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桜のあやかしと共に2

朝起きたら、人の姿をした浮竹が隣で寝ていて、京楽はどぎまぎした。

「ああそうか・・・・子猫の姿のまま、一緒に寝たのか」

京楽は、すうすうとよく眠る浮竹の、長い白髪を手に取ると、口づけた。

夢を見ていた。

夢の中で、京楽は「春」という人物で、浮竹の恋人だった。

浮竹をとても愛していた。あふれそうな思いを、こぼれそうな思いのまま目覚めて、ああ、自分は桜のあやかしの浮竹の恋人が、前世であったのだと実感した。

ここ数日、いつも「春」であったころの夢を見る。

夢を見るたびに、浮竹が愛しく大切に思えてきて、大事にしたいと思った。

「ん・・・・・・・」

「やあ、起きた?」

「すまん。子猫の姿のまま寝ていたら、いつのまにか人型になっていた。ベッドは広いが、それでも邪魔だっただろう」

「いや、いいよ。それより、最近ボクは自分が「春」である夢を見るんだ。やっぱり、君の影響?」

「そうだな。俺にとって「春」はとても大切な人だったから・・・、生まれ変わりのお前を見つけれて、傍にいられるだけでいいから、一緒にいさせてくれ」

「でも、君はボクを「春」とは呼ばないんだね」

「京楽は京楽だろう。生まれ変わりでも、別の人間だってちゃんと理解している」:

浮竹は、簡単な朝食を作りにキッチンに行ってしまった。

「はぁ・・・キスとハグまで・・・いつまでもつかなぁ」

京楽の中で、鮮やかに蘇る「春」の記憶。

でも、もしも自分が「春」でなかったなら、出会いも何もかもなかったと思うと、少し寂しい気持ちになった。


「朝食できたぞ」

「ああ、うん。今いくよ」

浮竹は桜の精霊であやかしであるが、人の食事で栄養をとることができる。

普段は、桜の大木から光合成でエネルギーを得ているが。

子猫の姿の時は、猫の食事からも栄養をとれた。

その気になれば、何も口にせずとも生きていけるのだが、人の食事はおいしいし好きなので、浮竹は料理が下手そうに見えて、けっこういい腕をしていた。

「今日の仕事・・・・・狸の信楽焼のおきものが付喪神になって悪さするので、退治してくれっていう内容なんだけど、一緒にくる?」

「一緒に行く。こう見えても、いろいろ術が使える」

「心強いよ」

「私も行こう」

「って。白哉君?ここ、35階なんですけど」

にゃーんと、黒猫姿で鳴いて、白哉は浮竹の膝の上に飛び乗った。

「浮竹は、私にとって兄のような大切な存在だ。兄が、浮竹を泣かせることがないように見張る」

「ああもう、好きにして。白哉君、自衛はできるね?」

「無論だ」

白哉は、首に首輪をはめていた。浮竹の首輪とおそろいだった。

猫から人の姿になった時は、首輪はないが、衣服はちゃんと着ていた。

そこらへんの仕組みが気になったが、問うてもだから何だと言われそうなので、京楽は黙っていた。

「白哉君は、人のご飯食べる?それとも猫缶?」

「猫缶で。あとチュールも」

白哉は、人の食事より猫の時の食事のほうが好きだった。

やがて昼過ぎになり、京楽が依頼があった場所へ車で向かう。

人の姿の浮竹と、黒猫姿の白哉も一緒だった。



「ようきてくださった。これが、付喪神の狸の信楽焼です」

依頼人は、家の前に置かれている狸の信楽焼をなでた。

「大切にしていたんですけどなぁ。付喪神になるだけならいいが、悪さをするので」

「どういう悪さを?」

「子供を、川につき飛ばしたり、老人の背に乗って動けなくしたり・・・」

京楽は、狸の信楽焼をよく観察した。

「これ、付喪神じゃないね。浮遊霊の塊が中に入ってる」

「ひえええええ。なんとかなりませんか」

「除霊するよ。浮竹、手伝ってくれる?白哉君は、この呪符の上にいて結界を維持してくれるかな」

「わかった」

「ね、猫がしゃべった!」

依頼人はびっくりしていたが、とりあえず無視して祝詞を唱え、除霊を試みる。

「ぬおおおおおおおおおお」

狸の信楽焼から、叫び声がして、ガタガタと動きだした。

「我を排除しようとするは誰ぞ」

「悪いけど、あの世にいってもらうよ」

「おのれ。我を齢200年の霊と知っての・・・・桜の君?あなたは、桜のあやかしの長老様・・・・あやかしが、人間ごときと一緒に、退治屋をはじめたというのですか」

浮遊霊の塊は、浮竹に向かって飛んでいく。

ばちっと、音がして、浮竹の周囲には白哉と京楽の作った結界が施されていた。

「桜の君・・・・・・」

「人にあだなすのであれば、消えろ」

その言霊だけで、浮遊霊の塊は薄くなっていく。

「桜の君・・・・また、人と生きようというのか。災いしかないと知りながら」

「お前は・・・・不知火(しらぬい)か。ただの浮遊霊にしてはおかしいと思った」

「え、知り合いなの?」

「こいつは、もともと楓(かえで)のあやかしだ。あやかしをやめて霊体になったと、100年ほど前に聞いた」

不知火は、霊体で浮竹の周囲をぐるぐると回る。

「桜の君、我といこうぞ。そなたの力があれば、異界より災いを呼べる」

「ごめんだな。不知火、眠れ。踊れ、焔(ほむら)よ」

浮竹は、炎の術で不知火を燃やしてしまった。不知火というのは名前だけで、炎とは関係ないようだった。

「ボクの出番が・・・・・・・」

「浮竹、大丈夫か?桜の大樹より離れて久しいであろう。あまり力を使うと、異界で休眠することになるぞ」

「大丈夫だ、白哉。異界の桜の大樹から、ごっそりエネルギーをこっちにきた時とりこんでおいたからな」

「ならばいいのだが」

「あの、ボクの出番は?」

「終わりだ。これはもう、ただの狸の信楽焼だ」

遠巻きに見ていた依頼人は、人ならざる者達の存在に恐怖を覚えながらも、依頼料を払ってくれた。

「百鬼夜行ならぬ、百花夜行があってから、植物のあやかしが悪霊になったり、悪さをする者が多い」

浮竹の言葉に、京楽が首を傾げる。

「百花夜行?」

「その名の通り、100をこえる花や植物のあやかしたちの祭りというか、騒ぎというか」

浮竹が、説明しにくそうにしていた。

「浮竹は桜の長老だからな。百花夜行には必ず参加していたが「春」を失ってから、時折しか参加しなくなった」

「また、「春」・・・・・・ボクは、京楽春水だよ?」

「わかっている。京楽は京楽だ」

浮竹は、白い子猫姿になって、京楽の肩に飛び乗った。

「帰ろう」

「う、うん・・・なんかよくわからん間に除霊されちゃったし、帰ろっか」

「兄は、浮竹の力を知らぬのだ。浮竹はな、桜の王なのだぞ」

「白哉、いらないことは言わなくていい」

「浮竹・・・まぁよかろう。兄がまだ話したくないのであれば」

京楽は、車を運転しながら、2匹の猫を見る。

「まだ知り合ったばかりだからね・・・秘密は、おいおい聞いていくよ」

「別に、隠しているわけじゃないんだ。ただ、俺は白哉のようなただの桜の精霊ではなくて、桜の精霊の王と呼ばれている」

「うん・・・今は帰って休憩しよう。浮竹も、除霊に何気に力使って疲れたでしょ?」

「そうだな。あやかしの霊を除霊するのは、30年ぶりだな」

「30年・・・ボクがまだ小学生になったかどうかって年だね」

「前世の春としてではなく、京楽春水、お前を愛している」

高級車を駐車場に止めて、降りた京楽に、浮竹は一瞬だけ人の姿をとって、口づけた。

京楽がむさぼろうとすると、すぐに子猫の姿になった。

残念と思いながら、子猫の浮竹にキスをする。

「兄は、猫の浮竹にも興奮する変態なのか」

「愛に性別も人種も種族も関係ない、と言ってみる」

「苦しい言い訳だな・・・・・・」

白哉は、京楽の足をひっかいた。

「あいたたたた」

「浮竹がいやがっている。離してやれ」

「あ、ごめん」

「子猫姿でキスされると、息ができない」

浮竹はぷんぷん怒った。

自分からキスしてきたくせに。

「白哉君は、また桜の木に戻るのかい?」

「兄が、浮竹にいらぬちょっかいを出さないために、一緒に暮らすことにする」

「ええええ」

「兄らの関係が進めば、出ていくから安心しろ」

「ははは、子猫2匹を内緒で飼っているってばれたら、管理人に怒られそう」

京楽は、猫用の砂やらペットフード、おもちゃ、それにキャットタワーなどをすでに買っていた。

「今日は、ルキアが待っているから、外で泊まる」

「ルキア?」

「私の妹だ」

「じゃあ、その子も桜の精霊?」

「いや。ネモフィラの精霊だ」

「ネモフィラ。きっとかわいいんだろうなぁ」

「浮気か、京楽」

「いやいや、違うから」

つーんと機嫌を悪くした浮竹が、人の姿になってキッチンに入り、オムライスを作り出した。

ケチャっプで、器用に京楽の分に「ぶち殺す」と書かれていた。

「白哉も食べていけ」

「わかった」

白哉の分には、ハートマークが書かれていた。浮竹は自分の分には猫をかいた。

白哉が人化する。

やはり、とても綺麗な青年だった。性別を浮竹と一緒に間違われそうな。

「浮竹の手料理はうまいな」

白哉は残さず食べ終えてから、35階の窓のベランダから、猫の姿で飛び降りた。

「えああああああ!ここ35階!」

「俺たちあやかしには、高さはあまり関係ない」

「なら、いいんだけど」

浮竹は、京楽にキスをする。

「ん・・・・・・・」

「ねぇ・・・ボクと、その、してみない?」

「まだいい。まだ、京楽のことが理解しきれていない」

「ボクはおあずけか・・・・・・」

「ダッチワイフあるけど、あれでも相手にしとくか?」

「わああああ!あれはボクの黒歴史になるから、放置しておいて!」

「そうか。じゃあ捨ててもいいな?」

浮竹は、ダッチワイフをポイっと捨てた。

35階の窓から。

「わああああ、通行人が!!」

「異界とゲートを繋げておいた。すぐに閉じるが」

「もお、びっくりさせないでよ」

「ダッチワイフがある時点でこっちがびっくりだ。恋人とか、いなかったのか?」

「んー、いたときもあったけど、長続きしなかったなぁ。みーんな、金目当てでさ」

浮竹は、ソファに座った京楽の隣に座り、頭を京楽に傾けた。

「俺は、お前がいい」

「うん、ありがと」

「でも、まだキスとハグまで」

「う、うん・・・・・・」

浮竹は、そのままうとうとと眠ってしまった。

子供のようにあどけない表情で眠る浮竹の額にキスをして、京楽は毛布をかけてやるのであった。












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