始祖なる者、ヴァンパイアマスター45
東洋の浮竹と京楽が去って、1か月が経とうとしていた。
「東洋の俺たち、元気でやってるかな」
「大丈夫じゃない?」
「帰りにマンドレイクもたせておきたかった」
浮竹は、マンドレイクが大好きだ。
中庭で栽培して、猫の魔女乱菊に売るくらいに。この前は、その収穫を東洋の浮竹と京楽にも手伝ってもらった。
「さて、今日は何をしよう?」
毎日が暇で暇で仕方ない。
悠久を生きる長命種族にとって、何もない毎日はとてもつまらないものだ。
「血の帝国に行ってみない?」
「そうだな。たまには愚妹の顔でも見に行くか」
こうして、浮竹と京楽は血の帝国に向かった。
「あ、兄様いいところに!」
ブラッディ・ネイが浮竹に近寄る。
「ひげもじゃは魔神になったんだっけ」
式で京楽の存在は魔神となったと前々から知らせていたお陰で、ブラッディ・ネイを初めとして、白夜、恋次、ルキア、一護、冬獅郎も、京楽に普通に接してくれた。
「兄様、ところで何しにきたの」
「お前の顔を見に来たとでもいえば、喜ぶか?」
「兄様がボクに会いに!愛を感じるね!」
ブラッディ・ネイはその場で浮竹を押し倒していた。
「ブラッディ・ネイ。それ以上するなら、僕が黙っていないよ?」
にーっこり笑う魔神に、ブラッディ・ネイは薄ら寒いものを感じて、浮竹から離れた。
「ちぇっ、ひげもじゃめ。ちょっと力が強くなったからっていい気になって。そのうち、兄様を奪い返してやるんだから!」
「噂で、血の帝国にもS級ダンジョンができたと聞いたんだが」
「ああ、確かにできたね。人間に開放していないから、まだほとんど踏破されてないよ」
それに浮竹が喜んだ。
「つまりは、宝は手付かずか」
「そうなるね」
京楽の言葉に、浮竹は顔を輝かせた。
「京楽、今すぐいこう。今すぐ!」
「ちょっと待ってよ、浮竹」
手を引っ張って、今すぐ出発しそうな浮竹に、京楽が待てと言う。
「白哉クン、恋次クン。良ければ、一緒にいかない?」
「何故だ。兄は、S級ダンジョンが好きなのであろう。わざわざ私を呼ぶ必要があるのか?」
「白哉さんが行くなら俺も行くっすよ!」
恋次はのりのりだった。
「いやぁ、僕と浮竹だけじゃあっという間にS級ダンジョン攻略しちゃうからね。たまには知人も誘って、賑やかにいこうと」
「つまり、足手まといが必要ということか」
「いや、全然そうじゃないんだよ。本当に、賑やかにいきたくてだね」
「よかろう。私とて皇族王のヴァンパイアロード。力ならそれなりにある」
白哉は、腰に下げた千本桜を撫でる。
「そうですよ!白哉さんは、始祖の竜帝である俺を倒すくらい強いんすから!」
「それ、誇れるところなのか、恋次君」
「あはははは・・・・・」
「そういえば恋次クン、南の帝国の皇帝はどうしたの?」
「ああ、ずっと毒殺とか暗殺ばっかされるんでやめました。今の俺は、白哉さんの守護騎士とダンジョンでたまにバイトしてるくらいっすかね」
恋次の爆弾発言に、浮竹も京楽も驚いていた。
「皇帝って、そんな簡単にやめれるものなの?」
「いや、俺の場合皇帝とは名ばかりで、実質政治を行ってるのは大臣たちだし、皇帝の座を狙っても毒殺や暗殺が後を絶たないし、やめちゃいました」
「まぁ、恋次君がそれでいいなら、いいんじゃないか。京楽、あまりつっこむな。恋次君がまいってしまうだろう」
「うーん。まぁ、好きな相手の傍にいたいのは分かるけど」
恋次は、白哉が好きだった。
何度好きといっても振り向いてもらえないが、守護騎士の座をゲットして、常に白哉の傍にいた。
「まぁ、4人分の食料と水を用意していこうか」
京楽の言葉に、白哉がアイテムポケットの中に枕を入れた。
「白哉さん、枕が変わると眠れないタイプなんすよ」
「そうなのか。始めて知ったぞ」
影でこそこそと、浮竹と恋次はやりとりをする。
「あ、俺もこれ入れとこう」
いつの日だったか、確か薔薇祭りで景品であたったブラッディ・ネイの抱き枕が嫌なので、隣の白哉のものに変えてくれと言って変えてもらい、それを浮竹が恋次に与えたのだ。
「その抱き枕、まだ愛用してるのか」
「これがないと、俺なかなか寝れないすよ」
「恋次・・・・」
白哉の声が冷たい。
「わああああ、白哉さん、昔許可もらったでしょう!それがこれっす」
「仕方ない。持っていくなら持っていけ」
白哉は知ったことじゃないとばかりに、恋次に背を向けた。
「わあ、白哉さんまってください!」
「なんか、初々しいね」
「そうだな。とりあえず準備はできたし、S級ダンジョンに出発するか」
竜化した恋次の背に乗って、1日かけてそのまだ踏破されていないS級ダンジョンにやってきた。
「これまたでかいな」
ぽっかりとあいた地下迷宮の入り口に、浮竹がこんなダンジョンを見るのは久しぶりだと、笑っていた。
大抵人の手が入り、ダンジョンの入り口は簡単に入れるようになっていた。
「恋次君、このままドラゴンの体で奥までいってくれないか」
「分かりました」
恋次はドラゴンの体でダンジョン第一階層に辿り着いた。
「人の手が入ってないってだけあって、自然のままっすね」
「恋次、後ろだ。数はおよそ20。前の敵は、私が迎え撃つ!」
ケルベロスの群れがでてきた。恋次は竜化を解いて人型になると、ドラゴンブレスを吐いた。ケルベロスは炎属性なので、氷のブレスを吐いた。
「散れ、千本桜・・・」
白哉は、もっていた刀を地面に突き刺した。
千本桜という名のその刀は、桜色の血の花びらを数億と生み出して、ケルベロスを屠っていった。
「白哉の技は、いつ見ても美しいな」
「ブラッディ・ネイの薔薇魔法には及ばぬが、血の帝国の中で3本の指に入るほど美しい技だと思っている」
何気に自信満々だった。
「じゃあ、この調子で最下層目指して進もう」
10階層にいくと、ボスとしてゴーレムがいた。ミスリル製で、魔法や武器が効きにくい。
「散れ、千本桜」
「白哉、ミスリル製だぞ!」
そんなことはどうでもよいのだとばかりに、白哉は千本桜の刃でゴーレムを切り刻んでいく。ミスリル製のはずなのに、千本桜の刃は効いていた。
「俺も負けないっす」
炎のドラゴンブレスを吐いて、恋次はミスリルの足を溶かして、地面と張り付かせた。
「なんか、今回は俺らの出番がなさそうだな」
「うーん。僕もちょっと攻撃してくる」
「あ、京楽!」
京楽は、ミスリル製のゴーレムを、魔剣ラグナロクで一刀両断していた。
「さすがは魔神。その力には恐れ入る」
白哉は素直に褒め称えた。
「いやぁ、それほどでもないよ」
「ドラゴンブレス!」
恋次は、わざと京楽に炎のブレスを浴びせた。無論、京楽はケロリとしていたが。
「もっと、白哉さんのかっこいいシーン見たかったのに!」
恋次は、怒るポイントがずれていた。
「分かったよ。今回は僕らはあくまでサポートに回るから。二人で敵をどんどんやっつけちゃって」
「いや、下層では私と恋次だけの力では足りぬ。その時は助力を頼む」
「分かったぞ、白哉。任せておけ」
ちなみに倒したゴーレムは、ミスリル製であるのでアイテムポケットに入れて持ち帰ることにした。
財宝の間が開く。
手つかずのせいか、金銀財宝の量がおおかった。
「たったこれだけか」
大金貨3万枚はくだらないであろう財宝に、白哉は不満気であった。
皇族王として、皇族の中でもブラッディ・ネイに次ぐ力を持っている白哉は、大金持ちだった。
「お、宝箱!」
「ああ、浮竹、白哉クンと恋次クンの前だよ!」
「それでも俺はいく!暗いよ~怖いよ~狭いよ~息苦しいよ~~~」
「京楽、あれは何をしているのだ」
上半身をミミック食われて、下半身でジタバタしている浮竹を、白哉は冷めた瞳で見ていた。
「ああ、白哉クンは見るの初めてだったね。浮竹はミミックに噛まれるのが好きでね。ああやって、毎度ミミックに食われるんだ」
「そうか。人の趣味にどうこう言えたものでもないが、バカだな」
「ばかいうな~白哉のあほーーー」
ミミックに食われたまま、声は届いていたので、浮竹が悪態をつく。
「散れ、千本桜・・・・」
ミミックから助けられることなく、ミミックごと浮竹は数億の血の花びらに包まれた。
「ちょっと、白哉クン!」
「心配ない。あれは始祖だ。この程度の攻撃、かすり傷にもならぬだろう」
浮竹は、血をだらだら流していた。
「どこが、かすり傷にもならんだ。本気で攻撃したな!?」
傷をすぐに再生していきながら、浮竹はぷんぷん怒りだした。
「もう、今日は白哉と口きいてやんない!」
「そんな子供みたいな拗ね方するんじゃないの、浮竹」
「ふーんだ」
「浮竹、ほら、魔法書が2冊もドロップされてるよ」
「ほんとか!」
怒っていた浮竹はどこにいったのか、2冊も魔法書がドロップされて、浮竹は素直に喜んだ。
「兄が欲しいならば、今度我が屋敷で収納されている魔法書を、やらんでもない」
「本当か、白哉!」
キラキラ目を輝かせる浮竹に、恋次も京楽も、始祖ってちょろいなって思っていた。
「やった、白哉のコレクションがもらえるなんて、俺はついている!」
「白哉クンって、魔法書に興味あったの?」
「祖父が集めていたものだ。私も一度は目を通して覚えた魔法だ。もう魔法書は必要ないからな」
こそこそと、京楽が白哉に耳打ちした。
「ちなみに攻撃魔法?民間魔法?」
「どれも民間魔法だ。洗い物が自動的に綺麗になる魔法やら、髪を整えてくれる魔法やら、そこそこ使えるものばかりだ」
「そうか。ならよかった」
「何がだ?」
「いや、浮竹が攻撃魔法覚えたら、実験台に僕を使うからね」
「なるほど」
「おおい、次の階層にいくぞ?」
「白哉さんも京楽さんも早く!」
11階層から20階層までは海だった。20階層のボスはクラーケンで、巨大なイカのモンスターだった。
「散れ、千本桜、雷」
「サンダーブレス!」
白哉と恋次攻撃で、クラーケンが水面に顔を出す。
「サンダージャベリン」
京楽が、魔神の力を解いて雷の槍を放つ。
その一撃でクラーケンはこんがりと焼けて、いい匂いがしてきた。
「そういえば、昼食まだだったな。このクラーケンという魔物は食えるそうだぞ」
適当な大きさに斬り分けて、炎であぶったものを皆口にした。
「うん、ちゃんとイカ焼きの味がする」
「うまいね、これ」
「意外と美味だな」
「うまいっすよこれ」
4人はそれぞれの感想を口ににして、クラーケンを食べていく。特に元が竜なだけあって、恋次の食いっぷりは半端なく、一人でクラーケンの3分の1を平らげてしまった。
「こんなに食べたの、久しぶりっす。いつも人間の食事の作法に合わせてたから」
「じゃあ、この残りのクラーケンを持って帰って、食べるといいよ」
「え、いいんすか?もらえるならもらいますよ」
「浮竹も白哉クンもいいよね?」
「いいんじゃないか」
「好きなようにするといい」
そうやって、クラーケンを倒したことで海の波が引いていき、財宝の間が現れる。
「お、魔法書がいっぱいだ!」
キラキラした目で、魔法書や魔道具、古代の遺物なんかを浮竹はアイテムポケットに入れていった。
金銀財宝は無視である。
「この金銀財宝、いただいでもいいっすかね?」
恋次はドラゴンであるだけに、金銀財宝に弱かった。
「好きなだけもっていくといい」
「私はいらぬ。恋次の好きなようにせよ」
「ひゃほーーーーい!!」
恋次は、金銀財宝にダイブして、アイテムポケットに金銀財宝を直していった。
次の階層も海だった。
「ららら~~~ららら~~~~~~」
「セイレーンと人魚だ!気をつけろ、歌声を聞いた男を惑わせて食うんだ!」
セイレーンと人魚の歌声に反応してしまったのは、白哉だけであった。
「そういえば、最近魔物研究学会で発表されてたけど、同性愛者の男には魅了の歌声は通じないそうだよ」
「なるほど、だから・・・・・って、嬉しくないぞ」
「俺は白哉さんなんだから好きなんだ。他の同性はどうでもいい」
ふらふらとセイレーンと人魚の元に歩いて行った白哉に、浮竹がその耳元で爆竹を鳴らす音という民間魔法を使い、白哉を正気に戻した。
「白哉!」
「問題ない。散れ、千本桜」
「ぎゅいいいいいい」
「いやあああああああ」
セイレーンと人魚の群れは、白哉の手で駆逐された。
21階層~30階層も海だった。
30階層のボスがリヴァイアサン。海のドラゴンだった。
竜族であるが、正気ではないようで、恋次の呼びかけにも答えない。
浮竹は炎の精霊王を呼び出し、海水ごとリヴァイアサンを干からびさせた。
「ぎいいいいい」
「リヴァイアサンか。海の気高きドラゴンがダンジョンのボスなど。哀れな」
魔神である京楽に魂を食われる前に、炎の精霊王はリヴァイアサンの魂を手に、精霊界に戻っていった。
「ああ、おいしそうだったのに、あの魂」
「京楽、ゲテモノ食いになるからやめとけ」
「でも、クラーケンの魂は食べちゃったよ」
「もう手遅れだったか・・・・・」
「京楽さんて、魔神なんすよね?人間とかの魂食うんですね?」
「うん、そうだよ」
「俺と白哉さんは食わないでくださいね!」
「いやだなぁ、仲間を食うほど飢えていないよ。別に、魂なんて食わなくても、普通の食事でも生きていけるしね」
恋次はほっとして、水のなくなった海の砂の上に座りこんだ。
「俺、疲れました」
財宝の間が開き、ドラゴン素材の武器防具とアダマンタイト、ミスリル、ミスリル銀のインゴットがあった。
「皆、必要なものはもらっていけ」
「じゃあ、俺はこのミスリル銀のインゴットを。知り合いの古代ドワーフに、剣を作ってもらおう」
「他に欲しい者はいないか?いないなら、換金目的で俺がもらっていくが、いいな」
「兄の好きなようにするといい」
- トラックバックURLはこちら