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始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝

「遊びに来たぞ」

「やっほー。遊びにきたよー」

(西洋の俺!元気にしてたか!)

(西洋のボクも、元気にしてた?)

雑居ビルの狭い部屋に、4人が並ぶ。狭いのに余計狭く感じれたが、楽しいからそんなことどうでもいいのだ。

(そうそう、また幽霊退治を依頼されてな)

東洋の浮竹の言葉に、西洋の浮竹は固まった。

「じゃあ、この前みたいに成仏させにいく?」

のりのりの西洋の京楽の首を、西洋の浮竹が締め上げる。

「お前、俺が幽霊とか悪霊とか、そういうの苦手なの知ってて、わざとやっているのか?」

「キブギブ!!苦じい”~~~」

西洋の京楽の首を解放すると、西洋の浮竹はつーんと違う方向を向いた。

(俺たちがついているから、大丈夫だ!)

(そうそう。いざとなればうちの十四郎が調伏できるし)

「お留守番、というわけにはいかないのか」

(せっかくきたんだし、一緒に行こう。きっと、幽霊も怖くなくなる)

「本当だな?怖かったら、10円はげこさえるぞ?」

(何それ!そっちのほうが怖いんですけど!!)

東洋の京楽の言葉に、みんな笑うのだった。


----------------------------------------------------------

(ここが、幽霊の出る場所・・・・って、早速でてるな)

男の幽霊だった。男性に憑依しては、道端を歩く女性に話しかけて、ナンパして振られていた。

「ちっ、もっとイケメンはいねーのかよ」

そこに、西洋の京楽と視線があった。

(いけない!)

「ふへへへ。この体は俺もんだ」

(この、憑依したな。無理やりでも調伏してやる)

「へぇ。俺の京楽に霊が憑りついたのか。物質に力でも効くんなら、容赦しなくてもいいな?」

(おーい、西洋の俺?)

「行きかう先々で、かわいい女の子みてニマニマしやがって!制裁してくれる!」

「ぎゃあああああ!!なんだこの体の持ち主、何をしたんだ!!」

(春水、止めなくていいのか?)

(そういう十四郎こそ、止めなくていいの?)

東洋の浮竹と京楽は、引いていた。

「ひいいい。俺が悪かった、成仏するから助けてくれえええ」

西洋の京楽に憑依していた男性の霊は、本当に成仏してしまった。

(あ、成仏しちゃった)

(ボクたちがきた意味、なくなちゃったね)

とりあえず、結界をはって、もう霊が戻ってこないようにした。

「幽霊はどこだ?」

「浮竹、僕が憑依されてたんだよ。酷いよ、ボコボコにしなくてもいいじゃない」

(霊は、成仏したぞ)

「え、まじか」

(まじで)

「じゃあ、帰るか」

帰ろうとする西洋の浮竹を、東洋の浮竹ががしっとその肩を掴んだ。

(さっきのは、ついでに依頼されていた霊だった。本物はあっちだ)

廃墟の病院があった。

窓から、明らかに人ならざる者がこっちを見つめてきていて、西洋の浮竹は東洋の浮竹の腕に縋りついた。

「な、なんかこっち見てる!」

(地縛霊だね。あの廃病院から動けないんだ。ここ最近、ここで事故が多発してる。あいつのせいだ)

(早く除霊しないと、怨霊になっちゃいそうだね。急ごう)

「はうあっ」

また幽霊と目があって、西洋の浮竹は軽く意識を飛ばして、西洋の京楽に支えられる。

(強い怨念があるね。とりあえず、中にはいろう)

ぴしっパリン。

硝子の壊れる、ラップ音が鳴り響く。

かたかたと、地面に転がった薬品の空の瓶が宙を舞う。

「簡便してくれ!俺はこういうのが一番苦手なんだ!」

西洋の浮竹は、東洋の浮竹の背後に隠れる。

「呪ってやる。あの医者の男、許さない。よくも妻がいることを黙っていたわね!許さない!」

(あー。痴情のもつれか。ああいうのは悪霊になりやすい)

「東洋の俺、どうでもいいから除霊だ!除霊してくれ!」

(まぁ、待って。ちょっと会話してみよう)

(ボクは反対だけどねぇ、こんな悪霊と会話したところで、普通に霊に戻ってくれるとは思えない)

「誰!そこにいるのは誰!!」

(君を退治しにきた。でも、怒りを鎮めてくれるなら、普通に成仏させてあげれる)

「成仏!?ばかじゃないの!あたしはあの男が来るまで、ずっとここにいるのよ!あの男が運転していた車だって事故らせてやったわ!殺せなかったけどね!」

女の地縛霊は、東洋の浮竹を見て、ついでに西洋の浮竹を見た。

「あなたのうちのどちらか一人が、あたしのものになるっていうなら、憎しみを捨ててやってもいいわ」

「君ごときにあげれるほど、僕の浮竹は安くないんでね」

(キミみたいな醜い女に、愛しい伴侶を渡す男がいるはずもない)

それぞれ京楽に抱き寄せられて、おでこにキスをされた。

西洋も東洋も、浮竹は顔を真っ赤にしていた。

「あたしをばかにしてるの!」

(君には、これがお似合いさ)

妖刀をだして、それで地縛霊の体を切る。

「あははは、あたしに物理攻撃がきくわけ・・・ぐっ、何をした!?」

(ちょっと瘴気を食っただけだよ。十四郎)

(分かった)

東洋の浮竹は、浄化の札を取り出して結界を張る。

「祓われる前に、お前を道連れにしてやる!!)

西洋の京楽の傍に隠れて怯えている、一番弱そうに見える西洋の浮竹に襲い掛かる。

(西洋の俺!)

「大丈夫だ。ちゃんと、浄化の護符を身に着けている。選別だ、受け取れ」

襲い掛かってきた幽霊に、小瓶の中の水をかけた。

「ぎゃああああああ!!痛い、苦しい!!」

「今だ、東洋の俺!」

(ああ、分かってる)

東洋の浮竹は、聖なる力を使って地縛霊を綺麗に除霊してしまった。

(怖いのに、よく地縛霊に相手をできたな?)

東洋の浮竹はしゃがみこんでいた。

「聖女の聖水をかけたんだが、こっちの世界でも効くみたいだ。それより・・・腰が抜けた。京楽、背負ってくれ」

「仕方ないねぇ」

西洋の浮竹をおんぶして、西洋の京楽は歩きだす。

ボコボコにしてもされても、二人の仲は良いのだ。

(なんか、仲が悪い時もあるように見えて、基本ラブラブなんだな)

「な、ラブラブなんかじゃないぞ!」

「浮竹、そんなに否定しなくてもいいじゃない。昨日、睦み合った仲でしょ」

「お前は余計なことを言うな」

背中におんぶした西洋の浮竹に首を絞められて、でも西洋の京楽は笑っていた。

「少し幽霊になれた気がする。少しだけだけど」

西洋の浮竹は、もう自力で歩けるからと、地面に立った。

(そうか。苦手なものを克服しようとするのは、いい心がけだぞ)

東洋の浮竹に頭を撫でられて、西洋の浮竹も東洋の浮竹の頭を撫でた。

(どうした?)

「いや、俺はお前の兄でありたいと思っているのに、今回もまたお前に助けられてばかりで情けない」

(そんなことないぞ。お前の強さを、俺も知っているからな?)

「俺も、お前の強さを知っている。鳳凰の技は、俺のエターナルフェニックス・・・炎の禁呪にとてもよく似ている」

(鳳凰と炎の不死鳥の違いはなんだろう?)

「ほとんど同じじゃないか?西洋か東洋かの違いだけで」

「浮竹、置いていくよ」

「待て、京楽!ああ、そうそう、おみやげを。マンドレイクの・・・・」

((却下))

「マンドレイクを乾燥させた茶葉なんだが・・・だめか?」

(茶葉なら、ぎりぎりセーフだな)

(そうだね。くれぐれも、生のマンドレイクを持ってこないように)

「生が欲しいなら、アイテムポケットに・・・・」

(わーわーわー、この世界じゃ生のマンドレイク禁止!乾燥させたやつもNG!)

「なのに、茶葉はいいのか?変なかんじだな」

西洋の浮竹は、乾燥させたマンドレイクの茶葉が入った瓶を、東洋の浮竹にあげた。

(あははは、もらっておくよ)

「こっちには、アッサムの最高級茶葉もある」

(そっちのほうがうれしいなぁ)

「そうか。じゃあこれもやる」

(十四郎、片方もつよ)

(じゃあ、この呪われてそうなマンドレイクの茶葉をもってくれ)

(本当に呪われてそう・・・)

マンドレイクの茶葉は、しなびているけれど、人間の顔をしていた。

「じゃあな、東洋の俺と京楽」

「おいていくよ、浮竹」

「待ってくれ、京楽!!」

歩き始めた西洋の京楽の背中を追って、西洋の浮竹の背中も小さくなってく。

(あのさ。この前もらった乾燥マンドレイク、まだ残ってるって言ったほうがよかっただろうか)

(でも、西洋の君ががっかりするでしょ)

(そうだな。しばらくは秘密にしておこう)

ちなみに、乾燥させたマンドレイクは、段ボールの中に入れっぱなしであった。

(この茶葉・・・お湯入れたら、悲鳴あげそうに見えるのは、気のせいだろうか)

(いや、気のせいじゃないでしょ。西洋の君は、本当にマンドレイクが好きだね)

(俺に言われてもな・・・・)

クスリと、東洋の京楽は笑みを零して、東洋の浮竹の額にキスを落とすのであった。


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