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恋い焦がれ 廻る歯車

何気ない日常が始まる。

ルキアは、一護のベッドで眠るようになっていた。

一護が、ルキアを抱き抱えるような形で。

そうされると、安心できるのだ。

よく、流魂街で眠る時は恋次がそうしてくれた。

「恋次・・・・」

今ここにいない恋次のことを思うと、胸が切なくなる。

でも、今ここにいる一護のことを思うと、もっと胸が切なくなるのだ。

いっそ、一護に思いのたけをぶつけようか。そう何度も思った。でも、それが一護と井上の仲に罅をいれることになる。

一護のことだから、きっと井上をとる。

そうなった後の自分が惨めすぎて、告白などできない。

それに、自分には恋次がいるのだ。

あの、赤い髪の死神は、ルキアとの幼馴染で子供の頃からの付き合いだ。恋次と付き合いだしたと、白哉に報告すると、白哉は嬉し気に、恋次なら任せられると薄くはあるが、確かに微笑んでくれた。

「兄様・・・・・」

恋次を振るということは、白哉も裏切るに等しい。

何故、一護などを好きになってしまったのだろう。

ああ・・・なんの迷いもなく、一護と仲間でいられたあの日々が懐かしい。

ルキアが一護の腕の中で身じろぎすると、もう朝だったので一護も起きた。

「ふあ~。よく寝た」

「貴様、よだれを垂らしておったぞ」

「まじかよ!」

口元に手をやるが、濡れてはいなかった。

「ルキア、お前なぁ」

「ふふ、騙される方が悪いのだ」

一護は、軽く伸びをしてからルキアの方を向いた。

「それより、今日は尸魂界に戻るんだろ?俺と井上も行っていいか?」

「何故だ?」

「大戦の復興がみたい。後、ルキアと恋次と俺と井上でダブルデートしてみたい」

「ななななな!」

「だめか?」

「駄目ではないが・・・・恋次がなんというか・・・・」

「大丈夫、恋次の奴ならきっとOKしてくれるさ」

念のため、伝令神機に連絡を送ると、恋次はあっさりとOKしてくれた。

「よし、じゃあ俺井上を呼んでくるから。浦原さんの穿界門で帰ろうぜ」

霊体を持たぬ井上は、普通の穿界門が使えない。

浦原の手で体を霊子化させるものがないと、尸魂界に行けないのだ。

15分ほどが過ぎて、井上と一護が帰ってきた。

「私、4番隊に行きたいの。まだ、大戦の傷跡が大きいだろうから、怪我してる人を先に診たい」

「分かった。とりあえず、尸魂界に行こうぜ」

浦原の作った穿界門から、尸魂界に出る。そこから瀞霊廷を目指した。

ルキアの霊圧に気づいたのか、瀞霊廷の中で恋次と出会った。

「おう、一護、元気でやってるか?」

「勿論だぜ!そっちこそ、元気でやってるか?」

「あーそうだといいたいところだが、大戦後の復旧に忙しくて」

「副隊長も大変だな」

「おう、ルキア、お帰り」

「ただいま、恋次」

ルキアは自然を微笑んでいた。

その微笑みに、一護の胸がちくりと音を立てる。

とりあえず、井上の言葉通りの4番隊の救護院に行った。重症の患者はあまりいなかったが、手足が欠損して、培養した手足を繋げる手術前の者たちに、術を施す。

「奇跡だ・・・・失った手が」

「俺の足が・・・・・・」

「あたしの右手が・・・・」

井上は、一人で培養する手足を繋げる予定だった者たちを治してしまった。

「やっぱすげぇな、井上の能力は」

恋次が、驚嘆していた。

皆、リハビリを兼ねて数日入院した後、退院が決まった。

大戦の時は、とにかく命が助かりそうな者の致命傷を治して、傷の全部は診なかった。

大戦が終わり、まだ入院している者の過半数は、井上の手で治療が施された。特に目を欠損した者は、職場復帰が無理だろうと言われていたのに、できるようになって井上に何度も礼を言っていた。

「はぁ・・・・疲れちゃった」

「そりゃ、あんだけ治せばな」

「井上、一護、我が屋敷で花見をせぬか?紅梅の梅が満開なのだ」

「ああ、ダブルデートの約束だったもんな」

一護の井上と恋次は、朽木邸にいき、白哉の了承を得て庭で花見をした。

「うわぁ、満開だね。あっちの白梅も見ごろだね」

疲れた井上には、疲れをとるための薬を入れた特別な飲料が渡された。

「なんか・・・・もりもり元気がわいてきた!」

「おい、ルキア、あの飲み物飲ませたのかよ!」

「少しだけだ。分量を間違えると猪突猛進になるからな」

井上は、朽木家の料理人が作ってくれた料理を、美味しそうに一人で全部食べてしまった。

「おい、ルキア、なんか井上の変な薬でも盛ったのか?」

「いや、疲れをとるための薬を少し混ぜただけだ」

「なんか元気ですぎてねぇか?」

「き、気のせいであろう」

朽木家の中にいき、食べれてないので追完の料理をルキアは頼んだ。

「あー、私お腹いっぱい。梅の花、一輪もらっていい?」

「いいぞ、井上」

そう言われて、井上は紅梅の梅の花を一輪手にとった。

それを、ルキアの髪に飾った。

「井上?」

「朽木さんも女の子なんだから、もっとおしゃれしようよ」

「私はいいのだ・・・・」

「よくねーよルキア。俺が贈った簪だってさしてくれねーじゃねぇか」

「あれは、まぁ・・・ええいもう、恥ずかしいのだ!」

ルキアは顔を真っ赤にした。

それを、一護はああかわいいなと見ていた。

「なーに人の女見てやがんだ、一護!」

「いや、微笑ましいなと思ってさ」

「まぁ・・・・大戦の時はこんな時間が訪れるとは思わなかったからな」

恋次は、朽木家の料理を口にしながら、酒を飲みだした。

ルキアも酒を飲んだ。

「どうだ、一護も飲んでみるか?」

「そうだな。現世じゃ違反だけど、尸魂界ならまぁいいか」

そう言って、一護もほどほどに飲んだ。

井上も乗んだが、すぐに酔っぱらって、一護の膝の上に頭を乗せて寝ていた。

「ほんとは今日中に帰るつもりだったんだが・・・・一泊していっていいか?」

「ああ、いいぞ」

ルキアは、一護が傍にいてくれるだけで嬉しかった。それは一護も同じだった。

お互いに恋い焦がれ。でも、お互いの思いに気づかぬまま。

白哉の許可もあり、一護と井上は、朽木邸で泊まることとなった。恋次は自宅に帰ってしまった。

本当は、もっと尸魂界の復興を見ておきたかったのだが、その日は井上が酔っぱらったせいもあって、お開きになった。

「井上とは、上手くいってるようなだ」

「そういうルキアこそ、恋次と上手くいってるようじゃねぇか」

互いに、追加で酒を飲み交わしあった。

一護は未成年だが、ここは尸魂界だ。

別にいいかと、一護は思い酒を口にする。

甘い、カクテルのような味だった。アルコール度も低い。

「私はな、一護・・・・・いや、なんでもない」

「どうしたんだよ、ルキア」

「井上は幸せ者だな。一護に思われて」

一護の鼓動が高鳴る。

まさか、ルキアは俺のことを?

そう思いながら、先ほどまでの仲のよかった恋次とのことを思い出し、その思考を振り払った。

「ルキアは、幸せか?」

「ああ、幸せだ。恋次も兄様も・・・・・それに、一護もいる」

「ああ。俺ら、仲間だもんな」

「そうだな。仲間だ。どれだけ年月が変わろうとも、それだけは変わらない。どれだけ思いが変わろうとも、それだけは変わらない」

「ルキア・・・・・」

一護は、ルキアの杯に酒を注いだ。

「何に悩んでるのか知らないが、ぱーっと飲んで忘れちまえ」

「そう、だな・・・・・・・・」

結局、一泊してルキアと一護と井上は、復興していっている瀞霊廷を見て回り、夕方には現世に帰還した。


廻り出した歯車が、音を立てて砕けていく。

でも、砕けると新しい歯車が生まれるのだ。

恋い焦がれ。互いの心に気づかぬまま、歯車は廻る。





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