始祖なる者、ヴァンパイアマスター40
浮竹と京楽は、血の帝国にいた。
女帝ブラッディ・ネイが懐妊したというのだ。しかも、実の兄である浮竹の子を。
「兄様、ボクはついに兄様の子ができたよ」
愛おしそうに、平らな腹を撫でる実の妹に、浮竹はため息をはきながらも、神の涙といわれるエリクサーを飲ませた。
エリクサーはどんな状態異常や呪いも回復してくれる、奇跡の薬だ。
最高ランクのミスリルランクの錬金術士だけが調合できて、それでも成功率は5%くらいだった。
この前、錬金術用の館を何度も爆破させて、破壊してやっとできた1つだった。
「あれ・・・ボクはどうしていたの?」
「俺の子供を妊娠していたとか言い出してた」
「え、ボクが兄様の子を!?産みたい!」
ブラッディ・ネイは、浮竹にハリセンで頭を殴られていた。
「酷い、兄様」
「ばかな騒ぎを起こすからだ。そう思いこんだ元凶はなんだ?」
「誰かに洗脳されていたみたいだね。ブラッディ・ネイを洗脳するなんて・・・どんなやつだろうね?」
京楽の問いに、ブラッディ・ネイが答える。
「確か、女神アルテナとか言っていたかな。すごい美人だったけど、年をとっていたのでボクの好みには入らなかったけど、少しだけ会話をしたよ」
「女神アルテナだと!?他に何もされていないな、ブラッディ・ネイ!」
「兄様痛い、痛いってば」
「ああ、すまない」
まさか。女神アルテナがこの血の帝国にまで来るとは思っていなかった浮竹は、実の妹の体を隅から隅まで見渡した。
「どこも異常はないようだな」
「ボクをまるで珍獣のように見ないでくれないかな、ひげもじゃ」
「せっかく人が心配してあげてるのに・・・・」
「女神アルテナって、やばい存在なの?」
「目下、俺たちの敵だ」
「ええ!そんな存在なら、ボクもただじゃ返さなかったのに!」
ブラッディ・ネイが悔しそうな声をあげた。
「女神アルテナは、このアビスの世界を去ったはすだ。なのにまだこの世界にいるということは、サーラの世界で死んだか追放されて、このアビスの世界にやってきたってところか?」
「そういえば、真剣に女神アルテナについて、話し合ってなかったね」
「相手は女神。仮にも神だ。もしも魂を滅ぼさないと倒せないなら、今のところ封印するしか策はないな」
神という存在は、不確かな存在であるように見えるが、この世界には存在した。
ちゃんと肉体をもった生物として生きていた。
ただ、その持つ力は次元を超えており、生きる時間も不老不死に近い。
「そうだね。僕が女神アルテナを倒したのは、オリジナルに極めて近い、分身体だったからね」
「ああ。何処までダメージが本体にいったか分からないが、サーラの世界からこのアビスの世界にきたということは、深いダメージを負ったんだろう」
事実その通り、女神アルテナは創造神ルシエードの「滅びよ」というその言葉だけで肉体を灰にされて、この世界に魂だけとなってやってきた。
「ブラッディ・ネイ。今度から、女神アルテナという存在には気をつけろ」
「分かったよ、兄様。匂いを覚えたから、大丈夫。魂に神格があるから、独特の匂いがする。魂に神格があると言えば、兄様もなんだけどね」
「え、俺か?」
「そう。兄様、いつの頃からか魂に神格をもってる。その気になれば、神になれるよ」
「神なんかにはならない。そんな存在になりなくもないし、なりたいとも思わない。今の始祖というだけでも俺には重い」
神の愛の呪いの不老不死。
死ねない時を、浮竹は生きている。もう、8千年も生きている。
うち5千年を休眠して過ごした。孤独に耐えきれずに。
今は血族の京楽もいるし、幸せだった。
藍染がいなければ、もっと幸せな人生を送れていただろうが。
「じゃあ、俺たちは古城に戻る。何かあったら、式を飛ばしてくれ」
「分かったよ、兄様」
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古城に戻ると、浮竹は錬金術をやりはじめた。
大量に金をつぎ込んで買ってきた、エリクサーの材料を手に、錬金術で使っている館で調合をして失敗し、館を爆発させていた。
同じ館で、4回爆発を起こし、焦げ気味になって、浮竹は京楽の傍にやってきた。
「どうしたの、浮竹!ボロボロじゃない!まさか敵襲!?」
「落ち着け。錬金術でエリクサーを作っていただけだ」
「エリクサーの調合って、そういうえば難しいって言ってたね。成功したの?」
覗き込んでくる京楽を押しのけて、ソファーに静かに座る。
「25回分チャレンジして、2本やっとできた。赤字だな」
「まぁ、念のために使う分でしょ?ストックはないの?」
「ストックの最後の一個を、ブラッディ・ネイに使ったからな。だから新しく調合していたんだ」
「浮竹、君の綺麗な白い髪が焦げちゃってるよ」
「京楽、血をよこせ」
京楽は、手を差し出した。
それに噛みついて、京楽の血を啜ると、焦げた髪は元に戻った。
「着替えてくる。今着ている服は処分しておいてくれ」
「この服、高かったのに」
一着で金貨200枚もする、高級な絹をつかった金糸の刺繍が至る所にされている、衣服だった。
上下セットで金貨250枚だ。
金は腐るほどあるので、浮竹は気にしなかったが、京楽は処分が決まった服が好きで、その服を着ている浮竹は、本物の皇族のように気品があって、かっこよいと思っていた。
もっとも、今では浮竹だけでなく京楽も、勇者王として皇族に叙されているが。
浮竹は、着替えてきた。
今度は黒いラフな格好だったが、灰色のマントを背中から左肩、それに胸にかけて、垂らせていた。
マントを背中から左肩、それに胸にかけて垂らすのは、血の帝国の皇族の証である姿だった。
「少し、猫の魔女乱菊のところに行ってくる」
「ああ、僕もいくよ」
「じゃあ、お前も正装しろ。俺のようにマントを羽織れ」
「どうして?」
京楽が首を傾げる。
「猫の魔女乱菊に、血の帝国の皇族として、正式に依頼がある」
「分かった。じゃあ、僕も着替えてくるよ」
京楽が、皇族の姿をするのはこれで二度目であった。一度目は、勇者王として、ブラッディ・ネイに皇族に叙された時、正装をしていた。
「やっぱり、お前には似合っているな、そのかっこ」
「浮竹ほどじゃないよ。浮竹ってば、僕と違ってラフな格好してるのに、マントを羽織るだけで気品が溢れてるよ」
「まぁ、生まれつき皇族で、昔は白哉の地位の皇族王もしていたからな」
やがて乱菊のところまでくると、乱菊は快く迎えてくれた。
「乱菊、今回は血の帝国の皇族として依頼しにきた」
「あら、どうしたの、改まって」
「今戦っている相手が、俺の妹に接触してきた。今後、その存在が血の帝国に立ち入れられない魔道具が欲しい。錬金術で作ってくれ」
「いいけど、相手の何かが必要よ?」
乱菊は、やや険しい顔をした。
「ここに、このアビスの世界にいた、女神アルテナの分身体の血がある。これで足りるか?」
「女神!また厄介な相手と戦っているのね。分かったわ、その依頼引き受けるわ。女神アルテナが、血の帝国にこなけばいいのね?」
「ああ」
「頼むよ、乱菊ちゃん。血の帝国には、浮竹の妹のブラッディ・ネイを始めとして、白哉クン、恋次クン、ルキアちゃん、一護クン、冬獅郎クンといった友達がいっぱいいるんだ。利用されでもしたら、大変なんだよ」
京楽の言葉に、乱菊は頷いた。
「あたしの力の限りを注いで、成功してみせるわ」
「頼む。俺は薬系統の錬金術は得意なんだが、魔道具に関してはいまいちなんだ」
「あら、浮竹さんはミスリルランクなのに、魔道具の錬金が苦手なのね?うふふ、意外な弱点みつけちゃって、ちょっと嬉しいわ」
「報酬は、大金貨2万枚」
「わお。さっそく、とりかからなくちゃ」
忙しく動き出す乱菊の邪魔をしないように、二人は古城に戻っていった。
マントを外して、浮竹はソファーにごりとだらしなく横になる。
「皇族として振る舞うのは嫌いだ。肩がこる」
「僕も、嫌だねえ。慣れないよ」
京楽もマントを外して、浮竹の白い髪を撫でた。
その日は早めに夕食をとり、浮竹は前回京楽とアリスと一緒に踏破したS級ダンジョンで手に入れた、賢者メイエドの遺産の本を読んでいた。
「賢者メイエドはすごいな。67歳までしか生きなかったのに、精霊王を3人も若い頃から従ええいたそうだ」
「浮竹だって、炎と氷の精霊王を従えているでしょ?それに、きっとその気になれば、今の魔力なら、8人の精霊王を従えられると思う」
「賢者メイエドの凄いところは、人間であったところだ。俺は始祖ヴァンパイアでここまで魔力が高くなるのに8千年もかかった。だが、賢者メイエドは、僅か13歳にして王都の賢者となり、3人の精霊王を従えていた」
浮竹は、賢者メイエドの手記を読んでいた。
「それに、知らない魔法をお陰でいくつか習得できた」
「良かったね」
「ああ。ミミックに齧られなかったのは寂しいが」
「問題はそこなの!?」
京楽が、ベッドの上で寝転がりながら賢者メイエドの手記を読んでいる浮竹に、つっこんでいた。
「ああ、そういえば今日はポチにドラゴンステーキをやるのを忘れていた。あげてくる」
「僕も行くよ、浮竹。魔王の元から帰ってきた時のポチの怒りはすごかったからね。半月も古城を留守にしていたから」
「ポチーーー」
「るるるる!るるるるーーー!!」
ポチは浮竹のところにやってくると、浮竹にかみついた。
「狭いよ暗いよ怖いよ息苦しよーー」
「もー、何やってんの、浮竹」
京楽に救出してもらいながら、浮竹はアイテムポケットからドラゴンステーキをだした。
「るるる♪」
ポチはそれを丸かじりすると、ねぐらとして決めている暖炉に中に戻ってしまった。
その日は、そのまま就寝した。
次の日の朝、ピリリリリと警戒音がなった。
「侵入者だ。庭にいこう」
庭は、何度か侵入者を迎え入れたので、クレーターができたりして荒れていた。ただ、古城に面したプランターには、東洋の浮竹と京楽からもらった桔梗の花が綺麗に咲いていた。
「おとうさまのために、きました。僕はレキ」
「私はサニア」
「「死んで?」」
二人は、はもりながら、浮竹を攻撃してきた。
それは、銃というにはあまりにも巨大で、あまりにも弾が早かった。
ガトリングガン。
サーラの世界で、戦争に使われる兵器だった。
「浮竹!!」
いきなり攻撃に、もろに弾丸を浴びた浮竹は、浅い呼吸を繰り返しながら傷を癒していく。
「こっちだよ!」
京楽は、わざと的になるために、レキとサニアの前に立った。
「死んで?」
レキがガトリングガンを放つ。そのガトリングガンは、レキの右腕についていた。
ドガガガガ。
鋭い弾丸を血の炎で燃やし、京楽は伸ばすた血の刃でレキの右腕を切り離した。
「無駄無駄無駄!」
レキの手には、またガトリングガンが生えてくる。
「こいつ!」
京楽は瞳を真紅に変えて、レキの首をはねた。
「あれ、ぼくの首が・・・・・」
「まだ死なないのかい!」
「京楽、気をつけろ。そいつら、俺の血を持っている。ヴァンパイアロード並みの再生力があるぞ!」
浮竹の言葉に、京楽は本気モードになった。
「「死んで?」」
「君たちが、死ぬといいよ。浮竹を傷つけた報いを、受けてもらうよ!」
京楽は、ニタァと笑った。
京楽は、見よう見まねで、血でガトリングガンを作り出すと、一気に射撃した。
「うわああああ!!」
「きゃあああああ!!」
着弾した弾は、血の炎となって、二人を燃やしていく。
「浮竹、お札を!」
浄化のお札を使うと、二人が身にまとっていた再生能力の元である、浮竹の血が浄化されて、レキとサニアは火だるまなって転げまわった。
「最後の手よ!」
「危ない、浮竹!」
サニアは、火だるまのまま素早く動いて、浮竹の元で自爆した。
「浮竹ーーーー!!」
「げほっ、げほっ。俺は大丈夫だ」
煙の中から、浮竹が現れた。
大丈夫だと言いながら、血を吐いていた。
上半身の一部が吹き飛ばされていた。
「まさか、自爆してくるなんて」
ただの肉塊になったサニアを見る。
「今、僕の血で癒すから!」
京楽は、自分の血の刃で手首を切ると、あふれ出す血を浮竹に注いだ。
「今回は、苦戦したな」
「まさか、あんか火器や自爆するとは思わなかったよ」
浮竹は吹き飛んだ上半身の再生を完了した。
「お前の血が、勿体ない」
まだ流れ続けている京楽の血を、浮竹は口にした。
「甘い・・・・・」
京楽は、切った手首の傷を癒した。
「京楽、もっと血をくれ」
「人工血液飲んでからね」
浮竹と京楽は、人工血液を口にして、それを己の血に変換した。前までは浮竹しかできなかったが、再覚醒後の京楽もできるようになっていた。
京楽の血液を、浮竹は飲んでいく。
やがて満足したのか、瞳を真紅にした浮竹が、京楽に白い喉を差し出してきた。
「お前も吸え。おまえは人工血液だけではだめだろう。俺の血を吸え」
京楽は、ごくりと唾を飲んだ。
浮竹の日に焼けていない肌が、日に照らされて白く輝いてみてた。
「じゃあ、もらうよ」
プツリと音をたてて、浮竹の白い喉に噛みついて、吸血した。
「んっ・・・・・」
浮竹は、さっき口にした京楽の血の色をした唇をぺろりと舐めた。
その仕草は妖艶で、京楽はそれが好きだった。
「京楽・・・」
浮竹は、濡れた瞳で京楽を見下ろした。
首に噛みついていたので、京楽のほうが今は頭が低かった。
「お前が欲しい・・・・・・」
耳元でそう囁かれ、京楽は浮竹を抱きあげて、寝室にまで運んでいく。
「んっ」
移動中の間に、京楽が浮竹の耳元を甘噛みした。
「あ、意地悪しないでくれ」
クスクスと、浮竹は笑う。
つられて、クスクスを京楽も笑った。
戦闘の後で血を見たというのに、浮竹は京楽を誘う。それに乗って、京楽も浮竹を自分のものにしようとしていた。
ベッドに降ろされると、浮竹の長い白髪がシーツの上に乱れた。
衣服を脱がされ、全裸にされると京楽も服を抜いだ。
良く鍛え抜かれた筋肉が見える。浮竹も薄いが筋肉はついていたが、どちらかというと華奢だった。
「あ、や・・・・・」
京楽が浮竹のものを口に含んで、奉仕してくる。
「やああああ」
浮竹は、京楽のテクニックの前で、吐精していた。
「お前は、こんなことばかりうまくなって・・・・」
「君に感じてもらいたいからね?」
ローションを手に取り、肌に馴染ませて浮竹の蕾に丹念に塗り込んでいく。
「あっ」
侵入してきた指を、気づけば締め付けていた。
「浮竹、もっと力を抜いて。リラックスして」
言われるままに、浮竹は力を抜く。
ずるりと指を引き抜いて、京楽は自分のもので浮竹を引き裂いていた。
「ああああ!!」
生理的な涙を滲ませる浮竹の涙を吸いあげて、京楽は動いた。
「ひああああ!!」
最奥と前立腺を的確にすりあげてくる京楽の熱に、浮竹はオーガズムでいきながら、自分の腹に欲望をぶちまけていた。
「あう!」
ごりっと最奥まで入ってきた京楽の熱を締め付けると、京楽は我慢できずに浮竹の胎の奥で熱を弾けさせていた。
何度も最奥を抉られて、浮竹はもう出すものがなくて、オーガズムでいきまくるばかりだった。
「あ、あああ・・・・・・・」
何度目のものかも分からぬ京楽の子種を体の奥で受け入れて、浮竹は意識を手放した。
----------------------------------------------
「浮竹・・・・・・僕は、君しかいらない。君さえいれば、他の全てを捨ててもいい」
まるで病んでいる京楽の言葉を、浮竹は微睡みの中で聞いていた。
「君が必要だというなら、この世界さえも手に入れよう」
まるで、藍染みたいなことを言う。
そのまま、浮竹の意識は闇に落ちていった。
ふと起きると、隣に京楽の姿がなかった。
ガウンを羽織り、逢瀬の名残を綺麗に拭われた体で、毛布を手に京楽の姿を探す。
京楽はベランダにいた。
珍しいことに、煙草を吸っていた。
「京楽」
「わ、びっくりした、浮竹。どうしたの」
「お前は、俺のためなら世界を手に入れてもいいと言っていたな」
「聞いてたの?」
京楽が困った顔をする。
「お前は、ああはなるな。藍染のようには」
「大丈夫。君が傍に居る限り、あんなふうに堕ちたりないよ」
「本当だな?」
持っていた毛布を、京楽の被らせた。
「浮竹!」
京楽が、浮竹を抱きしめていた。
「どうしたんだ、京楽」
「僕がどんなに醜くなっても、捨てないで」
「ばかか。血族のお前を捨てたりするものか!」
浮竹は、抱きついてくるく京楽の背中をなでて、頭を撫でた。
「お前が嫌だといっても、血族は解いてやらない」
「浮竹・・・・愛してるよ」
「ん、俺もだ」
京楽は煙草をもみ消して、被せられた毛布を浮竹に被せて、手を握りあって寝室に戻り、静かに眠りにつくのだった。
--------------------------------------------------------------------------
「さぁ、出ておいで、イザベル」
イザベルは、体を震わせていた。
12歳くらいの浮竹の姿をした少年が、試験官の中で震えていた。
「どうしたんだい、イザベル?」
「始祖が・・・その血族が、僕を殺そうとしている」
それは、未来を見る力だった。
「大丈夫だ。君は始祖とほぼ同じだ。年齢差はあるが、始祖と同じようになるように作った」
藍染の言葉は、矛盾していた。
始祖と同じように。
イザベルには神のような魔力もないし、神の愛の呪いの不老不死もなかった。
「僕は、行きたくない」
藍染は顔を歪めて、イザベルを折檻した。
「やめて、あなた!せっかくの最高傑作が、壊れてしまうわ」
女神アルテナに止められて、真っ赤な鮮血にまみれても、傷を再生していくイザベルに、藍染はこう囁く。
「始祖の浮竹か、血族の京楽か。どちらかを苦しめたら、君を自由にしてあげよう」
「本当に?本当に、父様」
イザベルは顔を輝かせた。
自由になれる。この仮初の命から、自由に羽ばたける。
「死した女神リンデルの魂を入れたのが間違いだったかしら」
女神アルテナは、ため息を零す。
「リンデルは、僕だよ」
「いいえ、あなたはイザベル。リンデルの魂を、神格を魂に宿させた、ヴァンパイア」
「神格?よくわからない」
「いいこと。自由になるには、その魂が神であることを利用なさい。いざとなればアストラル体になれるはず」
女神アルテナがアストラル体、神の肉体になったように。
イザベルは、劣化版の浮竹のコピーだった。
けれど、その魂は神のもの。
神を滅ぼせる存在など、一握りだ。
その一握りの中に、始祖浮竹と血族京楽が入っているこを知らずに、女神アルテナは笑い続けた。
「神の怒りを買って、苦しむといいわ、浮竹、京楽。ほほほほほ!!」
女神アルテナの声が耳障りなので、イザベルは血の鎌を作って、女神アルテナの首をはねた。
「イザベル・・・ふふふ、それでいいのよ。さぁ、始祖浮竹とその血族京楽に、目に物をみせてやりなさい」
「自由になるために・・・・・・・僕は、始祖浮竹と血族京楽を、苦しめる」
血の波となって、魔国アルカンシェルを後にする。その血の波に飲み込また者は、血液を全て吸い取られて、ミイラのようなるのだった。
女帝ブラッディ・ネイが懐妊したというのだ。しかも、実の兄である浮竹の子を。
「兄様、ボクはついに兄様の子ができたよ」
愛おしそうに、平らな腹を撫でる実の妹に、浮竹はため息をはきながらも、神の涙といわれるエリクサーを飲ませた。
エリクサーはどんな状態異常や呪いも回復してくれる、奇跡の薬だ。
最高ランクのミスリルランクの錬金術士だけが調合できて、それでも成功率は5%くらいだった。
この前、錬金術用の館を何度も爆破させて、破壊してやっとできた1つだった。
「あれ・・・ボクはどうしていたの?」
「俺の子供を妊娠していたとか言い出してた」
「え、ボクが兄様の子を!?産みたい!」
ブラッディ・ネイは、浮竹にハリセンで頭を殴られていた。
「酷い、兄様」
「ばかな騒ぎを起こすからだ。そう思いこんだ元凶はなんだ?」
「誰かに洗脳されていたみたいだね。ブラッディ・ネイを洗脳するなんて・・・どんなやつだろうね?」
京楽の問いに、ブラッディ・ネイが答える。
「確か、女神アルテナとか言っていたかな。すごい美人だったけど、年をとっていたのでボクの好みには入らなかったけど、少しだけ会話をしたよ」
「女神アルテナだと!?他に何もされていないな、ブラッディ・ネイ!」
「兄様痛い、痛いってば」
「ああ、すまない」
まさか。女神アルテナがこの血の帝国にまで来るとは思っていなかった浮竹は、実の妹の体を隅から隅まで見渡した。
「どこも異常はないようだな」
「ボクをまるで珍獣のように見ないでくれないかな、ひげもじゃ」
「せっかく人が心配してあげてるのに・・・・」
「女神アルテナって、やばい存在なの?」
「目下、俺たちの敵だ」
「ええ!そんな存在なら、ボクもただじゃ返さなかったのに!」
ブラッディ・ネイが悔しそうな声をあげた。
「女神アルテナは、このアビスの世界を去ったはすだ。なのにまだこの世界にいるということは、サーラの世界で死んだか追放されて、このアビスの世界にやってきたってところか?」
「そういえば、真剣に女神アルテナについて、話し合ってなかったね」
「相手は女神。仮にも神だ。もしも魂を滅ぼさないと倒せないなら、今のところ封印するしか策はないな」
神という存在は、不確かな存在であるように見えるが、この世界には存在した。
ちゃんと肉体をもった生物として生きていた。
ただ、その持つ力は次元を超えており、生きる時間も不老不死に近い。
「そうだね。僕が女神アルテナを倒したのは、オリジナルに極めて近い、分身体だったからね」
「ああ。何処までダメージが本体にいったか分からないが、サーラの世界からこのアビスの世界にきたということは、深いダメージを負ったんだろう」
事実その通り、女神アルテナは創造神ルシエードの「滅びよ」というその言葉だけで肉体を灰にされて、この世界に魂だけとなってやってきた。
「ブラッディ・ネイ。今度から、女神アルテナという存在には気をつけろ」
「分かったよ、兄様。匂いを覚えたから、大丈夫。魂に神格があるから、独特の匂いがする。魂に神格があると言えば、兄様もなんだけどね」
「え、俺か?」
「そう。兄様、いつの頃からか魂に神格をもってる。その気になれば、神になれるよ」
「神なんかにはならない。そんな存在になりなくもないし、なりたいとも思わない。今の始祖というだけでも俺には重い」
神の愛の呪いの不老不死。
死ねない時を、浮竹は生きている。もう、8千年も生きている。
うち5千年を休眠して過ごした。孤独に耐えきれずに。
今は血族の京楽もいるし、幸せだった。
藍染がいなければ、もっと幸せな人生を送れていただろうが。
「じゃあ、俺たちは古城に戻る。何かあったら、式を飛ばしてくれ」
「分かったよ、兄様」
----------------------------------------------------------------
古城に戻ると、浮竹は錬金術をやりはじめた。
大量に金をつぎ込んで買ってきた、エリクサーの材料を手に、錬金術で使っている館で調合をして失敗し、館を爆発させていた。
同じ館で、4回爆発を起こし、焦げ気味になって、浮竹は京楽の傍にやってきた。
「どうしたの、浮竹!ボロボロじゃない!まさか敵襲!?」
「落ち着け。錬金術でエリクサーを作っていただけだ」
「エリクサーの調合って、そういうえば難しいって言ってたね。成功したの?」
覗き込んでくる京楽を押しのけて、ソファーに静かに座る。
「25回分チャレンジして、2本やっとできた。赤字だな」
「まぁ、念のために使う分でしょ?ストックはないの?」
「ストックの最後の一個を、ブラッディ・ネイに使ったからな。だから新しく調合していたんだ」
「浮竹、君の綺麗な白い髪が焦げちゃってるよ」
「京楽、血をよこせ」
京楽は、手を差し出した。
それに噛みついて、京楽の血を啜ると、焦げた髪は元に戻った。
「着替えてくる。今着ている服は処分しておいてくれ」
「この服、高かったのに」
一着で金貨200枚もする、高級な絹をつかった金糸の刺繍が至る所にされている、衣服だった。
上下セットで金貨250枚だ。
金は腐るほどあるので、浮竹は気にしなかったが、京楽は処分が決まった服が好きで、その服を着ている浮竹は、本物の皇族のように気品があって、かっこよいと思っていた。
もっとも、今では浮竹だけでなく京楽も、勇者王として皇族に叙されているが。
浮竹は、着替えてきた。
今度は黒いラフな格好だったが、灰色のマントを背中から左肩、それに胸にかけて、垂らせていた。
マントを背中から左肩、それに胸にかけて垂らすのは、血の帝国の皇族の証である姿だった。
「少し、猫の魔女乱菊のところに行ってくる」
「ああ、僕もいくよ」
「じゃあ、お前も正装しろ。俺のようにマントを羽織れ」
「どうして?」
京楽が首を傾げる。
「猫の魔女乱菊に、血の帝国の皇族として、正式に依頼がある」
「分かった。じゃあ、僕も着替えてくるよ」
京楽が、皇族の姿をするのはこれで二度目であった。一度目は、勇者王として、ブラッディ・ネイに皇族に叙された時、正装をしていた。
「やっぱり、お前には似合っているな、そのかっこ」
「浮竹ほどじゃないよ。浮竹ってば、僕と違ってラフな格好してるのに、マントを羽織るだけで気品が溢れてるよ」
「まぁ、生まれつき皇族で、昔は白哉の地位の皇族王もしていたからな」
やがて乱菊のところまでくると、乱菊は快く迎えてくれた。
「乱菊、今回は血の帝国の皇族として依頼しにきた」
「あら、どうしたの、改まって」
「今戦っている相手が、俺の妹に接触してきた。今後、その存在が血の帝国に立ち入れられない魔道具が欲しい。錬金術で作ってくれ」
「いいけど、相手の何かが必要よ?」
乱菊は、やや険しい顔をした。
「ここに、このアビスの世界にいた、女神アルテナの分身体の血がある。これで足りるか?」
「女神!また厄介な相手と戦っているのね。分かったわ、その依頼引き受けるわ。女神アルテナが、血の帝国にこなけばいいのね?」
「ああ」
「頼むよ、乱菊ちゃん。血の帝国には、浮竹の妹のブラッディ・ネイを始めとして、白哉クン、恋次クン、ルキアちゃん、一護クン、冬獅郎クンといった友達がいっぱいいるんだ。利用されでもしたら、大変なんだよ」
京楽の言葉に、乱菊は頷いた。
「あたしの力の限りを注いで、成功してみせるわ」
「頼む。俺は薬系統の錬金術は得意なんだが、魔道具に関してはいまいちなんだ」
「あら、浮竹さんはミスリルランクなのに、魔道具の錬金が苦手なのね?うふふ、意外な弱点みつけちゃって、ちょっと嬉しいわ」
「報酬は、大金貨2万枚」
「わお。さっそく、とりかからなくちゃ」
忙しく動き出す乱菊の邪魔をしないように、二人は古城に戻っていった。
マントを外して、浮竹はソファーにごりとだらしなく横になる。
「皇族として振る舞うのは嫌いだ。肩がこる」
「僕も、嫌だねえ。慣れないよ」
京楽もマントを外して、浮竹の白い髪を撫でた。
その日は早めに夕食をとり、浮竹は前回京楽とアリスと一緒に踏破したS級ダンジョンで手に入れた、賢者メイエドの遺産の本を読んでいた。
「賢者メイエドはすごいな。67歳までしか生きなかったのに、精霊王を3人も若い頃から従ええいたそうだ」
「浮竹だって、炎と氷の精霊王を従えているでしょ?それに、きっとその気になれば、今の魔力なら、8人の精霊王を従えられると思う」
「賢者メイエドの凄いところは、人間であったところだ。俺は始祖ヴァンパイアでここまで魔力が高くなるのに8千年もかかった。だが、賢者メイエドは、僅か13歳にして王都の賢者となり、3人の精霊王を従えていた」
浮竹は、賢者メイエドの手記を読んでいた。
「それに、知らない魔法をお陰でいくつか習得できた」
「良かったね」
「ああ。ミミックに齧られなかったのは寂しいが」
「問題はそこなの!?」
京楽が、ベッドの上で寝転がりながら賢者メイエドの手記を読んでいる浮竹に、つっこんでいた。
「ああ、そういえば今日はポチにドラゴンステーキをやるのを忘れていた。あげてくる」
「僕も行くよ、浮竹。魔王の元から帰ってきた時のポチの怒りはすごかったからね。半月も古城を留守にしていたから」
「ポチーーー」
「るるるる!るるるるーーー!!」
ポチは浮竹のところにやってくると、浮竹にかみついた。
「狭いよ暗いよ怖いよ息苦しよーー」
「もー、何やってんの、浮竹」
京楽に救出してもらいながら、浮竹はアイテムポケットからドラゴンステーキをだした。
「るるる♪」
ポチはそれを丸かじりすると、ねぐらとして決めている暖炉に中に戻ってしまった。
その日は、そのまま就寝した。
次の日の朝、ピリリリリと警戒音がなった。
「侵入者だ。庭にいこう」
庭は、何度か侵入者を迎え入れたので、クレーターができたりして荒れていた。ただ、古城に面したプランターには、東洋の浮竹と京楽からもらった桔梗の花が綺麗に咲いていた。
「おとうさまのために、きました。僕はレキ」
「私はサニア」
「「死んで?」」
二人は、はもりながら、浮竹を攻撃してきた。
それは、銃というにはあまりにも巨大で、あまりにも弾が早かった。
ガトリングガン。
サーラの世界で、戦争に使われる兵器だった。
「浮竹!!」
いきなり攻撃に、もろに弾丸を浴びた浮竹は、浅い呼吸を繰り返しながら傷を癒していく。
「こっちだよ!」
京楽は、わざと的になるために、レキとサニアの前に立った。
「死んで?」
レキがガトリングガンを放つ。そのガトリングガンは、レキの右腕についていた。
ドガガガガ。
鋭い弾丸を血の炎で燃やし、京楽は伸ばすた血の刃でレキの右腕を切り離した。
「無駄無駄無駄!」
レキの手には、またガトリングガンが生えてくる。
「こいつ!」
京楽は瞳を真紅に変えて、レキの首をはねた。
「あれ、ぼくの首が・・・・・」
「まだ死なないのかい!」
「京楽、気をつけろ。そいつら、俺の血を持っている。ヴァンパイアロード並みの再生力があるぞ!」
浮竹の言葉に、京楽は本気モードになった。
「「死んで?」」
「君たちが、死ぬといいよ。浮竹を傷つけた報いを、受けてもらうよ!」
京楽は、ニタァと笑った。
京楽は、見よう見まねで、血でガトリングガンを作り出すと、一気に射撃した。
「うわああああ!!」
「きゃあああああ!!」
着弾した弾は、血の炎となって、二人を燃やしていく。
「浮竹、お札を!」
浄化のお札を使うと、二人が身にまとっていた再生能力の元である、浮竹の血が浄化されて、レキとサニアは火だるまなって転げまわった。
「最後の手よ!」
「危ない、浮竹!」
サニアは、火だるまのまま素早く動いて、浮竹の元で自爆した。
「浮竹ーーーー!!」
「げほっ、げほっ。俺は大丈夫だ」
煙の中から、浮竹が現れた。
大丈夫だと言いながら、血を吐いていた。
上半身の一部が吹き飛ばされていた。
「まさか、自爆してくるなんて」
ただの肉塊になったサニアを見る。
「今、僕の血で癒すから!」
京楽は、自分の血の刃で手首を切ると、あふれ出す血を浮竹に注いだ。
「今回は、苦戦したな」
「まさか、あんか火器や自爆するとは思わなかったよ」
浮竹は吹き飛んだ上半身の再生を完了した。
「お前の血が、勿体ない」
まだ流れ続けている京楽の血を、浮竹は口にした。
「甘い・・・・・」
京楽は、切った手首の傷を癒した。
「京楽、もっと血をくれ」
「人工血液飲んでからね」
浮竹と京楽は、人工血液を口にして、それを己の血に変換した。前までは浮竹しかできなかったが、再覚醒後の京楽もできるようになっていた。
京楽の血液を、浮竹は飲んでいく。
やがて満足したのか、瞳を真紅にした浮竹が、京楽に白い喉を差し出してきた。
「お前も吸え。おまえは人工血液だけではだめだろう。俺の血を吸え」
京楽は、ごくりと唾を飲んだ。
浮竹の日に焼けていない肌が、日に照らされて白く輝いてみてた。
「じゃあ、もらうよ」
プツリと音をたてて、浮竹の白い喉に噛みついて、吸血した。
「んっ・・・・・」
浮竹は、さっき口にした京楽の血の色をした唇をぺろりと舐めた。
その仕草は妖艶で、京楽はそれが好きだった。
「京楽・・・」
浮竹は、濡れた瞳で京楽を見下ろした。
首に噛みついていたので、京楽のほうが今は頭が低かった。
「お前が欲しい・・・・・・」
耳元でそう囁かれ、京楽は浮竹を抱きあげて、寝室にまで運んでいく。
「んっ」
移動中の間に、京楽が浮竹の耳元を甘噛みした。
「あ、意地悪しないでくれ」
クスクスと、浮竹は笑う。
つられて、クスクスを京楽も笑った。
戦闘の後で血を見たというのに、浮竹は京楽を誘う。それに乗って、京楽も浮竹を自分のものにしようとしていた。
ベッドに降ろされると、浮竹の長い白髪がシーツの上に乱れた。
衣服を脱がされ、全裸にされると京楽も服を抜いだ。
良く鍛え抜かれた筋肉が見える。浮竹も薄いが筋肉はついていたが、どちらかというと華奢だった。
「あ、や・・・・・」
京楽が浮竹のものを口に含んで、奉仕してくる。
「やああああ」
浮竹は、京楽のテクニックの前で、吐精していた。
「お前は、こんなことばかりうまくなって・・・・」
「君に感じてもらいたいからね?」
ローションを手に取り、肌に馴染ませて浮竹の蕾に丹念に塗り込んでいく。
「あっ」
侵入してきた指を、気づけば締め付けていた。
「浮竹、もっと力を抜いて。リラックスして」
言われるままに、浮竹は力を抜く。
ずるりと指を引き抜いて、京楽は自分のもので浮竹を引き裂いていた。
「ああああ!!」
生理的な涙を滲ませる浮竹の涙を吸いあげて、京楽は動いた。
「ひああああ!!」
最奥と前立腺を的確にすりあげてくる京楽の熱に、浮竹はオーガズムでいきながら、自分の腹に欲望をぶちまけていた。
「あう!」
ごりっと最奥まで入ってきた京楽の熱を締め付けると、京楽は我慢できずに浮竹の胎の奥で熱を弾けさせていた。
何度も最奥を抉られて、浮竹はもう出すものがなくて、オーガズムでいきまくるばかりだった。
「あ、あああ・・・・・・・」
何度目のものかも分からぬ京楽の子種を体の奥で受け入れて、浮竹は意識を手放した。
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「浮竹・・・・・・僕は、君しかいらない。君さえいれば、他の全てを捨ててもいい」
まるで病んでいる京楽の言葉を、浮竹は微睡みの中で聞いていた。
「君が必要だというなら、この世界さえも手に入れよう」
まるで、藍染みたいなことを言う。
そのまま、浮竹の意識は闇に落ちていった。
ふと起きると、隣に京楽の姿がなかった。
ガウンを羽織り、逢瀬の名残を綺麗に拭われた体で、毛布を手に京楽の姿を探す。
京楽はベランダにいた。
珍しいことに、煙草を吸っていた。
「京楽」
「わ、びっくりした、浮竹。どうしたの」
「お前は、俺のためなら世界を手に入れてもいいと言っていたな」
「聞いてたの?」
京楽が困った顔をする。
「お前は、ああはなるな。藍染のようには」
「大丈夫。君が傍に居る限り、あんなふうに堕ちたりないよ」
「本当だな?」
持っていた毛布を、京楽の被らせた。
「浮竹!」
京楽が、浮竹を抱きしめていた。
「どうしたんだ、京楽」
「僕がどんなに醜くなっても、捨てないで」
「ばかか。血族のお前を捨てたりするものか!」
浮竹は、抱きついてくるく京楽の背中をなでて、頭を撫でた。
「お前が嫌だといっても、血族は解いてやらない」
「浮竹・・・・愛してるよ」
「ん、俺もだ」
京楽は煙草をもみ消して、被せられた毛布を浮竹に被せて、手を握りあって寝室に戻り、静かに眠りにつくのだった。
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「さぁ、出ておいで、イザベル」
イザベルは、体を震わせていた。
12歳くらいの浮竹の姿をした少年が、試験官の中で震えていた。
「どうしたんだい、イザベル?」
「始祖が・・・その血族が、僕を殺そうとしている」
それは、未来を見る力だった。
「大丈夫だ。君は始祖とほぼ同じだ。年齢差はあるが、始祖と同じようになるように作った」
藍染の言葉は、矛盾していた。
始祖と同じように。
イザベルには神のような魔力もないし、神の愛の呪いの不老不死もなかった。
「僕は、行きたくない」
藍染は顔を歪めて、イザベルを折檻した。
「やめて、あなた!せっかくの最高傑作が、壊れてしまうわ」
女神アルテナに止められて、真っ赤な鮮血にまみれても、傷を再生していくイザベルに、藍染はこう囁く。
「始祖の浮竹か、血族の京楽か。どちらかを苦しめたら、君を自由にしてあげよう」
「本当に?本当に、父様」
イザベルは顔を輝かせた。
自由になれる。この仮初の命から、自由に羽ばたける。
「死した女神リンデルの魂を入れたのが間違いだったかしら」
女神アルテナは、ため息を零す。
「リンデルは、僕だよ」
「いいえ、あなたはイザベル。リンデルの魂を、神格を魂に宿させた、ヴァンパイア」
「神格?よくわからない」
「いいこと。自由になるには、その魂が神であることを利用なさい。いざとなればアストラル体になれるはず」
女神アルテナがアストラル体、神の肉体になったように。
イザベルは、劣化版の浮竹のコピーだった。
けれど、その魂は神のもの。
神を滅ぼせる存在など、一握りだ。
その一握りの中に、始祖浮竹と血族京楽が入っているこを知らずに、女神アルテナは笑い続けた。
「神の怒りを買って、苦しむといいわ、浮竹、京楽。ほほほほほ!!」
女神アルテナの声が耳障りなので、イザベルは血の鎌を作って、女神アルテナの首をはねた。
「イザベル・・・ふふふ、それでいいのよ。さぁ、始祖浮竹とその血族京楽に、目に物をみせてやりなさい」
「自由になるために・・・・・・・僕は、始祖浮竹と血族京楽を、苦しめる」
血の波となって、魔国アルカンシェルを後にする。その血の波に飲み込また者は、血液を全て吸い取られて、ミイラのようなるのだった。
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