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始祖なる者、ヴァンパイアマスター44

「東洋の俺と京楽は、何しにきたんだ?」

(ん、ちょっと用事があってね)

(うん、そうなんだ)

「詳しくは話せないのか?」

(キミたちを巻き込みたくないからね)

古城のダイニングルームで、東洋の浮竹と京楽は、西洋の京楽が入れてくれた紅茶を飲んでいた。

ちなみに、存在が魔神になってしまった西洋の京楽に、東洋の浮竹は本能的に怯えて、東洋の京楽の服の裾をずっと握っていた。

「そっちの浮竹を、随分怖がらせてしまっているようだね。でも僕は魔神。この存在はもう変えれないんだ、ごめんね」

(いや、ただ本能的に怖いだけだから・・・・)

話しかけられて、びくっとするものの、嫌われてはいないようなので、西洋の京楽は安堵する。

「京楽、その禍々しい魔力を少し抑えたらどうだ」

どうやら、西洋の京楽は、魔神としての力をダダ漏らしにしていたようで、西洋の浮竹の言葉を受けて、魔力を小さくした。

「うん、いい感じだ。どうだ、東洋の俺?」

(ああ、うん。大分ましになった)

東洋の京楽の服の袖を離して、東洋の浮竹はまだ西洋の京楽が怖いようだが、笑顔を見せるようになってくれた。

「お茶会をしようか」

(そんな気分じゃないんだけどね)

「何事にもリラックスは必要だ」

(うん、春水、こっちの俺の言葉に甘えよう)

「京楽、紅茶のお替わりを。ついでに焼いたクッキーが残っていただろう。あれを茶菓子にもってきてくれ」

「ああ、わかったよ」

東洋の浮竹は、魔神となっても、あの禍々しさを持っていても、あくまで西洋の京楽を、血族でありただ一人の伴侶して扱う西洋の浮竹に、ある意味驚いていた。

紅茶のお替わりを飲んで、クッキーを口にして、東洋の浮竹と京楽はすっかりその場の空気に馴染んでいた。

「それで、お前たちの敵は・・・まぁいい。せっかくきたんだ。魔物討伐の依頼が舞い込んでいてな。古代種のヒドラなんだそうだ。一緒に、討伐してみないか?」

(いいのか、東洋の俺)

「ああ、構わない。ストレスの発散くらいには、なるだろう」

(十四郎、いいの?)

(敵はそうそう逃げたりしない。別にいいだろう)

「じゃあ、話は決まったから、出発だね」

西洋の京楽は、何か巨大な絨毯を床に広げた。

「これには、永続的な魔法がかかっていてね。魔力がない人間でも、空を飛べるんだよ」

(うわぁ、本当だ。見ろ春水、絨毯が宙を浮かんでいる)

(変わった魔道具だね。いくらしたの)

「大金貨100枚」

(よくわからないけど、すごい大金なんだろうね)

「はした金だ」

西洋の浮竹のいう、はした金の相場が分からいので、東洋の二人はつっこみは入れなかった。

空飛ぶ絨毯に乗って、一向は依頼のあったモンスターを退治しに、山奥の寂れた廃村にやってきた。

廃村の奥には、ダンジョンがあって、そのダンジョンの入り口に、依頼書のモンスターはいた。

「古代種のヒドラ。弱手は光か炎だ」

(闇や影は効くのかい?)

「ああ、効くと思うぞ。弱点ではないが。ゴッドフェニックス!」

西洋の浮竹は、炎の最高位精霊フェニックスを呼び出すと、ヒドラに向かって放った。

「ぎゃおおおおお!」

ヒドラの首の一つが消滅する。

((燐光晦冥蛇毒!!))

東洋の二人は、それぞれ白蛇と黒蛇を出すと、毒で攻撃した。

「あ、だめだ、毒は!」

((へ?))

「あーあ。回復しちゃったよ」

西洋の京楽が、やらかしたとばかりに言う。

(毒を吸収するのか!)

(毒が効かないんだね!)

ヒドラのもげていた首が、再生していた。

「エターナルフェニックス!!!」

西洋の浮竹は、永遠の業火を纏う不死鳥を呼び出し、それをヒドラに向かって放つ。

「ぎゃおおおおお!!」

ヒドラの8つあった首のうち、3つが消しとんだ・

(西洋の俺、かっこいい・・・・)

東洋の浮竹は、声高々に高威力の魔法を連発する西洋の自分を見ていた。

「カイザーフェニックス!!」

またしても不死鳥が現れる。

(こ、これだ!!俺が見たかった始祖って言うのは!!)

目をキラキラさせる東洋の浮竹に、西洋の浮竹はもっとかっこいい姿を見せつけてやろうと、炎の精霊王を召還した。

「我が友。何用だ」

「あのヒドラを退治してくれ」

「あのような下等な魔物に我が手を下すまでもない」

そう言い残して、炎の精霊王は精霊界に帰ってしまった。

「ああああ!炎の精霊王め!」

西洋と東洋の京楽は、かっこつけようとした西洋の浮竹に呆れていた。

(ああ、もっとかっこいい姿が見れると思ったのに・・・・・)

東洋の浮竹は、しょんぼりしていた。

「東洋の俺と京楽も、攻撃していいぞ!」

(分かったよ)

(分かった)

(影流転蛇飛)

(光流転蛇飛)

それぞれ、影と水を模った巨大な蛇が現れて、ヒドラに巻き付いた。

((とどめを))

「「エターナルアイシクルワールド!!」」

西洋の浮竹と京楽は、それぞれ抑えていた魔力を解放して、力を合わせて氷の禁呪を使った。

パキパキと、ヒドラの体が凍てついて粉々に崩れていく。

(やった、倒せた!)

「クエスト達成だな。冒険者ギルドに報告して・・・・」

「なんだい!?まだ何かいるよ!」

(新しい敵かい?)

できたのは、真っ赤に燃え盛る鱗をもつ、巨大な竜族であった。

(わあ、ドラゴンだ!)

「なーにしてるのかな、恋次クン」

「その声は・・・・京楽さん?」

「恋次君、こんな廃村のダンジョンの入り口を守ったりして、何をしているんだ」

「浮竹さんもいるのか・・・・って、浮竹さんと京楽さんが二人!?」

「それはまぁ置いといて。この二人は俺たちの分身体みたいなものだ。それより、また、バイトか!」

浮竹がつっこみを入れた。

「あ、そうっす。この前のダンジョンで、浮竹さんと京楽さんを行かせてしまったから、ダンジョンマスターの古代エルフに、報酬の前借り大金貨3万枚のうち1万枚を返せっていわれて返して、足りない分をここの守護のバイトで賄ってたんす」

(こっちの世界の恋次くんはドラゴンなんだね?)

(俺たちの世界だと烏天狗だからな!)

「え、あ、そうっすか?なんかよくわからないけどどうも」

「いっそ、南の帝国に帰ったらどうだ?」

「それだけは嫌です。白哉さんの傍を離れたくない」

「愛しい者の傍を離れたくない・・・・その気持ち、分かるよ、恋次クン」

「京楽さん!」

感動している二人を放置して、西洋の浮竹と、東洋の浮竹と京楽は、開いてしまったダンジョンの入り口をみた。

「まだ作りかけのダンジョンか」

(すごい、なんか空間がうねってる)

「ダンジョンマスターの力だな。古代エルフか」

(うわ、風がすごい)

ダンジョンの入り口は、ぽっかり穴をあけた状態だった。

「まだ、そのダンジョンは完成してないんすよ。中に入ったら最後、どの空間に迷いこむのか分かないっすよ」

恋次の言葉に、東洋の浮竹と京楽はダンジョンの入り口から引き返してきた。

「面白い・・・・」

そう言って、なんと浮竹はダンジョンの入り口の穴に入ってしまった。

「浮竹!!!」

西洋の京楽の真上から、西洋の浮竹は降ってきた。

「重いんだけど」

「ここのダンジョンマスター、いい性格してるな。神に近い者はいらないって、俺を掴んで放り投げた」

「だから、重いって・・・・・・」

「京楽、このダンジョンが完成したら、一番乗りで攻略するぞ!」

「はぁ。分かったよ」

西洋の京楽は、東洋の浮竹を怖がらせないようにと、禍々しい魔力を潜めた。

(とりあえず、依頼は達成したでいいのか?)

(そうだね。恋次くんが敵じゃないとしたら、依頼は達成なんじゃない?)

「恋次君。俺たちと戦う意思はあるか?」

「神格を持った浮竹さんに、魔神の京楽さん相手じゃ、さすがの俺も負けると思うから、降参っす。ああ、またバイト料引かれる・・・・・」

(え?ドラゴンってバイトするのか?)

東洋の浮竹が、興味深々というようにドラゴン姿の恋次を見た。

「ドラゴンでも、バイトできますよ、この世界。ダンジョンのボスとか、けっこう時給がよくて俺はよくバイトして、白哉さんに貢いで、でも振り向いてもらえない・・・」

「恋次君、当たって砕けろだ!」

「いや、浮竹、砕けちゃだめでしょ!」

「とりあず、依頼はヒドラの駆除だったから、今度こそ冒険者ギルドに報告に行こう。東洋の俺たちは、目立つとまずいので、その空飛ぶ絨毯で先に古城に戻ってくれ」

(分かった)

(分かったよ)

東洋の浮竹と京楽は、一足先に古城に戻り、戦闘人形のメイドたちの許可を得て、夕食を作り始めた。

西洋の浮竹と京楽は、冒険者ギルドに行き、報告と報酬をもらって帰ってきた。

時間は夕方になっており、いい匂いがしてきて、西洋の浮竹と京楽はダイニングルームに来ていた。

(今日の夕食は、ボクらが作ったよ。ナポリタンだ)

(俺も手伝った。みんなで食べよう)

「うまいな。戦闘メイドが作るよりうまい」

(そりゃ、俺の春水の腕にかかれば、たとえマンドレイクでもうまい料理に早替わりだ)

「そういえば、またマンドレイクを収穫しなきゃいけないんだ。明日の朝、手伝ってくれるか?」

(いいけど、別に)

(俺は大丈夫だぞ)

「マンドレイクを抜くのって、腰が痛くなるよ?」

「この前は、腰痛を治す民間魔法をかけてやっただろう。あれで我慢しろ」

「はいはい」

ナポリタンをみんなで食べて、風呂に入り、それぞれ寝室とゲストルームに別れて寝た。

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「いい天気だな。絶賛のマンドレイク収穫日和だ!」

(ふあ~)

「東洋の俺、眠れなかったのか?」

(ううん。ちょっと、朝に弱いだけ)

「あ、それ分かるぞ。もっと寝たいのに、京楽のやつが起こしてくるんだ」

(そっちのボクも、十四郎の寝起きには苦労してるんだね)

「うん。僕の浮竹は、放置すると昼まで寝るから」

(昼まで!いくらなんでも寝すぎだよ!ボクなら、布団と毛布を引っぺがすね)

「浮竹は寝るの大好きだから。たまに昼まで寝かせることはあるけど、基本は9時起きだよ」

(9時。それならいいんだけど)

西洋の京楽は、ため息を漏らした。

「じゃあ、収穫するぞーー!」

(はーい)

(分かったよ)

「東洋の俺は右列から。東洋の京楽は左列から。俺と京楽は、中央からだ」

「ぎゃあああああ」

「ひいいいいい」

「人でなしいい」

「人殺しいいい」

叫びわめくマンドレイクを無視して、ひたすら収穫した。

「これが最後の一本だ」

「ふぎゃあああああ」

泣き叫ぶマンドレイクをひっこぬいて、その日の午前は終わった。

「ああ、これ報酬の金貨だ。4当分にしておいたから、受け取ってくれ。しばらくこっちにいるんだろう?」

(ああ、うん。ありがたくもらっておく。この世界の通貨もってきてなかったから)

(ボクも、もらっておくよ)

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ネヴァンはロッキングチェアに腰かけながら、血の帝国のことを思った。

クスクスと、ネヴァンは笑う。

京楽と浮竹。

その特異な性質をもつ二人のことを考えながら。



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