け出されて、S級ダンジョンのある近くの街まで運んでもらった。

まだ完全に浮竹十四郎になりきれていなかった。

それでも「彼」は浮竹十四郎のコピーであって、始祖であった。

助けてくれた人間の血を、死なない程度に吸って、街を転々と移動した。

やがてついたのは、ガイア王国の王都。

聖神殿を見て、「彼」は清浄な力に惹かれて、聖神殿の中へ入った。

「な、一体何者だ!」

行く手を遮る者を、その膨大な魔力で戒めて、「彼」は清浄なる力の持ち主を捜した。

「私は井上織姫っていいます。一応、聖女です。そんなあなたは、誰ですか?」

「ヴァンパイアの始祖、浮竹十四郎」

「始祖様!?なんの種族であっても、始祖様は偉いから!こんな神殿に、私に、何かようですか?」

驚く井上織姫に近づき、跪いて手に接吻した。

「俺の血族になってくれ」

「ええ!」

織姫は、真っ赤になった。

異性から、恋のプロポーズを受けたのだ。男性のヴァンパイアにとって、人間の女性を血族にすることは求婚に値した。

やがて、数日が経った。


「聖女、井上織姫」

「はい」

「汝を、第15代目の使者として、血の帝国に派遣します」

血の帝国と、人間社会は完全に国交を開始していた。

「血の帝国はもう、脅威ではない。血の帝国からの使者もいる」

血の帝国の使者―――そういう設定になっている「彼」は名を呼ばれて顔をあげた。

「始祖、浮竹十四郎」

「はい」

「井上織姫との婚姻を、ここに認めるものとします」

真っ白な長い髪をもつ美しい始祖は、ゆっくりと頷いた。

「彼」は井上織姫を抱きよせた。

「始祖の名において、彼女を血族として、愛することを誓います」

「彼」は、自らの指を噛み切って、血を織姫に与えた。

「あの、何も変わらないんですけど」

ヴァンパイアになる覚悟ができていた織姫は、「彼」の血を飲んでも、ヴァンパイアになれなかった。

いくら細部までコピーしても、コピーはあくまでコピー。

その血で、血族を作ることはできなかった。

「ちょっと、失礼するよ」

現れたのは、身長190センチはあろうかという、鳶色の瞳をした美丈夫だった。

「君は、浮竹十四郎であってはいけない」

「何故だ?」

「君には始祖は無理だ。君に血族は作れない。君は浮竹十四郎になれない」

「そんなことはない」

「無理だ。本物の君の血族を、服従させることもできない「浮竹十四郎」はいらないよ。僕は京楽春水。始祖、浮竹十四郎の本物の血族であり、愛される者」

京楽春水と名乗った青年は、「彼」を血の刃で袈裟懸けに斬り裂いた。

「何故、京楽春水。俺は、お前を、愛して・・・・・」

「さっきまで、この女の子と結婚しようとしてたじゃない」

どくどくと流れる血は、再生しない。

「俺は・・・俺は、誰だ?」

「さぁ?僕は知らないよ。でも、浮竹十四郎じゃない。彼は、ここにいる」

その場にいた全員が、凍り付いたように動きを止めた。

ただ、美しかった。

氷のような美しさと、雰囲気を兼ね備えていた。

それは、本物だと、誰もが分かった。

これが、本物の始祖。始祖ヴァンパイア。

真っ白な長い白髪を持つ、美しいその人は、自分と同じ容姿をもつ「彼」に近づいて、怒りのためか翡翠の瞳を凍らせて、「彼」を睨んだ。

「偽物が。俺を真似るな。ドッペルゲンガー如きが、始祖になれると思ったか!」

強大な魔力が渦巻いた。

人々が我に返る頃には、「彼」の姿はなかった。

本物の浮竹十四郎の姿も、血族と名乗った京楽春水の姿も、そして新しき聖女、井上織姫の姿も。

------------------------------------------------

「わぁ、可愛いなぁ」

ミミックのポチを、井上織姫は撫でていた。

始祖の住む古城で、織姫は客人として招かれていた。

「あの場にいた者全員の記憶を改ざんした。俺と京楽のことは誰も覚えていない。織姫君、君は行方不明ということになっている。俺と婚姻しようなどと、本気で思ったのか?」

「んー、だってあの子、とっても愛しそうに私を見てくるから。血族になってあげてもいいかなぁって思ちゃったんです」

明るく笑う少女は、浮竹の中で大きく輝いた。

人間の全てがこんな少女であれば、人間を嫌いになることもなかっただろう。

「あれはドッペルゲンガー。俺に成りすました、俺のコピーだ。すまないが、俺にはすでに血族がいて、京楽春水という。俺は京楽だけを愛している」

京楽は、浮竹の座るソファーの隣で、愛おしそうに、浮竹の白い長い髪を撫でていた。

「その、二人はその、いけない関係、なんですか?」

きゃーっと、顔を隠す織姫に、京楽が囁く。

「その、いけない関係なんだよ、僕たち。愛し合っていて、体の関係もある」

「きゃーー!」

織姫は、真っ赤になって二人を交互に見た。

「聖女シスター・ノヴァの四天王だったって聞いたけど、ただの女の子だね。確かに聖女の力はもっているけど」

「あ、聖女シスター・ノヴァはどうなったのか知ってるんですか?行方不明になって、全然帰ってこないんです」

「浮竹の怒りを買って、今頃聖帝国で地道に聖女活動してるんんじゃないかなぁ」

京楽は、もうシスター・ノヴァに興味はないのだと、浮竹の頬にキスをした。

「京楽、織姫君が見ている」

「いいじゃない。ねえ、織姫ちゃん。僕らがいちゃついても、平気だよね?」

「あ、全然平気です。でも、私、第15代目の血の帝国への使者になっちゃてるから、血の帝国に行かないと。血の帝国でも、私のことを待っているはず」

「それなら、僕らが連れてってあげる」

京楽の言葉に、浮竹が京楽の、長いうねる黒髪をくいっと引っ張った。

「おい、ブラッディ・ネイが見たら、自分のものにしたがるぞ。こんな美少女」

ブラッディ・ネイの謹慎は、もう半年以上前に解けている。

ブラッディ・ネイは牢屋に1カ月監禁されて、少しはこりたのか浮竹と京楽に接触してこようとはしなかった。

「大丈夫。ブラッディ・ネイは巨乳好きじゃないんだよね。それに、十代後半はあまり寵愛してないでしょ。後宮にいたのは、10歳くらいから15歳くらいの美少女だ」

「ブラッディ・ネイのこと、よく知ってるな」

「そりゃ、君を困らせる存在だけど、殺しても死なないから、せめて情報くらいは握っておかないと」

「血の帝国に連れて行ってもらえるんですか?」

浮竹は、頭を抱えていたが、京楽はにこにこしていた。

「うん、いいよ。連れてってあげる。僕と、浮竹が」

その言葉に、浮竹は天を仰いだ。

あの実の妹と、また会うことになるからだ。


-------------------------------------


「彼」は、本物の怒りを受けて、霧散したはずだった。

気づくと、血の帝国の女帝、ブラッディ・ネイの元にいた。

「そっくり・・・ねぇ、君は誰なの?」

「始祖、浮竹十四郎・・・のはず。元はドッペルゲンガーと呼ばれていた」

「そう。ドッペルゲンガーの上位個体か。でも、このまま君を死なせるのはすごくもったいない」

ブラッディ・ネイはドッペルゲンガーである「彼」に抱き着いた。

「ブラッディ・ネイ。俺の、妹」

「そうだよ、兄様の愛しい妹だよ」

「同じ血を分けた者。愛している」

「彼」はコピーであったが、本物の魔力を浴びて、歪(いびつ)な形に歪んでいた。

ブラッディ・ネイを、始祖であればその実の妹を愛するだろう。そう思っていた。

「もうすぐ、ボクの元に人間の使者がくるんだ。兄様の怒りを買うだろうから、君は、隠れていてね」

「分かった」


「人間界からの使者殿のおなり~」

ぎいいと、門が開け放たれた。

いくつもの薔薇でできたアーチをかいくぐり、門をくぐって、やっとブラッディ・ネイの住む宮殿までついた。

「ああもう、無駄に広いんだから、嫌になる」

「そういえば、浮竹はこうやって、ブラッディ・ネイの元に訪問するのは初めてかい?」

「いや、何度かあるが。休眠に入る前に、一応お別れを言っていた」

「僕がいる限り、休眠なんてしないよね?」

「ああ、当たり前だ」

口づけを交わしあうバカっプルは、織姫の咳払いで我に返った。

「あの、私、本当にこんな場所にきてよかったんですか。使者は他にもいるはずなんですけど」

「使者は君だけだと記憶やらなんやら改ざんしておいたので、大丈夫だ。もしもブラッディ・ネイが君に何かしようとするなら、命がけで護る」

美しい始祖の浮竹に、護ると言われて、織姫は頬を赤く染めた。

「でも、浮竹さんには京楽さんがいるんですよね」

「京楽は、俺の血族だ。特別存在。何にもかえがたい」

その言葉に、京楽はうんうんと頷いていた。

「エロ魔人で、性欲の塊で、何かあればすぐ俺を犯そうとするちょっと頭がいかれたやつだが」

なぬ?

僕の浮竹の中の評価って、以外と低い?

「またまたぁ。浮竹ってば、そんなこといって。ツンデレさん」

「だれがツンデレだ!ツンもなければデレもない!」

「でも、僕のこと愛してくれているんでしょ?」

「それは、当たり前だ。やっ、何をする」

京楽は、浮竹の耳を甘噛みした。

ふっと息を吹き込むと、浮竹は耳が弱いのか、京楽の頭を殴って、宮殿の中へと入っていく。

「愛が痛い・・・・」

「ふふふ、浮竹さんと京楽さんって、ほんとに仲がいいんですね」

「そうだよ。僕は浮竹だけを愛してるから」

「ああ、私にもそんな人がいたらなぁ」

「きっと、いつかいい人が見つかるよ。こんなに可愛いんだから」

京楽に褒められて、織姫は栗色の髪を翻して、にこりと微笑んだ。

「もう、京楽さんってば!」

その微笑みは、慈愛に満ちていた。

浮竹も、京楽も、その微笑みに魅入ってしまう。

「あ、ついたぞ」

ブラッディ・ネイは玉座に座っていた。その右隣には、ロゼ・オプスキュリテが、背後には12歳くらいの美しい少女が侍っていた。

足元には、ルキアによく似た、13歳くらいの少女を侍らせていた。

「相変わらず、肉欲の塊だな、ブラッディ・ネイ」

「兄様、うるさいよ。へぇ、君が人間からの使者なのかい?名前はなんていうんだい?」

織姫の美貌に興味をもった、ブラッディ・ネイが名を尋ねる。

「井上織姫といいます。ブラッディ・ネイ様におかれましては、ご機嫌うるはべっ。舌、舌噛んだ!」

織姫は、噛んだ舌を自分の聖なる癒しの力で癒していた。

「へぇ、織姫ちゃんっていうんだ。聖女なんだね?」

「あ、そうです。聖女シスター・ノヴァの四天王ってことになってたんですけど、シスター・ノヴァの後継者みたいな形になってます」

「聖女シスター・ノヴァはもう聖女じゃいからね、人間社会では。聖帝国では、未だに聖女として崇めるやつがいるらしいけど。ボクはあんな醜女には興味ないから」

「シスター・ノヴァの転生する度に醜くなるように、呪詛をかけていたそうだな」

浮竹がそう言うと、ブラッディ・ネイは悪びれもせずこう言った。

「だって、ボクの兄様に馴れ馴れしいから」

「俺は俺のものだ。後京楽のもの」

「兄様もさぁ、血族にする者ちゃんと選べばいいのに。何もこんなひげもじゃを血族しなくたって、もっといい男いるじゃない」

「何故そこで、男が出てくる」

「だって、兄様、女より男のほうが好きでしょ?海燕クンをはじめとする5人の血族のうち4人が男だったじゃない。6人目の京楽クンも男だし」

「ちょっと、浮竹、今までの血族のうち4人も男がいたなんて、聞いてないよ」

「ああもう、京楽は黙ってろ」

浮竹は、ブラッディ・ネイと視線を絡め合わせた。

「俺のなりそこないを、匿っているな?」

「あは、ばれちゃった?」

「俺と同じ魔力を感じる。出てこい、ドッペルゲンガー!」

ぱしっと、空間に罅が入るくらいの魔力が渦巻いた。

「ちょ、兄様、ここはボクの宮殿だよ!やり合うなら、外でやってよ!」

魔力の中心にいた浮竹は、ドッペルゲンガーがいる部屋までずかずかと入ってくると、その存在を消そうとした。

「薔薇の魔法・・・。ブラッディ・ネイの魔力で守られているのか」

「兄様!その子はもう悪さしないよ。許してやってよ!」

「俺の姿をとっている限り、お前はこれを愛するのだろう?」

「そりゃそうだよ。素直な兄様なんて、かわいすぎてよだれものだよ」

「素直な浮竹・・・僕の下では、よく素直になるんだけどねぇ」

「うるさいねぇ、このもじゃひげの血族が!」

「もじゃひげで悪いか!」

「ああ、悪いとも!髭があるのはいいとして、その濃い胸毛!腕毛!スネ毛も許せない!」

「浮竹、ブラッディ・ネイがいじめる。ボクの毛を否定する!」

「ブラディ・ネイ。京楽はもじゃもじゃだからいいんだ」

「え、そうなの浮竹」

「兄様、嗜好変わった?」

なんだか漫才めいた会話になっていて、くすくすと織姫は笑っていた。

「血の帝国の女帝というから、どんな怖い人かと思っていたから、あーあ、緊張するだけ疲れちゃいました」

「あ、織姫ちゃん・・・ああもう、いいよ。これは兄様に返す。兄様の代わりになれるわけないものね」

「嫌だ。俺は生きる。俺は始祖の浮竹十四郎。俺は神。俺は世界」

ドッペルゲンガーの浮竹は、浮竹の魔力に作り出された血の刃によって、粉々に壊れてしまった。

「あーあ、容赦ないねぇ」

京楽が、硝子人形になって粉々になったドッペルゲンガーを見た。

「ブラッディ・ネイの薔薇の魔法に思考まで汚染されていた。俺は神なんかじゃないし、世界でもない」

「そう?ボクの中では兄様は神様で、世界だよ。始祖の始まり、ヴァンパイアの世界そのもの」

ブラッディ・ネイは玉座に戻っていった。

皆、その後を追って玉座にある部屋に戻る。

「織姫ちゃんだっけ。ちょっとだけ、血をもらってもいいかな?」

「だめだぞ、織姫君。ブラッディ・ネイは性悪だから、血だけじゃすまさない」

「ちぇっ、ちょっと味見するくらいいいじゃない」

「「よくない」」

浮竹と京楽はハモった。

「ブラッディ・ネイ様。15代目人間の使者として、ここに国交の本格的な正常化と、互いの領土不可侵の契約書を持ってきました。どうか、サインを」

「はいはい、分かったよ」

ブラッディ・ネイは書類に目を通して、血文字でサインした。

「では、私の役目は終わりました」

「ねぇ、織姫ちゃん、ボクの後宮のぞいていかない?ちょっと好みより年上だけど、ボク、巨乳嫌いって思われがちだけど、けっこう好きなんだよね」

舐めるような視線で見られて、織姫は背筋がぞわっとした。

「え、遠慮しておきます。では、浮竹さん京楽さん、帰りましょう!」

「ええ!使者をもてなす晩餐の用意もできてるのに!」

「絶対、媚薬とかしびれ薬入ってるから、口車に乗せられちゃだめだぞ」

「浮竹さん、実の妹さんに厳しいんですね。でも、実の妹さんにしてはあまり似てませんね?」

「ブラッディ・ネイは俺と同じで死なない。完全に不死ではないが、それに限りなく近い。死すればヴァンパイアの皇族や貴族の少女の中に転生をして、ずっとそれを繰り返してきた。今で9代目だったか」

「うわ、すごいですね。浮竹さんは、転生しないんですか?」

「僕の浮竹は、一人だけだよ。ねぇ、浮竹?」

みんなの前でハグされた上に口づけられて、浮竹は顔を赤くして、京楽を押しのけた。

「とにかく帰ろう。ブラッディ・ネイが追ってこないうちに」

空間転移の魔法陣に乗ると、3人は古城の地下へとワープしていた。


--------------------------------------------------------


「ただいま、ポチ。ほーら、好物のドラゴンステーキだぞ」

ミミックのポチにドラゴンステーキをやろうとして、浮竹はポチに食われていた。

「暗いよ怖いよ狭いよ息苦し・・・くない?ポチ、お前どうした」

すぽっと、自力で脱出して、浮竹はミミックを観察した。

「ポチ、お前レベルがあがったのか!ドラゴンステーキは経験値あるからなぁ」

「ええっ、飼われてるのにLVが上がるミミックって何それ」

「いや、その前に飼われてることがおかしいですよ!」

織姫の的確なツッコミに、二人して首を傾げる。

「ミミックを飼うってそんなにおかしいか?」

「さぁ。ワイバーン飼うよりはましなんじゃない?」

二人の感性は、ヴァンパイアであるせいか、どこかずれていた。

「ブラッディ・ネイの晩餐には及ばないだろうが、今夜は御馳走を用意してある。思う存分食べて、聖神殿に戻ってくれ」

「ありがとうございます、浮竹さん」

「僕は、木苺のタルト焼くよ。デザートに食べていって」

「はい!」

その日の晩は、織姫のために、フルコースの料理が用意された。

京楽の作った木苺のタルトは絶品で、浮竹も織姫も食べながらうまいと、京楽を褒めた。


「じゃあ、私はこの辺で・・・・・」

「ああ、またよければ遊びにきてくれ」

「たまにはまた遊びにおいで、織姫ちゃん」

「はい!」

--------------------------------------------------


「京楽、ちょっといいか?」

「何?」

「お前のの体から、薔薇の香りがする。この古城に薔薇園はないはずなのに」

「うん、ブラッディ・ネイからもらった入浴剤だね。他にもいろいろ、ブラッディ・ネイからもらったよ。害意はないようなグッズだったから、使わせてもらってる」

「朝にお風呂に入ったのか?」

「うん」

「入浴剤の他に、何をもらった」

「石鹸と、シャンプーとリンス、あと潤滑油」

「潤滑油・・・・。まあいいか。ああ、いい匂いだな・・・・なんか興奮してきた。やらせろ」

はぁはぁと、浮竹が興奮していく。

「ブラッディ・ネイ、まさか入浴剤に何か入れてたの!?」


「うふふふふ。今頃、あのひげもじゃ、兄様に抱かれてるんだろうなぁ。それとも、逆に兄様が抱かれているのかな?ロゼの能力で、また入れ替わってもらおうか」

そんなことをブラッディ・ネイが、玉座の上で漏らしていた。

ちなみに、入浴剤の他に、京楽が使った石鹸、シャンプーとリンスには、その匂いを嗅いだ者を性的に興奮させる魅了の魔法がかけられていた。入念にかけられた魔法なので、浮竹にも分からなかった。


「京楽!!」

ある程度手入れされた庭のベンチの上に、浮竹は京楽を押し倒していた。

「浮竹、ベッドにある場所に行こうよ」

「ここがいい。ここでする。お前を抱く」

深く口づけられて、浮竹は薔薇の匂いをまき散らす京楽に、うっとりとなっていた。

「ああ、今すぐお前が欲しい」

「すでに、僕は君の手の中だ。でも、僕は君を抱きたいな」

反対に押し倒されて、浮竹は戸惑っていた。

「俺は、京楽を抱きたいんだ」

「うーん、僕は浮竹を抱きたいから。それに、君の今の行為は襲い受けだよ」

「襲い受け?」

「そう。受けの子が、襲い掛かってきて逆に食べられちゃうこと。ベッドに行こうか」

ドサリと寝室の天蓋つきのベッドに押し倒されて、浮竹は京楽が手に入るなら、どちらでもいいかと思った。

「俺がお前を抱きたかったが、お前が俺を抱きたいなら、別にそれでもいい」

「十四郎、君には僕の下で乱れてほしい。僕の太陽」

「んっ、春水・・・俺が太陽なら、お前は月だ」

「月は、太陽がなくっちゃだめなんだよ」

「ああ!」

衣服を脱がされて、胸の先端をつままれる。

「んっ」

口づけを受けて、唇を開くと、ぬめりとした京楽の舌が入ってきた。

「んんっ」

混ざった唾液を、こくりと喉を鳴らして嚥下する。

京楽は、唇を舐めた。

自分の下で乱れる浮竹の妖艶な姿に、自制が効かなくなる。

「あああ!!!」

浮竹のものにしゃぶりついて、精液を出させると、それを味わって嚥下した。

ブラッディ・ネイの薔薇の魔法のせいか、精液は薔薇の味がした。

ブラッディ・ネイの薔薇の魔法、悪くないかもと、京楽は思った。

「やっ」

潤滑油にも、薔薇のエキスが入っていた。

ブラッディ・ネイからもらったグッズの一つだったが、使うなら今しかないと思った。

「やぁん」

指を入れると、浮竹はかわいく啼いた。

「やっ」

「こんなに僕の指を飲みこんで。ああ、ここ気持ちいでしょ?」

こりこりと、前立腺を刺激すると、浮竹のものはゆるりとまた勃ちあがった。

それをしごきながら、京楽は指を引き抜いて、己の熱で浮竹を貫いた。

「あああああ!!!」

薔薇の香りが、部屋中に満ちていた。

自分と同じ匂いを纏う浮竹に、夢中になる。

何度も前立腺ばかりをすりあげていると、浮竹がもどかしそうにしていた。

「もっと、もっとお前が欲しい、春水」

「十四郎・・・・・」

結腸をこじ開けるように、奥をとんとんとノックして侵入した。

「あ、あ、そこいい、もっと、もっと」

ごりごりと結腸の中まで押し入ってきた熱に、浮竹はうっとりとなった。

「孕むまで、犯せ」

「それだと、永遠に君を犯し続けなくちゃいけないよ」

「あああ、春水、春水!」

「大好きだよ、十四郎」

「あ、好きだ、愛している、春水」

じゅぷじゅぷと、そこは濡れた水音を立てる。

「あ、あ、あ、あ!」

浅く抉り、次に深く貫かれて揺さぶられた。

快感に脳が支配されていく。

「血を吸うよ、十四郎」

「俺も、お前の血を吸う」

互いに肩に噛みつきあって、吸血した。

「ああああ!!!」

「んっ」

「ああ、春水の声、すごくいい。もっと、聞かせてくれ・・・・・」

「んんんっ・・・・・ああ、気持ちいよ、十四郎。もっと吸って?」

浮竹は、京楽の首筋に噛みついて、血を啜る。

京楽は、セックス中の吸血の快感によいながらも、浮竹を犯した。

「ああ、あ、吸血されながらは、だめぇっ!」

浮竹の喉に噛みついて、吸血しながら浮竹を犯した。

「ああああ!」

ぐりぐりっと、結腸にまで入り込んできた熱が弾ける。

むせ返るような薔薇の匂いに包まれて、二人して意識を飛ばしていった。


「最悪だ」

そのまま、数時間眠ってしまったのだ。

シーツは体液でかびかびだし、ドロリとした京楽が出したものがまだ体内に残っている。

「ごめんなさい」

「まずは風呂だ。その間に戦闘人形にシーツを洗ってもらう」

こんな時、本当に戦闘人形はありがたい。

後始末のシーツを一人洗う羽目になると、悲しいものがある。まぁ、乱れた浮竹を思い出してにまにまするのだが。

浮竹は、京楽がブラッディ・ネイからもらった、入浴剤やらシャンプーリンス石鹸などは全部処分した。

「ああ、もったいない・・・襲い受けの浮竹、素敵だったのに」

「胸毛剃るぞこら」

「ごめんなさい」

一緒に風呂に入り、浮竹の体内にまだあった京楽の体液をかき出して、浮竹は湯に白桃の入浴剤をいれた。

ほんのりと甘い香りに、疲れが癒されていく。

「ブラッディ・ネイから何かもらったら、今度から俺にちゃんと報告すること。いいな?」

「はーい」

---------------------------------------------


「あそこが、今の十四郎が住んでいる、古城」

ブラディカ・オルタナティブは、真紅の瞳を瞬かせた。

浮竹の5人目の血族にして、浮竹が唯一血族として愛した女性だった。

褐色の肌に、金髪の、紫色の瞳をしたそんじょそこらでは見かけないほどの美女だった。

「待っていて、愛しい十四郎。ブラディカ・オルタナティブは、今日、休眠から目覚めました」

浮竹の2千年前の、恋人であるブラディカは、妖艶に微笑んだ。

「新しい血族がいるなら、それでもいいわ。二人まとめて、愛してあげる」

真紅の瞳は、いつの間にか紫色にもどっていた。
     

          次の話は、佐助さんとのコラボにて番外編です



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