始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝
西洋の浮竹と京楽は、東洋の浮竹と京楽の住む雑居ビルを訪れていた。
「花火大会をしよう」
いつの日だったか、遊園地で見た花火が忘れられなくて、西洋の浮竹と京楽は、大量の家庭用花火を手に、押しかけた。
(まだ花火をする季節じゃなんだけどねぇ)
まだ、春になったばかりであった。
「季節なんて関係ない。したいと言ったら、俺はする」
「ごめんねぇ、そっちの僕に浮竹。こっちの浮竹は、一度言い出すと聞かなくて」
(俺は別にいいぞ。いつでも大歓迎だ。花火大会をしよう)
「分かってくれるのか、東洋の俺!」
西洋の浮竹は、東洋の浮竹に抱き着いた。
(わわわ)
それに東洋の浮竹がびっくりして、顔を赤くした。
(東洋の俺、落ち着け)
「ああ、すまない。いろいろあって、最近お前たちのところにこれなかったから。どうしているかと思って、花火大会を口実に、会いにきたんだ」
西洋の浮竹も、自分でかなり恥ずかしい言葉を言っていると自覚しているのか、顔を赤くしていた。
「ああ、かわいいねぇ」
(そうだねぇ)
もじもじする二人を、西洋と東洋の京楽は心から、平穏であると噛みしめながら、幸せそうにしていた。
「まずは、バケツに水を用意しよう」
(うん、じゃあ俺が汲んでくるから)
「重いだろう。俺が水の魔法で水を出すから、バケツは空のままでいいぞ」
(魔法って、ほんとに便利だな)
「まぁ、その分制約とかも多いがな」
雑居ビルの裏に出て、人通りの少ない道を選んで、花火をすることにした。
空のバケツに、西洋の浮竹が魔法を唱える。
「ウォーター」
何もない空間から水がドバドバ出て、バケツから溢れた。
西洋の浮竹はいきなり家庭用花火1つに、まるまる魔法の炎で火をつけた。
(わあああああ!やりすぎだぞ!)
「浮竹、一気に火をつけすぎだよ!」
(わあ、やっちゃったね!)
ぱちぱちと火花が散って、鎮火する頃には、1つの家庭用花火は焦げてしまっていた。
それにしゅんとなる。
「すまない。一つ一つに火をつけるんだな。俺の火の魔法じゃ強すぎてだめだな」
(西洋の俺は、知らなかっただけだろう?今度から気つければいい)
東洋の浮竹に頭を撫でられて、西洋の浮竹ははにかんだ笑みを零した。
(ろうそくに火をつけて使おうよ)
東洋の京楽が、当たり前な・・・・けれど、西洋の二人には考え付かなかったことを口にした。
「なるほど、ろうそくに火をつけて、それで花火をするのか」
(そうだぞ、西洋の俺)
東洋の浮竹は、まずはロケット花火に火をつけて、離れるように指示を出す。
ロケット花火は宙を飛び、ぱぁんと小さな花火を咲かせて、終わったしまった。
「意外とあっけないな」
「こんなものでしょ。家庭用花火なんだし」
(次の花火をしよう。西洋の俺、その花火に火をつけて)
「わあ・・・綺麗だなぁ。花火の色が変わった!今の見たか、京楽!」
「見たよ!すごいね!」
西洋の浮竹と京楽には、炎の色が変わるのが不思議でならなかった。
(次の花火をしようか)
次の花火は、炎が青から白に変わった。
(そっちの浮竹とボクは、家庭用花火をするのは初めてかい?)
「ああ、初めてだ」
「うん、僕も初めてだよ」
(そうか。じゃあ、この線香花火は、一つずつもって、火をつけるんだよ。ぼとって落ちたら、終わりだからね)
そういって、東洋の京楽は、西洋の浮竹と京楽に線香花火を持たせた。
ぱちぱちと弾ける火花は小さく、あっという間にぼとっと地面に落ちてしまった。
その小さな火花が気に入ったのか、西洋の浮竹は線香花火ばかりをしていた。
「ああ、もう終わってしまった・・・・」
「僕の分もあげるから」
「本当か!」
目を輝かせる西洋の浮竹に、ならばと、東洋の浮竹と京楽も、自分の分の線香花火をあげた。
「ありがとう」
そう言って、一つ一つに火をつけて、線香花火をじっくりと味わった。
他にもたくさんの花火をして、その夜の花火大会は終わった。
「今日は、泊まって行ってもいいか?」
(いいけど、狭いぞ?布団なんてないし)
「空間ポケットに寝袋が入っているし、毛布も布団も入ってる」
(わあ、やっぱりいろいろと便利そうだな)
「まぁ、モンスターに襲われないことを考えると、こっちの世界のほうが、暮らしやそうだが・・・そうか、金を手に入れるには働かないとだめなんだな。俺と京楽は、主に冒険者稼業でもうけているから・・・・」
(こちらの世界でも、悪い妖とかいたりして、たまに苦労するぞ)
「どちらの世界も、平穏無事というわけには、いかないのだな」
(そっちの僕、明らかに強くなってる気配がするんだけど、何かあったの?)
「ああ、ちょっと再覚醒したんだよ。僕の世界の浮竹と同じくらいに魔力はあがったし、魔法も自分一人の手で使えるようになったよ」
(今度、手合わせしてみたいね)
「負けないぞ」
(それはボクもだよ)
そんな会話をしながら、皆で両方の世界の京楽が作った夕食を食べて、西洋の浮竹と京楽は、ダイニングルームとかの空いている空間に布団と毛布をしいて、寝てしまった。
ちなみに、東洋の浮竹と京楽は、同じベッドで眠ってしまった。
それは西洋の浮竹と京楽も同じで、二人は同じ布団で毛布をかぶり、寝ていた。
(起きてきたのか?)
「ああ、ちょっと目が覚めてしまって)
(ココアでも飲むか?)
「なんだそれは?」
(ちょっと待ってくれ。今作ってあげるから)
そう言って、東洋の浮竹は自分の分と、西洋の自分の分もココアを作り、渡した。
「甘い・・・・・」
(暖かいから、体があったまるぞ。春とはいえ、まだ夜は冷えるしな)
「なぁ、東洋の俺」
(なんだ?)
「今、幸せか?」
(うん、幸せだぞ。春水もいるし、こうして時折だけど、お前たちとも会えるし)
「それならいいんだ」
(どうかしたのか?)
「俺のせいで、京楽が傷つくのが怖い」
(それは俺もだ。でも、信じることはできるだろう?そっちの春水も強くなったんだろう?)
「そうだな。伴侶を信じるのは、当たり前だな」
(俺の春水は、とにかく優しいんだ。俺を駄目にさせるのかと思うくらいに優しい」
「俺の京楽も優しいぞ。戦闘メイドがいるのに、わざわざ俺の好きなデザートを作ってくれる」
(お互い、伴侶に恵まれたな)
「そうだな」
顔を見合わせあって、クスリと笑んだ。
「ココアごちそうさま。眠くなってきたから、もう少し寝てくる」
(うん、おやすみ)
そうして、二人はまた眠った。
(ちょっと、二人ともいい加減に起きて。もう9時過ぎだよ)
朝起きると、9時を回っていた。
「わあ、寝すぎた」
「わ、ほんとだ」
実は、東洋の浮竹も8時半には起きてきていた。おはようと言いながら、船をこいでいた。西洋も東洋も、どちらの浮竹も朝に弱いようであった。
(グッスリ寝てたから起こさなかった。朝食の用意はできてある。食べていくだろう?)
「そこまで世話になるつもりはなかったんだが、せっかくだからいただこう」
「いつもは僕が朝に起きて浮竹を起こすんだけどね。向こうの世界と、少し時間の流れが違うのかな?」
「さあ、どうだろう。どっちみち、今日はすることはなかったし、ゆっくりしよう」
東洋の浮竹も京楽も、依頼が来ていないので暇をしていた。
(今日はスーパーでお一人様一品の特売日をしているんだ。よかったら、買い物に付き合ってくれ)
西洋の浮竹と京楽も買い物に付き合った。
おばちゃんの波に押されて、ぐったりしていた。
(こっちの世界のスーパーでの買い物は初めてか)
「いや、花火を買った時とかには利用したが、特売日があるとこうまで女性が多く押しかけてくるとは・・・・・」
雑居ビルに帰って、東洋の浮竹はお一人様一品の品物が4つも買えて、喜んでいた。
(また、遊びに来た時には、スーパーでの買い物に付き合ってくれたら、嬉しい)
「またあのおばちゃんの波にもまれるのか」
「まぁ、いいじゃない、浮竹。世話になってるんだし」
「そうだな」
(じゃあ、昼は・・・)
「ああ、俺たちはもう戻る」
(ああ、じゃあこれ持って帰れ。昼用に作ったお好み焼きだ)
「お好み焼き・・・?」
「こっちの世界特有のメニューっぽいね。レシピはある?」
(これだよ)
いつものように、西洋の京楽に東洋の京楽は、レシピを渡していた。
「じゃあ、僕たちは帰るね。また今度、会おう」
「またな!」
(またねぇ)
(次来たときは、おかしのレシピを用意しといてあげるよ)
そうやって、西洋の浮竹と京楽は、自分たちの世界へと帰っていった。
東洋の浮竹と京楽は、今度は
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