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始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝

(遊びにきたぞ)

(おーい、いないの?)

古城をのぞいてみると、肝心の二人がいなかった。

「ひいいいいい」

「ぎゃあああああ」

(中庭で悲鳴がする!)

(敵襲かい!?)

急いで二人が見に行ったところには、地獄の雄叫びのような悲鳴をあげているマンドレイクを収穫している、西洋の浮竹と京楽の図があった。

(な、何してるんだ?)

「お、遊びに来てくれたのか。見ての通り、マンドレイクを収穫している」

(これがマンドレイク・・・・)

中庭にズラーっと並んでいる人参の色のような物体は、蠢ていて、収穫されるのを待っていた。

「ひぎゃあああああああ」

「マンドレイクの悲鳴は、普通の人間が聞くと死ぬけど、お前たちなら大丈夫だろう?暇なら、マンドレイクの収穫を手伝ってくれ」

(う、うん)

(十四郎、無理はしなくていいんだよ。ボクが手伝うから)

「そうだよ、東洋の浮竹。こいつら、悲鳴だけはすごいから」

「ぎええええええええええ」

そう叫ぶマンドレイクを、東洋の京楽がほいほいと収穫していく。

(よ、よし俺も!)

そのマンドレイクは、涙を流していた。

収穫されるのを拒んでいた。

「東洋の俺、見た目に騙されちゃいけないぞ。一気に引っこ抜くんだ!」

東洋の浮竹が掴んでいたマンドレイクの葉を、一緒になってひっぱった。

「人でなし~~~」

そう言って、泣いていたマンドレイクは収穫されてしまった。

(こ、こんなにマンドレイク収穫して、どうするんだ?)

「ん、近所に住んでいる猫の魔女の乱菊に安価で売るんだ。マンドレイクは収穫の時の悲鳴を聞くと、普通の人間なら命を落とすから、あまり栽培している農家がなくてな。俺も錬金術や料理で使うから、自家栽培を始めたんだ」

(そ、そうか・・・・)

「そうだ。せっかく生きのいいマンドレイクが手に入ったんだ。みんなでマンドレイクを使った料理を作ろう」

「えー。浮竹が料理作ったら、またゲテモノができるよ」

(俺が、西洋の俺に野菜スープの作り方を教えてやろう。マンドレイクも刻んでいれれば、きっとおいしくなると思う)

「東洋の俺、いつの間に料理の腕があがってないか?」

(ふふふふ。春水のおかげさ)

「こっちの京楽は、教えるの全然だめだぞ」

「だめっていう前に、君が途中で放棄してそのまま煮込むからでしょ!」

(ふう、だめだね、こっちのボクは。叱ってばかりじゃ、誰でもいやになるよ?ようはアメとムチさ)

そう言って、東洋の京楽は、生きのいいマンドレイクを数本選び、キッチンに向かってしまった。

西洋と東洋の浮竹も、それぞれ1本ずつマンドレイクをもって、キッチンに向かった。

「待って~~」

西洋の京楽も、マンドレイクを2本手に、キッチンに入った。

コンロでぐつぐつ煮た鍋の中に、いきなり洗っただけのマンドレイクをぶちこみそうになった西洋の浮竹を、東洋の浮竹が止めた。

「どうした?」

(だめだ。ちゃんと、刻まないと。あと、出汁もとらないと)

「出汁?」

教えるところは、まずそこからだった。

(西洋の春水、出汁をとれるものはあるか?)

「ああうん、そっちの棚の上に、かつおぶしと煮干しが入ってる」

東洋の浮竹は、きょとんとしてる西洋の浮竹の前で、まずは鍋に中に煮干しとかつおぶしを入れて、出汁をとった。

「これが、出汁・・・」

(そう。野菜スープの基本材料になるものだ)

「ふむ。メモする」

自動的にインクが滲むマジックペンで、西洋の浮竹は東洋の浮竹から、作り方を聞いてはメモしていた。

(まずは、この人参、じゃがいも、玉ねぎと、マンドレイクを洗って手ごろな大きなに切り分けよう)

「切るのか。マンドレイクを・・・・・」

(切るよ。切らないと、料理にならないからね)

「そうなのか。今まで、生でぶちこんでも料理になると思っていた」

(さぁ、切ろう)

「ああ」

ズダン!

その包丁さばきに、東洋の浮竹がびっくりした。

(そ、そんなに豪快に刻まないで、もっと小さく切って)

「こ、こうか?」

「浮竹が・・・・あの浮竹が、ちゃんと料理してる!」

西洋の京楽は、涙を流していた。

(そんなに驚くことなの、西洋のボク)

「僕が指導してきても、マンドレイクを刻まなかったあの浮竹が、マンドレイクを刻んでる!」

マンドレイクは、刻まれるたびに悲鳴をあげていたが、細切れにされると何も言わなくなった。

一方、西洋の京楽も西洋の京楽と一緒に、マンドレイクを使ったビーフシチューを作り始めた。

(人参はそれくらいで。うん、いいかんじ。やればできるじゃないか)

「そ、そうか?」

(あとは、刻んだ野菜を鍋に入れて、柔らかくなるまで煮込もう)

「なんだか一緒に料理するのって、照れるな」

(でも、楽しいでしょ?)

「ああ、楽しい。料理をするのが楽しく感じたなんて、生まれてはじめてだ」

(西洋の春水は、こっちの俺に料理を教えるのが下手なんだな)

「ぎくっ」

西洋の京楽は、野菜を煮込みながら強張った。

(ほら、続きするよ。固まってないで)

「あ、ごめん」

東洋の京楽に急かされて、西洋の京楽も動くのだった。

煮込んで柔らかくなった野菜に、キャベツを足してまた煮込む。

最後に塩コショウで味つけして、出来上がった。

「早速、味見してみよう」

(そうだな)

「ん、うまい!いつもよりうまい!さすがだな、東洋の俺!」

(西洋の俺も、やればできるじゃないか)

「ほとんどをお前がしてくれただろう」

(ううん、共同作業だ。やればできるじゃないか)

東洋の自分に褒められて、西洋の浮竹は赤くなった。

「こっちもできたよ~」

(マンドレイクを刻んでいれたビーフシチューだよ)

匂いをかいで、西洋と東洋の浮竹は、お腹を鳴らした。

それに、二人そろって真っ赤になる。

「少し早いけど、夕飯にしよう」

(そうだね。出来立てを食べるのが一番おいしいからね)

西洋と東洋の京楽の言葉に、西洋と東洋の浮竹が頷いた。


ダイニングルームにうつり、それぞれ皿にビーフシチューと野菜スープを盛る。

「いい匂いだな。さすが京楽のコンビだけあるな」

(うん、匂いからしておいしそう。でも、俺たちの野菜スープも負けてないぞ)

まずはビーフシチューを頬張り、西洋と東洋の浮竹は、ふにゃりとなった。

「肉が柔らかくて美味しい」

(このまったりしたルーの味がたまらない)

「そうだ、俺たちの作った野菜スープも、食べてくれ」

(うん。西洋の俺も頑張って作ったんだぞ)

「どれどれ・・・・・」

まず、西洋の京楽が野菜スープを一口飲んで、涙を流していた。

「あの浮竹が、たとえ指導があったとしても、こんなおいしいものを作るなんて!」

「京楽、大げさだろう」

「浮竹、やればできるじゃない」

「東洋の俺のお陰だ」

(うん、ほんとに美味しくできてるね)

東洋の京楽に褒められて、西洋の浮竹は赤くなった。

「お前から褒められると、一番照れるな」

(春水のお墨付きだ。もっと誇ってもいいんだぞ、西洋の俺!)

「ああ。これからは、俺もマンドレイクはちゃんと刻んで料理する。東洋の俺のお陰で、料理するのが楽しく感じれた」

(それはよかった)

(うん、本当に)

「あの浮竹が・・・・」

「しつこい」

まだ涙を流して嬉しがっている、西洋の京楽を、ハリセンで赤くなりながら、西洋の浮竹が殴った。

「お陰で、美味しい夕食が楽しめた。ありがとう」

(こっちこそ。こんな機会があって、嬉しかった。ちゃんとやればできているからその調子でやってくれ。お前はやればできる子だから!)

東洋の浮竹は、西洋の浮竹の肩をがしっと握った。

西洋と東洋の京楽は、お互いに握手しあっていた。

「マンドレイクも、ちゃんと調理すれば食べられるのが分かったよ」

(元々は野菜でしょ、あれも)

「まぁ、分類するなら野菜かな」

その日の晩は、東洋の浮竹と京楽は、古城に泊まって次の日の朝に帰っていった。

「京楽、引っこ抜いたマンドレイクの畑に、苗を植えるぞ。また、美味しいマンドレイクを育てよう」

「うん、そうだね」

西洋の浮竹は、その日からたまに、西洋の京楽の料理の手伝いをするようになるのであった。


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